11 / 19
その心の声は。第二章
ハート協定
しおりを挟む
朝の眩しい日射しに眼を細め、剣崎は橋本と車でゴーグル東京支社へと向かっていた。道中、伊村と落合、神谷との繋がりと関わりを考え、推論を立てていた。
「盗聴した伊村と落合の最後の会話から落合は伊村に【何か】を渡そうとしていた。しかしそれは失敗した。その【何か】は神谷扮する偽警察の手に堕ち、更に伊村の身元も神谷に割れてしまった。そして伊村の身元を知り得た原因として考えられるのが、落合から神谷に渡された【何か】によってであろう事。」
深く溜め息を吐き剣崎は癖である顎の無精髭をワシャワシャと擦りながら一人、呟いた。
「そうですね。一体何を神谷は手に入れたのでしょう?ゴーグル社の人間が絡んでいる事から新たなハッキングの技術か、情報か。だとしたらまた世界の何処かでサイバーテロを目論んでいるのかもしれませんね。」
心配性の橋本ならではの推論だった。
「さあな。でもいい線かもな。スカイハックがこのまま大人しくしていくとは思えん。伊村、落合、神谷。この三つの点がゴーグル社へ行き、全て線で結ばれればいいがな。だからこそその【何か】を特定せねばならないな。」
剣崎の話に橋本は深く頷いた。
ゴーグル東京支社に着いた剣崎達は受付にて警視庁の刑事である事を伝え、落合健作についての事情聴取を求めた。公安調査庁である事を隠したのは、ゴーグル社内部に落合や伊村の息の掛かったものが他にいるとも限らない。それに公安調査庁はこの国の諜報機関であり、なるべく所属と身分は隠しておいた方がいいからであった。
「し、しばらくお待ちください。」
受付の女性は慌てた様子で担当責任者に連絡を入れているようだった。しばらくしてスマートなスーツに身をかためた長身で黒縁の眼鏡をかけた40歳代の男性が剣崎の前に歩みを進めてきた。
「わたくし、総務人事部の黒澤と申します。あいにく落合は先日より無断欠勤しておりまして。落合に警視庁の刑事さんがどのような御用だったのでしょう?」
「警視庁の剣崎といいます。」
そう言うと剣崎は胸元から警視庁のダミーの身分証を提示し、話を続けた。
「いや、単刀直入にお話ししますと実は落合さんがですね、テロ組織との繋がりがあるとの情報が入りまして、我々もいろいろ調べたところ、その容疑が濃くなったものですから、一度署までご同行願い、事情をお聞きしたい所だったのです、はい。」
「そうでしたか。落合が・・・」
黒澤はあまり驚く様子もなく深く考えた表情でしばらく俯いた後こう続けた。
「私共も落合に連絡はとっているのですが、何分音信不通でして。私共で協力出来ることがあれば何でも仰ってください。」
嘘は言ってないようだった。ただ、落合から神谷が預かったであろう物が何であるかが分からない剣崎はどうやってそれを特定させるか思案していた。
「落合さんはこの東京支社ではどのような仕事をしていたのでしょうか?」
「落合はこの支社の研究室で私共が開発中の新型スマホの研究、開発に携わっていました。」
そう問う橋本に黒澤は明確に答えた。
(新型のスマホか・・・。他に何か手掛かりはないものか・・・)
剣崎は暫く考え、
「落合さんは、どういった人物でしょうか?」
「はい。落合はかなりプライドが高く、仕事にもそれがあらわれていました。ここ最近は我が社内の新型スマホのライバルとの開発競争に敗れ、自暴自棄気味だったと聞いています。そのため、同研究室でも発言力を無くしつつあり、自主退職の噂も絶えなかったようですね。」
「なるほど。それでは率直にお聞きします。落合のテロリストハッカー集団【sky hack】との繋がりで心当たりがありますか?」
剣崎は単刀直入に核心部分に触れた。
「スカイハック?あの悪名高いスカイハックですか?まさか落合がテロリストと繋がりがあるとは思えませんが・・・。はっ!」
何かに気付いたように黒澤は恐る恐る自分の推論を語り出した。
「あくまでも私の推論でしかないですが、落合の所属していた0712研究室ではある新機能の研究をしていまして、その新機能の情報、もしくはその研究成果をスカイハックに横流ししようと考えていたのかもしれません。」
「それはどのような新機能なのですか?」
いまいちピンとこない剣崎は突っ込んで聞いてみたが黒澤は、
「この社内でもトップシークレットの部類にはいるので、私の一存でお話しする事が出来ないものでして、上の者に伺いを立てて許可を得なくてはお話し出来ないです。」
