私が聖女になった時(旧:聖女の国)

海栗

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1章

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「ファビウス公爵家当主アランと娘のカタリーナです。本日はこのような機会をいただき至極光栄にございます。」
父が挨拶を行なった後、私はカーテシーを行い挨拶を行う。和やかに会話をしている中お互いの息子達の話になった。お互いが、自分の息子自慢をを繰り返し辞める様子はない。私が何のために呼ばれたのかわからず完全な傍観者と化している時国王が爆弾を落とす。
「カタリーナ嬢を息子エヴァトリスの婚約者候補にすることにしたよ」
カタリーナの目を見て、優しく微笑みながら話す言葉にカタリーナの頭の中は真っ白になった。
「他家にはカタリーナが12歳になるまで婚約者は決めないと申しております。それに皇子はまだ産まれたばかり。王子とのの相性もございますし、王族の通例通り7歳で年近い婚約者を決めるほうが良いかと思います。」
父の訴えは最もだ。
「だから、候補なのだ。正式な婚約者とするのはエヴァトリスが7歳になった時にするつもりだ。」
「しかし・・・」
食い下がる父の袖を掴み首を振る。ここは人払いされている場ではない。王家と娘の婚姻に意を唱える事は良くて不敬、謀反の意思があると思われても仕方のない事だ。父も冷静になったのだろう。悔しそうな顔をしながら
「お話しお受けいたします」
とだけ返事をしたのだった。
「ありがとう。だが、話に聞いた以上に聡い子だな。カタリーナ嬢もよろしく頼む。」
いつも優しそうに微笑む国王は、その時ばかりは、眉を潜め少しだけ悲しそうな笑みを浮かべていたが、カタリーナはその思いを推し量ることは出来なかった。

帰りの馬車は無言だった。屋敷では、母が心配そうに待っており帰ってすぐに何の話だったのか聞かれた。
父は悔しそうに
「カタリーナがエヴァトリス王子の婚約者候補となった。すまない。だが、まだ候補段階であり、本格的な婚姻を結ぶまでに7年もあるから・・・」
父も母も揃って視線を下ろす。そんな父と母の姿は見てられなかった。
「お父様、お母様心配して下さりありがとうございます。私の幸せのため国王様に歯向かうような事を言わせてしまい申し訳ありませんでした。でも、カタリーナはとてもうれしかったです。ですが幼いながら私も貴族の一員。覚悟はできています。父としてあのように言って下さいましたが国の宰相としてはどうですか?反対されますか?」
こんな物言いする8歳児は嫌だと思いながらも父に問いかける。
「我が娘でなければ、私自らこの話を国王にしていたかもしれない。他家に嫁いだ場合カタリーナを持ち上げて謀反を考える者がでないとは限らない。他国に嫁いだとしても聖女の国としてまかり通ってきたこの国を、聖女がいると言うことを理由に吸収しにくる可能性もある。それよりは国母としての地位を得た方が国の安定につながるだろう。カタリーナ・・・本当に申し訳ない。」
父の表情は暗いが、話の内容は概ね予想通りだった。
「教えてくださりありがとうございます。婚約者候補として恥ずかしくない行動に勤めたいと思います。」
カタリーナはめんどくさがりではあるが諦めも早いのだ。無駄な事はせず長いものに巻かれて生きる事に決めた。

婚約者候補になり1ヶ月が過ぎた。候補としての発表はまだないが、まずは顔合わせを行おうという話になった。顔合わせと言っても相手は0歳児だ。何をすれば良いんだ?と思ったのはカタリーナだけではないだろう。初めて対面した彼は豪華なベビーベッドの上でスヤスヤ寝ていた。

今世ロマンチックな出会いを期待したわけではない。だが釣書がたくさん届いた話を聞いた時は年頃になれば沢山の釣書の中から生涯の相手を選ぶのだと思っていた。燃え上がる恋はできないが、少しずつ互いに好きなものを知り信頼を築けたらと思っていた。しかし、ベビーベッドで眠る彼を見る限りそれはしばらく先の話になりそうだ。
初めての顔合わせ?から1~2ヶ月に1度のペースでエヴァトリス王子には会っている。会っていると言うよりは顔を見に行っていると言った方が良いかもしれない。声がかかると、一も二もなくイエスと答えてしまうのだ。原因は皇子の可愛らしさにあるのだろう。弟のルルーシュはシルバーブロンドの王道天使でエヴァトリス王子は黒髪でどこか影を感じてしまうような儚げ天使だ。ルルーシュももちろん可愛いのだが、エヴァトリス王子もとても可愛い。どちらか一人なんて選ぶことはできないのだ。その天使達がカタリーナを見て微笑む、抱っこをせがむように両腕をあげてくる。そんな誘惑に勝てるはずもなくもうメロメロだ。そして、この世界では王家以外では見る事が出来ない黒髪黒目は前世の息子の事も思い出し、切なさと懐かしさが込み上げる。結果、現状として抱いている感情は婚約者に向けるものではなく完全な親心だった。

穏やかに年月は経っていった。大きな病気もなくエヴァトリスは、すくすくとそだっている。5歳を超えた頃にはカタリーナが王城に向かうだけでく、エヴァトリスが公爵家に遊びにくることも増えた。ルルーシュやカタリーナと遊んだりお茶をして帰っていく。カタリーナはその度に笑顔のエヴァトリス王子に癒されていた。聡い子である王子は子ども特有の癇癪を起こすこともなく、姉のようにカタリーナを慕い後をついて歩く。そんな姿にカタリーナ含め、周りの者たちはいつも頬を緩ませていた。

エヴァトリスとカタリーナの関係は良好。良好であるがその関係は婚約者と言うより姉弟に近い。しかし、エヴァトリスは婚約者候補がカタリーナ以外いないまま、今年で7歳の誕生日を迎えることとなる。
「僕とエステルはこんやくしゃになるってお父様が言ってたよ。そしたら、ずっと一緒に居られるようになるんだって。嬉しいな」
ある日満遍の笑みで言われた言葉に少しどきりとした。数日前の王宮でのやり取りを思い出したのだ。
「そうですね」
と笑って返事をしたが少し引きつった顔になったのは仕方のない事だろう。カタリーナは表情の変化に気づかれないように顔を少し下げたため、その直後表情を消したエヴァトリスに気づくことはなかった。

数日前、父とともにカタリーナは王宮に呼ばれた。正式に婚約者として発表するための話を行うらしい。7年前の婚約者候補としての話し合いとは違い、王の執務室に呼ばれ人払いもされている。父を気遣っての事だろう。王宮に向かう馬車の中で父に「すまない」と言われた事を思い出す。この話はほぼ決まったものなのだろうが、こうやって話せる場を作ってくれた国王に優しさを感じる。国王、王妃、父、私の4人で始まった話しだが
「婚約を正式なものにしようと思う。7歳の誕生日パーティーで正式に発表を行い、今後カタリーナ嬢には王宮に通い王妃教育を受けてもらう。婚姻はエヴァトリスが18歳になり立太子する日に行うつもりだ。」
決定した内容に異を唱える者はいない。静かに話を聞く私に王は優しく問いかける。
「カタリーナ嬢、何か聞いておきたい事はないか?」
「失礼を承知で申し上げます。殿下と結婚する時私は25となります。貴族令嬢としては遅い結婚です。王妃の務めとして子孫を残す事も重要かと思いますが、難しくなる場合もあるかと。また、長い付き合いであることから殿下にそのような感情が生まれない可能性もございます。年頃になった時、自ら好意を寄せる相手ができた時私をよく思わないかもしれません。側室についてはどのようにお考えでしょうか」
完全に14歳がする質問ではないが、あやふやな状態で婚約、婚姻となって被害を受けるのはカタリーナ側であるため、ある程度はっきりさせておく必要がある。国王は一瞬目を見張ったがすぐに表情を取り戻した。
「カタリーナ嬢には申し訳ないが必要に応じて側妃は準備するつもりだ。だがその時は、正妃を立てることができる者を選ぶつもりだ」
「お答え頂きありがとうございます。であれば定期的に殿下と同年代の令嬢とのお茶会を開いて頂きたく思います。色々な者と交流する事は殿下の力となりますし、心惹かれる方との出会いの機会になるかもしれません。また、娘が側室に上がるかもしれないという期待があれば一部の貴族は抑えやすくなるでしょう」
カタリーナは淡々と話す。そう、これはエヴァトリスとカタリーナ個人の婚姻ではない。国家を安定させるための1つの政策なのだ。
「有難い言葉ではあるが、カタリーナ嬢は本当に良いのか?」
私は固く閉じていた口元を笑みに変える
「もちろんでございます。公爵家の娘として国に仕えることが出来る事嬉しく思っております」
この時カタリーナは『国に仕える』と言う言葉を使った。結婚を夢見ているはずの14歳の若い娘がだ。この結婚が幸せを結ぶためのものではなく必要な国政の1つである事を理解しての言葉だった。国に人生捧げる事を誓った者の言葉だった。同席していた者達はその高潔な想いを知ることになる
「本当に聡い子だ。ありがとう。カタリーナ嬢の志に感謝するよ」
そう話す国王はいつか見たように、眉を潜め少し悲しそうな笑みを浮かべていた。

婚約発表は予定通りエヴァトリスの誕生祝いとともに行われた。7歳のエヴァトリスと15歳のカタリーナでは身長差があり、エヴァトリスが上手くエスコートはできないため手をつないでの入場だった。幼いながらも、エスコートがしたかったエヴァトリスは少しだけ拗ねていたが、珍しく見る子どもらしい姿にカタリーナは微笑んでいた。
国王が望んだ婚約に対して正面から意を唱える者はいるはずがなく2人は温かく迎えられたのだった。
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