29 / 42
第一章
29 αは憤慨する
しおりを挟む
「突然来て悪かったね、レジナルド」
「…………」
「オイオイ~、そんな嫌そうな顔をするなよ。元はと言えば、君が私の願いを聞き入れてくれないのが悪い、そうは思わないかい?」
「思わない。さっさと帰れ」
「私に対してそんな口を利くのは、王族以外では君だけだよ」
侯爵邸の庭園のガゼボで優雅にお茶を飲みながら、愉快そうに笑う男の名はリチャード・アーヴィング。アーヴィング公爵家の次男で、輝く赤い髪は王家の血を引いている証しだ。レジナルドとは同い年で学園では同級生、現在は共に近衛騎士だ。
王家の血を引いているため特別扱いされることが多いので、普通に接するレジナルドを気に入っている。が、レジナルドの方は好きでも嫌いでも取り入りたいわけでもないので、親友として接してくるリチャードには戸惑い、若干迷惑に思っている。
「滅多に休暇を取らない君が長期休暇の希望を出すなんて、どうしたのかと話題になっていてね。領地や侯爵様に何かあったのか、いやランドール様は何も変わりないから違うだろう。それじゃあ縁談か? そういえば最近、宿舎ではなく家に帰っている。もう相手がいるんじゃないか? ということは、番か? 番ができたのか? 番休暇か? とね。でももしそうならば、どうして私が何も聞いていない? 親友なのに!」
「いつ親友になった。ただの同僚だ」
「も~レジナルド、そんなつれないことを言って~。照れなくていいんだよ? まあ、そういうわけでわざわざ来てあげたのだから、紹介してよ、君の番を」
「来てくれと頼んでいないし、そもそも来ていいと許可した覚えもない。それにまだ番じゃない」
「へえ、じゃあやっぱり今回の長期休暇で番になるんだ」
ニヤニヤしながら見てくるリチャードにイラッとする。
「これまで番も結婚も必要ないとか言ってたくせに……よっぽど気に入ったんだね」
「別に気に入っているわけじゃない!」
「え~、そんなこと言って~。親友の私には照れずに正直に話せばいいのに。縁談?」
「そうじゃない」
「施設から迎えたの?」
「違う」
「ということは恋愛か! 驚いた! 君がそんな情熱的だったとは!」
「たまたまだ! 偶然出会ってあいつのヒートに当てられて関係を持っただけだ」
「へえ~、そうだったの」
「そうだ。だから情熱とかそういうのでは全くなく、番になるのだって仕方がなく」
「え~? そうなの? ん~、もし困っているのなら私が引き取ろうか?」
「はっ?」
突然の提案に、動きが止まる。
「引き取るって、どういう……」
「私の番にしてあげるってことだよ」
「お前、オメガの婚約者がいるだろう」
「いるよ、可愛い婚約者がね。でも私は王家の血筋だから、複数のオメガと 番えるんだよ。まあこれまで複数の番を持つつもりは無かったけれど、一人くらい増えても大丈夫だよ」
「いや、しかし」
「ちゃんと大切に扱うから安心していいよ。フフッ、可愛い子じゃない」
「はっ?」
「さっきからこっちを窺ってるよ。隠れているつもりらしいけど……フフッ、可愛いオメガはすぐわかるよ」
「はあっ?」
顔をしかめると、リチャードはピシッとレジナルドの後ろを指さした。
「あそこに隠れているのが、そのオメガの子でしょう?」
驚き振り返ってみるが、姿は見えない。
「君! 出ておいで。叱らないから」
その言葉の後、腰の高さ程の生垣から、金色の頭がひょこりと現れた。
「あ、の……すみません……」
深く頭を下げるユリウスを、リチャードはニコニコと、そしてレジナルドは物凄い形相で見る。
「す、すみませんっ! 失礼しますっ!」
「あー、待って待って。君、名前は?」
「ユ、リウス、です」
「ユリウスかぁ。何歳?」
「じゅうはち、です」
「十八歳かぁ。いいね、可愛い。気に入ったよ」
「え、あの……?」
「ユリウス!」
「え? あ、はい」
いつもより低い声で名を呼ばれ、ユリウスはおそるおそるとレジナルドを見た。
「部屋に戻ってろ」
「あ……はい、失礼します」
頭を下げ、ユリウスは屋敷の方へ走って行った。
「あ~あ、あの子、怯えてたよ? いつもあんな風に接しているの? いくら本意じゃなくてもさぁ、あれは可哀想だと」
「リチャード」
「ん?」
「用があるんだ、帰ってくれ」
「え~、でも……あ~、わかったわかった、そんな怖い顔しないでよ、帰るから。じゃあさっきの彼、いつ寄越してもいいからね」
そう言ってリチャードは帰っていき、
「…………」
ギリッと奥歯を噛みしめ、両手をきつく握りしめたレジナルドは、厳しい表情のまま屋敷に向かった。
「…………」
「オイオイ~、そんな嫌そうな顔をするなよ。元はと言えば、君が私の願いを聞き入れてくれないのが悪い、そうは思わないかい?」
「思わない。さっさと帰れ」
「私に対してそんな口を利くのは、王族以外では君だけだよ」
侯爵邸の庭園のガゼボで優雅にお茶を飲みながら、愉快そうに笑う男の名はリチャード・アーヴィング。アーヴィング公爵家の次男で、輝く赤い髪は王家の血を引いている証しだ。レジナルドとは同い年で学園では同級生、現在は共に近衛騎士だ。
王家の血を引いているため特別扱いされることが多いので、普通に接するレジナルドを気に入っている。が、レジナルドの方は好きでも嫌いでも取り入りたいわけでもないので、親友として接してくるリチャードには戸惑い、若干迷惑に思っている。
「滅多に休暇を取らない君が長期休暇の希望を出すなんて、どうしたのかと話題になっていてね。領地や侯爵様に何かあったのか、いやランドール様は何も変わりないから違うだろう。それじゃあ縁談か? そういえば最近、宿舎ではなく家に帰っている。もう相手がいるんじゃないか? ということは、番か? 番ができたのか? 番休暇か? とね。でももしそうならば、どうして私が何も聞いていない? 親友なのに!」
「いつ親友になった。ただの同僚だ」
「も~レジナルド、そんなつれないことを言って~。照れなくていいんだよ? まあ、そういうわけでわざわざ来てあげたのだから、紹介してよ、君の番を」
「来てくれと頼んでいないし、そもそも来ていいと許可した覚えもない。それにまだ番じゃない」
「へえ、じゃあやっぱり今回の長期休暇で番になるんだ」
ニヤニヤしながら見てくるリチャードにイラッとする。
「これまで番も結婚も必要ないとか言ってたくせに……よっぽど気に入ったんだね」
「別に気に入っているわけじゃない!」
「え~、そんなこと言って~。親友の私には照れずに正直に話せばいいのに。縁談?」
「そうじゃない」
「施設から迎えたの?」
「違う」
「ということは恋愛か! 驚いた! 君がそんな情熱的だったとは!」
「たまたまだ! 偶然出会ってあいつのヒートに当てられて関係を持っただけだ」
「へえ~、そうだったの」
「そうだ。だから情熱とかそういうのでは全くなく、番になるのだって仕方がなく」
「え~? そうなの? ん~、もし困っているのなら私が引き取ろうか?」
「はっ?」
突然の提案に、動きが止まる。
「引き取るって、どういう……」
「私の番にしてあげるってことだよ」
「お前、オメガの婚約者がいるだろう」
「いるよ、可愛い婚約者がね。でも私は王家の血筋だから、複数のオメガと 番えるんだよ。まあこれまで複数の番を持つつもりは無かったけれど、一人くらい増えても大丈夫だよ」
「いや、しかし」
「ちゃんと大切に扱うから安心していいよ。フフッ、可愛い子じゃない」
「はっ?」
「さっきからこっちを窺ってるよ。隠れているつもりらしいけど……フフッ、可愛いオメガはすぐわかるよ」
「はあっ?」
顔をしかめると、リチャードはピシッとレジナルドの後ろを指さした。
「あそこに隠れているのが、そのオメガの子でしょう?」
驚き振り返ってみるが、姿は見えない。
「君! 出ておいで。叱らないから」
その言葉の後、腰の高さ程の生垣から、金色の頭がひょこりと現れた。
「あ、の……すみません……」
深く頭を下げるユリウスを、リチャードはニコニコと、そしてレジナルドは物凄い形相で見る。
「す、すみませんっ! 失礼しますっ!」
「あー、待って待って。君、名前は?」
「ユ、リウス、です」
「ユリウスかぁ。何歳?」
「じゅうはち、です」
「十八歳かぁ。いいね、可愛い。気に入ったよ」
「え、あの……?」
「ユリウス!」
「え? あ、はい」
いつもより低い声で名を呼ばれ、ユリウスはおそるおそるとレジナルドを見た。
「部屋に戻ってろ」
「あ……はい、失礼します」
頭を下げ、ユリウスは屋敷の方へ走って行った。
「あ~あ、あの子、怯えてたよ? いつもあんな風に接しているの? いくら本意じゃなくてもさぁ、あれは可哀想だと」
「リチャード」
「ん?」
「用があるんだ、帰ってくれ」
「え~、でも……あ~、わかったわかった、そんな怖い顔しないでよ、帰るから。じゃあさっきの彼、いつ寄越してもいいからね」
そう言ってリチャードは帰っていき、
「…………」
ギリッと奥歯を噛みしめ、両手をきつく握りしめたレジナルドは、厳しい表情のまま屋敷に向かった。
3
あなたにおすすめの小説
【完結済】どんな姿でも、あなたを愛している。
キノア9g
BL
かつて世界を救った英雄は、なぜその輝きを失ったのか。そして、ただ一人、彼を探し続けた王子の、ひたむきな愛が、その閉ざされた心に光を灯す。
声は届かず、触れることもできない。意識だけが深い闇に囚われ、絶望に沈む英雄の前に現れたのは、かつて彼が命を救った幼い王子だった。成長した王子は、すべてを捨て、十五年もの歳月をかけて英雄を探し続けていたのだ。
「あなたを死なせないことしか、できなかった……非力な私を……許してください……」
ひたすらに寄り添い続ける王子の深い愛情が、英雄の心を少しずつ、しかし確かに温めていく。それは、常識では測れない、静かで確かな繋がりだった。
失われた時間、そして失われた光。これは、英雄が再びこの世界で、愛する人と共に未来を紡ぐ物語。
全8話
アケミツヨウの幸福な生涯
リラックス@ピロー
BL
ごく普通の会社員として日々を過ごしていた主人公、ヨウはその日も普通に残業で会社に残っていた。
ーーーそれが運命の分かれ道になるとも知らずに。
仕事を終え帰り際トイレに寄ると、唐突に便器から水が溢れ出した。勢い良く迫り来る水に飲み込まれた先で目を覚ますと、黒いローブの怪しげな集団に囲まれていた。 彼らは自分を"神子"だと言い、神の奇跡を起こす為とある儀式を行うようにと言ってきた。
神子を守護する神殿騎士×異世界から召喚された神子
愛しい番に愛されたいオメガなボクの奮闘記
天田れおぽん
BL
ボク、アイリス・ロックハートは愛しい番であるオズワルドと出会った。
だけどオズワルドには初恋の人がいる。
でもボクは負けない。
ボクは愛しいオズワルドの唯一になるため、番のオメガであることに甘えることなく頑張るんだっ!
※「可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない」のオズワルド君の番の物語です。
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
死に戻り毒妃の、二度目の仮婚 【オメガバース】
飛鳥えん
BL
国王を惑わし国庫を浪費した毒妃として処刑された日から、現世の14歳に戻ってきたシュメルヒ。
4年後、王族にしか生まれないオメガで<毒持ち>のシュメルヒは、父王の命令で、8歳の妹ナーシャ王女の許嫁のもとへ、成長するまでの中継ぎの仮妃として輿入れする。それは前世の運命をなぞるものだった。
許嫁のヨアンは14歳。後に暗君として幽閉される。
二度目の人生を送り始めたシュメルヒは、妹のため、祖国のため、そして処刑を免れるため、ヨアンを支えることにしたが、彼の<悪い気の病>には不審な点があり……。
一方シュメルヒ自身も、<毒持ち>であるがゆえか、これまで発情(ヒート)を経験したことがない不完全な王族のオメガであるという負い目を抱えていた。
<未来の妹の夫>にふさわしく成長して欲しいシュメルヒと、人間離れした美貌と澄ました表情に反して、寂しがり屋で世間知らず、やや情緒未発達な仮妃を愛するようになっていく年下皇帝のすれ違いラブストーリー。(最初の頃の攻は受を嫌っていて態度が悪いのでご注意くださいませ)
~8/22更新 前編終了~
この手に抱くぬくもりは
R
BL
幼い頃から孤独を強いられてきたルシアン。
子どもたちの笑顔、温かな手、そして寄り添う背中――
彼にとって、初めての居場所だった。
過去の痛みを抱えながらも、彼は幸せを願い、小さな一歩を踏み出していく。
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる