転生を希望します!

黛 ちまた

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第一章 学園編

040.ほうじ茶とミルクティー

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「ルシアン、船乗りの方たちが食している保存食のことを知りたいのです」

「船員の保存食ですか?」

 ルシアンは私が握ったおにぎりを食べている。
 好みはツナマヨと肉みそだと言うことは把握済みである。
 ちなみに今日はツナマヨと塩昆布。
 どうも梅単体だと苦手みたいなので、梅おかかにしてみたら食べるようになった。
 ちなみに私は塩昆布とゴマのおにぎりを食べ中。

 近頃、お昼は私の作ったお弁当を研究室で食べている。
 朝食と夕飯は、お抱えの料理人が和食料理習得を頑張っている為、私が料理出来るのは週末とお昼だけになる。
 ストレスがたまってくると料理やお菓子作りをしたくなる性質な私は、お弁当を作ることにして、それでストレス発散をはかっている。
 ちなみにルシアンもこのお弁当を気に入ってる様子。

「そうです、海上では新鮮な野菜は食べられませんでしょう?   それがないと病気になる筈です」

「あぁ、あれは野菜不足により起こるものなのですね。呪いではなく」

 壊血病という奴だね。
 海の上だとビタミンCが不足し、理屈は分からんのだが、歯茎から血が出たり歯が抜けたり、古傷が開いたりと、確かに呪いのようだ。想像するだけでホラーだ。
 ライムで予防してたんじゃなかったかな。
 呪いと言われてるということは、こちらの世界ではまだ解決されてないってことだな。
 まぁ、前世でも近代になるまでその解決策が見つかってなかったみたいだから、当然か。

「私の知る世界では壊血病と言われるのですが、港で新鮮な食材が手に入れられないような、長期間に及ぶ航海の際に、発生する者が多かったようです」

「カイケツビョウ」

「壊れる血の病、と書いて壊血病です」

 私のほうが先に食べ終わったので、お茶を淹れ直す。
 おにぎりの時はほうじ茶が飲みたくなるんだよね。
 それにしてもルシアンはあの細い身体の何処に入るんだろう、と思う程によく食べてくれる。
 健啖家ステキ。

「私が作りたいと思っているザワークラウトは、発酵食品なので普通の料理より日持ちします。
ビタミンCという、身体に必須な栄養素を持っているキャベツを多く使いますけれど、柑橘類よりは少ない量なので、壊血病の解決になるかは分かりませんわ。ただ何もしないよりはいいと思います。
ノウランドの為にザワークラウトを作りたいと思っていたのですが、船乗りの方の為にも作ってもいいのかも知れませんね」

 ルシアンはほうじ茶を飲んでひと息吐くと、「ミチルは病気にも詳しいのですか?」と聞いてきた。

 いえいえ、と首を横に振る。

「かつての友人に、えっと、激しい運動を好む人がおりまして、その人は運動だけでなく身体を中から作ることにも関心が高かったのです。
その友人と一緒に暮らしてる内に、あ、女性ですよ?    その女性と暮らしている内に、料理に興味を持ち、多少栄養に詳しくなったのです。
その程度のもので、病気は専門外です」

 一緒に暮らしてる、の辺りでルシアンの表情が怖い笑顔になったので、慌てて訂正すると、元の表情に戻った。
 危ない危ない。
 っていうか前世のことにまで怒らないでくれ!

「栄養に詳しくなると、どういう効果がもたらされますか?」

「そうですね、病気になりにくくなりますし、疲労が回復しやすくなりますし、怪我をした時の治りも早くなりますわ」

 なるほど、とルシアンは呟くと、少し考えごとをしているようだ。

 えーと、ザワークラウトは、キャベツと塩を使うってことは知ってるんだけど、それ以外に何を使うのかさっぱり分からん。
 記憶の中のザワークラウトは黄色っぽくて、なんかスパイス系も入ってた。ザワークラウトとソーセージ、豚肩ロース肉とベーコンと、人参と玉葱とで煮たシュークルートは美味しかったな。
 そうか、ザワークラウトが作れると、シュークルートが食べれるのか!
 かなり適当だけど、やってみよう。






 帰宅してから、ルシアンは仕事をする為に書斎に向かったので、私はザワークラウトを作ってみることにした。

 キャベツの外側の葉は使わないことにして、芯も切り落として、葉だけの状態で洗い、食べやすいようにざくざくと包丁で切ってボウルに入れていく。
 上から塩を適当にかけ、もんでいく。
 発酵食品……ということだから、これを放置かな。なんか塩漬けな感じだけど。浅漬けが出来ちゃいそうだな。

 キレイに洗った瓶を熱湯消毒し、塩もみしたキャベツと、もんでる内に出てきた液体も一緒に入れて蓋をする。
 毎日様子見ですよ。
 これで上手くいったら、スパイスとか入れたのも作ってみようかな。
 ノウランドでも取れるスパイスがいいんだよねぇ。
 となると、ローリエは厳しいなぁ。月桂樹は地中海で育つものの印象。ギリシャ神話に出てくる神々が月桂樹の冠かぶってるし。
 地植えしておいて、春というか夏に芽吹くタイプのスパイスなら、収穫して乾燥させられるからいいかな。
 ただ地植えすると凄い繁殖しちゃうからなぁ……プランター栽培のほうがいいかなぁ……。
 あっちとこっちは植生も違うみたいだから、ローリエに似た効能を持つ、寒さに強いものもあるかも知れないし。

 そう言えば、ノウランドが木造家屋にこだわる理由ってなんだろう。
 降雪量が凄すぎてレンガの家とかだと壊れてしまった後が大変とかそういうことかな?
 うーん、でも、日本の豪雪地域も木造家屋だよなぁ。
 なんだろう、そもそもの家の作り方が違うとか?

 これ以上考えるのは止めて、明日のお弁当の下拵えをすることにする。
 今日が魚だったから、明日はおにぎりとだし巻き卵焼き、ほうれん草の胡麻和え、人参といんげんを湯がいたのを豚バラの薄切り肉で巻いて焼いた八幡巻きもどきにでもしよう。
 おにぎりの具は、鮭とツナマヨにしよう。
 塩鮭ではなく、味噌漬けにしておいた鮭を、焦げないように焼く。塩鮭も美味しいんだけど、私は味噌漬けの鮭が大好きなのだ。おかわりしちゃうぐらい好き。
 不思議なことに転生した今でも好きだ。味覚が一緒なのか、引き継がれるものなのかは不明だ。
 ちなみに鮭、鮭言ってるけど、こちらでは鮭とは呼ばれない。シモスと呼ばれる。でも見た目は鮭にしか見えない。
 シモスを料理長に買ってもらって鮭の味噌漬けを教え込む。その一部をもらって、お弁当の具にしてるのだ。
 シモスの味噌漬けはルシアンも好きらしく、ご飯のおかわりをしていた。
 はぁ、あのときのルシアン可愛かったなぁ……。
 ちょっと恥ずかしそうなのがまた可愛かった!!
 あぁ、写真撮りたかった……。

 ほうれん草を、茎の部分から先に沸騰した湯に入れ、程なくして葉の方も入れる。
 湯がいたほうれん草をお湯から上げる。熱いのでまだ触れない。
 少し置いてからぎゅっと絞って水を切ったら、ほうれん草をボウルに移し、醤油をかけ、たっぷり吸わせてからまた絞る。こうすることで、水っぽくならないし、醤油の味もほうれん草に染み込む。
 それから黒ごまのすりゴマをサラッとかけて混ぜ合わせ、白ごまをかけ、軽く混ぜて完成。

 湯がいた人参といんげんを、豚バラの薄切り肉でくるくると巻いて、バットに並べていく。
 ひと通り出来たら、手を洗って、上から酒、みりん、醤油を混ぜた調味料をかけてラップをしておく。
 これで朝は焼くだけでOK!

 だし巻き卵焼きとおにぎりは朝作るので、下拵えはこれで終了です。

 ひと息吐くのにお茶でも淹れようかな。
 牛乳残ってるんだよね、ミルクティーにしようかな。
 カフェオレ?
 あ、ほうじ茶ミルクティーにしよう。

 小鍋に水を通常の半分程の量入れる。沸騰したらいつもより多めにほうじ茶を入れ、その間に牛乳を用意する。
 ぼこぼこ煮立ってるとこに牛乳を入れ、ふつふつと泡が浮いてきた辺りで止める。
 ティーポットはあえて温めない。何故なら、猫舌だからだ!  ティーポットに入れるときにちょっと冷めて欲しい。

 ティーポットに茶漉しをのせ、小鍋を揺すりながらほうじ茶ミルクティーをティーポットに入れていく。
 本当ならそのまま移し入れるんだけど、飲むときに毎回茶漉し使うのが嫌なんだよね。
 あー、ティーポットに茶漉し付けたいな。
 おっとこぼした。

 ティーポットとカップをテーブルに運んだところで、ドアをノックする音がした。
 このノックはルシアンだな。

「ミチル? 入っていいですか?」

 どうぞと答えながら、ルシアン用にカップを棚から取り出す。

「ほうじ茶ミルクティーを淹れたところなのです、ルシアンもどうぞ」

「この良い匂いはミルクティーだったのですね」

 カップにほうじ茶ミルクティーを注ぎ、ルシアンに差し出す。自分の分も入れてから席に着いた。
 ゆらり、とカップから立ち上る湯気を見て、大分寒くなったなぁ、と思った。

「美味しいですね。ほっとします」

 最初、ほうじ茶でミルクティーだと? と思ったけど、飲んでみたら意外や意外、美味しくてハマってしまった。
 紅茶で淹れたミルクティー程癖がなく、飲みやすいのだ。

「初めていただきました、ほうじ茶ミルクティー。これはいいですね」

「紳士の方にも飲みやすいかも知れませんね」

 紅茶で淹れたミルクティーだと、紅茶そのものが濃い為、砂糖を足すことが多くなる。必然的に男性はミルクティーを避ける傾向が多い。
 でも、ほうじ茶で淹れたミルクティーなら、砂糖を足す必要がない為、そのまま飲める。

「確かに、良さそうですね。
近頃、ほうじ茶を輸入している燕国との交易も増えているようですから、輸入量を増やすのもいいかも知れません。ただ、緑茶に比べてほうじ茶は単価が高いのが難点ですね」

「緑茶とどのぐらいの差があるのですか?」

 恐る恐る尋ねてみる。
 めっちゃ気にせず飲んでたよー!

「三倍弱でしょうか」

「え? 焙じただけで三倍ですか?!」

 なんてぼったくりな!
 嫌、運び込む工程で何かあるのかも知れないけど!
 でも、三倍はないでしょ、いくらなんでも!

「もしかして、ミチルはほうじ茶の作り方もご存知なのですか?」

 もしかしてって言う程のものでもないけど。

「緑茶を焙じる、えっと、炒ったものをほうじ茶といいます。以前炒った事があります。ご覧になりますか?」

 是非、とルシアンが言うので、土鍋に緑茶を入れ、低温でじっくり炒っていき、最後に高温にして仕上げる。
 焙じあげる、とか言うんだったかな。
 出来上がったばかりのほうじ茶をさっそくお茶としてルシアンに出す。

「ほうじ茶は、緑茶だったのですね」

「そうです」

「これは、輸入に関するアルト家が介入するのに丁度良い案件となりそうです」

 にっこり微笑むその笑顔に、若干黒いものが混じるのは何故ですか、と思ったりもしたけど、敢えて言わない。
 まぁ、知らなければ騙されるのは、世の常ですからね。
 燕国には申し訳ないけど、カーライル王国にとっては無駄な出費が抑えられるようになるので、良いことだよね、きっと。
 焙じる手間があるから、緑茶と同じ値段とはならないだろうけど、これまでの緑茶の三倍の値段ではなくなるだろうから、ほうじ茶を飲みまくっていた自分としては、良いことをした!

「ミチルは本当に色んなことをご存知ですね」

「そんなことはありませんけれど、お役に立てているのであれば、嬉しいですわ」

「私としては、ミチルを閉じ込めて誰にも見せたくないので、悩ましいところです」

 そう言うと、ルシアンは私の手を引いてカウチに座る。
 膝の上に座らされるんですよね、分かります。
 案の定ルシアンの膝の上に座らされた。
 いいけど。
 座るのは慣れた。その先はまだ、無理。
 本当に人間というものは慣れる生き物で、と言うか私だけなのかも知れないけど、あれだけ膝の上にのせられるたびに心臓が爆発しそうだったのに、今じゃ慣れたもんですよ。
 挙句こんな、おでこや頰にキスされても、くすぐったいな、と思う程にまで慣れてきている始末!
 むしろうれし……あばばばば。
 でもまぁ、こうして抱きしめられて、髪を撫でられて、おでことかにちゅーされてると、本当に幸せで。
 このまま死んじゃいたいなーとか、いやちょっと待て。
 自ら変なフラグ立てるなっつーの。

「ミチル、私のこと好きですか?」

「好きです」

 !!?
 そっとルシアンの顔を見ると、ちょっと意地悪そうな笑顔をしている。

「考え事をしている時のミチルに質問をすると良い、というのを最近覚えました」

 ふふ、とルシアンが微笑む。
 恥ずかしさで顔が熱くなる。
 うううううう、ハメられた感があるけど、ぼんやりしていた自分が悪い。っていうか、好きなのは事実で、言うのが恥ずかしいだけで、えっと、なんで言い訳してるんだ自分!!

「ミチルは本当に可愛い。食べてしまいたい」

「?!」

 食べ?!
 食べたい?!
 心臓が早鐘を打つ。
 ルシアンの言葉が頭の中をぐるぐる回る。

「食べても、いいですか?」

 む、無理……!
 久々に強制終了した私だった……。
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