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第一章 学園編
039.後悔は少ない方がいいですよ。
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大豆が手に入ったらもやしを作るぞ! と思っていたら、もやしの作り方を教える所までが私の分担で、その先は他の人がやるらしい。
不満気な私に、ロイエは笑顔で、お立場というものがございます、と言うのだった。
貴族は色々面倒くさい。
ルシアンがアルト侯爵と計画している研究施設については、話がだいぶ進んでいるようで、王都の東地区に屋敷を購入し、必要な設備を順次運び込んでいるとのこと。
と、言うことは、もう人員の確保も済んでるのかな。
聞けば教えてくれるけど、基本的にルシアンからは話してくれない。
まぁ、領地経営のことだし、私は正真正銘の素人だから仕方のないことなんだろうけど。
あんまり質問ばかりして邪魔もしたくないし。
ルシアンは珍しく今日は書斎にこもって仕事をしている。
私としては暇になるけど、睡眠時間を削らず、起きている間に仕事をしていただきたいので文句はない。
テーブルの上に置いた磁器を手にする。
これは、アルト侯爵家が用意してくれた食器の一つで、真っ白いシンプルなデザインの磁器で、便利使いしている。
当然サルタニア産だ。
ペックたちの工房、上手く行ってるかなー。
この前伝え忘れてたけど、中国茶器のことも描いておけば良かったかなー。
そう言えば私、気軽にト国茶が飲みたくて、変成術が出来るようになったら、茶器を作ろうと思ってたんだよね。
御誂え向きな目の前の磁器は、真っ白で使いやすい。
簡単に中国茶を入れられる茶器、あったかなぁ、と記憶を辿っていく。
茶漉し機能のついたマグカップか蓋碗か、どっちがいいかなー。
ただちょっと蓋碗は使うのにコツがいるんだよね。かくいう私は蓋碗の使い方が下手で、いつも茶葉が口に入ってしまうから、蓋碗で飲むときは工芸茶にしてたぐらい苦手だ。
工芸茶は見た目を楽しむものだったりするのに、蓋碗に入れちゃってたから、同僚に呆れられたけど。
ほっとけ!
蓋碗の中で花開く工芸茶だってキレイなんだぞ!
うむ、マグカップにしよう。
簡単にお茶を飲めるようにしたいし。
磁器を性質はそのままに、形を変形させていく。
変成後、ちょっと反省した。
磁器が足りんかった。
ミルククラウンみたいなものが出来上がってしまった。
磁器はそもそも薄いからね。
何個ぐらい必要かなー。
食器棚から同じタイプの磁器を二つ取り出す。
変成して中途半端な形状になっている磁器を左手に、分解する磁器を右手に持つ。
私はどうも、右から左に魔力を流すほうが楽なようだ。
まずはマグカップの外側を変成していく。少し厚めにしておこう。一般的な磁器の厚みだと薄すぎて持った時に熱い。
ティーポットや急須からカップに注がれる際に空気に触れることでお茶の温度が下がるんだと思うんだけど、茶漉し付きマグカップだとその工程がないから、熱いままなんだよね。
だから、磁器は普通より厚めに。持ち手もしっかりしたものにしてみた。
それから、茶漉し部分。
穴は大きくても小さくても駄目だ。程々の大きさにしないと茶葉がカップに流れ込んでしまう。
均等に穴を空けていく。あんまり開けすぎると耐久度も落ちそうだから、程々にしておく。
カップにのせて見て、大きさを確認する。カップの縁にのせる部分がちょっと大き過ぎたか。カップよりはみ出てる。
少しずつけずるように周囲だけ分解していく。
最後に蓋。
これはかぶせられれば大丈夫だから、残っている磁器で作ってみた。
よし、完成。
洗ってからちょっとお茶を入れてみよう。
お湯を沸かし始め、カップを洗って水滴をキレイに拭き取ってから、キームンの茶葉を茶漉し部分に入れる。
茶漉し部分を持ち上げてみる。
ちょっと穴が大き過ぎたかな? 思った以上に、カップ内に落ちてる。
カップの中に茶葉を移し、茶漉し部分の穴を気持ちちょっとずつ小さくする。
全部の穴をそうするのは疲れるので、大きめの穴、小さめの穴が交互になるように調整して、それからカップ内の茶葉を戻し入れた。
うん、さっきより落ちにくくなってる。
沸騰する少し前にお湯を沸かすのを止め、茶葉の上にお湯を注いだら蓋をして、五分の砂時計を逆さにする。
砂時計が落ちきるのを確認してから、蓋にそっと触れる。
余ってたからと厚めの蓋になったけど、持った時に熱さを感じないので、丁度良い厚みかも知れない。むしろちょっと多いぐらいかも。
蓋を取り、蒸気で濡れた部分を上にしてテーブルに置き、肝心の茶漉し部分を持ち上げてみる。
うむ。熱い……。これ、火傷しちゃいそう。
蓋の部分のをちょっと茶漉し部分のほうに移そう。
両手でそっと持ち上げ、お茶がカップに注ぎきれたのを確認してから、蓋の上にのせる。
ちゃんと蓋には縁をつけているから、茶漉し部分から出たお茶は漏れないようにした。
これ考えた人エライ。
カップを持ち上げる。
うん、熱の伝わりも大丈夫そうかな。
猫舌なので、少し冷ましてからキームンを飲む。
うん、美味しい。
茶葉がずっとカップ内に入ってないから、苦味も出ないし。
飲み終わったら作り直してみよう。
「ミチル、入ってもいいですか?」
ノックの音と共にドアの外からルシアンの声がした。
「どうぞ」
ドアが開きルシアンが入って来た。
私の前にある茶器を見て、「ミチル、これは?」と聞いてきた。
さすが、目敏いですね!
「前に話していた、簡単に使える茶器です。今、洗って淹れ直しますね」
「いえ、ミチルの飲みかけがいいです」
「そこは、飲みかけでいい、とおっしゃって下さいませ」
マグカップをルシアンに差し出すと、ふふ、と笑いながらルシアンは茶器に口を付けた。
ちらりと蓋と、その上の茶漉しに目をやる。
「茶葉をあらかじめ取り出すから、味が損なわれないのですね?」
すぐに茶葉を取り出すから苦味も出にくいしね。
「そうなのです。一人でお茶を飲むときに、便利なのでよく使っておりました」
なるほど、とルシアンは呟く。
「これは完成形ですか?」
「いえ、蓋の部分の厚みをもう少し減らして、茶漉し部分の持つ部分に厚みを増やそうと思ってます」
ルシアンは立ち上がると、白いカップを三つ取り出し、あっさりと茶漉し付きマグカップを作った。
「そんなあっさりと!」
「完成品がここにありますから」
このチート級イケメンめ!!
「研究室でお茶を飲む際に使おうと思います。一人分だけ淹れるのもと思っていたので、助かります」
ルシアンは学園生活の大半を研究室で過ごしている。
魔道学がなければもう卒業出来るだろうに。
どうやら自習時間に伯爵としての仕事をしているらしい。
それって、私の所為だよね。
本当色々申し訳ない。
「この茶器は広めても良いものですか?」
勿論です、と答える。
近い内にラトリア様に伝えられるんだろう。
貴族はティーポットで入れるだろうし、平民向けに売る感じかな?
「ノウランドでの稲作ですが、北方の王国が寒冷地に適した米を生産していることが分かりました。ノウランドと環境が完全に一致する訳ではないので、土壌の性質などが近い米なども取り寄せている所です。
何種類かの米を来年、試作してみる予定です」
おー。
使えそうなお米があったのか! 素晴らしい!
ということは、カーライル王国で作られているお米はノウランドには適していないということか。
日本の北国のあの美味しいお米は、品種改良を重ねられて作られた品種なんだなぁ……。
今更ながらに米農家さんに感謝。本当にお米美味しかったです。
「では、取り寄せたお米の苗を研究施設で育てるのですね?」
「はい、ノウランドの土壌も運ばせております。まだ施設そのものの設備が不十分ですが、出来る部分から始めていきます。
丁度、王室の管轄に稲作を行う領地がありますので、王室を通して稲作に従事する平民をアルト領民にする手続きを行っております」
私の言ったこと、進んでるんだ!
直接関われないけど、こうやって自分の話したことが実現されていく話は、凄いワクワクする。
ギルドの時もそうだったけど、夢を実現させられる能力って凄いよね。
「ヒガンバナという植物は存在しませんでしたが、茎と根に毒性を持つ植物も数種類目星を付けています。
こちらの稲作での害獣を集めて、どの植物が効果を出すかも検証します。
この害獣集めは、冒険者ギルドに依頼を出しているんですよ。荒事に慣れている者なら、害獣を相手にしても遅れは取りませんし、害獣が減れば農業に従事する平民にとっても被害が減りますから、皆に利があります」
win-winじゃないですかー!
「私の話した内容を現実のものにするのは、容易いことではないと思います。それをこうして形作れるなんて、凄いです」
「ミチルがあらかじめどういった問題が発生するかも教えて下さっているから、導入に関しては大した問題も発生せずに始めることができましたが、これで完成ではありませんから、気は抜けません」
ルシアンは苦笑混じりに言ってお茶を飲む。
「大丈夫ですわ。こんなに真剣に国を思ってる人たちがいて、行動に起こしているのですから。きっと、大丈夫です」
祈るように、私は大丈夫を繰り返した。
「何か不安でも?」
私が大丈夫を繰り返したから、ルシアンは気になったようだった。
「私が前にいた世界では、言霊、という考え方というのでしょうか、そういうものがありました」
「コトダマ?」
「言葉には力がある、という考えです。ですから、良い言葉を口にすれば、良いことがある。たとえ今すぐそうならなくても、いずれ、良いことがある。私はこの考えが好きです」
性根がネガティブなもんで、そのまま口にするとロクなことにならなさそう、というのもあるけど、もやもやしたものを実際口にすると、もやもやが実体化するような、あの感じがちょっと苦手だ。
あぁ、言ってしまった、という罪悪感と開放感が入り混じる感じ。結局罪悪感の方が勝つけど。
だから、もやもやは心の中で呟きまくって、自分の中から出したくない。
大分冷めてしまったお茶をひと口飲む。
「現実は理不尽なことが多く、辛いことばかりです。でも、その気持ちにばかり囚われてしまったら、何も出来なくなってしまいます。
後悔しないで生きられる方なんておりませんし。それならいっそ、やることをやって後悔したいのです。それなら諦めもつきますから」
そんな、前向きなんだか後ろ向きなんだか分からない自分の内面を話した後、ルシアンが私をじっと見つめているものだから、なんだか急に気恥ずかしくなってしまった。
「……申し訳ありません、聞かれてもいないことを、話し過ぎてしまいました」
ルシアンは優しく微笑む。
「いえ、珍しいと思って見ていました」
珍しい? と聞き返す。
「ミチルはあまり、自身の考えを口にしないでしょう。周囲の気持ちに寄り添った言葉を口にすることはあっても。ですから、嬉しいです」
ルシアンの手が私の手を上から握る。
「嬉しい?」
「ミチルのことを一つ知りました」
そんな風に言われると、何だか恥ずかしい。
「恥ずかしいです」
「貴女の、強さはそこにあるのですね」
「強さ?」
ふふ、と笑ってルシアンは答えてくれなかった。
不満気な私に、ロイエは笑顔で、お立場というものがございます、と言うのだった。
貴族は色々面倒くさい。
ルシアンがアルト侯爵と計画している研究施設については、話がだいぶ進んでいるようで、王都の東地区に屋敷を購入し、必要な設備を順次運び込んでいるとのこと。
と、言うことは、もう人員の確保も済んでるのかな。
聞けば教えてくれるけど、基本的にルシアンからは話してくれない。
まぁ、領地経営のことだし、私は正真正銘の素人だから仕方のないことなんだろうけど。
あんまり質問ばかりして邪魔もしたくないし。
ルシアンは珍しく今日は書斎にこもって仕事をしている。
私としては暇になるけど、睡眠時間を削らず、起きている間に仕事をしていただきたいので文句はない。
テーブルの上に置いた磁器を手にする。
これは、アルト侯爵家が用意してくれた食器の一つで、真っ白いシンプルなデザインの磁器で、便利使いしている。
当然サルタニア産だ。
ペックたちの工房、上手く行ってるかなー。
この前伝え忘れてたけど、中国茶器のことも描いておけば良かったかなー。
そう言えば私、気軽にト国茶が飲みたくて、変成術が出来るようになったら、茶器を作ろうと思ってたんだよね。
御誂え向きな目の前の磁器は、真っ白で使いやすい。
簡単に中国茶を入れられる茶器、あったかなぁ、と記憶を辿っていく。
茶漉し機能のついたマグカップか蓋碗か、どっちがいいかなー。
ただちょっと蓋碗は使うのにコツがいるんだよね。かくいう私は蓋碗の使い方が下手で、いつも茶葉が口に入ってしまうから、蓋碗で飲むときは工芸茶にしてたぐらい苦手だ。
工芸茶は見た目を楽しむものだったりするのに、蓋碗に入れちゃってたから、同僚に呆れられたけど。
ほっとけ!
蓋碗の中で花開く工芸茶だってキレイなんだぞ!
