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大学時代

②失恋と新たな決意(1)

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 谷口さんとあの美人さん(舞さん)は姉弟きょうだい。そう分かっても私は谷口さんに会いたいだとか、またメールしたいとか思わなかった。姉弟なのに苗字が違って舞さんはフリーなら谷口さんは既婚者だと思ったから。既婚者に恋をして、不倫とか絶対に嫌。それに谷口さんに対して恋愛感情はもう抱いていなかった。だって。

 お隣の白川さんに恋をしていたから。

 1年の3月に実家に帰った後、こっちに戻ってきて親からもらった食べ物や飲み物を一生懸命運んでいたら、『手伝いましょうか?』と声をかけてくれた。『ありがとうございます』と言ったら、『お隣ですから』と言ってくれて、この部屋を契約してよかったと思った。それ以降、白川さんから話しかけてもらえることも増えたし、最近は笑った顔も見せてくれるようになった。爆笑した姿はまだ見たことがないけれど、ふわっとした笑顔がすごく素敵だった。

 勇気を出してご飯に誘ったら、休日にランチを食べに行った。それからは1ヶ月に1度くらいの頻度で一緒にご飯を外で食べるようにもなった。バイトしているカフェを教えたら、私がバイトの時たまに来てくれるようになった。『楽しそうにバイトするんだね』と言ってくれたこともある。私の話は聞いてくれるけれど、あまり自分のことは話してくれなくて寂しかった。それでも、一緒にいて私はとても楽しかったし、白川さんも楽しそうにしてくれていた。だから私は白川さんとの距離が少しずつ近づいていると感じていた。もしかして、白川さんも私のことを好意的に思っているのかも、と思い、2年の冬、勇気を出して連絡先を聞いた。

「あの、連絡先教えてください」
「え?」
「ご飯とかもう少し頻繁に行きたいなって。いつもは会ったらご飯行こうってなるけど、連絡手段あったら楽かな、って思ったんですけど」

 そう言ったら数秒後に

「ごめんなさい、それはちょっと」

 と言われ、告白する前に私は振られた。


「しらかわー」

 お隣さんに振られた翌日。私は白川を誘って居酒屋に来ていた。お互い20歳を超え、お酒を飲める年齢になった私たちはたまに飲みに行っているのだ。いつも個室を予約してくれるので、今日はやけ酒をしようと誘った。

「おーどうした」
「振られたー」
「え? お隣さん?」
「そー、お隣さん」
「どんまい」
「雑! もっと、こうさ、こう、慰めてよー」
「そうは言っても、どんな人か知らないしな」

 そうなのだ。白川さんはカフェに来てくれていたけれど、彼が来ている時は白川はバイトじゃないし、白川がバイトの時は白川さんは来ないのだ。だから谷口さんの時と同様、どんな人か白川くんは見たことがないのだ。それでも「まあまあ。ご飯とか行けてよかったじゃん」と慰めてくれた。ああ、白川は優しい。こんな素敵な人と友人で良かった。

 それでも、告白もできずに遠回しに振られたことは、思った以上にショックだった。2回も告白できず失恋とか、なんなのさ。呪いたい自分を。せめて告白したかった。

「ああー。どうしよー。もう恋愛できない……」
「そんな大袈裟な」
「大袈裟じゃないよー。すっごく好きだったんだよ? あんまり表に出さないようにしてたけど」
「俺にはいっぱい惚気てたけどな」
「だって、話聞いてくれるんだもーん」

 そう言いながら目の前のご飯を食べ、ビールを飲んだ。白川が慰めてくれるから、涙がポロポロと溢れてきた。

「泣くななくな」
「ううー」
「ほら、頭ポンポンしてやる」
「優しい」
「俺はいつも優しいだろ」
「ありがとー」

 私はぐずぐず泣いていたけれど、彼は泣き止むまで頭を撫でてくれていた。彼の手は温かくてすごく気持ち良かった。
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