転生を希望します!

黛 ちまた

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第一章 学園編

061.逃亡ブートキャンプ

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 セラに調べてもらったところ、燕国に合気道というものはなかったけど、古武術というものはあるらしい。
 なんかそれ聞いたことある、詳しく知らないけど。

 教えてもらいたいと燕国の人にお願いしたら、あっさり断られた。
 駄目か! 駄目なのか!!
 企業秘密なのかも!?

「ワタシの知ってる護身術で良ければ教えてあげるわよ?」と、セラが言ってくれたので、セラとロイエに実演してもらった結果、それ、本当に護身術?!っていう内容だったので、お断りしておいた。
 っていうかそれ、暗殺用じゃない?!
 護ってないし! 攻めてますし! 攻撃してる箇所、全部急所だよね!?

 違うのだよー、私が覚えたいのは女性が出来る、要するに筋肉なくても出来る奴ですよー。
 いくらジョギングで筋肉付けたって言っても、バッキバキじゃないからね?!

 セラは何度となく燕国の人に接触をしてくれたみたいで、最終的に燕国の人に無茶振りされて返ってきた。
 つまり振られて返ってきた。
 諦めて、アサシンを目指すしかないのか……。

「そもそも、ミチルちゃんの細腕でどうこうするのは難しいのよ。だから、相手を怯ませて、逃げることに注力したほうがいいわ。足の速さだって、本気になった男から逃げるのは難しいものよ。
大体、淑女はドレスなんだし」

 なるほど?
 じゃあ、スカートの中にキュロットとかはいて、いざとなったらスカート脱ぐとか?

「また変なこと考えてるでしょう」

 最近、ルシアンだけでなく、セラも私の考えてることを見抜くようになってきたんだよね。
 なんだろ、顔に出てるのかな……。

 うふふ、と微笑んで見せると、セラもうふふ、と微笑み返してきた。

 そういえば、前世で女の人が太もものきわどいところにナイフとか仕込んでたなー。主にミ●フジコみたいな美人スパイが。

「スカートの中に、というか、太ももにナイフを挟めるベルトを仕込んでおくとか?」

 それを思い出して口に出してみたら、セラにドン引きされた。

「どういうこと!?」

 えぇ? 急所で股間とかも狙ってた人がそこに引くの?

「そういえば簪とかで目を刺すとか……」

 必殺仕●人とかね。ピアノ線みたいなのは色々無理だな。設置してる間に捕まる自信がある。

「ちょっとちょっとミチルちゃん、あっちの世界はどうなってるのよ?!」

 いや、それは時代劇だったけどね?
 時代劇とか説明するの難しいなぁ。燕国の人、遠巻きに見たけど着物とかじゃなかったしさ。

「簪良いかもしれませんわ! セラ、私、簪を作って髪に挿しておきますわ! いつでもヤれるように!」

「やめて! ヤれるって何よ!?」

「メリケンサックとか?」

「何よそれ!?」

 その後、太ももナイフと簪とメリケンサックの説明をさせられた結果、太ももナイフは却下された。
 ナイフの扱いは難しいからだって。確かにね。やっぱり投げて頭の上の林檎に刺すぐらいになれないと駄目ですかね。
 簪はあんまり長くないほうがいいって言われた。短いほうが手に持ってるのがバレにくいとか、もの凄い実用的な説明を受けて、セラって本当に執事なのかな? という疑問が湧いたけど、言わないでおいた。
 メリケンサックはあからさま過ぎるから駄目と言われた。ちぇー。

「どういう状況を想定して、ミチルにこの手の護身を……」

 痛む頭を押さえるように、額に手を当てて、ルシアンが呟いた。
 いつの間にそこに?!

「結構前からいたわよ、ルシアン様」

 普通にセラに言われてしまう。
 えぇ?!

「毎日、ドレス姿で逃げる練習と、縄抜けと、ピッキングと、人形相手に急所を狙う練習をしましょう。それが出来るようになったら私とロイエがお相手するわー。ちょうど連続休暇ですものね! びっちりやるわよ!」

 にっこにこしてセラが言う。
 え? 私の夏休み、護身術で終わるの?
 っていうかピッキングって?!






 ドレス着て、ピンヒール履いて屋敷内を走り回らされる日々。
 なんで?! なんでなの?!
 しかもみんなで追いかけて来る。
 捕まったらお仕置きなんだって! 何のお仕置きかは不明だけど!
 しかもお仕置きって言ったのがロイエだから、無駄に怖い。何かシャレにならない感じがする。
 もうね、必死です!

 でもね、私、伊達に何年も走ってないからね! 基礎体力は自信あります!
 ドレスでの走り方のコツを掴んでからは捕まってません!
 一回だけ捕まったけど、その時はお仕置きの話が出る前だったからセーフ。
 ロイエ、なんで舌打ちするの?!

 全力疾走後に急所当ての練習をする。
 前から羽交い絞めされたときの逃げ方とか、後ろからとか、横からとか、髪を掴まれて引っ張られてしまった時の対処法とか。
 体力がある時に練習しても意味がないってセラが!
 なんかちょっと実践的過ぎない?!
 抗議したところ、セラに、やるんなら突き詰めないとね☆ っていい笑顔で言われてしまって、それ以上一切聞いてくれなかった。
 鬼セラ! ロイエの悪魔!

 縄抜けはコツがあって、それをマスターすればいいって言われたんだけど、なかなか上手く腕が捻れなくていつも手首が痛い。金属だった場合は諦めろって言われたんだけど、それ、どういう状況ですかね?!

 ピッキングに使えるようにと髪にピンいっぱい差し込まれて、それを使って毎日五種類の錠前を外すっていう。
 これが出来た暁には、転職できそうですよ?!

 ますます淑女から遠く離れて、もはや対岸が見えない状況になっているけど、護身術を習いたいと言ったのは私だから仕方ないとして。
 いや、でもこれ護身術っていうより、暗殺とか盗賊とかそっち……。






 朝っぱらからゴテゴテに着飾らされて、髪も盛り盛りで、当然ピンヒールで。
 馬車に乗らされて何処かに向かってる。

 嫌な予感ビシビシします!

「せっかくキレイにしたのに勿体ないけど、こればっかりは仕方ないわねぇ」

 ため息をつきながら、セラは何処からかロープを取り出し、夕食のリクエストは? と聞きながら私の手首を縛りあげる。

「え? 夕食?」

「そう、夕食よ」

「に、肉じゃが?」

 何故か疑問形で答えてしまった。

「りょうかーい☆」

 おかしいって!
 色々おかしいってば!

「お待ちになって! 何をしようとしてらっしゃるの?!」

「実践です」

 簡潔なロイエの答え。

 ほぅほぅ、実践ですか。何事も実践は大事ですよね。
 でもこの実践って……。

 失礼します、と言ってロイエは私に猿轡をはめた。

 ?!

「むぐー!?」

「いい加減観念した方がいいわよぉ」

 良い笑顔でセラは言う。
 観念て!

「そぉれ☆」

 麻袋を頭から被せられ、何も見えない状態に。

 何これナニコレーっ?!

 実践って言うより、今すぐ始末されるとしか思えないよ!!
 冷たい水の中に捨てられる未来しか見えない!
 誰か助けてー!!



 ゴトゴト揺れていた馬車が止まったのが分かる。
 助かった。ちょっと気持ち悪くなりかけてた。

 ぬるい風が馬車の中に入って来たのが、分かる。
 扉が開いたのか?

 軽々と麻袋ごと持ち上げられ、肩に担がれている。多分、この匂いはセラだと思う。甘い良い匂い。

 えー? これ、こっから抵抗した方がいいの?!

「ちなみにこの状況で抵抗してもすぐ捕まるから止めておいた方がいいわよ☆」

 ソウデスカー。

 屋敷の中に運びこまれたっぽい状況であることは察した。
 麻袋だから生地の目が荒くて、明るさぐらいなら分かる。でもそれだけ。

 階段を降りて行ってるみたいだ。ひんやりして、若干カビ臭いというか、湿った臭いがする。

 ガチャガチャと音をさせて何かが開いた音。
 どさり、と床に下される。ちょっとイタイです……。

「では、始めましょうか」

 ロイエの声。

「じゃあ、ミチルちゃん。肉じゃがの為に頑張って☆」

 この危機的状況を打破するモチベーションが肉じゃがだと?!
 足りない! 足りないよ!!

