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1章
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しおりを挟む安静が解除されて、5日目ぶりに出た外は気持ちよく、庭で刺繍を楽しんでいると数人の声と足音が聞こえてきた。何かあったのかと、視線を刺繍から声の方に向けるとこちらに数名の人が向かってくるのが確認できた。その中に見慣れた黒髪がありハッとする。黒髪は王族にのみ許された色であるため、すぐに訪問者の検討がついた。
カタリーナが今着用しているのは普段着用のドレスであり、簡素なものだ。しかし、今からでは着替えている時間もないため、立ち上がり礼の準備をする。エヴァトリスの後ろからはルルーシュも付いてきており、訪問予定があったのであればこちらにも連絡してほしいとカタリーナは恨み言を言いたくなる。エヴァトリスが近づいたタイミングでカテーシーをしようとするとそれを無視して私のすぐ側までやって来る。そして、礼を中断させられて両肩に手を置かれた。
「体調を崩して臥せっていたと聞いた。そんな事はいいから、座りなさい」
促されるままに席に着くと、ホッとしたようにエヴァトリスも向かいの椅子に着く。いつの間にか準備されたらしいエヴァトリス用の椅子を見て、公爵家の使用人の優秀さを感じる。
「それで調子は大丈夫かい?」
最近輪をかけたこの心配王子にこの事を知らせたのは誰だと思ったが、エヴァトリスの後でニコニコしているルルーシュを見る限り犯人は分かりきっている。犯人であるルルーシュに非難の視線を送るが気にした様子は全く見られない。
「少し疲れが出ただけですので大丈夫です。気にして下さりありがとうございます。でも、このような些細なこと殿下のお耳に入れなくても大丈夫でしたのに」
後半は再度ルルーシュを睨みながら伝える。
「少しでもカタリーナの事を知りたくて、何かあれば伝えるように指示していたのは私だからね。本当ならこの事ももっと早くに教えてもらいたかったくらいだよ」
エヴァトリスからの小言に対してもルルーシュは気にした様子がない。
「すぐに殿下にお伝えしたら、政務放り出してうちに来るの目に見えてるよ。そうすれば政務滞るし、その時怒られるのは余計なこと言った私になるでしょ。姉上がそれなりに元気になった状況見れば殿下も安心するし、姉上も政務に戻る様注意してくれるからそんなに長居にはならないだろうし。素晴らしすぎる気遣いでしょ?それに姉上には感謝してもらいたいくらいなのに。あまりひっきりなしに来られたら大変だと思ったから出歩けるようになる今日を待って伝えたんだよ」
最近の糖度高のエヴァトリスを考えるとルルーシュが言っていることが安易に想像できてしまう自分が嫌で思わず黙ってしまう。と当然のように反応したのはエヴァトリスで
「婚約者を毎日見舞う、そんなの当たり前じゃ無いか。あぁ、カタリーナの姿が毎日見られるなんて最高だ!いや、いっその事療養場所を王宮に変更しよう!!」
最早何処から突っ込めば良いのか分からなくなり、カタリーナとルルーシュはエヴァトリスに冷めた視線を向ける。エヴァトリスは自信満々に言ってのけるが、公務を担っている皇子がそれではダメだ。ルルーシュも諌めているようだが焼け石に水、効果が得られている様子はない。
「いつになったら分かってくれるのかな?私にとってカタリーナよりも大切な事はないんだよ。愛してる。」
続けざまに話すエヴァトリスの言葉に一気にカタリーナの顔が赤くなる。場所や他人の有無を気にせずにこう言う事を言われるとどう反応して良いのかわからなくなり困っていると、
「はいはい。ご馳走さま。そういう事はふたりっきりの時にしてよ。仕方ないから30分だけだよ。今日は殿下に他にもやってもらわなきゃいけない事がたくさんあるんだからね」
仕方なさそうに話すと、ルルーシュは背を向けて立ち去って行く。
「ありがとう」
侍女達も下がり、部屋に残されたのは嬉しそうにお礼を言うエヴァトリスと、赤い顔をしているカタリーナの2人だけだった。
「でも聞いた時は本当にびっくりしたんだよ。大丈夫そうでよかったよ。」
顔面偏差値の高い人の笑顔は本当に目の毒だ。いや保養かもしれないが。とにかく心臓に悪いので、ほどほどにしていただきたいものだ。カタリーナが顔を赤くしていると笑みを深めて
「そうやって顔を赤くしているカタリーナを見ると嬉しくなるね。前は何を言っても笑って躱されていたていたからさ。とりあえず弟扱いからは脱することができたと思って良さそうだよね」
赤い顔が青くなる。
「そんな、殿下のことを弟のような扱いなど恐れ多いこと」
「してだでしょ」
カタリーナの言葉を遮りながらエヴァトリスは断言する。
「いくら私が好きだと伝えても、家族愛としか取られずに他の令嬢を紹介されるんだからね。幼い私の心はとても傷ついたよ。だから、そうやって私を意識しているカタリーナを見る事ができる今はとても気分が良いね。今までの分までしっかり意識しておくれ」
とても良い笑顔で言われてしまった。そして、今までの言動が確信犯だと言う事も分かった。だが、赤くする顔は止められない。
「私は生涯カタリーナだけを愛すよ」
本当にエヴァトリスは甘くなった。少し前の避けられていた3ヶ月の間に何があったのか不思議で仕方ないが、藪蛇になりそうなので聞かないことにしている。
「教会でこんを詰めすぎているみたいだけどあまり無理はしないようにね。ルシエール殿は無理をさせるような性格には見えないけど、教会ではどんなことをやっているんだい?」
聖魔法の練習といってもひたすら魔力を込めて、発動させるだけであり特別なことはしていない。エヴァトリスからは『ルシエール』という名前が聞かれたがそれは大神官であるリシャールの祖父の名前だ。今は大きなイベント以外は全てリシャールが行なっているのだが、そのことを知らないのだろうか少し不思議になる。
「ルシエール様ですか?確かに以前は教えを請うていましたが、15歳を超えた頃からはリシャール様が担当してくださっていますよ。無口なところところはありますが、とても丁寧に教えてくださるのでいつも助かっております。」
次に不思議な顔をするのはエヴァトリスの方だった。
「高齢であり大きなイベント以外は孫に任せていると言っていたが、カタリーナの勉強はルシエールが見ていると聞いていたんだか、そうか・・・。リシャールは真面目な人だからな、そういえば最近は神殿に頻回に通っているとも聞いているが。そうか・・・。今回体調を崩したらしいし、しばらく神殿へ通うのは禁止とする」
少し声のトーンが低くなった気はするが笑みは浮かべている。だが口調は否と言わせないものだ。私としてはせっかく聖魔法に関するヒントを得られるかもしれない状態であったためいつもなら素直に従うが思わず声が出てしまった
「ですが、体調は良くなっておりますし、学ぶことがとても楽しいのです。」
「この話は終わりだ。カタリーナは未来の王妃なのだから体調には特に気をつけてもらいたいんだ。大丈夫そうならまた行ってもよいから。」
エヴァトリスの口調が少し荒いものになり、話は終わりとばかりにカタリーナに背を向ける。何か気に触ることをしたのだろうか、何も分からないカタリーナを他所に、エヴァトリスはそのままルルーシュを呼び帰り支度を始めた。
その際、微妙な空気を感じたのか
「姉上がまた何かしましたか?」
とエヴァトリスに問いかけると
「カタリーナはなにも、それよりもルルーシュは知っていたの?」
不思議そうな顔をするルルーシュを見る目はいつもより冷たい。
「だいぶ前から神殿での担当がリシャールになっていたみたなんだよ」
明らかに「しまった」と言う顔をしているが返事はない。それに何かを察したエヴァトリスは
「そう、で?誰に聞けば全部わかるのかな?私への報告ではルシエール担当としか聞いたことがなくてね、カタリーナの話だともう5年以上もリシャールが担当してるようじゃないか。いったい、何人関わっているんだろうね」
どんどん声のトーンが低くなる。何時ぞやかの令嬢といざこざを発見された時の声色を思い出す。ルルーシュは苦虫を噛み潰したような顔をしており、いつも飄々としている様からは考えられない。
「申し訳ありません。私も直に聞いたわけではなく、なんとなく姉上の話から察しただけですので。おそらくではありますが、陛下とルシエール様に聞けば全てわかるかと」
今度はエヴァトリスが苦虫を潰したような顔をする番だった。
「あのクソ親父・・・。帰ったら国王に謁見の申し込みをしておいてくれ。理由を求められたら、そのまま伝えてもらって構わない」
前半のセリフはとても小さな声で呟かれたものの、そばにいたカタリーナにはしっかり聞こえていたが、目をそらし聞こえないふりをしたのだった。
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