「その許可すぐに貰えませんか?事は急を要するもので。」
剣崎は無理を承知で押してみた。こうしている間にも伊村と落合が遠のいてしまうからだ。
「分かりました。只今支社長の許可を貰ってきますが、許可が貰えない場合もありますのでその時はご了承ください。」
そう言い黒澤は足早にその場を去り、剣崎はまたしばらく待たされる事となった。その間、剣崎は先程の黒澤の話を反芻していた。
(プライドの人一倍高い落合はライバル研究員との新型スマホの開発競争に敗れ、その腹いせにその新型スマホの機能や情報をスカイハックへ横流ししようとして、神谷に邪魔された。そしてその新型スマホの機能はトップシークレット。普通に考えたならば落合から神谷に渡されたのは、その新型スマホだろう。分からんのはその機能だな。果たしてどういうものだろうか。)
綺麗な受付嬢を尻目に剣崎なりの推測を立てて新型スマホの機能を知りたくなっていた。
しばらくして、黒澤が戻ってきた。ここでは、ということで、隣接する応接室へと通されここだけの話しですがと、念押しされた上で、
「支社長の許可が出ました。これより0712研究室へお通しします。ただ、そこで知り得た情報は世間には公表しない旨の誓約書にサインして頂きたい。それと、こちらも情報を提供する代わりに、あなた方の知り得た情報をこちらに提供、共有する旨の誓約も頂きたい。」
「分かりました。その誓約にサインしましょう。」
本来なら公的機関が、ましては警察機構が民間の誓約書にサインをすると言う事はあり得ない事であったが、どちらにせよ諜報機関が仕入れる情報であるから公になる事はないので剣崎は躊躇することなく誓約書にサインした。何より事を急ぐ事なので、上方に許可を貰う暇もなかったので剣崎の独断でサインしたのだ。
「では剣崎さん。0712研究室へお通しする前に剣崎さん達の知り得ている情報を教えていただけますか?私共もどういう状況で、何が起こっているのかが分からなければ、こちらの的確な情報をお渡し出来ませんので。」
「はい。」
そう返事すると、剣崎は落合と伊村忠との繋がり、その間に入った神谷大輔の存在と落合から預かった『何か』を神谷はスカイハックの伊村に渡さず、横取りしたもしくは紛失したようであること、そして伊村と落合がこちらの動きに気付き消息不明になって今に至ったことなどを話した。
「神谷大輔・・・。聞いたことのない名前ですね。何者なのですか?」
不可解な顔をする黒澤はスカイハックの伊村には反応を余りせず、神谷に強い反応を示した。
「都内の広告代理店のサラリーマンです。私共が調べた限り伊村をはじめとするスカイハックとの面識、繋がりは今の所ないようですね。」
「そうですか。大まかな概要はわかりました。剣崎さんの知りたい事は落合とスカイハックとの繋がり、そして一番知りたいのは伊村達スカイハックが求めている神谷が落合から預かった物とその機能。で、よろしかったでしょうか?」
「はい。」
「それでは0712研究室へ行きましょう。0712研究室は同社でも高セキュリティーのエリアになります。このパスカードを所持してください。私も同行します」
そう言うと黒澤は剣崎達に首にかける黒く光るパスカードを渡した。
ただし、同室の研究員への質疑はご遠慮願います。その代わり同室の責任者、佐藤雫へは何でも聞いて頂いても大丈夫です。」
「ありがとうございます。」
剣崎達は黒く光るパスカードを首からぶら下げると、ゴーグル東京支社のロビーの吹き抜けを通り抜け、エレベーターで5階程登った後、パスカードを使い、高セキュリティーエリア専用のエレベーターに乗継ぎ、7階へと到着した。そこから更に分厚い扉をパスカードを使い2箇所通り抜け、0712研究室の前に辿り着いた。黒澤が入り口横のパスカードリーダーにカードをさっと通し、暗証番号を入力。どうやら入室人数を検知出来るらしく剣崎もカードを通さなければ入室出来ないようであった。
「さ、どうぞお入りください。」
黒澤はそう言うと研究室へと誘った。中は思ったより広く、見たこともない複雑な装置が立ち並び、20名ほどの研究員が働いていた。
「佐藤室長、お客様だ」
黒澤が遠くにいる小柄な女性に声を掛けると、その女性はくるりと振り向き、ひとつ頭を下げるとこちらへと近づいてきた。
「初めまして。0712研究室室長、佐藤雫と申します。」
「あ、ど、どうも、警視庁の剣崎と申します。こちらも同庁の橋本と申します。」
