3 / 93
1章
2
しおりを挟む
3ヶ月まじめに過ごした結果訓練や勉強をする姿を珍獣のように見る視線はだいぶなくなった。使用人や侍女にも出来るだけ笑顔で話しかけ、お菓子という名の賄賂を配り過ごすことを心がけていたら怯えられる事もなくなり、少しだけだが会話をする事も出来るようになった。
穏やかな日々を過ごしていたが、相変わらず魔法は使えなかった。元々出来ていた、わずかに水を生み出す魔法すら使えなくなっていた事にカタリーナはショックを受けていたが両親は気にする様子はなかった。
それ以上に勉強に真面目に取り組むようになった事を涙ながらに喜んでいる。5歳とはいえ、今までのカタリーナの行動はやはり目に余るものがあったようだ。
魔術教師からは「高熱を出した影響で一時的に魔力が使えなくなるのはよくある事」と説明をうけたため、それ以上は何もいうことが出来なくなったカタリーナは座学を中心に学ぶようになった。
平和な毎日が過ぎ、あっという間に熱で倒れてから一年が経ったが、相変わらず魔法を使う事は出来なかった。その頃になると魔術教師も「おかしい」と思い始めたようで、両親へ時折神殿に魔力検査をするために声をかけるようになっていた。ただ、両親は「健康ならそれで良い」と話し、それほど魔力について気にしている様子はなかった。
この一年で大きく変わった事と言えば、使用人との関係がだいぶ良くなった事だろう。短時間ではあるが使用人とも笑って会話ができるようになった。
そんな6歳の誕生日、事件は起きた。母が階段から落ちたのだ。付き添ってた侍女の悲鳴が屋敷中に響き渡った。カタリーナが悲鳴と大きな音に驚き現場まで行くと階段下で意識のない母が頭から血を流し倒れているのが目に入った。
「お母様!!」
頭から流れ続ける血を見ながら目の前が真っ白になっていく。
「今主治医が参りますのでご安心ください。お嬢様はお部屋でお待ちください。」
家令が使用人たちに指示を出しながらカタリーナにも声をかけるが、その声はカタリーナには届かない。
誰の声も届かず、母以外の人も見えない。流れ続ける血を見ると前世の自分が事故死だった事を思い出した。
5歳の息子と一緒の買い物帰り、歩道に突っ込んで来たトラックから庇うように息子を突き飛ばしたが、倒れた先で頭をぶつけ息子は頭から血を流した。ピクリとも動かない息子に手を伸ばそうとするが動けない自分の体。頭から血を流す現在の母と前世の息子の姿が重なった。そこからのカタリーナ無意識だった。一瞬春風のような暖かく優しい風が辺りを包み込むと倒れた母とカタリーナの周りに優しい光の玉が集まっていった。その光の球は母の体の中に少しずつ入り込んでいく。いつの間にかしんとした屋敷の中で誰かが息をのむ音が聞こえる。5分か10分か分からない間、その神々しくもどこか優しい様子から誰もが目を話すことが出来ないでいた。母の頭から流れ続けていた血が止まっていく。 青白くなり弛緩仕切っていた母の顔と体に赤みがさしていく。母の瞼がピクリと動きゆっくりと開いた瞼から母の青い瞳が現れた。カタリーナはそれを確認すると口元に笑みを浮かべそのまま意識を失った。そこで意識を失ったカタリーナは周囲の人達が「聖女様」と呟く声を聞くことはなかった。
次にカタリーナが目覚めたのは広い広い天蓋付きのベッドの上だった。
「デジャヴ」
思わず言葉が漏れるとそばにいた母が抱きついてきた。前回と同じ様に涙で目を真っ赤にし、目元も腫れている。既視感が拭えない状況にバタバタと慌ただしく廊下を走る音がする。同じ様に蝶番が外れんばかりの勢いで扉が開くとそこから現れたのは少し髪を乱れさせ額に汗を滲ませた父の姿だった。続く既視感に苦笑いが生まれた。王宮に妻が倒れた事、その治療を行った娘も倒れた事が伝えられたらしい。主治医に状態を確認している父を安心させるべく起き上がろうとするが起き上がれない。指は動かせるが腕は動かない。1年前に病から回復した際もここまでではなかったのにどういう事なのだろうとカタリーナは首を捻る。
