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1章
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しおりを挟むエヴァトリスと別れた後は気が抜けた様に外に視線を向けていたが、カタリーナの視界にはっきりと写るものはなかった。ただエヴァトリスとのやりとりを頭の中で反芻させ時折顔を赤くさせる。そうこうするうちに、御者に声をかけられる。そこで、ようやく公爵家に到着したことにカタリーナ気がついた。到着すると玄関には母がおり、そのまま抱きしめられる。急いで玄関まできたのだろう、少し息が切れている様子に疑問を感じる。それに続き少し遅れた形でルルーシュも顔を見せた。普段出かける時に母や弟が見送ることも出迎える事はないため、その行動にわずかに疑問を感じた。
「あれ?姉上帰って来れたの?」
ルルーシュの第一声に、カタリーナは疑問しか浮かばない。カタリーナの帰る家はこの公爵家意外にはないのだから、それは当然だろう。しかし、その疑問はルルーシュの言葉により解決される。
「ほら、父上がこの前王宮で暮らして、王妃見習いみたいなことするって言ってたでしょ?もう部屋も準備されて、引越し準備も済んでるみたいだから、てっきりそのまま丸め込まれて帰ってこれないと思ってたんだ。」
疑問は解決されたが、納得はいかない。
「エヴァトリス殿下もそこまで強引な事はなさらないわ。・・・たぶん」
エヴァトリスの名誉のためにもと否定の言葉を出してはみるが、カタリーナの声は尻すぼみになっていく。そして、母のこの様子を見る限りルルーシュと同じ様なことを考えていたことが容易に予想できる。それが証拠のように二人からの返事はなく、視線をそらされただけだった。
その日の夜は母とルルーシュと少しの時間お茶をした。この時間帯で父が帰ってきていないのが珍しく母に尋ねると、どうしても話し合わなくてはいけない事があり帰れないのだとか。
お茶のの時間、母とルルーシュとはなんの変哲も無い話ばかりで、今日の王宮でのことを何も聞かれない。そのことが逆に不自然なくらいだったが、カタリーナから話すような内容もなかったためこの穏やかな時間を楽しむことにした。
カタリーナは、時折見せる、少しだけ寂しそうな母とルルーシュの顔が気になったが、何と声をかけて良いか分からず時間だけがすぎていくのだった。
その日父が帰ってきたのは日付が変わった頃だったらしい。カタリーナがそれを知ったのは朝食を一緒にした時だった。そして、同時に父がどんな話を王宮で行ったのかということも知ることになる。
「カタリーナの結婚の日取りが正式に決まった。エヴァトリス殿下の成人の日と同日だ。立太子と、婚姻の儀を同時に行う。」
少し疲れたような父の様子を心配そうに眺めるのは母だ。
「そんなに多くのイベントを一緒に行うのですか?私はそれほど詳しくはありませんが通常半年~1年ほど開ける事が多いと聞いた事があるのですが・・・」
それに対して隠さずにため息をつくのは父だ。
「あぁ、その通りだ。殿下の誕生日を含めたこの3つは国民のイベントにもなり、他国の要人も招くような行事だ。多くの経済効果も生まれるため、期間をずらすように伝えたが・・・エヴァトリス殿下が譲らなかった。どうしても日付をずらしたいのであれば婚姻の儀以外の行事にしろと。成人を迎える日に婚姻する事は譲らないと、それを変えるのであれば婚姻が終わるまでは他の公務には出ないと言い始めた。」
その言葉に思わずカタリーナは無言になる。完全な子どもの駄々であるが、内容はそんなに可愛らしいものではない。
「成人の儀から間をおかずに式を挙げるとは思っていたけど、殿下も随分思い切った事を言い始めましたね」
楽しそうに笑っているのはルルーシュだけだ。完全に他人事なのだろう。父と母は呆れた顔をしている。
「それにしても、よくもまぁ・・・そんなわがままが通りましたね。王宮行事とは言え、理由は私事ですよ」
呆れて会話をやめた父と母に畳み掛けるのはやはりルルーシュだ。
昨夜の話し合いを思い出したのだろう。父は、わずかに眉間にシワを寄せながら話し始める。
「あぁ、だが殿下が経済効果については代替え案を出してきたからな・・・、その案が悪くなかった。後は、どうやっても殿下が引きそうになかったと言うのも大きかったからな。」
話し合いの中ではそこが妥協点だったのだろう。
「ただ、案としてはまだまだ荒いし、予算の組み直しも必要になるだろう。と言っても1年以上先だからそれについてはどうにかなるのだが・・・。無理も言ってくるが、その分の働きもしっかりとする。カタリーナがしっかりと支えてくれれば、彼は良い王になるだろうよ。」
どこか遠くを見ている父は疲れてはいるが、少し楽しそうでもある。国の重鎮として、これからのこの国に期待しているのもあるのだろう。母はそんな父を優しげな眼差しで見ている。
貴族として仮面夫婦が多い中、こうやってお互いを思い合っている夫婦は珍しい。
カタリーナは両親を見ていると、政略結婚であってもお互いを思い合える関係を続けたいと自然と願ってしまう。異世界からの聖女が来るかもしれない、しかし来ない可能性だってある。むしろ最後の聖女が300年以上も前であり現れない可能性の方が高いくらいだ。まだ若いエヴァトリスが、同年代の女性とこれから新たな恋をする可能性だってあるが、それも可能性の話だ。カタリーナは、エヴァトリスの辺境での頑張りを手紙や新聞で知るたびに、なりたい姿があるのならば保身に走るのではなく、自身が変わっていかなくてはいけないことを痛感してきた。自分の気持ちについてはもう誤魔化せない所まできていた。だが、エヴァトリスの幸せが一番であることには変わりない。この気持ちを伝えたら、今のエヴァトリスならば喜んでくれるのではないか・・・、そんな淡い期待がカタリーナの胸の中に湧き上がっていた。
「まぁ、殿下の弱点は姉上ですからね。その姉上が側で見守り応援しているのであれば殿下は無敵でしょうよ。」
楽しそうに、半分呆れ混じれでルルーシュは話す。
家族が応援してくれている、国王夫妻も温かく見守ってくれている、何よりエヴァトリスがカタリーナの事を望んでくれている。
「殿下を支えられるよう、誠心誠意努めてまいります。」
エステルはまっすぐと視線を家族に向け話す。そこに恥ずかしがる様子は何も見られない。
「やっと決心がついたのね。それでも、ここは貴女の家よ。何があっても私たちはカタリーナの味方なのだから、それを忘れないで」
優しく微笑む母の言葉に目に熱いものがこみ上げてきたが、カタリーナはそれに気づかないふりをしてしっかりと微笑み返した。
家族の誰もがカタリーナの一言から決心を汲み取り支えていこうと思った瞬間でもあった。
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