「屋敷の外に出れたら合格よ!
じゃあ、また後でね☆」

 扉が閉まって人の気配が消えた。

 せめて麻袋は外してもらえるのかと思ったのに、それすら外してもらえない。

 実践って言うより、これ普通に本番……。



 麻袋は縛られてなかったので、芋虫のようにズリズリしてる内に出られた。
 猿轡の上に麻袋とか、長時間だと酸欠になりそう。

 えーと、縄を抜けなくては。さり気なく足も縛られてるので、それも解きたい。

 この結び目! 一番難しい奴! セラの馬鹿!!
 しかも後ろ手だから、髪のとこにあるピンも取れないし!

 身体をよじらせて、ヒールの踵にわざとはめてある金属に手首の縄を押し付け、ゆっくりと大きく動かす。
 小刻みな動きって意外に切れないんだよね。包丁と一緒で。

 しばらくゴリゴリ削ってる内に捻ったら縄抜けが出来た!
 よっし!
 猿轡を剥がしてそのへんに放り投げ、足を縛ってる縄を解く。うん、解けない! 酷い!!
 ヒールを脱いで手に持ち、ヒールの踵で足首の縄を切って解く。

 えーっと、拘束は解けたけど、ここ何処よ?

 人の声とかは聞こえない。誰もいないように見えるような……?
 しばらく様子を窺ってみたけど、大丈夫そう。そっとドアノブに手を回す。
 うん、開かない。

 髪に挿さってるピンを一つ取り、ピッキングを試みる。
 よし、そんなに難しい奴じゃなかったぞ!
 ピンの個数には限りがあるから、また髪に挿しておく。

 長い髪を掴まれたりすると危険なので、こっそり作っておいたゴムで髪を結んでおく。
 よし、これで後ろから引っ張られる心配はないぞ!

 そっとドアノブを回してドアを開け、外の様子を窺う。
 やはり誰もいないな。
 ドアを開けてそっと出る。ヒールが音を立てないように、そっとそーっと進む。
 本当なら隠れながら進みなさいって言われてるんだけど、隠れられるとこがない。
 慎重にね……。

 わさわさしたドレスが邪魔にならないように、片手でまとめるように掴んでおく。

 そっと階段を登る。
 音をさせないように、音を聞き漏らさないように。
 上のフロアが見えるぐらいまで上がって来たので、様子を窺いながら階段を上がりきる。

 人は……いない……?
 ここは一階かな?
 出口からは遠いのだろうか?

 長い廊下の先に正面玄関っぽいのがあるけど、そんな堂々と玄関から出られる訳もないので、裏口を探したい。

 地下の構造からして、ワンフロアの大きさをざっと考える。
 玄関の正面に食堂があるタイプなら、そう遠くないところに厨房があって、勝手口がある筈!
 ただ、玄関なだけあって、人もいっぱいいるかも知れない。

 複数人から逃げる練習もしたけど、狭い場所で逃げるのはあんまりやったことないな。
 練習の筈だけど、あのロイエが手を抜く筈がない。
 絶対本番と同じで、この屋敷にいる人たちは雇って来た人たちで、本気でお相手されちゃうに違いない。
 ルシアンが鬼で悪魔で鬼畜に育ったのって、ロイエの所為なんじゃないかな?!
 そんなロイエの実践トレーニングで失敗した場合は、お仕置き決定ですよ。
 あるのか分からないけど、お仕置き部屋とかに入れられちゃうんだ、きっと。
 もはやどっちが主人なんだか不明。

 屈んだ状態でジリジリと正面玄関に向かう。
 途中途中の立派な壺とかに身を寄せて隠れながら。
 ドレス脱ぎたい! 本当邪魔! ヒールじゃなくスニーカーに履き替えたいよー!

 時折脳内現実逃避をまじえつつ、緊張状態が高まり過ぎないように気をつける。
 緊張し過ぎると、己の心臓音が邪魔になって冷静に考えられなくなってしまう。

 玄関にいる人数は四人。
 どう見ても、使用人じゃありません、ありがとうございます。案の定荒くれ系です。
 めっちゃ腕っ節強そうです。
 ……うん、セラが言ってた通り、私の腕で太刀打ち出来そうに見えません。

 髪に挿しておいた短めの簪を右手の中に握り込んでおく。
 いざというときに取り出すのは無理だから、あらかじめ手にしておき、見えないように持てと言われてるんだよね。
 簪は簡単だからゴムと一緒に作っておいた。

 気分は、逃げるというより、暗殺に来た感じです。
 いや、無理だけど。

 うーん……あの四人の目をどうやって盗むか……?

「ここはやっぱり正面突破じゃない?」

「えぇ? そうかなぁ……」

 ………はい?

 ちら、と横を見るとセラがニコニコしながら私を見てる。
 出た!!

 瞬間的にその場から逃げ出した。当然四人にも見つかってしまったけど、それどころじゃない!

 もうちょっとでセラの手に掴まれそうになったのを、何とか逃げて正面玄関の奥に向かって全速力しようとして、奥からも人が出て来てしまい、大慌てで二階に繋がる階段を駆け上がる。

「おい!」

「捕まえろ!!」

「右手に回れ!」

 怒声が響く中、廊下の奥に向かって走る。最悪、窓ガラス突き破ってでも出なくては!
 でも、出来たらバルコニーに出て、そこから庭に出たい!

 構造的に屋敷の主人の部屋だろう、という部屋の扉を掴んで開けると、そこにロイエが!
 駄目だここ、絶対入っちゃいけない部屋だ! 地獄への片道切符です!
 バルコニーに出ようとする私の考えを読まれたに違いない。
 大慌てで部屋を出ようとした瞬間、後ろから背中を押されてしまった。扉が閉まる音が後方からする。
 ロイエから目を逸らす訳にはいかないので振り向けない。
 それに、きっとセラだと思うし。

「初めての練習にしては、なかなか筋がよろしい」

 珍しくロイエにお褒めの言葉をもらったけど、これでやったー! なんて喜んだら最後、甘い、とか言って何されるか分からない。気を抜けない。

 ロイエとセラ、どっちも強いんだと思う。ただ、ちょっとタイプが違いそうって言うか。
 コワイヨー……。

 バルコニーの前にはロイエ。
 窓のすぐ隣にベッド。ベッドにはふかふかそうなお布団。
 あぁ、さっきの階段、それなりに高さあったよね。

 ロイエとセラは私が動くのを待ってるけど、リアルならこんな間はない筈だ。

 私はベッドの方に向かい、布団を抱えて窓を強引に押し開けた。

「ミチル様?!」

「ミチルちゃん?!」

 手に持っていた簪で、思い切り布団の端を窓の桟に突き刺す。
 布団はきっと、すぐに破れるだろうけど、とりあえずワンフロア分の高さを下りられればいい。後はジャンプして着地!

 そう思って窓の桟に足をかけた瞬間、ドレスの端を踏んでしまい、窓から落ちた。

「ミチルちゃん!!」

「ミチル様!!」

 落ちたときの体勢もおかしかったし、予想外のことで、思わず目を閉じてしまった。

 あぁ! 地面に激突して死んじゃう!
 さようならみなさん!
 まさかの練習で死んで来世へゴー!です!!

「……まったく、貴女は……」

 声が頭のすぐ上から聞こえる。この声は。

「ルシアン」

 顔を上げると、眉間に皺を寄せてため息を吐くルシアンがいた。
 落ちた私をルシアンが助けてくれたらしい。
 おぉ! 凄い! イケメン凄い!!

「今ので足は挫いてませんか?」

「大丈夫です」

 バタバタと足音がして、玄関の方からロイエとセラが走って来た。

「ミチルちゃん! 怪我は?!」

 散々な練習させといて怪我は? って聞くのおかしくない?

 ロイエは私を見て笑顔になった。
 あ、もしかして、屋敷の外に出れたから合格とか?

「ルシアン様に拘束されておりますから、不合格にございます、ミチル様」

 えぇっ?!

 ルシアンの顔を見ると、にっこり微笑んでる。
 え?! ルシアンもそっちなの?!

「お仕置き決定です」

 何故三人とも良い笑顔……。この人たちドS過ぎない?!
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