「お父様、お母様、心配をおかけしました?お父様もお仕事はよろしいのですか?」現状が、上手く把握できず思わず疑問形になりながら、目線を父と母に向ける。王政に関わる仕事をしているのは知っていたが宰相の地位にあることを知ったのは最近だ。そんな父がいくら最愛の妻と娘が倒れたからといってすぐに自宅に戻ってこれるとは思えない。やんわりと仕事に戻ることを勧めてみるがその様子は見られない。
医師の話によると今回カタリーナが倒れた原因は魔力の使いすぎという事だった。しかし、カタリーナは魔法を使った記憶はない。最後の記憶に残っていたのは母が階段から落ちて倒れている姿だ。
「お母様!!」
慌てて母の顔に手を伸ばそうとするが、やはりその手は上手く動かない。察した母が顔を近づけてくる。包帯や絆創膏など、明らかに傷を覆っているような物は見られない。
「お傷は・・・」
あれ程出血していたのに、傷を保護しているものがないのはおかしな話であり、そのまま疑問が口からこぼれる。
「あなたが治してくれたのよ」
母はそう話すと、そのまま涙を流した。
穏やかな日々を過ごしていたが、相変わらず魔法は使えなかった。元々出来ていた、わずかに水を生み出す魔法すら使えなくなっていた事にカタリーナはショックを受けていたが両親は気にする様子はなかった。
それ以上に勉強に真面目に取り組むようになった事を涙ながらに喜んでいる。5歳とはいえ、今までのカタリーナの行動はやはり目に余るものがあったようだ。
魔術教師からは「高熱を出した影響で一時的に魔力が使えなくなるのはよくある事」と説明をうけたため、それ以上は何もいうことが出来なくなったカタリーナは座学を中心に学ぶようになった。
平和な毎日が過ぎ、あっという間に熱で倒れてから一年が経ったが、相変わらず魔法を使う事は出来なかった。その頃になると魔術教師も「おかしい」と思い始めたようで、両親へ時折神殿に魔力検査をするために声をかけるようになっていた。ただ、両親は「健康ならそれで良い」と話し、それほど魔力について気にしている様子はなかった。
この一年で大きく変わった事と言えば、使用人との関係がだいぶ良くなった事だろう。短時間ではあるが使用人とも笑って会話ができるようになった。
そんな6歳の誕生日、事件は起きた。母が階段から落ちたのだ。付き添ってた侍女の悲鳴が屋敷中に響き渡った。カタリーナが悲鳴と大きな音に驚き現場まで行くと階段下で意識のない母が頭から血を流し倒れているのが目に入った。
「お母様!!」
頭から流れ続ける血を見ながら目の前が真っ白になっていく。
「今主治医が参りますのでご安心ください。お嬢様はお部屋でお待ちください。」
家令が使用人たちに指示を出しながらカタリーナにも声をかけるが、その声はカタリーナには届かない。
誰の声も届かず、母以外の人も見えない。流れ続ける血を見ると前世の自分が事故死だった事を思い出した。
5歳の息子と一緒の買い物帰り、歩道に突っ込んで来たトラックから庇うように息子を突き飛ばしたが、倒れた先で頭をぶつけ息子は頭から血を流した。ピクリとも動かない息子に手を伸ばそうとするが動けない自分の体。頭から血を流す現在の母と前世の息子の姿が重なった。そこからのカタリーナ無意識だった。一瞬春風のような暖かく優しい風が辺りを包み込むと倒れた母とカタリーナの周りに優しい光の玉が集まっていった。その光の球は母の体の中に少しずつ入り込んでいく。いつの間にかしんとした屋敷の中で誰かが息をのむ音が聞こえる。5分か10分か分からない間、その神々しくもどこか優しい様子から誰もが目を話すことが出来ないでいた。母の頭から流れ続けていた血が止まっていく。 青白くなり弛緩仕切っていた母の顔と体に赤みがさしていく。母の瞼がピクリと動きゆっくりと開いた瞼から母の青い瞳が現れた。カタリーナはそれを確認すると口元に笑みを浮かべそのまま意識を失った。そこで意識を失ったカタリーナは周囲の人達が「聖女様」と呟く声を聞くことはなかった。
次にカタリーナが目覚めたのは広い広い天蓋付きのベッドの上だった。
「デジャヴ」
思わず言葉が漏れるとそばにいた母が抱きついてきた。前回と同じ様に涙で目を真っ赤にし、目元も腫れている。既視感が拭えない状況にバタバタと慌ただしく廊下を走る音がする。同じ様に蝶番が外れんばかりの勢いで扉が開くとそこから現れたのは少し髪を乱れさせ額に汗を滲ませた父の姿だった。続く既視感に苦笑いが生まれた。王宮に妻が倒れた事、その治療を行った娘も倒れた事が伝えられたらしい。主治医に状態を確認している父を安心させるべく起き上がろうとするが起き上がれない。指は動かせるが腕は動かない。1年前に病から回復した際もここまでではなかったのにどういう事なのだろうとカタリーナは首を捻る。
「お父様、お母様、心配をおかけしました?お父様もお仕事はよろしいのですか?」現状が、上手く把握できず思わず疑問形になりながら、目線を父と母に向ける。王政に関わる仕事をしているのは知っていたが宰相の地位にあることを知ったのは最近だ。そんな父がいくら最愛の妻と娘が倒れたからといってすぐに自宅に戻ってこれるとは思えない。やんわりと仕事に戻ることを勧めてみるがその様子は見られない。
医師の話によると今回カタリーナが倒れた原因は魔力の使いすぎという事だった。しかし、カタリーナは魔法を使った記憶はない。最後の記憶に残っていたのは母が階段から落ちて倒れている姿だ。
「お母様!!」
慌てて母の顔に手を伸ばそうとするが、やはりその手は上手く動かない。察した母が顔を近づけてくる。包帯や絆創膏など、明らかに傷を覆っているような物は見られない。
「お傷は・・・」
あれ程出血していたのに、傷を保護しているものがないのはおかしな話であり、そのまま疑問が口からこぼれる。
「あなたが治してくれたのよ」
母はそう話すと、そのまま涙を流した。
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
最愛の聖騎士公爵が私を殺そうとした理由
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
マリアンヌ・ラヴァルは伯爵家の長女として、聖女の血を引いていた。女当主である母が行方不明になってから父と継母とエグマリーヌ国王家の思惑によって、エドワード王子と婚姻を迫られつつあった。それを救ってくれたのは母の祖国にいた本来の婚約者であり、聖騎士団長のミシェルだった。
マリアンヌは愛しい人との再会に安堵するも、ミシェルに刺されてしまう。
「マリー、──、──!」
(貴方が私を手にかけたのに……どうして……そんな……声を……)
死の淵で焦る愛しい人の声が響く中、気づけば死ぬ数日前に戻ってきて──。
※旧タイトル:私を愛していると口にしながらアナタは刃を振りおろす~虐げられ令嬢×呪われた伯爵~の大幅リメイク版のお話です(現在全て非公開)
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
生まれ変わり令嬢は、初恋相手への心残りを晴らします(と意気込んだのはいいものの、何やら先行き不穏です!?)
夕香里
恋愛
無実の罪をあえて被り、処刑されたイザベル。目を開けると産まれたての赤子になっていた。
どうやら処刑された後、同じ国の伯爵家にテレーゼと名付けられて生まれたらしい。
(よく分からないけれど、こうなったら前世の心残りを解消しましょう!)
そう思い、想い人──ユリウスの情報を集め始めると、何やら耳を疑うような噂ばかり入ってくる。
(冷酷無慈悲、血に飢えた皇帝、皇位簒だ──父帝殺害!? えっ、あの優しかったユースが……?)
記憶と真反対の噂に戸惑いながら、17歳になったテレーゼは彼に会うため皇宮の侍女に志願した。
だが、そこにいた彼は17年前と変わらない美貌を除いて過去の面影が一切無くなっていて──?
「はっ戯言を述べるのはいい加減にしろ。……臣下は狂帝だと噂するのに」
「そんなことありません。誰が何を言おうと、わたしはユリウス陛下がお優しい方だと知っています」
徐々に何者なのか疑われているのを知らぬまま、テレーゼとなったイザベルは、過去に囚われ続け、止まってしまった針を動かしていく。
これは悲恋に終わったはずの恋がもう一度、結ばれるまでの話。
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。
サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる