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第壱帖・白藤の情念
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松子刀自の長い語りが終わると、馨は思わず深い息を吐いた。茉莉は身体を動かそうとして、妙に強張っていることに気付く。500年以上も昔の話だというのに妙に生々しく、今も琴という少女の霊があの白藤に取り憑いているのかと思うと、薄ら寒い。馨は自宅で霊視した白藤は、間違いなくこの伝説の物だと確信した。そして行方知れずになった新藤亘は、この太郎兵衛という男の生まれ変わりであることも。
偶然に九頭竜ダム湖畔に来た亘の魂が、待ち焦がれた夫・太郎兵衛の魂と同じだと確信した琴が、白藤まで誘導し隠してしまった。これほど長い年月、樹木に宿り地縛霊と化している相手は厄介だなと、内心で舌打ちをする。
地縛霊は自分が悪霊化しているという自覚がない。太郎兵衛の魂が自分の元にやって来たとはいえ、これほど時が経ちすぎていると妙な執着心を持ち、亘を返さない可能性が高い。現に何処を探しても亘の目撃情報がないのは、どこかに隠しているのではないかと推測した。
(まずいな。時間が経てば経つほど、新藤さんも悪霊と化してしまう)
霊は霊を呼び、地縛霊となり悪霊化する。それがいくつも集まると、邪気の塊になる。よく心霊スポットだのといわれる場所に現れる霊は、そうやって引き寄せられたモノたちの集合体だ。馨たちは松子刀自をはじめとする清水家の皆に礼を述べ、ホテルに戻った。
茉莉はすぐにでも九頭竜湖ダム湖畔へ向かいたいと主張したが、清水家で思いがけず長居し陽はかなり西へ傾いている。俗に言う逢魔が刻という時間帯から夜は、悪しきモノたちが闊歩する時間帯。一番彼らの力が強くなる時間帯に、わざわざ探しに行っても馨はともかく茉莉は悪しきモノたちに取り憑かれてしまう。そう説得して何とか納得させると、大浴場でゆっくりと疲れを癒やした。
食事は全て自室で摂ることが出来るのが、有り難かった。これが普通のホテルだったら、茉莉に捕まって一緒に夕食という羽目になっただろう。美人との相伴は普段ならば否やはないが、依頼人とは食事をする気になれない。ましてや、あんな話を聞いた後では尚更だ。
(できれば単独行動をしたいけれど、付いていくって言うんだろうな)
周囲の反対を押し切って、こちらに来た茉莉だ。黙って宿で待つようならば、最初から名古屋で大人しく調査結果を待つだろう。うんざりしながらも、仲居がお膳を全て下げ終えた後に、コップに水を満たして簡易の水鏡を造る。式神の小萩の力を借り、母の式神である桔梗と交信し自宅にある大きな水鏡とこの簡易水鏡を繋いでもらう。
『どうしたの、何だか疲れ切っている顔をしているわね』
映し出された母の顔が、妙に上機嫌に見えた。こんな表情をするということは。
「父さんが帰ってきたんですね」
いつもならものすごい剣幕で怒鳴られるのに、それがない。代わりに少女のように頬をぽっと染めた母が、口元を袂で隠して、はにかんだ。
『そうなの! ついさっき帰ってきてね、今はお風呂なの』
相変わらず仲の良い夫婦だ。こっちは首を突っ込みたがる依頼人にうんざりしているというのに、いい気なものだとつい内心で毒づく。
「そうですか、それは良かったですね」
棒読みになっていることを自覚しつつも、馨は取り敢えずそう言った。こうやって機嫌を取っておかないと、良いアドバイスを貰えないのだ。
『で? 連絡してきたってことは、何か進展でもあったの?』
伊達につい最近まで当主を務めていたわけではない。退魔師としての顔つきになると、息子の目を水鏡越しに真っ直ぐ見据えてきた。
馨は清水家で聞いた伝説のことを余すことなく語り、新藤亘の行方が知れないのは、その悪霊に囚われているからではないかという推論を述べた。
偶然に九頭竜ダム湖畔に来た亘の魂が、待ち焦がれた夫・太郎兵衛の魂と同じだと確信した琴が、白藤まで誘導し隠してしまった。これほど長い年月、樹木に宿り地縛霊と化している相手は厄介だなと、内心で舌打ちをする。
地縛霊は自分が悪霊化しているという自覚がない。太郎兵衛の魂が自分の元にやって来たとはいえ、これほど時が経ちすぎていると妙な執着心を持ち、亘を返さない可能性が高い。現に何処を探しても亘の目撃情報がないのは、どこかに隠しているのではないかと推測した。
(まずいな。時間が経てば経つほど、新藤さんも悪霊と化してしまう)
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茉莉はすぐにでも九頭竜湖ダム湖畔へ向かいたいと主張したが、清水家で思いがけず長居し陽はかなり西へ傾いている。俗に言う逢魔が刻という時間帯から夜は、悪しきモノたちが闊歩する時間帯。一番彼らの力が強くなる時間帯に、わざわざ探しに行っても馨はともかく茉莉は悪しきモノたちに取り憑かれてしまう。そう説得して何とか納得させると、大浴場でゆっくりと疲れを癒やした。
食事は全て自室で摂ることが出来るのが、有り難かった。これが普通のホテルだったら、茉莉に捕まって一緒に夕食という羽目になっただろう。美人との相伴は普段ならば否やはないが、依頼人とは食事をする気になれない。ましてや、あんな話を聞いた後では尚更だ。
(できれば単独行動をしたいけれど、付いていくって言うんだろうな)
周囲の反対を押し切って、こちらに来た茉莉だ。黙って宿で待つようならば、最初から名古屋で大人しく調査結果を待つだろう。うんざりしながらも、仲居がお膳を全て下げ終えた後に、コップに水を満たして簡易の水鏡を造る。式神の小萩の力を借り、母の式神である桔梗と交信し自宅にある大きな水鏡とこの簡易水鏡を繋いでもらう。
『どうしたの、何だか疲れ切っている顔をしているわね』
映し出された母の顔が、妙に上機嫌に見えた。こんな表情をするということは。
「父さんが帰ってきたんですね」
いつもならものすごい剣幕で怒鳴られるのに、それがない。代わりに少女のように頬をぽっと染めた母が、口元を袂で隠して、はにかんだ。
『そうなの! ついさっき帰ってきてね、今はお風呂なの』
相変わらず仲の良い夫婦だ。こっちは首を突っ込みたがる依頼人にうんざりしているというのに、いい気なものだとつい内心で毒づく。
「そうですか、それは良かったですね」
棒読みになっていることを自覚しつつも、馨は取り敢えずそう言った。こうやって機嫌を取っておかないと、良いアドバイスを貰えないのだ。
『で? 連絡してきたってことは、何か進展でもあったの?』
伊達につい最近まで当主を務めていたわけではない。退魔師としての顔つきになると、息子の目を水鏡越しに真っ直ぐ見据えてきた。
馨は清水家で聞いた伝説のことを余すことなく語り、新藤亘の行方が知れないのは、その悪霊に囚われているからではないかという推論を述べた。
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