転生を希望します!

黛 ちまた

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第一章 学園編

080.バニラアイスと察知能力SS

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 遭遇したら会えて嬉しいと言え、とは言われたものの……私、同じ屋根の下に住んでるんですよ。
 当然頻繁に会うんですけど?
 しかも三回に一回は好きと言えと……?

 セラは私の執事だから、私が課題をちゃんと実行するかを誰よりも身近でチェックする訳ですよ。怖くて振り向けない奴ですよ。
 ……おかしい、この課題はモニカの為の筈……?

 ルシアンにあまり会わないで済むよう、部屋から逃げよう、そうしよう。
 ……と言う訳で、サロンに逃げてみた。

「ミチル?」

 わぁああああああっ!!

 サロンに来てすぐにルシアンがやって来て、ソファに座っていた私を抱き上げると、カウチに移動する。

 何で?!
 どうしてここにいるってわか……コンパスか!
 コンパスがあるからか!
 逃げられないじゃないか!
 ……いや、待てよ? 逆にこれを使って逃げれば……。

「ミチルちゃん?」

 セラがにっこり微笑んでる。笑顔が怖いです。
 振り向かないようにしてたら正面に立たれた。
 はい、セラ先生……。

 言わねばと思うと、顔が熱くなる。

「顔が赤いですね。熱が?」

 ルシアンの大きな手がおでこに触れる。
 どきっ、と心臓がはねる。

「熱は……なさそうですね……」

 ナイです。むしろ出て欲しいデス。

 セラがいい笑顔のままこっちをガン見してます。刺さる刺さる、視線って本当に刺さるんだね…。

「る、ルシアン……あの……」

「はい」

 いつも通りイケメン過ぎる。

「あの……っ、きょ、今日も会えて嬉しいです……」

 私のしくじった発言にセラが額に手を当ててる。
 あっちゃーって顔してる。
 うぅ……っ、無理ーっ!!

「やっぱり熱があるのでは?」

 デスヨネーッ?!

 ルシアンは私を膝の上に乗せると、優しく抱き締めてくれた。ルシアンの頰が私のおでこに触れて、ホッとするやら恥ずかしいやら。
 いや、恥ずかしいのはさっきの己の失敗の所為か……。

「近頃急に寒くなりましたから。風邪の引きかけかも知れません。安静にしましょう」

 違うとは言えず、ルシアンに抱きしめられたままで、私はセラからの視線から隠れた。
 ……これは後で絶対怒られるに違いない……。



 サロンから自室に戻る。
 セラ先生が口元は笑ってるのに目は笑っていないという、上級貴族お得意の笑顔をなさってらっしゃいます。
 さすが侯爵家令息です……。

「予想以上に前途多難だったわ」

 予想通りセラ先生からご指導を賜るようです。
 ソファの上で正座したいぐらいです。

「ミチルちゃんはルシアン様に愛されていることに甘え過ぎているのかもね?」

「?!」

 いや、私なりに頑張って来ましたよ?!
 そう言い返そうとしたら、セラにふっと笑われてしまった。

「暴走しただけでしょ?」

 吐血!

 ごもっとも!
 思い出される己の失態の日々。
 おっしゃる通りでございます……。
 それが何とか上手くいってるように見えるのは、一重にルシアンがフォローしてくれてるからで……。

「自分で考えるのよ?」

 ヒントを、と言おうとした私に先回りして、セラがぴしゃりと言った。
 セラ軍曹、厳しいっス……。

「はい、どうぞ。熱いから気を付けてね」と出されたお茶を口につける。

「……っ!」
 
「ミチルちゃん?! だから熱いって言ったのに!」

 カップを落とさないで済んだものの、舌を火傷してしまった。
 セラはちゃんと注意してくれていたのに、アホすぎる……。

「ごめんなさい、セラ……」

「食事は刺激の少ないものにするよう伝えてくるわ。
あと冷菓を用意してもらってくるから待ってて」

 セラが部屋を出て行ってから、失態続きの己の不甲斐なさに、カウチの上で体育座りですよ。
 うぅ……。

 少しして、ルシアンとセラが入って来た。
 何で?! 何でルシアンが?!

