8 / 28
ふわふわたくさん
しおりを挟むたくさん寝たおかげで無事熱も下がり、元気いっぱい。パパを思い出すと悲しくなるけど、時間が解決してくれているのか、初めのころよりはだいぶましになった。
今日のお昼はディリアが料理長に頼み、私でも食べられるパンケーキを一緒に食す予定だ。すごく楽しみ。
ソファーの上で足をぶらぶらさせながらマドにーにの帰りを待つ。
マドにーには約束通り、いつもより早く帰ってきてくれた。
「おかえり!」
「ふふ、ただいま」
ソファーから降りてマドにーにに抱き着く。軽々と受け止めたマドにーには、私の手のひらと自分の手のひらを重ねると、ぎゅっと握った。
「熱も下がったみたいだね。じゃあ、行こうか」
「うん!」
繋がった手をぶんぶん振りながら喜びを表す。くすくすと笑うマドにーにに案内してもらいながら温室まで向かった。
ちなみに、後ろからマドにーにと私の護衛アンド侍女がついてきているので結構な大名行列と化していたと思う。
温室まで幼児の足では辿り着けず、途中からマドにーにに抱っこしてもらった。私がギブアップするのは分かっていたようで、歩く速度が少し遅くなった瞬間抱き上げられた。
抱っこのお陰で向かうスピードは上がったが、思ったより遠くて、辿り着くまでに結構掛かった。
もう少し大きくならないと、私一人では歩き切れないと思う。
温室に着くまでキョロキョロと周りを観察して思ったのだが、本当にこの城は広すぎる。
東京ドームが何個も入るくらい大きいと思う。
整備された道に、区画された建物。デザインや雰囲気が建物によって異なり、マドにーにへ気になる建物を指さしで聞くと、騎士のための建物、魔法使いのための建物、研究するための建物、お金の管理をするための建物など、分かりやすい言葉で教えてくれた。
騎士と魔法使いの建物が、私から見て右と左で離れた場所にあったので理由を聞くと、困ったように笑いながら、喧嘩しちゃうから、と答えた。
「わあっ! ふわふわたくさんある!」
徐々に言葉を覚えてきているものの、咄嗟にはまだ上手く言葉が出てこない。初めて学ぶ言葉だからというのもあるが、前世の大人だった時の自我より今の幼児の自我の方が大きくて、どうしても考え方や気持ちが幼いものとなってしまう。
現に今も、お花という言葉が出てこず、ふわふわといった擬音語で表現してしまった。
マドにーには、ふわふわが何を意味するのかすぐに分かったようで、綺麗でしょう? とにっこり笑いながら答えてくれた。
「きれい! リシアここすき!」
「ふふ、気に入って貰えて嬉しいよ。取りすぎなければ、好きなお花を摘んでもいいからね」
「いいのー?」
「もちろん」
嬉しくなって、きゃっきゃとはしゃぎながらマドにーにが私を下に下ろしてくれた瞬間、よちよちと駆け出した。
可愛い愛らしいと、侍女達がよちよち姿の私を見ながらほうっと頬を赤くしていて、とっても気分が良くなった。
可愛かろ? もっともっと好きになって。
適当なところに座り込み、色とりどりのお花をつついたり、匂いを嗅いだりして観察する。
前世、お花に興味はなかったが、それでもこの世界のお花が少なくとも日本にはないだろうと言うことは分かる。
不思議な形をしていたり、甘い匂いを放っていたり、目でも匂いでも楽しめる。
1つ、オレンジ色のお花をちぎると、立ち上がってよちよちとディリアの元へ向かった。
「ディーア!」
ディリアと、たまにしか発音できない自分の口が恨めしい。嫌な顔ひとつせず返事をしてくれるディリアは、優しくて美人で大好きだ。
「リフレシア様?」
しゃがんで目線を合わせてくれる。
私は恥ずかしそうにモジモジしながら、あのね、と上目遣いでディリアを見つめた。
「いちゅも、ありがと。……だいちゅき」
たちつてとは調子が良ければ上手く発音できるが、大好きをだいちゅきに変えたり、わざと舌っ足らずを演じることもある。愛され作戦だ。
手に持っていたオレンジ色のお花をディリアに差し出す。茶髪にオレンジの瞳を持つディリアに似合うと思ったのだ。
ドキドキと反応を待っていると、ふわっと抱きしめられた。
「愛おしいリフレシア様。……大切に致します」
ディリアの声は震えていて、少し涙ぐんでいた。
体を離し、私の手からお花を受け取ったディリアは宝物を扱うようにそうっとお花を顔に寄せ、匂いを嗅いだ。
「私も大好きです」
もう一度私を抱き寄せると、そう耳元で呟いてくれた。
「全く、リシアは本当に可愛いね」
マドにーにが、優しく頭を撫でてくれる。ディリアは私を離し、3歩ほど後ろに下がった。
私付きの侍女が羨ましそうにディリアの持つお花を見ていて、いつかみんなにもプレゼントしたいなと思った。
マドにーにの護衛と侍女が驚きの表情で私を見ているのに気づき、そう言えばと思い出した。
マドにーには私の部屋に遊びに来る時、自分の護衛と侍女は部屋の外に待機させていた。
部屋には私の侍女達がいるので、入る必要がなかったのだ。
だから、私の愛想愛嬌媚びへつらう姿を見るのは初めてだと思う。
マドにーにの護衛と侍女との初対面時、パパにより外に連れ出された私をマドにーにが引き取り、部屋に戻るまでの短い間一緒にいたが、対して話して居ないので私の性格など測れるはずがない。
今日をきっかけに、マドにーにの護衛達も私を好きになってくれたらいいなー。
24
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる