前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた

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第三章 ダンジョンメーカーのお仕事

038-2

 手慣れてきました、と笑顔で言うティール様の手には術符がある。

「昨夜完成させた術符です。先にこちらの裏庭に貼り、もう片方を廃棄物処理場に貼り付ければ、フルールの元に大量の食料が届きます!」

 隣に立つラズロさんから怒りめいたものを感じて見上げると、笑顔なんだけど怒ってた。
 その笑顔のままティール様の肩を掴むと、「幼馴染みとして、ちょっとお話がしたいなー」と、低い声で言うものだから、ティール様の笑顔が固まった。

「ちょっと顔貸してくれる?」

 引きずられるようにしてティール様はラズロさんと裏手に消えて、僕からは見えなくなった。

「何にラズロさんはあんなに怒ってるんだろう? パフィ、分かる?」

 腕の中にいるパフィが、呆れたように半眼になって、息を吐いた。

『物事が解決する事だけに集中して、他者からどう見えるかを失念した研究馬鹿と、おまえの気持ちを考えて怒ってるラズロ、といったところだな』

 僕の気持ち?

『分かっていないのならそのままで良いぞ。
あぁ、フルールが廃棄物を摂食するのはおまえが寝てる時にしておくと良い』

「うん、分かった」

 パフィの言葉でうっすら分かりかけたんだけど、考えない方が良さそうだとなんとなく思って、そこで止めておいた。



 フルールの食料が運ばれる場所は、ダンジョンの中に決まった。その方が良いとラズロさんとパフィに言われたので、そうする。
 第一層にほどほどの、小部屋みたいな空間を作った。その一番奥の壁にティール様からもらった術符を貼る。
 小部屋には扉のようなものを付けて、フルールしか通れないようにしておく。

「フルール、僕が眠っている時、ここに来て好きなだけ食べて良いからね。朝になったら戻って来てね」

 足元でダンジョンの草を食べていたフルールは立ち上がって、小部屋を見て耳をぴょこぴょこさせた。どうやら理解してくれたみたい。

「では、私はこの術符を廃棄物処理場に設置してきます!」

 ラズロさんに怒られたみたいだったけど、ティール様は研究が大好きだからか、勢いを取り戻していた。強い。
 僕たちの反応も待たずにダンジョンを出て行くティール様と、それを追い掛けるナインさん。

「ったく……ナインをもっとしっかりさせて、アレを制御してもらう必要があるな……」

『そうだな』

 呆れたような口調のラズロさんとパフィに思わず苦笑いしてしまう。

 ラズロさんの後についてダンジョンを出ようとしたところ、ジャッロたちが僕の前まで飛んできた。

「どうしたの?」

 蜂たちはそのまま木箱に飛んで行く。

「……あ、忘れてた」

『回収して売り出すが良い』

 はい、そうします。

「じゃあ、金ダライと新しい木枠取ってくるわ」

 ジャッロたち用の巣箱に入れる木枠は、城の兵士さんが作ってくれてる。僕が交換したら、また木枠を暇を見て作って、置いといてくれることになってる。

『この前おまえが売りに出したダンジョン蜂の蜜は、東の国を経由して北の国に売れたそうだ』

「へぇ」

 王都ではないんだね。

『あれはな、魔法を使うものにとって、増強剤になるのだぞ?』

 ニヤニヤと笑うパフィ。

「北の国にはポーションとかはないの?」

『魔術師を嫌う国が、魔法薬学を好ましく思うか?』

「……なるほど」

 魔法至上主義の北の国では魔術師は酷い仕打ちを受ける。魔法の力を薬で再現したり、魔力の補助をする魔法薬学のスキルを持っている人たちは、いるだろうけど、あまり良い扱いは受けてないかも知れない。

「どうして他のスキルを持つ人たちにそんなに冷たく出来るんだろう」

『決まってるだろう』

 決まってる?

『自分たちが優れている、万能であると奢っているのだ。
だがな、奴らの意識の根底にあるのは、畏怖だ』

「いふ?」

『自分達の立場を、存在を脅かす者が怖いのだ。だからこそ、それらが力を持つ前に弾圧する。そうやって己を守る』

「……ちょっと、分からない」

『それで良い。そうして守ったところでな、いずれ内側から腐り落ちるものだ』

 外の世界を知らない僕に、パフィはたくさんのことを教えてくれる。
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