退魔師・久遠馨の心霊事件帖

三田村優希

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第弐帖・デッサン

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 高校の制服を着た、清楚な雰囲気の少女が微笑みを浮かべて写っている。好みはあるだろうが、街行く男たちがチラ見すること間違いなしな、美少女ぶりだ。釣り書きに書かれている学校名は知らないが、幼稚舎から現在までずっと女子校に通っていることが判った。

「素敵なお嬢さんでしょう? 実際はもっと愛らしいのよ」

 ウキウキとした声で母は言うが、生憎とへそ曲がりな馨は、ふーんと興味なさげな返事と共に写真を放り投げる。こっそりと佳奈の写真を盗み見ていることくらい、母にはお見通しだったが。

「で? この円城寺さんがどうかされたんですか?」
「学校で奇妙な事件に巻き込まれたみたいなの。それであちらのご隠居が、直々に依頼されてきたのよ」
「事件なら警察へどうぞ」

 家督を継いで初めての依頼も、警察で本来ならば処理される筈の事件だったが結局、背後に悪霊が絡んでいた。今回も、まさかそのパターンかなと、馨の背に嫌な汗が流れる。

「事件といっても心霊絡みに決まってるじゃないの。今週末に京都から、顔合わせも兼ねていらっしゃるから。うふふ、楽しみだわぁ」

 依頼が来たことが楽しみなのか、未来の嫁が来るのが楽しみなのか、母の心中は計れない。ひとつだけ言えることは、馨の胸中は複雑だということだ。

「京都の円城寺家とは古いお付き合いですから、粗相のないようにお願いしますね馨さん」
「我が家には古い付き合いしかないでしょうが」

 愛知の池園家、京都の円城寺家。その他にも奈良県の美作みまさか家や長野県の名胡桃なくるみ家など、全国にある。1番古い付き合いとなると、応仁の乱の頃というのだから、久遠家の歴史も相当なものだ。

 「円城寺家とは明治になってからのお付き合いですけど、あちらは宮大工の家系です。とても腕のいい職人さんたちで、佳奈さんが誕生されたとき両家の話し合いで是非、馨さんの許嫁にとなりましてね」

 当時まだ5歳の馨と、誕生したばかりの嬰児みどりごとの婚約。時代錯誤も甚だしいが、久遠家は政財界の要人の悪霊を祓い、浄霊することを生業とする一家。家督を継いだ時点で本名を隠し、男は馨の文字を、女は薫の文字を使うが同じ『かおる』という名跡を当主は受け継いでいく。

 現当主も今年の春に家を嗣いだ。同時に本名を捨て、親からも馨と呼ばれる生活が始まった。1度当主となった者は生涯、本名を名乗れないので母の薫も先代様などと呼ばれている。入り婿である馨の父親ですら、妻の本名を知らない。何とも奇妙な家系だが、真名を知られることは術者にとっては致命的なミスとなる。例え家族であろうと、徹底的に真名を明かすことは許されないのだ。従って婚姻は、当主となって本名を隠してからになる。

「どのようなトラブルに巻き込まれたのか、母さんはご存知なのですか?」
「薫さんと呼べと言ってるでしょう? もしくはお姉さまと」

 50を過ぎた美魔女という痛々しい若作りの権化のくせに、何を厚かましいことを言っているんだと、決して口には出せない文句を内心では声高に叫ぶ。馨が思春期になったころから始まったこのやり取りは、これからも繰り返されるのだろう。諦めたように息を吐き、母は首を横に振った。
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