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第壱帖・白藤の情念
幕間 白藤の伝説・1
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今は昔、この国が数多の武将たちによって戦が繰り返されていた時代。
戦国時代と呼ばれるその時代に、宗教を旗頭として農民たちは全国各地で蜂起した。
一向一揆。それは全国各地で猛威を振るい戦国大名たちは、領土内で勃発する一向宗の一揆に頭を悩ませていた。ここ、大野の村々も若者を中心に一揆に参加しようという気運が高まっていた。
「太郎兵衛、おまえの嫁が決まった。隣村のお琴さんだ。春になって暖かくなったら、祝言をあげる。いいな」
太郎兵衛はこの年、18にになった。この村の庄屋(名主)の長男に産まれ、嫁は隣村の庄屋の娘を貰うことを、父親から告げられた。息子の返事がないことを訝しんだ父親は、「聞いているのか、おまえは」と声を荒げた。
「聞いてる。だけど、俺はまだ嫁を貰うには早すぎないか?」
「何が早いことがある。おまえはもう、18だぞ。わしが18のときには、おまえがいたぞ。遅いくらいだ」
時代は群雄割拠の戦国時代。
ここは越前国で朝倉氏が治めていた。最近朝倉家は滅び代わりに織田氏が、この越前国を治めようと、躍起になっていた。庄屋を代々務めている太郎兵衛の家は、隣村から釣り合いの取れる家の娘を嫁に迎えようと話し合いをして、話がまとまったところだ。
相手の娘、琴は16歳。親同士が決めた縁談をこの時代、断れるはずがない。気が進まない太郎兵衛ではあったが、いずれは嫁を迎えねばならない。まだ幼い弟が二人いるが、長男の務めを果たさねばならなかった。この縁談を父親から聞いたひと月後、太郎兵衛と琴の祝言が挙げられた。村1番の美人と評判の琴は緊張に頬を染めており、婿となる太郎兵衛も妻となる琴の初々しい美しさに魅了されていた。
季節は春。田植えが本格化する前に琴は嫁入りし、2人は仲睦まじく暮らし始めた。だが相次ぐ戦乱と天候のせいで土地が荒れ作物は育たず、農民は食うに困る。それでも武家は戦のために兵糧と男手を徴収し、不平不満はどんどん高まる。村の若い衆は血気に逸り、一向一揆へと身を投じていく。祝言を挙げてふた月が経った、五月のある日。日照り続きで稲が枯れてしまい、今年の米は不作となることが判った時点で、太郎兵衛は両親と新妻を残し一揆へ参加した。
「お琴、必ず戻るから待っていろ」
村はずれにひっそりと咲く藤の蔓に巻き付かれた大木の下で、太郎兵衛はそう約束した。彼女も涙をこらえて、村の若い衆と共に行く後ろ姿を見送る。薄紫色の花房を垂らした藤もまた、村を出て行く男衆を見送るかのように哀しげに風に揺られていた。
夏が過ぎ秋が来て冬がやって来ても男衆は、戻ってこなかった。お琴は農作業の合間を見ては村はずれの藤まで様子を見に行くが、誰も帰ってこない。
この頃はまだ村の誰もが帰りを待つように藤の傍へ行ったが、冬が来るとお琴以外は誰も近付かなくなった。
戦国時代と呼ばれるその時代に、宗教を旗頭として農民たちは全国各地で蜂起した。
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「お琴、必ず戻るから待っていろ」
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夏が過ぎ秋が来て冬がやって来ても男衆は、戻ってこなかった。お琴は農作業の合間を見ては村はずれの藤まで様子を見に行くが、誰も帰ってこない。
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