2 / 2
走る
しおりを挟む
「ま、魔女?・・・・コスプレではなく?」
「あらま、信じられないの?」
混乱のあまり口走った言葉に、魔女は首をかしげる。不機嫌そうに、というわけでもなく、どちらかというと驚いているようだ。
「困ったわぁ、どうしたら信じてくれるかしら?」
「ど、どうしたら、っていわれても・・・」
その美貌で困り眉なんてしないでほしい。ぶっちゃけ恐怖と緊張は彼女の素顔を見た瞬間に吹き飛んでいるのだが、魔女と名乗る理由はまったくわからないからだ。信じてくれる?などと聞かれても、それこそ魔法をみせるとか、精霊を召喚するとか、そういうのくらいだ。
「魔法を使ったり、とか・・?」
「あ~!その手があったわね」
恐る恐る疑問形で言ってみると、納得してくれたようでくるっと田代の前で一周してみせた。そうすると先程まで持っていなかった茶色の杖が手元にあるではないか。
いよいよ理解が及ばなくなってきた。いまからどんな事が起こってしまうのか。本当に彼女が魔女だったらどうするんだ!?
昔から転生、憑依、召喚系のラノベを読み漁り、一般人よりもそういうことへの理解が深かった田代は、思いつきでこぼした今の言葉を公開してはいなかった。怖いし今すぐ家に帰りたい。でも、一度くらいこういう奇跡を体験してみてもいいんじゃないだろうか。
そして、彼女が杖を振って火花をちらしたのを田代は濁った目に焼き付けた。
「これで、どうかしらね!」
その火花は小さな人型へと変貌し、だいたい田代のヒザ下くらいまでの大きさになった。顔はないが二本の足のようなもので自立している。とおもえば、田代のそばまで来てくるくると回っているではないか。その無邪気とも思える行動に田代はつい手を伸ばした。
するとバチッという音がなり、人型は火花をちらして消えてしまった。
「これが魔法?」
「ふふ、かわいいでしょう」
一つ消えた人型を認知したのか、他の人型は魔女の方へ駆け寄り、くるくると回り続けた。
魔法と言うには無邪気、そして現実味がない先程の火花の感触。痛みはなかったが光の感触のようなものを感じたのだ。
「・・あれ」
ふと、火花に触れた左手を見ると、手の甲に奇妙な文様が浮かび上がっていた。円陣に炎のような印。まるで本物の___
「あなた、気に入ったわ。やっぱり、あなたのような者が育てるのがふさわしいわね」
魔女はうろたえる田代を気にせず、妙な言葉を発する。
気に入った、ふさわしい?
「さ、もう行きなさい。じきにここはなくなるから、足元に気をつけてね」
しかし田代が理解をする前に、魔女はなんの前触れもなく消えた。蛇もいない。
ただ、柳の木だけが彼女の存在を表すかのように、不気味に揺れているだけであった。
*
「ちょ、ちょっと待て待て待て待て」
腰が抜けたままの田代は頭を抱えながら今の出来事を整理する。
今魔女が消えた。いや、そもそもいたのだろうか。幻覚を見ていて実際の自分はもうマンションにたどり着いて、疲労故にこんなものを見ているとか。
そんな希望を考えてみても、顔を殴った痛みと左手の証が今起こったことは事実なのだと突きつけてくる。
なんということだろう。自分はさきほど、本物のファンタジーを経験したということになるのだ。
「・・・・最高か?」
ぽつりとこぼれた言葉は本心だ。怖かったけど。この目で魔法を見て、魔女に会って・・・・・
そのとき、田代は魔女の言葉を思い出す。
『じきにここはなくなるから、足元に気をつけてね』
そんな事を言っていた気がする。なくなる、とはどういうことだろうか。もしかして異空間のようなところで、魔法が解けるといつもの道に戻ったりするんだろうか。いやそれならば、なんで足元に気をつけてだなんて・・・・
思案する暇もなく、突如下から地鳴りのような音がした。一秒も立たずに眼の前の道が崩れ落ちる。田代はビールが入ったビニール袋を持ってコンビがあった方向へと走り出した。もちろんなんとなくなので本当にコンビニの方向なのかはわからないのだが、とにかく今は逃げなければ。
「く、くそぉぉぉぉぉぉぉっ」
しかしこの数年間デスクワーク生活、ろくに運動もしてこなかった社畜などが瓦解する土のスピードに勝るわけでもなく、あっけなく田代は土と木とともに下へ落ちていった。
「あらま、信じられないの?」
混乱のあまり口走った言葉に、魔女は首をかしげる。不機嫌そうに、というわけでもなく、どちらかというと驚いているようだ。
「困ったわぁ、どうしたら信じてくれるかしら?」
「ど、どうしたら、っていわれても・・・」
その美貌で困り眉なんてしないでほしい。ぶっちゃけ恐怖と緊張は彼女の素顔を見た瞬間に吹き飛んでいるのだが、魔女と名乗る理由はまったくわからないからだ。信じてくれる?などと聞かれても、それこそ魔法をみせるとか、精霊を召喚するとか、そういうのくらいだ。
「魔法を使ったり、とか・・?」
「あ~!その手があったわね」
恐る恐る疑問形で言ってみると、納得してくれたようでくるっと田代の前で一周してみせた。そうすると先程まで持っていなかった茶色の杖が手元にあるではないか。
いよいよ理解が及ばなくなってきた。いまからどんな事が起こってしまうのか。本当に彼女が魔女だったらどうするんだ!?
昔から転生、憑依、召喚系のラノベを読み漁り、一般人よりもそういうことへの理解が深かった田代は、思いつきでこぼした今の言葉を公開してはいなかった。怖いし今すぐ家に帰りたい。でも、一度くらいこういう奇跡を体験してみてもいいんじゃないだろうか。
そして、彼女が杖を振って火花をちらしたのを田代は濁った目に焼き付けた。
「これで、どうかしらね!」
その火花は小さな人型へと変貌し、だいたい田代のヒザ下くらいまでの大きさになった。顔はないが二本の足のようなもので自立している。とおもえば、田代のそばまで来てくるくると回っているではないか。その無邪気とも思える行動に田代はつい手を伸ばした。
するとバチッという音がなり、人型は火花をちらして消えてしまった。
「これが魔法?」
「ふふ、かわいいでしょう」
一つ消えた人型を認知したのか、他の人型は魔女の方へ駆け寄り、くるくると回り続けた。
魔法と言うには無邪気、そして現実味がない先程の火花の感触。痛みはなかったが光の感触のようなものを感じたのだ。
「・・あれ」
ふと、火花に触れた左手を見ると、手の甲に奇妙な文様が浮かび上がっていた。円陣に炎のような印。まるで本物の___
「あなた、気に入ったわ。やっぱり、あなたのような者が育てるのがふさわしいわね」
魔女はうろたえる田代を気にせず、妙な言葉を発する。
気に入った、ふさわしい?
「さ、もう行きなさい。じきにここはなくなるから、足元に気をつけてね」
しかし田代が理解をする前に、魔女はなんの前触れもなく消えた。蛇もいない。
ただ、柳の木だけが彼女の存在を表すかのように、不気味に揺れているだけであった。
*
「ちょ、ちょっと待て待て待て待て」
腰が抜けたままの田代は頭を抱えながら今の出来事を整理する。
今魔女が消えた。いや、そもそもいたのだろうか。幻覚を見ていて実際の自分はもうマンションにたどり着いて、疲労故にこんなものを見ているとか。
そんな希望を考えてみても、顔を殴った痛みと左手の証が今起こったことは事実なのだと突きつけてくる。
なんということだろう。自分はさきほど、本物のファンタジーを経験したということになるのだ。
「・・・・最高か?」
ぽつりとこぼれた言葉は本心だ。怖かったけど。この目で魔法を見て、魔女に会って・・・・・
そのとき、田代は魔女の言葉を思い出す。
『じきにここはなくなるから、足元に気をつけてね』
そんな事を言っていた気がする。なくなる、とはどういうことだろうか。もしかして異空間のようなところで、魔法が解けるといつもの道に戻ったりするんだろうか。いやそれならば、なんで足元に気をつけてだなんて・・・・
思案する暇もなく、突如下から地鳴りのような音がした。一秒も立たずに眼の前の道が崩れ落ちる。田代はビールが入ったビニール袋を持ってコンビがあった方向へと走り出した。もちろんなんとなくなので本当にコンビニの方向なのかはわからないのだが、とにかく今は逃げなければ。
「く、くそぉぉぉぉぉぉぉっ」
しかしこの数年間デスクワーク生活、ろくに運動もしてこなかった社畜などが瓦解する土のスピードに勝るわけでもなく、あっけなく田代は土と木とともに下へ落ちていった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
王様の恋
うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」
突然王に言われた一言。
王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。
ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。
※エセ王国
※エセファンタジー
※惚れ薬
※異世界トリップ表現が少しあります
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
【8話完結】僕の大切な人はBLゲームの主人公でした。〜モブは主人公の幸せのためなら、この恋も諦められます〜
キノア9g
BL
転生先は、まさかのBLゲームの世界。
モブであるリセルは、恋を自覚した瞬間、幼馴染・セスがこの世界の“主人公”だと気づいてしまう。
このまま一緒にいても、いつか彼は攻略対象に惹かれていく運命——それでも、今だけは傍にいたい。
「諦める覚悟をしたのに、どうしてこんなにも君が愛おしいんだろう」
恋の終わりを知っているモブと、想いを自覚していく主人公。
甘さと切なさが胸を締めつける、すれ違いから始まる運命の物語。
全8話。
残念でした。悪役令嬢です【BL】
渡辺 佐倉
BL
転生ものBL
この世界には前世の記憶を持った人間がたまにいる。
主人公の蒼士もその一人だ。
日々愛を囁いてくる男も同じ前世の記憶があるらしい。
だけど……。
同じ記憶があると言っても蒼士の前世は悪役令嬢だった。
エブリスタにも同じ内容で掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる