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1章
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今までになく穏やかで、そしてカタリーナにとって幸せな日々が続いた。カタリーナが、前例になく早い段階で王宮への移住が、決まった事やエヴァトリスとカタリーナがお互いを愛称で呼ぶ様になった事が大きく起因しているらしい。今まで敵意剥き出しで吠えていた少数派の令嬢すらも、胡麻を擦ってくるようになったのだ。この変わり身の速さには脱帽だが、貴族社会でやっていく為には必要な事なのだろうとカタリーナはある種の尊敬の念を抱いた。
いつの間にかエヴァトリスと同年代の令嬢達とのお茶会もなくなっていた。王妃が言うには少しずつ希望する令嬢が減ってきたのだとか。お茶会の担当する侍女に話を聞いた所、エヴァトリスはお茶会中ずっと政治の話をしているらしい。時折令嬢にも意見を求めている様だが話が令嬢達も話している内容が分からないため答えることもできず、お茶会は終了するようだ。そして、帰りには課題を出される。もちろん話していた政治の内容に関する物だ。その課題が終わらなければ次のエヴァトリスとのお茶会をすることはできないらしい。時折、代筆を頼む令嬢もいるらしいが、持ってきた課題で使われた参考文献の内容の話をされ、言葉に詰まった所で「私を騙したのか、それは私への侮辱と受け取るがよいのか?」と問われ、エヴァトリスの前に二度と顔を出さない事を条件に罪を逃れているらしい。エヴァトリスの考え方はこの国の人からすると新しいものが多い。カタリーナは前世の記憶があるため、理解できる部分もあるが今まで政治に触れたこともない令嬢からすれば難解なものだろう。そうして、少しずつお茶会の頻度を減らしていき、とうとう開催予定すらなくなったそうだ。側妃の問題もあるためそれで良いのか、カタリーナが確認したところ「生まれるかもしれないし、生まれないかもしれない。婚姻をする前からそこまで背負わなくていいわ。」と王妃から言われ、思わずカタリーナが涙を流したのはつい最近の話だ。
エヴァトリスとカタリーナは、休みが合うと一緒に神殿に行ったり、町を見たり、遠乗りに出かけたりするようになった。今まで遠慮して断っていた事も、カタリーナが自分の気持ちを認めることで素直に受け入れられる様になったからだ。そして、カタリーナが素直になった分だけ、エヴァトリスも思いを返してくれた。いや、素直になった分というより、『過剰に』という言葉の方が正しいのかもしれない。それを証拠に元々高めであったエヴァトリスの糖度はさらに上がった。
家を出る日付が決まってからは家族とも積極的に交流するようになった、嬉しそうにする母とルルーシュ、少し寂しそうな表情で笑う父。父も思う所があるのかもしれない。仕事の日であっても、夕食ままでの時間に帰ってくることが多くなった。そして、政治に関する考え方など父から学ぶことも増えた。
そんな中でも唯一変わらなかったのが、神殿だった。リシャールの指示のもと魔力制御の練習をする。エヴァトリスとルルーシュの付き添いがない場合は聖女の部屋に行って日記を読む。カタリーナは魔力制御の変化もほとんど得られず、日記からも知りたいことは知れず・・・。不本意ながら、本当に変わらない時間が過ぎていくだけった。
そうこうする内にエヴァトリスの誕生祭を3日後に控えた今日、カタリーナは王宮に移り住むために馬車で移動を開始した。
現国王の唯一の子どもであるエヴァトリスの誕生日は毎年盛大に祝われ、王宮では準備が慌ただしく進んでいる。当日、前日ほどではないが今日も忙しく準備が始められている。王宮での忙しさもあるため、エヴァトリスの誕生日の宴が終わってからの引越しを申し出ていたが、それならばと嬉々として「では、誕生祭の前に引っ越しの日を変更しましょう」と王妃に言われる始末。それに笑顔で頷くエヴァトリス王子と、少し申し訳なさそうにでも仕方ないと傍観を決めている国王を前にカタリーナは断りきることはできなかった。輿入れではないが、自宅からの馴染みの侍女を連れてきてもよい、家族との面会の自由など王宮に滞在する者としては優遇された条件をつけられたこともあり、宰相をしている父も断りきれなかったようだ。
