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社会人時代

③同じ人(2)

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 車に乗った後に

「俺ら、付き合うってことで良いか?」

 と聞かれたので、

「もちろん!」

 と返したら、「すっげえ緊張した。よかった」と笑顔を向けてくれた。

「告白するだけで付き合えなくてもいいとか思ってたけど。でも、やっぱ両想いっていいな」

 そう言って笑う顔があまりにも素敵で。

「白川のお家行きたい」

 と呟いていた。その声が聞こえたのか、一瞬動きを止めた白川は、

「ダメ。何するか分からねーし」

 と言った。

「でも前泊めてくれたじゃん」
「あれは、お前が家帰れるか心配だったし。あの時は両想いって思ってなかったから我慢できたけど、今は恋人だから、ムリ」
「はーい」

 じゃあ今日は大人しく家に帰ろう。でも1つ不安なことがあった。

「じゃあ、1つ聞きたいことあるんだけど」
「ん?」
「この前貸してくれたパジャマって誰の?」
「お前」
「……へ?」
「お前のもの」
「う、ん。え、でも買ったのは白川だよね?」
「……」
「おーい」
「前、パジャマ買い換えようと思って店行ったら、男女ペアのパジャマが売ってて。それ見て、お前の顔思い浮かんで思わず」
「買った、と」
「ああ。理由作って渡そうと思ったけど、急にパジャマあげるのはどうなのかと思って、ずっと渡せなくて押し入れに入ってた」
「そっか」

 事実を知ったら安心して、笑ってしまった。

「何笑ってんだよ」
「ん? 安心したの。他の女の人のじゃなくて良かったなって」
「……。お、前さ」
「なによ」
「不安にさせて悪かった。けど、そんな『嫉妬しちゃいました』てかわいい顔すんのやめてくれ」
「なっ! そんな顔してない!」
「今信号赤だったらキスしてた」
「だめ! キスは早い!」
「分かったよ」

 その後も安全運転で私の部屋まで送り届けてくれた。初めて白川と『おやすみ』と言い合って、少しくすぐったかった。

 それから数週間。『交際始めてすぐで悪いけど、家族に会って欲しい』と言われたので、白川のご家族と夕食を共にした。その場には兄も舞さんもいたので少し緊張が和らいだ。白川のご両親はとても良い人で、話しやすかったし、『そんなに緊張しないで』と声をかけてくれた。夕食が終わる頃には、楽しくお話ができた。帰りは白川にタクシーで送ってもらった。車内で私は今日のことを思い出していた。

「ふふ」
「何笑ってんの」
「ご両親、いい人たちだったなって。それに白川の昔のこといっぱい聞けて嬉しかった」
「そうかよ」
「うん。っていうか、白川も本屋の福袋買ってたんだねえ」
「ああ」
「私も買っててさ。毎年見かける男の子がいて、話しかけたいなーと思っていたけど、もしかしたら白川だったのかもね」
「そうかもな」

 まさか本当に白川だったと知らない私たちは、手を繋ぎながら他のことへ話題をかえていった。
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