私が聖女になった時(旧:聖女の国)

海栗

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1章

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久しぶりに見た日本語は可愛らしい丸文字で書かれていた。一番最初のページに書かれていたのはたったの一言だけだった。
『帰りたい』
わずかであるが、涙のシミもあり、どうしようもなく胸が締め付けられる。だが、カタリーナには知りたいことがあった。どうしてこれほど魔力効率が悪いのか、魔法を使うたびに自分が自分でなくなるようなこの感覚は何なのか。
両方ともリシャールに以前相談した事はあるが、そのような事例は残されていないとのことだった。自分が自分でなくなる感覚も嫌な感覚ではないのだ。懐かしいような、ぬるま湯に全身使って守られているような安心する感覚だ。だが、その感覚が今世の自分を忘れてしまいそうになる。今の自分を忘れて何になってしまうのかはわからず、その感覚に身をまかせることができないのが現状だ。この本の中に何かヒントがあるかもしれないと気が急いでしまう。次のページをめくるとこう記されていた。
『今後の私の運命は分からないが、先の転移者たちのように経験を残す。少しでも私の経験がこれからの人の糧となるように。この本を次にに読む人が現れない事を、新たに本を記す人が現れないことを願っています』
少しずつ読み進めていくと日々のことが記されており、どうやら日記のようだ。最初に簡単な自己紹介が書いてあった。女子高生だったらしい彼女は1998年にこちらの世界にきたらしい。
それから200年後という事はどうやら私は転生をするまで長い時間がかかったらしい。私が死んだのは2018年なので、前世の私より少し年上の人のようだ。だが、高校生で知らない世界ということもあり、日記を見る限り戸惑いは大きいようだ。
そして、中々苛烈な性格の少女のようだった。神官との言い争いは当たり前で、時々手も出たらしい。当時の王太子と口喧嘩をしたという記載を見たときには目眩がしてくるようだった。前の世界にはなかった魔法による感動は相当のようだ。ただ、彼女は治癒魔法を地味な物と思っており、魔法を学ぶうちにもっと分かりやすい魔法に憧れていったようだ。しかし、治癒魔法以外の魔法が発動することはなく、その悲しみが恨み節のように記されていた。魔法の性質は魂に刻まれるものであり、その性質が変わることはないのだから当然の結果といえば当然の結果だろう。そこで、前聖女は次は他者の魔法について研究するようになったようだ。勤勉といえば良いのか、へこたれないと言えばよいのか、しつこいと言えば良いのか・・・解釈はそれぞれだろう。そして、主に協力していたのはファビウス公爵家の次男だったようだ。聖女と関われる事は誉になれど、隠されるようなことではない。カタリーナの祖先が聖女と関わりがあったのは知らなかたため驚きは大きい。ファビウス公爵家が水魔法に特化していることもあり、研究内容も水魔法に関する物のようだ。今では普通に使われている水魔法の一部が聖女が研究した結果であることがわかり、さらに驚きが増す。三分の一ほど読み進めたところで神官リシャールより声がかかる。
「少しずつ日が落ち始めています。今日はこの辺りにされてはいかがですか?」
外を見ると空が茜色に染まっている。ずいぶんと集中していたようだ。神殿の前で待ってもらっている護衛に申し訳ない気持ちになる。
「長い時間お邪魔してしまい申し訳ありませんでした。図々しいようで申し訳ないのですが、またこちらの本を読ませていただいてもよろしいですか?」
目があったリシャールは優しく微笑んだ。
「もちろんです。すこしでも聖女様のお役にたてたのであれば幸いです」
微笑んだだけでなく、カタリーナのことを初めて聖女と呼ぶリシャールに驚きを隠しきれない。聖女どころか、彼からは名前も呼んでもらったことがなかったからだ。つねに淡々と必要事項を話され、表情の変化もほとんどなし、短くない付き合いの中、そのよう扱いを受けていたものだからてっきり嫌われているものだと思っていた。
この部屋への入室を許可してくれたことと、先ほどの反応をみるからにそれなりに認めてもらえていると思ってよいのかもしれない。また、3日後に訪れることを約束しその場を立ち去った。立ち去った馬車の中からはいつまでも頭を下げるリシャールの姿が見えていた。

帰りの馬車の中は身体が怠かった。久々の日本語に触れていたせいなのか、長時間日記を読み続けていたせいなのかは分からないが、嫌な気分ではなくそのまま眠気が襲ってきた。
馬車の揺れと相まって瞼が重くなる。少しだけと思い瞼を閉じると、夢をみた。それは、前世の夢だった。顔ははっきりとは見えないが、なぜか今話している男性が夫だと分かった。夫が悲しそうな顔で話しているが何を話しているか分からない。私が小さく「ごめんなさい」と話すと、傷ついた顔をしてリビングから出て行く。
夫が居なくなった部屋で私は謝り続けていると『お嬢様』と声がかかり夢から目が覚めた。どうやら、公爵家に着いたらしい。ゆっくりと目を開けるが身体の怠さが抜けないどころか強くなっている。侍女を呼んでもらい支えてもらいながら屋敷へ入ると、玄関で待機していた侍女長が、念のため侍医を呼ぶと言い始めた。大ごとになってしまったと思いながら自室に戻る。着替えを手伝ってもらいベッドで休んでいるとそれほど間を空けずに侍医がやってきた。熱も少し出ているようだが、他の症状はなかった。今まで、神殿で魔力について学んでいた事を伝えると疲労が原因体調を崩したのだろうと言われしばらく休むように言われる。
身体が怠かったせいか、あっという間に眠りに落ちた私はまた同じ夢を見ていた。相変わらず夫の顔は見えなかったが、悲しそうに何かを話している、頑張って聞き取ろうとするがやはり聞き取れず、私が謝ると夫が部屋を出て行く。この繰り返しだった。もどかしい夢だが私にはどうする事も出来なかった。翌日目が覚めると夢の所為もあるのか、疲れは全く取れていなかった。それどころか熱が上がっており、安静期間を延ばされる事となった。予定していた神殿の訪問が中止となった事は言うまでもないだろう。
その後あの夢を見る事はなくなり、熱も次第に下がって行った。完全に安静が解除されたのは、熱が出てから5日目のことだった。少しの疲労に対して大げさな家族だと思ったが、魔力を使った後に倒れた事のあるカタリーナとしては、前科持ちのため強くいう事は出来ない。まして、今回は一般には公開されていない本を読んだ経緯もあり、どの様にも説明しにくかったため、カタリーナは大人しく従うことにしたのだった。
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