私が聖女になった時(旧:聖女の国)

海栗

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1章

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王宮へ向かったルルーシュはエヴァトリスの執務室へ向かう。そこまでの道は通り慣れたものであり執務室前に待機する護衛の者とは軽口を言うほど親しくなっていた。ただ、今日はそれほどゆっくりしている状況では無いためそのまま執務室の中へ入る。
そこでは、いつものように落ち着いた表情で事務作業をするエヴァトリスがいた。書類を見ている姿ですら絵になるこの男を乱す事ができるのは、おそらくカタリーナぐらいだろう。そんな報告をこれからしなくてはいけないとなれば気が重くなるのは必須のことだった。執務室に入り軽く挨拶をする。目の前まで進み立ち止まると怪訝な顔をされた。それはそうだろう。ルルーシュはいつもであれば、部屋に入ってエヴァトリスの手が空くまでソファーで勝手に待っているのが常だ。そんな男がエヴァトリスの手を止めさせる状況を作ったのだから急な用事があるのだろう。それも黙っているところからすると言いにくい事案が発生したと考えるのは容易であったため、人払いを行う。
「どうしたんだい?」
ルルーシュは少し眉を寄せた表情となっているが普段から近くにいる者でなければ分からない程度の表情変化だ。その言葉に少し間を空けて
「姉上が先ほど神殿に向かわれました。殿下からの禁止を聖魔法使用禁止と解釈し、神殿への出入りは自由と考えて良いと思っているようです。」
ガタンと音を立てて立ち上がるエヴァトリス。勢いよく立ち上がったためそのまま椅子は倒れてしまったがその事を悔やむ様子はない。むしろ、エヴァトリスはカタリーナをどうするかで頭はいっぱいだった。先日ルルーシュに『ヤキモチはやかない』などの発言をしたばかりであるため、どこかのタイミングで神殿に通う許可を出さなくてはいけないのは分かっていた。父である国王の話を聞いてからは、自身の気持ちの整理をつけてから神殿の許可を出す予定だった。それがこれほど早くなるとは思ってもいなかった。
「私なりに話はしましたが、力足りずで申し訳ありません。姉上には殿下に報告する旨は伝えてあります。」
「これから神殿に向かう」
外に控えていた侍従に馬の用意を頼み、あまり華美でない外出着に着替えをする。支度があらかた終わったとこでソファーを見るとにやけ顔をしたルルーシュと目が合う。ルルーシュが言いたいことは分かっているがあえて声はかけないし、ルルーシュからも声をかけて欲しくないため出来るだけ視線はそらす。
「私もお供します」
ルルーシュが震えた声で言葉を発するため視線を向けるとソファーに座ったまま顔を下に向けて肩を震わせている。
「ルルーシュ?」
訝しむように声をかけると
「はははっ。もう無理。つい先日ヤキモチは妬かないみたいなこと言ったくせに、神殿向かうとか 本当に殿下は姉上が大好きだよね」
お腹を抱えてルルーシュ1人が大笑いしている中、他に声を出すのはエヴァトリスのみ。
「違う。好きじゃなくて愛しているんだ」
その言葉を聞いて更に笑い出すルルーシュ。
「ルルはそろそろ不敬と言う言葉を考えたほうがいいよ」
ため息混じりに話す言葉にはいつもの気安さがあり、怒っていないことはすぐに察する事ができる。ルルーシュも話す前は気が重かったが、話してみるといつも通り軽口を言い合える状況に少しホッとしていた。そして、エヴァトリスとルルーシュは数人の護衛を共として馬にて神殿へ向かうのだった。

その頃カタリーナは機嫌よく神殿に向かっていた。時折思い出し笑いをする様子もあり、同乗していた侍女はその様子を見ると嬉しそうに声をかける。
「何か良いことがございましたか?先日体調を崩されてからどこか本調子ではない様子でしたので心配しておりました。」
思った以上の多くの人に心配をかけていたことを実感したエステルは素直に謝る。
「心配ばかりさせていまいごめんなさい。どうしても神殿のことが気がかりだったの。でも今日、こうやってお伺いできるでしょ?肩の荷が少し降りた気がしてね。」
そのままクスクスと笑い始めるエステル。やはり機嫌が良いのかいつもに比べると饒舌だ。
「それにルルーシュったら面白いのよ。『殿下がやきもちを妬くから神殿には行くな』ですって。そういう軽口も言うようになったと思うと何だか面白くなってしまって。」
その言葉を聞いた侍女は否定も肯定も憚られた。エヴァトリスの普段の様子を見る限り政略結婚という言葉が思い浮かばないほどに気持ちを伝えているのがわかり、『やきもち』という言葉もしっくりくるが、それを侍女が伝えて良いことではない。そして、以前に比べるとマシになったとは言えカタリーナは、エヴァトリスやルルーシュを子供扱いしてしまう。早くお互いが想い合える日が来ることを願いつつも、侍女は肯定も否定もせずに微笑みながら話を聞くのだった。

神殿には何の問題もなく到着した。予定通りの時刻に到着するとすぐにリシャールが対応してくれる。それほど長い話になる予定ではないため、大衆が利用する広間でそのまま話をすることにした。公爵令嬢の礼儀としては正しくないかもしれないが、リシャールに多くの時間を割かせないためのカタリーナからの配慮でもあった。広間の隅で向かい合った状態で立ったまま話をする。入り口は開いたままであり、数人の出入りはあるが入り口に背を向けているカタリーナからはどのような者達が出入りしているのかははっきりとはわからない。さっそく話の要件に入ったカタリーナは先日の約束が守れなかったことのお詫びを伝え、焼き菓子を渡すと口元だけ緩めるリシャールが目に入る。
「聖女様があの書物を読めたことに私も驚きましたが、書物を読まれたことで聖女様のお身体もひどくお疲れになったのでしょう。無理はなさらないでください」
いつものような淡々とした口調であるが、やはり先日から声が優しい気がする。もともと、嫌われていると思っていたため『聖女』と呼ばれると認められた気がしてカタリーナは自然と笑顔になり本来の目的の話を始める。
「ありがとうございます。もう一点お詫びしなくてはいけないことがありまして、しばらくこちらでの魔法練習をおやすみさせていただきたいのです。今回体調を崩したことで周りの者にも心配をかけてしまいましたので。こちらから練習をお願いしている身なのに勝手なことを申し上げてしまい申し訳ありません」
話している内容から、少しずつ申し訳ない思いが強くなり表情が硬くなっていくがリシャールがそれをきにする様子はない。
「エヴァトリス殿下ですよね、国王様からお手紙をいただき簡単ですが内容は存じておりますので大丈夫です。それにしても本日はよく訪問の許可がおりましたね」
リシャールの変わらない口調に安心したカタリーナは話を続ける。
「はい。特に殿下が体調を崩したことで魔法を使うことに対しての心配が強くなったみたいなんです。」
「ふっ・・・。すみません、失礼しました。いや、心配はそう言う意味ではないと思われますが。」
エヴァトリスの気持ちが伝わっていない様子にリシャールは思わず吹き出してしまったが、すぐにそれを取り繕った。しかし、それを見ていたカタリーナがは目を見開き驚きの表情を浮かべる。初めてみた明らかな表情の変化だったからだ。続けざまにカタリーナの体が後ろに傾く。誰かに肩を強く引かれたのだ。倒れると思い、衝撃に備え身を硬くしたがいつまでたってもその衝撃がくることはなく抱きとめられることになる。抱きとめられると同時に馴染んだ香りに包まれてホッとする。声を聞かなくても、顔をみなくても、エヴァトリスだと判断できる香りだった。
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