 セラはワゴンに乗っていたアイスクリームの乗った器とスプーンをテーブルの上に置くと、私にウインクしてから部屋を出て行った。
 ウインク後の目は、ちゃんと課題やるのよ、だと思う。

「セラから貴女が舌を火傷したと聞いて……」

 そんなことまで報告してるの?!

「今日はあまり体調が良くないみたいでしたから、セラに報告するよう申し付けていたんです」

 ……なるほど。

 ルシアンは私を膝の上にのせる。
 いつも思うけど、重くないの? これ、太ったらすぐバレそうだよね?

 あぁ、課題……課題を果たさねばならぬのに、何て言えば?
 さっきのは失敗だったけど、一応課題クリアには認定されたみたいだった。
 でも、今日も会えて嬉しいを同じ日に二回も言うのはおかしい。だから、何か別の言い回しをしなくては……。

「ミチル、口を開けて?」

 アイスクリームを食べさせてくれるらしい。
 抵抗したいけど、そうしたらきっと食べさせてもらえなくなりそうだ……。
 大人しくスプーンを受け入れると、口の中に甘さと冷たさが広がった。
 バニラアイス美味しい。

「美味しいですか?」

「美味しいです」

 ふふ、とルシアンは笑うと、またアイスクリームを口に運んでくれる。
 無駄な抵抗ではありますが、自分で食べられますとは言いました。無駄でしたけど。

 ミチルちゃんはルシアン様に愛されていることに甘え過ぎてる──セラの言葉が思い出される。
 自覚はある。ルシアンが私を思ってくれていることを実感しない日はない。
 時折、ルシアンは何故私なんかをこんなに愛してくれるんだろう?という不安から、自分も何かお返ししなくては!と焦りから暴走して、失敗する。
 これの繰り返し。
 それをセラは危惧してるのだろう。

「ルシアン、あの……」

「詳しくは聞いていませんが、セラに何かさせられているのでしょう?」

 エスパーか!
 驚いている私を見て、ルシアンは笑う。

「あまり、無理はしないで下さい」

 口に運ばれるアイスクリームは、私の舌の火傷を冷やし、甘やかす。

 世の中の女性は、私と違ってスムーズに愛の言葉を男性に言うのかな?
 全く参考にならなさそうだけど、乙女ゲームではどストレートに会いたかったです、とか言ってたなぁ。
 いやいや、ヒロインはちょっとイレギュラーだからね、あれを参考にしてはいけない、うん。

 ……いや、待てよ?
 夜会でルシアンと一緒に私がいても、ルシアンを上目遣いにうっとりした目で見つめ、お会いしたかったですって言っちゃう令嬢は山程いた。
 婚約者と一緒にいる男性への直球なアプローチにドン引きしたけど。
 あの手の言葉は淑女でも言うのね、言い回しが丁寧なだけで。そして気付くのが今更ですけど。
 ちなみに結婚後も言われてる。みんな遠慮ない……。

 あ、そうか、お会いしたかったです、って言えばいいのか。よし、そう言ってみよう。
 ……と言うには会ってから時間が経ってて言いづらい。
 アイス食べてますし。
 これは次に言ってみよう!

「火傷の痛みは落ち着きましたか?」

「大丈夫そうです。ありがとう、ルシアン」

 おかげさまでヒリヒリ感がやわらいできました。

 ルシアンは優しく微笑むと、私の瞼にキスをした。

「良かった」

 優しさと甘さに溶けそうです……!

 ルシアンは私を膝から下ろし、カウチにスライドさせた。
 温かさと安心感が同時に失われたのを感じる。
 恥ずかしがってた癖に、離れると寂しく感じるとか、我ながらワガママすぎる。

「書斎で作業をしています」

「えっ」

 思わず口から出た自分の言葉に、誰よりも自分が驚いてしまう。慌てて手で口を隠し、首を横に振った。
 ルシアンはじっと私を見る。

「な、なんでもありません! お仕事、頑張って下さいませ」

 恥ずかしくて顔が熱くなる。

 何が、えっ、ですか!
 何言っちゃってるんですか、自分!

 ルシアンの大きな手に頬を撫でられる。

「私にどうして欲しいですか?」

 いっ、言える訳ないです!

「何もないです、何でもありません!」

 近付いてくるルシアンの身体を押しのけようと、両手で押し返すも、両手を掴まれる。

「言って下さらないなら、書斎に連れて行きますよ?」

 え? 行っていいの?

 ルシアンはとろけそうな目で「可愛い」と言うと、頰にキスをしてくる。
 ぅああああああ、溶けるぅぅぅ。

 はっ!
 いかんいかん!

 我に返った私は、全力で否定する。

「だ、駄目です、お仕事に集中なさって下さい!」

 その後は何を言われても引かず、強引にルシアンを部屋から追い出した。
 そんな私の様子にルシアンは不満気だったけど。



 それから二時間程して、ルシアンが戻って来た。
 お茶でも飲みに来たのかと思ったら「今日終わらせておいた方がいいものを終わらせて来ました」と言う。

 さすが仕事が早いなぁ。
 イケメンやりおりますわ。

「ミチルの様子が気になりましたし」

 !!

「……私の為に、お仕事を頑張って終わらせて下さったのですか……?」

「えぇ。ミチルの顔が見たかったので」

 ルシアンに抱き締められる。

 どうしよう。凄い嬉しい。
 私のことで無理させちゃったのではと思うと、申し訳なさでいっぱいになる。
 でもそれ以上に、嬉しくてたまらない。

「私のことは気にせずお仕事をして下さいませ」

 セラに顔を三回合わせるたびに好意を伝えること、と課題を出されたし……。
 言っても、いいよね? 言わないと怒られちゃうし。

「……ですが……嬉しいです。私もルシアンと一緒にいたかったので……」

 ふふ、とルシアンは笑う。

「セラの特訓は厳しそうですね?」

 ぎくっ。

「嬉しいのと、ルシアンと一緒にいたいのは本当です!」

「本当に?」

 頷くと、ルシアンは少し意地悪そうな笑顔を浮かべた。
 ……あ、これ、あかん奴。

「仕事を頑張って終わらせた夫に、ご褒美をいただけませんか?」

 ご褒美とな?!

 既に腰はホールドされております、えぇ。
 つまり逃げられない状態であります。

 はっ!
 いやいや、それが駄目だから、セラに特訓をしてもらってると言うか、させられていると言うのか。

 顔が熱くなる。

「……たとえば……どんなことがルシアンにとってご褒美になるのですか……?」

「そうですね」

 ルシアンの唇が私のおでこ、瞼、頰に落ちてくる。

「ミチルからキスをして下さるとか。愛してると言って下さるとか」

 さすがルシアン!
 常に求めるもののハードルが高めです!!

「ルシアン……あの……お慕いしております……」

 好きって言うより、なんかこっちの方がオブラートに包まれてるなと思って……。
 モニカの言い回しを真似て……いやいや、淑女らしく言ってみました。

「その言い回しの方がミチルには言い易いですか?」

 見抜きすぎだから!
 そして見抜いてもそれ、言わなくていいから!!

 答えられないでいる私を抱き締めながら、楽しそうにルシアンは笑う。

「この休みは、楽しく過ごせそうです」

 察知能力S Sな夫を相手に課題をこなしたとしても、墓穴しか掘れない気がしてキマシタ。






 年内の学園も終了し、冬休みに突入した。
 今日はモニカが予約してくれたので、カフェの個室におります。
 経営者特権的な感じで、予約の入ってない時は個室を使ってもいいことにしてるんだよね。

「さて……モニカちゃんの報告を聞かせていただこうかしら?」

 鬼軍曹セラがモニカに微笑んでおります。
 モニカは頰を赤らめて俯いてる。

 私のことはセラは側で見ているから、敢えて聞いたりはしない訳ですが、後で駄目だしはされそう……。

 王妃教育の為に定期的に王城に上がるとは聞いていた。お勉強後に王子とお茶会をすることもルーティンだったようだから、私程ではないにしても、課題をこなす頻度は高めだ。

「……一つ目の課題は……何とかこなせたと思います。
私、これまでお会いしたかったと申し上げたことがありませんでしたから、殿下は初め、訝しがってらっしゃいましたけれど……」

 おぉ、ちゃんと会いたかったって伝えたんだ! さすがだよ、モニカ!
 ……それに比べて私と来たら……。
 いや、でもさ、既に結婚してる相手に会えて嬉しいって言うのおかしいでしょ? 何を言うのが正解なの?!

「一昨日がお会いした三回目でしたから、その……」

 モニカの顔が耳まで赤くなった。

 かーわーいーいー!!
 モニカが可愛い!
 むぎゅーってしたい!!

「お慕いしておりますと……申し上げました……」

 大好きなモニカに会いたかったと言われ、お慕いしておりますと言われちゃった王子の理性は大丈夫だったのかな? と、そこらへんが急に心配になってきた。
 ……え? 大丈夫だよね?

「殿下の反応はどうだったー?」

 えっ? セラってばそれ聞いちゃうの?!
 いや、気になりますけどね?

 湯気が出そうなぐらいモニカの顔が真っ赤になった。
 これは大成功の予感!
 キスとかされちゃったりしたのでは?!
 あぁ、人のコイバナって、いいね?!
 わくわく、きゅんきゅんするのに、自分は安全地帯にいられるし。

「うんうん、モニカちゃん恋愛脳化計画は、順調ね」

 ……え、なにその若干不穏な計画?
 でも、臆病になって人のコイバナにばかり関心がいってる状態から、自分の恋愛に向き合うようになって、本当に良かった!
 前より恋する女子感がモニカから出てますし!

 それに比べて……とセラがため息を吐く。

「ミチルちゃんの体たらくと言ったら……」

 ホコサキこっち向いた!!

「ルシアンには何も伝えていないのに、何故か全て知られていて……」

「ミチルちゃんがあからさまな言葉を言い過ぎるのと、ぎこちないからでしょ!
もうちょっとモニカちゃんみたいに恋する乙女感出しなさいよ!
ルシアン様のことどう想ってるの? これまで言葉で聞いた事なかったけど、この際聞いておくわ」

 己の話を終えたモニカの目も猛禽類になっております。
 ひぃ……。

「で、ですから、好きですわ、ルシアンのことは」

 はっ、とセラが鼻で笑う。

「結婚もして褥も毎晩共にしといて、好きだのなんだの、甘い事言ってるんじゃないわよ」

 えっ、ちょっと待って!
 さっき私にモニカみたいな恋する乙女感出せって言ったのユーじゃない?!

「違うわよ! さっきのモニカちゃんみたいに、甘酸っぱい空気感がミチルちゃんからは出てないって言ってるの」

 甘酸っぱい?!
 モニカを見ると、赤い顔でもじもじしてる。

 ?!

 この休みで私を余裕で追い越した感のあるモニカ。
 眩しい!!

 モニカの乙女のポテンシャルが高いのか、私が這う程にしかないのか、どっちだ?!
 元々モニカはそういう気持ちが高かったからこそ、両親のドライな関係に傷付いてあんな投げやりになったと考えればですよ?
 そもそもこれ、私が不利って言うか、無理ゲーなんじゃ?!

「まぁ、この前、無意識にルシアン様に甘えておねだりしていたのは、良かったと思うわ」

「何ですの?! それは!」

 無意識に甘えておねだり?!
 私、そんな高等テクやってましたっけ?!

 って言うかモニカ、食いつき過ぎ!

「火傷をしたミチルちゃんをルシアン様が例の如く甘やかしたじゃない? 書斎に戻ろうしたルシアン様を引き止めようとして我に返って、我慢して、早く戻るように仕向けたのはなかなか良かったわ」

「まぁ……っ! なんて可愛らしい……!」

 あれ……二人っきりだったように記憶してるんですけど……何故ご存知なのカナ……。

 良くない汗がダラダラ流れる。

「ミチルもやりますわね」

 なんの話?!
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