引っ越しの準備は前日から慌ただしく行われていた。といっても、公爵令嬢であるカタリーナの出番はほとんどないし、貴重品以外は以前持っていったため荷物もほとんどない。そして、前回の荷物まとめの時もそうであったが、それほど物に執着のないカタリーナの指示した物はそれほど多くない。数着のドレスとお気に入りの宝石や文具、それと今までにエヴァトリスから贈られてきた品々だ。カタリーナが指示した品物の中で一番多くのスペースをとるものがエヴァトリスからの贈り物であることは間違いないだろう。そんな事を思いながら侍女達によって片付けられていく物達を部屋の隅から眺めていると部屋にノックが鳴り響く。食事の時間にもお茶の時間にも早いため、誰の訪室かと考えるが拒否をする必要もないため返事をすると開けられたドアの前にいたのは母だった。
「どう?準備は進んでいる?」
「はい。おかげで順調に進んでおります。」
もうほどんと詰め終わっている状態であったため、カタリーナはその質問に対して笑顔で答えたが、馴染みの侍女達は少し困り顔である。侍女達の反応に疑問が残ったが思い当たることのないカタリーナはあえて聞くことはしない。しかし、荷物の量を見た母は少し疑問を感じた様子をみせ今度は侍女達に声をかける。
「カタリーナの持ち物はどれぐらいになりそう?」
これ以上ない的確な質問だったのであろう。少し困り顔の侍女達はホッとしたように
「ここに出ているものが全てでございます。」
と答える。そう、荷物をまとめる際に侍女から持ち物が少ないことへの指摘を受けていたがカタリーナは不要と断っていたのだ。それをまさか母の登場により告げ口されることになるとは思っても見なかったのでカタリーナは慌てて反論する。
「前回荷物をまとめた際にほとんど王宮に方へ持って行ったんです。いえ、あの・・・、それに、あまり多くを持ち込んで、ご迷惑をかけても申し訳ないので」
母の厳しい視線にカタリーナの声は尻すぼみになっていく。
「いくら何でも少な過ぎます。これ以降、荷物は私が確認しておきます。」
そう言ってカタリーナは自室から追い出される羽目になった。
そして引っ越し当日馬車に運び込まれる荷物を見てカタリーナは唖然とした。カタリーナが最初に指示した荷物の量の3倍にはなっていたからだ。何を増やしたのか母に質問するが
「女性には色々な準備が必要なのよ」
の一言で終わってしまい、荷ほどきの時に何が出てくるの想像できないカタリーナは背中に嫌な汗を感じる。
(大丈夫、母の趣味は私よりよっぽど良いのだから、変なものは出てこないはず)
と心の中で繰り返すことしかできなかった。
荷物が全て馬車に積み終わる頃には家族や使用人は玄関に集まっていた。これでお別れという訳ではないが、毎日のように顔を合わせることが難しくなるのは確かである。少し悲しい気持ちになったカタリーナは鼻の奥に何か込み上げてくるものを感じた。
「本日より、カタリーナは王宮で暮らし国王に仕えるとともに、国民の安定した生活へ少しでも助力できるよう務めてまいります。」
少し堅苦しい挨拶になったが、嫁に行くわけではないのでこれで良いと思ったカタリーナは笑顔を向けて言葉を続ける。
「まだ、お嫁に行くわけじゃないのでここが私の家です。時々はみんなの顔を見に帰ってきますね」
最後にすこしふざけた口調で話しながら家族と視線を合わせたあと、見送りに出てくれた使用人達にも視線を向けると、何人かの使用人は涙をながしていた。幼少期が嘘のように良好な関係を使用人とも築くことができたのでは思いエステルの笑みは深まった。最後に家族にまた視線を戻すと母が口を開く。
「お嫁に行ったとしても、ここはいつまでもあなたの家で私たちが家族なのを忘れないで。王子の婚約者でも、王太子妃でも、そして今後王妃になってあなたの立場がどう変わったとしても私たちはカタリーナの味方よ」
母の言葉にカタリーナの目に水の膜が張り、思わず母に抱きついてしまう。
「ありがとうございます。私はこの家に生まれ、育つことができし幸せです」
話しながら数滴の涙がこぼれた。淑女としては褒められた行為ではないがこの場で咎める者は誰もいない。落ち着いたタイミングで父が
「そろそろ、出ようか。」
と声をかけ、馬車に乗るよう促す。
「姉上、時々は顔を見せに帰ってきてよ。殿下が離してくれないかもしれないけど」
ルルーシュの砕けた口調にカタリーナはプッと吹き出す。今までのシリアスな雰囲気が台無しだが、カタリーナはこの空気が好きだった。
「ありがとう、ルルーシュ」
簡単な言葉ではあるが、たくさんの意味の籠った言葉を最愛の弟に告げカタリーナは王宮へ向かう馬車に乗り込むのだった。
いつの間にかエヴァトリスと同年代の令嬢達とのお茶会もなくなっていた。王妃が言うには少しずつ希望する令嬢が減ってきたのだとか。お茶会の担当する侍女に話を聞いた所、エヴァトリスはお茶会中ずっと政治の話をしているらしい。時折令嬢にも意見を求めている様だが話が令嬢達も話している内容が分からないため答えることもできず、お茶会は終了するようだ。そして、帰りには課題を出される。もちろん話していた政治の内容に関する物だ。その課題が終わらなければ次のエヴァトリスとのお茶会をすることはできないらしい。時折、代筆を頼む令嬢もいるらしいが、持ってきた課題で使われた参考文献の内容の話をされ、言葉に詰まった所で「私を騙したのか、それは私への侮辱と受け取るがよいのか?」と問われ、エヴァトリスの前に二度と顔を出さない事を条件に罪を逃れているらしい。エヴァトリスの考え方はこの国の人からすると新しいものが多い。カタリーナは前世の記憶があるため、理解できる部分もあるが今まで政治に触れたこともない令嬢からすれば難解なものだろう。そうして、少しずつお茶会の頻度を減らしていき、とうとう開催予定すらなくなったそうだ。側妃の問題もあるためそれで良いのか、カタリーナが確認したところ「生まれるかもしれないし、生まれないかもしれない。婚姻をする前からそこまで背負わなくていいわ。」と王妃から言われ、思わずカタリーナが涙を流したのはつい最近の話だ。
エヴァトリスとカタリーナは、休みが合うと一緒に神殿に行ったり、町を見たり、遠乗りに出かけたりするようになった。今まで遠慮して断っていた事も、カタリーナが自分の気持ちを認めることで素直に受け入れられる様になったからだ。そして、カタリーナが素直になった分だけ、エヴァトリスも思いを返してくれた。いや、素直になった分というより、『過剰に』という言葉の方が正しいのかもしれない。それを証拠に元々高めであったエヴァトリスの糖度はさらに上がった。
家を出る日付が決まってからは家族とも積極的に交流するようになった、嬉しそうにする母とルルーシュ、少し寂しそうな表情で笑う父。父も思う所があるのかもしれない。仕事の日であっても、夕食ままでの時間に帰ってくることが多くなった。そして、政治に関する考え方など父から学ぶことも増えた。
そんな中でも唯一変わらなかったのが、神殿だった。リシャールの指示のもと魔力制御の練習をする。エヴァトリスとルルーシュの付き添いがない場合は聖女の部屋に行って日記を読む。カタリーナは魔力制御の変化もほとんど得られず、日記からも知りたいことは知れず・・・。不本意ながら、本当に変わらない時間が過ぎていくだけった。
そうこうする内にエヴァトリスの誕生祭を3日後に控えた今日、カタリーナは王宮に移り住むために馬車で移動を開始した。
現国王の唯一の子どもであるエヴァトリスの誕生日は毎年盛大に祝われ、王宮では準備が慌ただしく進んでいる。当日、前日ほどではないが今日も忙しく準備が始められている。王宮での忙しさもあるため、エヴァトリスの誕生日の宴が終わってからの引越しを申し出ていたが、それならばと嬉々として「では、誕生祭の前に引っ越しの日を変更しましょう」と王妃に言われる始末。それに笑顔で頷くエヴァトリス王子と、少し申し訳なさそうにでも仕方ないと傍観を決めている国王を前にカタリーナは断りきることはできなかった。輿入れではないが、自宅からの馴染みの侍女を連れてきてもよい、家族との面会の自由など王宮に滞在する者としては優遇された条件をつけられたこともあり、宰相をしている父も断りきれなかったようだ。
引っ越しの準備は前日から慌ただしく行われていた。といっても、公爵令嬢であるカタリーナの出番はほとんどないし、貴重品以外は以前持っていったため荷物もほとんどない。そして、前回の荷物まとめの時もそうであったが、それほど物に執着のないカタリーナの指示した物はそれほど多くない。数着のドレスとお気に入りの宝石や文具、それと今までにエヴァトリスから贈られてきた品々だ。カタリーナが指示した品物の中で一番多くのスペースをとるものがエヴァトリスからの贈り物であることは間違いないだろう。そんな事を思いながら侍女達によって片付けられていく物達を部屋の隅から眺めていると部屋にノックが鳴り響く。食事の時間にもお茶の時間にも早いため、誰の訪室かと考えるが拒否をする必要もないため返事をすると開けられたドアの前にいたのは母だった。
「どう?準備は進んでいる?」
「はい。おかげで順調に進んでおります。」
もうほどんと詰め終わっている状態であったため、カタリーナはその質問に対して笑顔で答えたが、馴染みの侍女達は少し困り顔である。侍女達の反応に疑問が残ったが思い当たることのないカタリーナはあえて聞くことはしない。しかし、荷物の量を見た母は少し疑問を感じた様子をみせ今度は侍女達に声をかける。
「カタリーナの持ち物はどれぐらいになりそう?」
これ以上ない的確な質問だったのであろう。少し困り顔の侍女達はホッとしたように
「ここに出ているものが全てでございます。」
と答える。そう、荷物をまとめる際に侍女から持ち物が少ないことへの指摘を受けていたがカタリーナは不要と断っていたのだ。それをまさか母の登場により告げ口されることになるとは思っても見なかったのでカタリーナは慌てて反論する。
「前回荷物をまとめた際にほとんど王宮に方へ持って行ったんです。いえ、あの・・・、それに、あまり多くを持ち込んで、ご迷惑をかけても申し訳ないので」
母の厳しい視線にカタリーナの声は尻すぼみになっていく。
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そう言ってカタリーナは自室から追い出される羽目になった。
そして引っ越し当日馬車に運び込まれる荷物を見てカタリーナは唖然とした。カタリーナが最初に指示した荷物の量の3倍にはなっていたからだ。何を増やしたのか母に質問するが
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の一言で終わってしまい、荷ほどきの時に何が出てくるの想像できないカタリーナは背中に嫌な汗を感じる。
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最後にすこしふざけた口調で話しながら家族と視線を合わせたあと、見送りに出てくれた使用人達にも視線を向けると、何人かの使用人は涙をながしていた。幼少期が嘘のように良好な関係を使用人とも築くことができたのでは思いエステルの笑みは深まった。最後に家族にまた視線を戻すと母が口を開く。
「お嫁に行ったとしても、ここはいつまでもあなたの家で私たちが家族なのを忘れないで。王子の婚約者でも、王太子妃でも、そして今後王妃になってあなたの立場がどう変わったとしても私たちはカタリーナの味方よ」
母の言葉にカタリーナの目に水の膜が張り、思わず母に抱きついてしまう。
「ありがとうございます。私はこの家に生まれ、育つことができし幸せです」
話しながら数滴の涙がこぼれた。淑女としては褒められた行為ではないがこの場で咎める者は誰もいない。落ち着いたタイミングで父が
「そろそろ、出ようか。」
と声をかけ、馬車に乗るよう促す。
「姉上、時々は顔を見せに帰ってきてよ。殿下が離してくれないかもしれないけど」
ルルーシュの砕けた口調にカタリーナはプッと吹き出す。今までのシリアスな雰囲気が台無しだが、カタリーナはこの空気が好きだった。
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