若くて綺麗な女性だなと剣崎は少し頰を赤らめて応えた。
「黒澤から大まかな話は聞いております。あの落合さんがテロリストと繋がりがあったなんて、テレビドラマのような話で今だに信じられません。本当なのですか?」
「ええ。推測になりますが、佐藤さんとの出世競争に敗れた腹いせに同研究室の情報、技術をスカイハックへ横流ししようと目論んだのでしょう。」
剣崎は研究室を見回しながら、そう応えた。
「落合さん・・・」
雫は視線を落としまだ信じられないという表情だった。剣崎は直球で問いかけた。
「落合はスカイハックの伊村という男に御社の新型スマホを渡そうとしたのですが、ゴーグル社から外にいる伊村までの運び屋役だった神谷という男に邪魔され今現在、落合、伊村共々行方不明です。今組織を挙げて捜索中ではあるのですが。そこで質問なのですが、その新型スマホ。何がそんなにテロリストが欲しがる機能があるのですか?」
雫はは黒澤をチラリと見ると、黒澤が軽く頷き剣崎へと目配せした。そして雫は話し始めた。
「私たちが研究開発したのは心を読むスマホ、読心機能付きスマホです。」
「心を読む・・・、スマホ?」
剣崎と橋本は顔を見合わせてポカーンとした。
「ふふふ。試しに私が剣崎さんの心を読んでみましょう。剣崎さん、何か心で思ってください。」
そう言うと雫は研究室の棚から一台のスマホを取り出し、ワイヤレスイヤホンを耳に装着した。
「・・・・・・」
「剣崎さん、あなたは今人の心を読むなんて出来るわけがない、そう思いましたね?」
「おぉ!そんな馬鹿な!」
剣崎は驚きを隠せなかった。が、しかしまぐれだろうと疑いまだ信じられていなかった。
「まぐれじゃないですよ。」
雫が笑顔でそう答えた頃には剣崎は驚きを通り越して恐怖さえ感じた。
「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。」
「わ、分かった。分かったからこれ以上俺の心を読まないでくれ。」
雫と黒澤は顔を見合わせてプッと笑い合った。
「何て事だ。心が読まれるなんて・・・」
驚きを隠せない剣崎に、
「そんなバカな、タチの悪いドッキリでは?」
信じない橋本に剣崎は雫に橋本の心も読んで欲しいと言うと、
「あ、これは言ってもいいのでしょうか?」
躊躇する雫が橋本に確認すると、橋本は何かに気付いたのか、顔を赤らめ照れていたので
「橋本は何を思っているのですか?」
そう問う剣崎に雫は恥ずかしそうに、
「橋本さんは私がタイプでデートに誘いたいから連絡先を聞きたいようです。」
頬を紅潮させて雫は言うと、
「何だと!?このスケベデカめ!それは是非俺も聞きたいな!」
剣崎がそう言うとその場はドッと笑いに包まれた。一頻り笑って雫は
「ごめんなさい。私には大切な夫がいますので・・・・」
と、答えると剣崎と橋本はガクッと肩を落とした。
「しかし、これは何とも!どういう原理なのですか?」
剣崎は不思議顔でいまいち信じられない様子だったが、雫は詳しく、しかし明確に説明を始めた。
「人が思考する時、脳内では微弱な電気信号が発生します。私達はそれを『思念』と呼んでいますが、その思念を私達の開発したスマホは増幅、電波に変換し、それを音声や文字に具現化する事に成功したのです。」
「へぇー。それはすごい!しかし、こんなものが世の中に出回れば、世界は混乱するぞ。」
「はい。だからトップシークレット扱いで、市販出来ない技術とディバイスなのです。」
黒澤は残念そうにそう語った。
「そりゃあ、スカイハックも欲しがるわけだ。これが奴等の手に堕ちたら大変な事になるぞ。神谷が奪取したディバイスもその一台というわけか。」
「それが・・・」
雫は言葉重く話を続けた。
「それが、実は落合が持ち出したディバイスは最新型のGL-05という試作機で今までの思念増幅型スマホには無い多彩な機能を搭載したワンオフ物なのです」
「世界にひとつだけ、と、いうことですか・・・」
顎のヒゲをワシャワシャさせて剣崎は話を続けた。
「その多彩な機能、そんなに厄介なのですか?」
「はい。詳しくは顧客との契約の関係でお話し出来ないのですが・・・」
佐藤はそういうと、後に続く言葉を濁して誤魔化した。
「顧客?この思念増幅型スマホは市販NGでは無いのですか?」
「ここからは私からお話ししましょう。」
剣崎の素朴な疑問を遮るかのように一人のアジア人と白人とのハーフっぽい若い男性が研究室に入って、話に加わってきた。その男性は長身で黒髪。目鼻立ちがはっきりしていて、少しだけ英語なまりの日本語を話していた。
「いらしてたのですね。」
そう言う雫にそのハーフ男性は「お久しぶりです」と答え、雫と黒澤に対してニコっと微笑んだ。剣崎が何なんだコイツは、という顔をしていると、剣崎にも微笑み、
「初めまして。私、ジョージ・ワーカーといいます。米国CIAの日本エージェントです。」
そう聞いて公安の剣崎は全てを悟るのに数秒もかからなかった。
(なるほど。同じ穴のムジナだな。)
そう思った剣崎にジョージは続けて話した。
「私共CIAもスカイハックを追っている事は知っているかと思います。それに加え、こちらゴーグル東京支社より思念増幅型スマホの提供を受けています。先程黒澤さんから連絡を貰い、ここへ来ました」
公安調査庁も米国のCIAとは繋がりはあるが、それは外部部局がメインで、内部部局の剣崎がCIAと接触を持つのはこれが初めてであった。
「どうも。日本の警視庁所属の剣崎といいます。ゴーグル東京支社所属の落合という男が伊村というスカイハックのエージェントと繋がりがある容疑で事情聴取に来ています。CIAもスカイハックの情報を何かお持ちであるのか?」
剣崎の脳裏には嘘がバレてないかの不安がよぎっていた。CIAが思念増幅型スマホの提供をゴーグルから受けているのであれば、コイツも読心スマホを所持してこちらの心を読んでいる可能性がある。そこから公安調査庁の人間である事がバレてれば、なんとも不愉快極まりない。そもそも日本で開発された読心スマホを米国のゴーグルがCIAだけに提供しているのも公安調査庁の人間としては面白くない話である。
「スカイハックの伊村の情報も、ゴーグルの思念増幅型スマホをスカイハックが狙っていた情報もこちらにははいっていました。まさか落合とスカイハックが繋がりがあるとは予想していませんでしたが。それで、落合が持ち出したスマホは今どうなっているのですか?」
「私共の捜査によると今現在は神谷という都内の広告代理店に勤める男性の民間人が所持しているようであり、こちらで泳がせて監視中だ。」
伊村と落合の消息を喪失している事は伏せた。公安調査庁の人間としてのプライドが今回の失態を許さないからだ。CIAにナメられるのが癪でもあった。
(だが、それもコイツに心を読まれてれば事を伏せる意味がないな)
なんとも歯痒い状況だが、わざわざこちらから話す事でもないと、剣崎は割り切った。
「それでは、神谷が所持していると思われる読心スマホはどうする?任意でひっぱって、回収するか?」
(先日の公園での伊村とのやり取り、そして駅前での尾行の件を振り返る限り、神谷は読心スマホの機能に気付き、使用していると思われる。と、なれば尾行中の我々の動きを全部読まれていた可能性が高い。クソ!神谷のヤロー、なかなかの役者だな。)
「いいえ、回収の必要はないです。神谷にはエサになってもらいます。スカイハックのネットワーク、ハッキングスキルからして、いずれGL-05の所在が神谷にある事がバレるでしょう。そうなればスカイハックはゴーグルや我々公的機関が読心スマホを所持しているよりも狙いやすいと判断、手に入れようとしてくる事でしょう。」
「しかし、それではリスクが高すぎる。もし、仮にスカイハックの手に読心スマホが堕ちたらならば、世界に混乱が生じる。危険だ。」
確かに剣崎の言う通りであった。スカイハックが読心スマホを駆使して各国要人の心を読み、国家機密を次々と入手すれば、国際社会の秩序が乱れ、最悪、各地で戦争が起こるとも限らない。
「そうです。ですからそうなる前に今回の機会を利用してスカイハックの中枢を割り出し、完全に壊滅させます。スカイハックもそれは警戒、覚悟した上で読心スマホを狙ってくるでしょう。それだけこのディバイスには世界を変える魅力、威力がある事をスカイハックも知っているからです。これはスカイハックと世界各国との水面下でのやるかやられるかの戦争です。」
ジョージはそう言うと、雫に耳打ちして一つの見慣れないスマホを持って来させ、剣崎の前に差し出した。
「佐藤さん、これは?」
「形式名称GL-01。読心スマホの試作初号機です。システムはスマホによるアナウンス式の旧式タイプですが、思念増幅型の機能は最新型のGL-05と遜色はありません。これを剣崎さんにお貸しします。そして、私も剣崎さんと行動を共にしてスキルと技術面でサポートいたします。共に悪名高いスカイハックをやっつけてやりましょう!」