うむ、マグカップにしよう。
簡単にお茶を飲めるようにしたいし。
磁器を性質はそのままに、形を変形させていく。
変成後、ちょっと反省した。
磁器が足りんかった。
ミルククラウンみたいなものが出来上がってしまった。
磁器はそもそも薄いからね。
何個ぐらい必要かなー。
食器棚から同じタイプの磁器を二つ取り出す。
変成して中途半端な形状になっている磁器を左手に、分解する磁器を右手に持つ。
私はどうも、右から左に魔力を流すほうが楽なようだ。
まずはマグカップの外側を変成していく。少し厚めにしておこう。一般的な磁器の厚みだと薄すぎて持った時に熱い。
ティーポットや急須からカップに注がれる際に空気に触れることでお茶の温度が下がるんだと思うんだけど、茶漉し付きマグカップだとその工程がないから、熱いままなんだよね。
だから、磁器は普通より厚めに。持ち手もしっかりしたものにしてみた。
それから、茶漉し部分。
穴は大きくても小さくても駄目だ。程々の大きさにしないと茶葉がカップに流れ込んでしまう。
均等に穴を空けていく。あんまり開けすぎると耐久度も落ちそうだから、程々にしておく。
カップにのせて見て、大きさを確認する。カップの縁にのせる部分がちょっと大き過ぎたか。カップよりはみ出てる。
少しずつけずるように周囲だけ分解していく。
最後に蓋。
これはかぶせられれば大丈夫だから、残っている磁器で作ってみた。
よし、完成。
洗ってからちょっとお茶を入れてみよう。
お湯を沸かし始め、カップを洗って水滴をキレイに拭き取ってから、キームンの茶葉を茶漉し部分に入れる。
茶漉し部分を持ち上げてみる。
ちょっと穴が大き過ぎたかな? 思った以上に、カップ内に落ちてる。
カップの中に茶葉を移し、茶漉し部分の穴を気持ちちょっとずつ小さくする。
全部の穴をそうするのは疲れるので、大きめの穴、小さめの穴が交互になるように調整して、それからカップ内の茶葉を戻し入れた。
うん、さっきより落ちにくくなってる。
沸騰する少し前にお湯を沸かすのを止め、茶葉の上にお湯を注いだら蓋をして、五分の砂時計を逆さにする。
砂時計が落ちきるのを確認してから、蓋にそっと触れる。
余ってたからと厚めの蓋になったけど、持った時に熱さを感じないので、丁度良い厚みかも知れない。むしろちょっと多いぐらいかも。
蓋を取り、蒸気で濡れた部分を上にしてテーブルに置き、肝心の茶漉し部分を持ち上げてみる。
うむ。熱い……。これ、火傷しちゃいそう。
蓋の部分のをちょっと茶漉し部分のほうに移そう。
両手でそっと持ち上げ、お茶がカップに注ぎきれたのを確認してから、蓋の上にのせる。
ちゃんと蓋には縁をつけているから、茶漉し部分から出たお茶は漏れないようにした。
これ考えた人エライ。
カップを持ち上げる。
うん、熱の伝わりも大丈夫そうかな。
猫舌なので、少し冷ましてからキームンを飲む。
うん、美味しい。
茶葉がずっとカップ内に入ってないから、苦味も出ないし。
飲み終わったら作り直してみよう。
「ミチル、入ってもいいですか?」
ノックの音と共にドアの外からルシアンの声がした。
「どうぞ」
ドアが開きルシアンが入って来た。
私の前にある茶器を見て、「ミチル、これは?」と聞いてきた。
さすが、目敏いですね!
「前に話していた、簡単に使える茶器です。今、洗って淹れ直しますね」
「いえ、ミチルの飲みかけがいいです」
「そこは、飲みかけでいい、とおっしゃって下さいませ」
マグカップをルシアンに差し出すと、ふふ、と笑いながらルシアンは茶器に口を付けた。
ちらりと蓋と、その上の茶漉しに目をやる。
「茶葉をあらかじめ取り出すから、味が損なわれないのですね?」
すぐに茶葉を取り出すから苦味も出にくいしね。
「そうなのです。一人でお茶を飲むときに、便利なのでよく使っておりました」
なるほど、とルシアンは呟く。
「これは完成形ですか?」
「いえ、蓋の部分の厚みをもう少し減らして、茶漉し部分の持つ部分に厚みを増やそうと思ってます」
ルシアンは立ち上がると、白いカップを三つ取り出し、あっさりと茶漉し付きマグカップを作った。
「そんなあっさりと!」
「完成品がここにありますから」
このチート級イケメンめ!!
「研究室でお茶を飲む際に使おうと思います。一人分だけ淹れるのもと思っていたので、助かります」
ルシアンは学園生活の大半を研究室で過ごしている。
魔道学がなければもう卒業出来るだろうに。
どうやら自習時間に伯爵としての仕事をしているらしい。
それって、私の所為だよね。
本当色々申し訳ない。
「この茶器は広めても良いものですか?」
勿論です、と答える。
近い内にラトリア様に伝えられるんだろう。
貴族はティーポットで入れるだろうし、平民向けに売る感じかな?
「ノウランドでの稲作ですが、北方の王国が寒冷地に適した米を生産していることが分かりました。ノウランドと環境が完全に一致する訳ではないので、土壌の性質などが近い米なども取り寄せている所です。
何種類かの米を来年、試作してみる予定です」
おー。
使えそうなお米があったのか! 素晴らしい!
ということは、カーライル王国で作られているお米はノウランドには適していないということか。
日本の北国のあの美味しいお米は、品種改良を重ねられて作られた品種なんだなぁ……。
今更ながらに米農家さんに感謝。本当にお米美味しかったです。
「では、取り寄せたお米の苗を研究施設で育てるのですね?」
「はい、ノウランドの土壌も運ばせております。まだ施設そのものの設備が不十分ですが、出来る部分から始めていきます。
丁度、王室の管轄に稲作を行う領地がありますので、王室を通して稲作に従事する平民をアルト領民にする手続きを行っております」
私の言ったこと、進んでるんだ!
直接関われないけど、こうやって自分の話したことが実現されていく話は、凄いワクワクする。
ギルドの時もそうだったけど、夢を実現させられる能力って凄いよね。
「ヒガンバナという植物は存在しませんでしたが、茎と根に毒性を持つ植物も数種類目星を付けています。
こちらの稲作での害獣を集めて、どの植物が効果を出すかも検証します。
この害獣集めは、冒険者ギルドに依頼を出しているんですよ。荒事に慣れている者なら、害獣を相手にしても遅れは取りませんし、害獣が減れば農業に従事する平民にとっても被害が減りますから、皆に利があります」
win-winじゃないですかー!
「私の話した内容を現実のものにするのは、容易いことではないと思います。それをこうして形作れるなんて、凄いです」
「ミチルがあらかじめどういった問題が発生するかも教えて下さっているから、導入に関しては大した問題も発生せずに始めることができましたが、これで完成ではありませんから、気は抜けません」
ルシアンは苦笑混じりに言ってお茶を飲む。
「大丈夫ですわ。こんなに真剣に国を思ってる人たちがいて、行動に起こしているのですから。きっと、大丈夫です」
祈るように、私は大丈夫を繰り返した。
「何か不安でも?」
私が大丈夫を繰り返したから、ルシアンは気になったようだった。
「私が前にいた世界では、言霊、という考え方というのでしょうか、そういうものがありました」
「コトダマ?」
「言葉には力がある、という考えです。ですから、良い言葉を口にすれば、良いことがある。たとえ今すぐそうならなくても、いずれ、良いことがある。私はこの考えが好きです」
性根がネガティブなもんで、そのまま口にするとロクなことにならなさそう、というのもあるけど、もやもやしたものを実際口にすると、もやもやが実体化するような、あの感じがちょっと苦手だ。
あぁ、言ってしまった、という罪悪感と開放感が入り混じる感じ。結局罪悪感の方が勝つけど。
だから、もやもやは心の中で呟きまくって、自分の中から出したくない。
大分冷めてしまったお茶をひと口飲む。
「現実は理不尽なことが多く、辛いことばかりです。でも、その気持ちにばかり囚われてしまったら、何も出来なくなってしまいます。
後悔しないで生きられる方なんておりませんし。それならいっそ、やることをやって後悔したいのです。それなら諦めもつきますから」
そんな、前向きなんだか後ろ向きなんだか分からない自分の内面を話した後、ルシアンが私をじっと見つめているものだから、なんだか急に気恥ずかしくなってしまった。
「……申し訳ありません、聞かれてもいないことを、話し過ぎてしまいました」
ルシアンは優しく微笑む。
「いえ、珍しいと思って見ていました」
珍しい? と聞き返す。
「ミチルはあまり、自身の考えを口にしないでしょう。周囲の気持ちに寄り添った言葉を口にすることはあっても。ですから、嬉しいです」
ルシアンの手が私の手を上から握る。
「嬉しい?」
「ミチルのことを一つ知りました」
そんな風に言われると、何だか恥ずかしい。
「恥ずかしいです」
「貴女の、強さはそこにあるのですね」
「強さ?」
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