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2章
一時の休息
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急だったにも関わらず、公爵家に帰宅した時には家族みんなに出迎えられた。仕事に行っているはずの父までいた事に、カタリーナは驚いたが、父の瞳に不安の色が見え隠れしているのを見て申し訳ない気持ちになる。きっと心配して出迎えのために時間を作ったのだろう。
カタリーナは「大丈夫」という思いをのせて父に微笑むと、父からは少し困った様な笑顔を返される。カタリーナのから元気は父にはバレバレの様だ。
「もうすぐ貴女がこの家を出て4ヶ月よ!もう、まだお嫁に言ったわけじゃないんだからそんなに頑張らなくていいから、こまめに帰ってくれば良いのに」
母の少し拗ねた様な言い方が懐かしい。少し呆れた様な目でみるルルーシュが懐かしい。たった、4ヶ月の間離れただけだったがカタリーナにとってここが落ち着く場所なのは間違えようのない事実だった。
「ただいま!覚えることがたくさんで時間がとれなかったの。」
急に帰ってきた言い訳としては少し無理があるが、それを口に出すものは誰もいない。滞在期間がどれくらいになるかを聞く人もいない。自分の意思で家を出ることにしたカタリーナにはそれが少し申し訳なく感じてしまった。
昼食を家族で一緒にとるが王宮での生活について質問してくる人は誰もいなかった。使用人の○○の家に孫が産まれた、庭師が新しい苗を買ってきたら見たこともない花が咲いたなど、母とルルーシュが最近公爵家で起きたことを話しているだけだった。王宮での生活が慌ただしいものだったせいかぬるま湯に浸かっている様な気持ちになるカタリーナだった。
王宮を出て気づくと1週間ほど経とうとしているが、カタリーナはボーっとしていた。
本を読もうとしても集中できずに同じところを繰り返す。
刺繍をすればさし間違える。
公爵家を散歩していても上の空。
夜中は夢を見てなんども目が覚める。
休んでいるのに休めない。疲れがたまる。それは次第に不眠というしっかりとした形となってカタリーナに現れる。
真っ暗な世界でカタリーナは目が覚める。目が覚めると言うのはおかしな表現かもしれない。ぼんやりとだが、ここが夢の中である事が分かったからだ。声が聞こえる。男性の声だ。
「×××、ダメだ。お願いだから・・・。」
顔も名前もわからない相手なのになぜか夫に呼ばれているのだけは分かる。呼ばれているのに前世の自分は動くことも応えることもできない。ただ、目から涙がこぼれたのだけは分かった。
そうしてはっと目が覚める。
この夢が何を意味しているのかわからないが、公爵家に帰ってきてから毎日の様に同じ夢をみて、悲しみに包まれて目がさめる。その夢を繰り返し、不眠となり・・・次第にカタリーナ自身が自分に限界を感じるようになってきた。
そんな中、神殿から手紙が届く。手紙の主はリシャールだった。
「お久しぶりです。公爵家に一時的に戻られたと伺いました。ご都合良い時にまた神殿にいらしてください。」
丁寧な語尾での文章とはなっているが、季節の挨拶もなく唐突に始まった要件だけ述べてある手紙に驚きつつも、思わず笑ってしまうカタリーナ。そのまま、翌日に伺う返事を書き侍女に渡す。
その日の夕方、神殿を訪れることを家族に伝えると、とても心配された。
カタリーナが眠れていないことも、少し体重が落ちたことも家族は気づいていたのだろう。
体調がすぐれないこともあり、家族は必死で止めてくるがカタリーナも引かない。
「他の方と話すと気分転換になるかもしれないので」
結局その言葉を武器に押しきるような形でカタリーナは外出を決めた。ルルーシュが付き添いを申し出たが、話の内容が約束していた聖女関係と予想ができたため、カタリーナは断った。だがルルーシュも引く気配はなく、以前エヴァトリスとした『神殿に行く時はエヴァトリスかルルーシュを付き添いにする』という約束を持ち出してまで、ついてこようとする。しかし、それは父に止められた。
「機密に関する話になるのだろう、ルルーシュはまだ同席できない」
それ以上ルルーシュは何も言うことはできなかった。
翌日カタリーナは何かを言いたげなルルーシュを残し馬車で神殿へ向かう。
馬車で神殿に向かいながら、外を眺める。眺めている間、カタリーナは昨夜のことを思い出す。
夕食の後カタリーナは父の書斎に呼ばれた際に「辛いならば辞めるか?」と言われたのだ。『何をやめる』と明言された訳ではないが、このタイミングであり王家に嫁ぐことを、示唆しているのは容易に分かった。明確な返事は何もできないカタリーナは
「まだわかりません」
とそのままの気持ちを応え部屋を出る。部屋を出る直前に父の声が聞こえた。
「ごめん」
小さく呟やかれた声をカタリーナは聞かないふりをしたのだった。
