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第壱帖・白藤の情念
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清水家の松子刀自に会える日が4日後。下手をすると、茉莉も一緒に話を聞くと言いだしかねない。容易に察することができるだけに、馨は尚のこと深い溜息を吐いた。松子刀自に会うまでに、自分でも調べてみようと馨は旧村役場に赴き、郷土史を当たったが書物の類には一切残っていなかった。フロントマンが言ったように、村内で口伝のみで伝わっているのだろう。ある程度その口伝の裏付けを書物によって取りたかったのだが。清水家の刀自から出来るだけ詳しく聞き取り、何かヒントを得られたら、御の字だ。
夕食は自室で摂るが、朝食はバイキングも選べるのでレストランへと赴く。朝はどちらかと言えばパン派の馨は、サラダやスクランブルエッグ、スープにクロワッサン、フルーツヨーグルトにコーヒーといった洋風朝食を選び席に着く。観光シーズンから外れているせいか客はあまりいないが、それでも何組か朝食を選んでおり、彼らの大半が和食だった。ふわりと漂う味噌汁の美味そうな匂いに、明日は和食にしてみるかなと心の中で呟いたとき。
「久遠さん、おはようございます」
聞き覚えのある涼やかな声と印象的な微笑みが視界に入り、馨のまだ微かに残っていた眠気を完全に吹き飛ばしてしまった。
「い、池園さん? いつこちらに」
「先代様が予約を取ってくださったので、昨夜の8時頃こちらに投宿いたしましたの」
馨の脳裏に母親が勝ち誇ったように笑う顔が浮かび、思いがけず脱力した。がっくりと落ち込む彼の姿を気にも留めず、こちらよろしいでしょうかと相席を求めてきた。断る口実など見付からないので、どうぞと勧めれば彼女は向かいの席に座る。彼女は和食を選んでおり、湯気の立つ御飯に味噌汁、だし巻き卵とほうれん草のお浸し、鰆の西京焼きがテーブルの上に並べられた。美女と向かい合って食事などしたことがない馨は、挙動不審にならぬよう気を遣いながら食事を摂る。およそ味など判らないまま朝食を終えると、茉莉が目を輝かせて問うてきた。
「先代様から聞きました。もう手掛かりを掴んだそうですね?」
あーのーひーとーはー! と内心で怒りの声を上げつつ、口の端だけを無理に上げると「耳が早いですね」と皮肉気味に返す。
「私も、お話を聞きに行っても宜しいでしょうか?」
身を乗り出さんばかりに問う。問いかけの形を取ってはいるが、付いていきますよと目が完全に訴えている。困ったなと思いつつ、馨は脳裏に母の言葉を思い起こしていた。
『いいこと馨さん。依頼人の中には強引に、興味本位で首を突っ込んでくる方も居ます。その方達のプライドを傷つけず且つ、丁重にお引き取り頂くのも当主としての務めです。決して迷惑だと言ったり、顔に出してはいけませんよ。後々まで上得意になるか否か、分かれ道ですからね』
早い話が、人あしらいの術を身に付けろということだ。
母もそうだが歴代の当主は、こういった向こう見ずな依頼人に幾度となく無理難題を突きつけられつつも、角を立てずに依頼をこなしてきた。まさか初仕事でいきなり厄介な依頼人にぶち当たるとは……と、内心で溜息を吐きつつも、まぁ話を聞くだけなら良いか、と馨は安易に思ってしまった。
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「久遠さん、おはようございます」
聞き覚えのある涼やかな声と印象的な微笑みが視界に入り、馨のまだ微かに残っていた眠気を完全に吹き飛ばしてしまった。
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「先代様から聞きました。もう手掛かりを掴んだそうですね?」
あーのーひーとーはー! と内心で怒りの声を上げつつ、口の端だけを無理に上げると「耳が早いですね」と皮肉気味に返す。
「私も、お話を聞きに行っても宜しいでしょうか?」
身を乗り出さんばかりに問う。問いかけの形を取ってはいるが、付いていきますよと目が完全に訴えている。困ったなと思いつつ、馨は脳裏に母の言葉を思い起こしていた。
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