神殿では、リシャールが待っており、カタリーナを見るなりやわらかく微笑む。リシャールの笑顔は不思議な気持ちにさせられる。
そのまま、連れ立って聖女の部屋へと向かうことになった。
カタリーナは「大丈夫」という思いをのせて父に微笑むと、父からは少し困った様な笑顔を返される。カタリーナのから元気は父にはバレバレの様だ。
「もうすぐ貴女がこの家を出て4ヶ月よ!もう、まだお嫁に言ったわけじゃないんだからそんなに頑張らなくていいから、こまめに帰ってくれば良いのに」
母の少し拗ねた様な言い方が懐かしい。少し呆れた様な目でみるルルーシュが懐かしい。たった、4ヶ月の間離れただけだったがカタリーナにとってここが落ち着く場所なのは間違えようのない事実だった。
「ただいま!覚えることがたくさんで時間がとれなかったの。」
急に帰ってきた言い訳としては少し無理があるが、それを口に出すものは誰もいない。滞在期間がどれくらいになるかを聞く人もいない。自分の意思で家を出ることにしたカタリーナにはそれが少し申し訳なく感じてしまった。
昼食を家族で一緒にとるが王宮での生活について質問してくる人は誰もいなかった。使用人の○○の家に孫が産まれた、庭師が新しい苗を買ってきたら見たこともない花が咲いたなど、母とルルーシュが最近公爵家で起きたことを話しているだけだった。王宮での生活が慌ただしいものだったせいかぬるま湯に浸かっている様な気持ちになるカタリーナだった。
王宮を出て気づくと1週間ほど経とうとしているが、カタリーナはボーっとしていた。
本を読もうとしても集中できずに同じところを繰り返す。
刺繍をすればさし間違える。
公爵家を散歩していても上の空。
夜中は夢を見てなんども目が覚める。
休んでいるのに休めない。疲れがたまる。それは次第に不眠というしっかりとした形となってカタリーナに現れる。
真っ暗な世界でカタリーナは目が覚める。目が覚めると言うのはおかしな表現かもしれない。ぼんやりとだが、ここが夢の中である事が分かったからだ。声が聞こえる。男性の声だ。
「×××、ダメだ。お願いだから・・・。」
顔も名前もわからない相手なのになぜか夫に呼ばれているのだけは分かる。呼ばれているのに前世の自分は動くことも応えることもできない。ただ、目から涙がこぼれたのだけは分かった。
そうしてはっと目が覚める。
この夢が何を意味しているのかわからないが、公爵家に帰ってきてから毎日の様に同じ夢をみて、悲しみに包まれて目がさめる。その夢を繰り返し、不眠となり・・・次第にカタリーナ自身が自分に限界を感じるようになってきた。
そんな中、神殿から手紙が届く。手紙の主はリシャールだった。
「お久しぶりです。公爵家に一時的に戻られたと伺いました。ご都合良い時にまた神殿にいらしてください。」
丁寧な語尾での文章とはなっているが、季節の挨拶もなく唐突に始まった要件だけ述べてある手紙に驚きつつも、思わず笑ってしまうカタリーナ。そのまま、翌日に伺う返事を書き侍女に渡す。
その日の夕方、神殿を訪れることを家族に伝えると、とても心配された。
カタリーナが眠れていないことも、少し体重が落ちたことも家族は気づいていたのだろう。
体調がすぐれないこともあり、家族は必死で止めてくるがカタリーナも引かない。
「他の方と話すと気分転換になるかもしれないので」
結局その言葉を武器に押しきるような形でカタリーナは外出を決めた。ルルーシュが付き添いを申し出たが、話の内容が約束していた聖女関係と予想ができたため、カタリーナは断った。だがルルーシュも引く気配はなく、以前エヴァトリスとした『神殿に行く時はエヴァトリスかルルーシュを付き添いにする』という約束を持ち出してまで、ついてこようとする。しかし、それは父に止められた。
「機密に関する話になるのだろう、ルルーシュはまだ同席できない」
それ以上ルルーシュは何も言うことはできなかった。
翌日カタリーナは何かを言いたげなルルーシュを残し馬車で神殿へ向かう。
馬車で神殿に向かいながら、外を眺める。眺めている間、カタリーナは昨夜のことを思い出す。
夕食の後カタリーナは父の書斎に呼ばれた際に「辛いならば辞めるか?」と言われたのだ。『何をやめる』と明言された訳ではないが、このタイミングであり王家に嫁ぐことを、示唆しているのは容易に分かった。明確な返事は何もできないカタリーナは
「まだわかりません」
とそのままの気持ちを応え部屋を出る。部屋を出る直前に父の声が聞こえた。
「ごめん」
小さく呟やかれた声をカタリーナは聞かないふりをしたのだった。
神殿では、リシャールが待っており、カタリーナを見るなりやわらかく微笑む。リシャールの笑顔は不思議な気持ちにさせられる。
そのまま、連れ立って聖女の部屋へと向かうことになった。
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