「おぉ!それは嬉しく頼もしいですが、容姿の綺麗な女性から『やっつけてやりましょう』なんて言われたら、なんか、こう、くすぐったい感じですな!」
そう言う剣崎にその場にいた皆、ドッと笑った。
「ちなみに、余談なのですがお貸しするこのGL-01私と私の夫とを結んだ縁結びの縁起良いディバイスです。きっとまた私達に幸運をもたらしてくれることでしょう。」
そう言うと雫はニコっと笑った。剣崎もつられて頬を染めて笑い返したが雫が既婚者であることに、少し残念な気持ちにもなっていた。
「それではこれより、我々CIAと日本の警視庁、並びにゴーグルの協力による対スカイハックの共同戦線樹立の仮協定を結びましょう。そして各々で入手した情報等を共有し、スカイハック壊滅へ向けての目的を遂行、達成しましょう。」
ジョージはそう言い、その場にいる5名と各々固い握手を交わした。これが後の世で語り継がれる事になる『ハート協定』である。
帰りの車中、剣崎は雫にレクチャーされた読心スマホを手に取り、未来を描いた映画のような世界が現実世界になりつつある事に少し怯えていた。
「人の心を丸裸にするこのスマホはいずれ社会に歪みを生じさせる事だろう。相手をとことん疑い忌み嫌うか、心底信頼するか、人の心の純粋な部分、汚れた部分、どちらも見えて、心の二極化が生まれるかもな。」
独り言の様につぶやく剣崎に、
「確かにそうですね。運用にも問題がありそうです。今現在この技術に関しての法整備がなされていません。もし、私達が使うとなれば、現行のコンプライアンスは大事になってくるでしょうね。特に人権に関わる問題になりそうです。安易に心が読めるとはいえ、果たして第三者が相手の心を読んでもいいものなのか。」
心配性の橋本らしい考えであったが、その意見には剣崎も同感であった。
「ただ、相手はテロリストだ。今目の前にある危機を前にしたら、コンプライアンスもへったくれもなくなるだろうな。緊急避難措置ってやつだ。どちらにしてもこのスマホの使い手のモラルは問われるだろうな。」
そう言う剣崎に橋本も頷いた。
「これは世に出しては決していけないものかもな。」
そう呟き、剣崎は癖である顎ひげをワシャワシャして帰路に着いた。
「盗聴した伊村と落合の最後の会話から落合は伊村に【何か】を渡そうとしていた。しかしそれは失敗した。その【何か】は神谷扮する偽警察の手に堕ち、更に伊村の身元も神谷に割れてしまった。そして伊村の身元を知り得た原因として考えられるのが、落合から神谷に渡された【何か】によってであろう事。」
深く溜め息を吐き剣崎は癖である顎の無精髭をワシャワシャと擦りながら一人、呟いた。
「そうですね。一体何を神谷は手に入れたのでしょう?ゴーグル社の人間が絡んでいる事から新たなハッキングの技術か、情報か。だとしたらまた世界の何処かでサイバーテロを目論んでいるのかもしれませんね。」
心配性の橋本ならではの推論だった。
「さあな。でもいい線かもな。スカイハックがこのまま大人しくしていくとは思えん。伊村、落合、神谷。この三つの点がゴーグル社へ行き、全て線で結ばれればいいがな。だからこそその【何か】を特定せねばならないな。」
剣崎の話に橋本は深く頷いた。
ゴーグル東京支社に着いた剣崎達は受付にて警視庁の刑事である事を伝え、落合健作についての事情聴取を求めた。公安調査庁である事を隠したのは、ゴーグル社内部に落合や伊村の息の掛かったものが他にいるとも限らない。それに公安調査庁はこの国の諜報機関であり、なるべく所属と身分は隠しておいた方がいいからであった。
「し、しばらくお待ちください。」
受付の女性は慌てた様子で担当責任者に連絡を入れているようだった。しばらくしてスマートなスーツに身をかためた長身で黒縁の眼鏡をかけた40歳代の男性が剣崎の前に歩みを進めてきた。
「わたくし、総務人事部の黒澤と申します。あいにく落合は先日より無断欠勤しておりまして。落合に警視庁の刑事さんがどのような御用だったのでしょう?」
「警視庁の剣崎といいます。」
そう言うと剣崎は胸元から警視庁のダミーの身分証を提示し、話を続けた。
「いや、単刀直入にお話ししますと実は落合さんがですね、テロ組織との繋がりがあるとの情報が入りまして、我々もいろいろ調べたところ、その容疑が濃くなったものですから、一度署までご同行願い、事情をお聞きしたい所だったのです、はい。」
「そうでしたか。落合が・・・」
黒澤はあまり驚く様子もなく深く考えた表情でしばらく俯いた後こう続けた。
「私共も落合に連絡はとっているのですが、何分音信不通でして。私共で協力出来ることがあれば何でも仰ってください。」
嘘は言ってないようだった。ただ、落合から神谷が預かったであろう物が何であるかが分からない剣崎はどうやってそれを特定させるか思案していた。
「落合さんはこの東京支社ではどのような仕事をしていたのでしょうか?」
「落合はこの支社の研究室で私共が開発中の新型スマホの研究、開発に携わっていました。」
そう問う橋本に黒澤は明確に答えた。
(新型のスマホか・・・。他に何か手掛かりはないものか・・・)
剣崎は暫く考え、
「落合さんは、どういった人物でしょうか?」
「はい。落合はかなりプライドが高く、仕事にもそれがあらわれていました。ここ最近は我が社内の新型スマホのライバルとの開発競争に敗れ、自暴自棄気味だったと聞いています。そのため、同研究室でも発言力を無くしつつあり、自主退職の噂も絶えなかったようですね。」
「なるほど。それでは率直にお聞きします。落合のテロリストハッカー集団【sky hack】との繋がりで心当たりがありますか?」
剣崎は単刀直入に核心部分に触れた。
「スカイハック?あの悪名高いスカイハックですか?まさか落合がテロリストと繋がりがあるとは思えませんが・・・。はっ!」
何かに気付いたように黒澤は恐る恐る自分の推論を語り出した。
「あくまでも私の推論でしかないですが、落合の所属していた0712研究室ではある新機能の研究をしていまして、その新機能の情報、もしくはその研究成果をスカイハックに横流ししようと考えていたのかもしれません。」
「それはどのような新機能なのですか?」
いまいちピンとこない剣崎は突っ込んで聞いてみたが黒澤は、
「この社内でもトップシークレットの部類にはいるので、私の一存でお話しする事が出来ないものでして、上の者に伺いを立てて許可を得なくてはお話し出来ないです。」
「その許可すぐに貰えませんか?事は急を要するもので。」
剣崎は無理を承知で押してみた。こうしている間にも伊村と落合が遠のいてしまうからだ。
「分かりました。只今支社長の許可を貰ってきますが、許可が貰えない場合もありますのでその時はご了承ください。」
そう言い黒澤は足早にその場を去り、剣崎はまたしばらく待たされる事となった。その間、剣崎は先程の黒澤の話を反芻していた。
(プライドの人一倍高い落合はライバル研究員との新型スマホの開発競争に敗れ、その腹いせにその新型スマホの機能や情報をスカイハックへ横流ししようとして、神谷に邪魔された。そしてその新型スマホの機能はトップシークレット。普通に考えたならば落合から神谷に渡されたのは、その新型スマホだろう。分からんのはその機能だな。果たしてどういうものだろうか。)
綺麗な受付嬢を尻目に剣崎なりの推測を立てて新型スマホの機能を知りたくなっていた。
しばらくして、黒澤が戻ってきた。ここでは、ということで、隣接する応接室へと通されここだけの話しですがと、念押しされた上で、
「支社長の許可が出ました。これより0712研究室へお通しします。ただ、そこで知り得た情報は世間には公表しない旨の誓約書にサインして頂きたい。それと、こちらも情報を提供する代わりに、あなた方の知り得た情報をこちらに提供、共有する旨の誓約も頂きたい。」
「分かりました。その誓約にサインしましょう。」
本来なら公的機関が、ましては警察機構が民間の誓約書にサインをすると言う事はあり得ない事であったが、どちらにせよ諜報機関が仕入れる情報であるから公になる事はないので剣崎は躊躇することなく誓約書にサインした。何より事を急ぐ事なので、上方に許可を貰う暇もなかったので剣崎の独断でサインしたのだ。
「では剣崎さん。0712研究室へお通しする前に剣崎さん達の知り得ている情報を教えていただけますか?私共もどういう状況で、何が起こっているのかが分からなければ、こちらの的確な情報をお渡し出来ませんので。」
「はい。」
そう返事すると、剣崎は落合と伊村忠との繋がり、その間に入った神谷大輔の存在と落合から預かった『何か』を神谷はスカイハックの伊村に渡さず、横取りしたもしくは紛失したようであること、そして伊村と落合がこちらの動きに気付き消息不明になって今に至ったことなどを話した。
「神谷大輔・・・。聞いたことのない名前ですね。何者なのですか?」
不可解な顔をする黒澤はスカイハックの伊村には反応を余りせず、神谷に強い反応を示した。
「都内の広告代理店のサラリーマンです。私共が調べた限り伊村をはじめとするスカイハックとの面識、繋がりは今の所ないようですね。」
「そうですか。大まかな概要はわかりました。剣崎さんの知りたい事は落合とスカイハックとの繋がり、そして一番知りたいのは伊村達スカイハックが求めている神谷が落合から預かった物とその機能。で、よろしかったでしょうか?」
「はい。」
「それでは0712研究室へ行きましょう。0712研究室は同社でも高セキュリティーのエリアになります。このパスカードを所持してください。私も同行します」
そう言うと黒澤は剣崎達に首にかける黒く光るパスカードを渡した。
ただし、同室の研究員への質疑はご遠慮願います。その代わり同室の責任者、佐藤雫へは何でも聞いて頂いても大丈夫です。」
「ありがとうございます。」
剣崎達は黒く光るパスカードを首からぶら下げると、ゴーグル東京支社のロビーの吹き抜けを通り抜け、エレベーターで5階程登った後、パスカードを使い、高セキュリティーエリア専用のエレベーターに乗継ぎ、7階へと到着した。そこから更に分厚い扉をパスカードを使い2箇所通り抜け、0712研究室の前に辿り着いた。黒澤が入り口横のパスカードリーダーにカードをさっと通し、暗証番号を入力。どうやら入室人数を検知出来るらしく剣崎もカードを通さなければ入室出来ないようであった。
「さ、どうぞお入りください。」
黒澤はそう言うと研究室へと誘った。中は思ったより広く、見たこともない複雑な装置が立ち並び、20名ほどの研究員が働いていた。
「佐藤室長、お客様だ」
黒澤が遠くにいる小柄な女性に声を掛けると、その女性はくるりと振り向き、ひとつ頭を下げるとこちらへと近づいてきた。
「初めまして。0712研究室室長、佐藤雫と申します。」
「あ、ど、どうも、警視庁の剣崎と申します。こちらも同庁の橋本と申します。」
若くて綺麗な女性だなと剣崎は少し頰を赤らめて応えた。
「黒澤から大まかな話は聞いております。あの落合さんがテロリストと繋がりがあったなんて、テレビドラマのような話で今だに信じられません。本当なのですか?」
「ええ。推測になりますが、佐藤さんとの出世競争に敗れた腹いせに同研究室の情報、技術をスカイハックへ横流ししようと目論んだのでしょう。」
剣崎は研究室を見回しながら、そう応えた。
「落合さん・・・」
雫は視線を落としまだ信じられないという表情だった。剣崎は直球で問いかけた。
「落合はスカイハックの伊村という男に御社の新型スマホを渡そうとしたのですが、ゴーグル社から外にいる伊村までの運び屋役だった神谷という男に邪魔され今現在、落合、伊村共々行方不明です。今組織を挙げて捜索中ではあるのですが。そこで質問なのですが、その新型スマホ。何がそんなにテロリストが欲しがる機能があるのですか?」
雫はは黒澤をチラリと見ると、黒澤が軽く頷き剣崎へと目配せした。そして雫は話し始めた。
「私たちが研究開発したのは心を読むスマホ、読心機能付きスマホです。」
「心を読む・・・、スマホ?」
剣崎と橋本は顔を見合わせてポカーンとした。
「ふふふ。試しに私が剣崎さんの心を読んでみましょう。剣崎さん、何か心で思ってください。」
そう言うと雫は研究室の棚から一台のスマホを取り出し、ワイヤレスイヤホンを耳に装着した。
「・・・・・・」
「剣崎さん、あなたは今人の心を読むなんて出来るわけがない、そう思いましたね?」
「おぉ!そんな馬鹿な!」
剣崎は驚きを隠せなかった。が、しかしまぐれだろうと疑いまだ信じられていなかった。
「まぐれじゃないですよ。」
雫が笑顔でそう答えた頃には剣崎は驚きを通り越して恐怖さえ感じた。
「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。」
「わ、分かった。分かったからこれ以上俺の心を読まないでくれ。」
雫と黒澤は顔を見合わせてプッと笑い合った。
「何て事だ。心が読まれるなんて・・・」
驚きを隠せない剣崎に、
「そんなバカな、タチの悪いドッキリでは?」
信じない橋本に剣崎は雫に橋本の心も読んで欲しいと言うと、
「あ、これは言ってもいいのでしょうか?」
躊躇する雫が橋本に確認すると、橋本は何かに気付いたのか、顔を赤らめ照れていたので
「橋本は何を思っているのですか?」
そう問う剣崎に雫は恥ずかしそうに、
「橋本さんは私がタイプでデートに誘いたいから連絡先を聞きたいようです。」
頬を紅潮させて雫は言うと、
「何だと!?このスケベデカめ!それは是非俺も聞きたいな!」
剣崎がそう言うとその場はドッと笑いに包まれた。一頻り笑って雫は
「ごめんなさい。私には大切な夫がいますので・・・・」
と、答えると剣崎と橋本はガクッと肩を落とした。
「しかし、これは何とも!どういう原理なのですか?」
剣崎は不思議顔でいまいち信じられない様子だったが、雫は詳しく、しかし明確に説明を始めた。
「人が思考する時、脳内では微弱な電気信号が発生します。私達はそれを『思念』と呼んでいますが、その思念を私達の開発したスマホは増幅、電波に変換し、それを音声や文字に具現化する事に成功したのです。」
「へぇー。それはすごい!しかし、こんなものが世の中に出回れば、世界は混乱するぞ。」
「はい。だからトップシークレット扱いで、市販出来ない技術とディバイスなのです。」
黒澤は残念そうにそう語った。
「そりゃあ、スカイハックも欲しがるわけだ。これが奴等の手に堕ちたら大変な事になるぞ。神谷が奪取したディバイスもその一台というわけか。」
「それが・・・」
雫は言葉重く話を続けた。
「それが、実は落合が持ち出したディバイスは最新型のGL-05という試作機で今までの思念増幅型スマホには無い多彩な機能を搭載したワンオフ物なのです」
「世界にひとつだけ、と、いうことですか・・・」
顎のヒゲをワシャワシャさせて剣崎は話を続けた。
「その多彩な機能、そんなに厄介なのですか?」
「はい。詳しくは顧客との契約の関係でお話し出来ないのですが・・・」
佐藤はそういうと、後に続く言葉を濁して誤魔化した。
「顧客?この思念増幅型スマホは市販NGでは無いのですか?」
「ここからは私からお話ししましょう。」
剣崎の素朴な疑問を遮るかのように一人のアジア人と白人とのハーフっぽい若い男性が研究室に入って、話に加わってきた。その男性は長身で黒髪。目鼻立ちがはっきりしていて、少しだけ英語なまりの日本語を話していた。
「いらしてたのですね。」
そう言う雫にそのハーフ男性は「お久しぶりです」と答え、雫と黒澤に対してニコっと微笑んだ。剣崎が何なんだコイツは、という顔をしていると、剣崎にも微笑み、
「初めまして。私、ジョージ・ワーカーといいます。米国CIAの日本エージェントです。」
そう聞いて公安の剣崎は全てを悟るのに数秒もかからなかった。
(なるほど。同じ穴のムジナだな。)
そう思った剣崎にジョージは続けて話した。
「私共CIAもスカイハックを追っている事は知っているかと思います。それに加え、こちらゴーグル東京支社より思念増幅型スマホの提供を受けています。先程黒澤さんから連絡を貰い、ここへ来ました」
公安調査庁も米国のCIAとは繋がりはあるが、それは外部部局がメインで、内部部局の剣崎がCIAと接触を持つのはこれが初めてであった。
「どうも。日本の警視庁所属の剣崎といいます。ゴーグル東京支社所属の落合という男が伊村というスカイハックのエージェントと繋がりがある容疑で事情聴取に来ています。CIAもスカイハックの情報を何かお持ちであるのか?」
剣崎の脳裏には嘘がバレてないかの不安がよぎっていた。CIAが思念増幅型スマホの提供をゴーグルから受けているのであれば、コイツも読心スマホを所持してこちらの心を読んでいる可能性がある。そこから公安調査庁の人間である事がバレてれば、なんとも不愉快極まりない。そもそも日本で開発された読心スマホを米国のゴーグルがCIAだけに提供しているのも公安調査庁の人間としては面白くない話である。
「スカイハックの伊村の情報も、ゴーグルの思念増幅型スマホをスカイハックが狙っていた情報もこちらにははいっていました。まさか落合とスカイハックが繋がりがあるとは予想していませんでしたが。それで、落合が持ち出したスマホは今どうなっているのですか?」
「私共の捜査によると今現在は神谷という都内の広告代理店に勤める男性の民間人が所持しているようであり、こちらで泳がせて監視中だ。」
伊村と落合の消息を喪失している事は伏せた。公安調査庁の人間としてのプライドが今回の失態を許さないからだ。CIAにナメられるのが癪でもあった。
(だが、それもコイツに心を読まれてれば事を伏せる意味がないな)
なんとも歯痒い状況だが、わざわざこちらから話す事でもないと、剣崎は割り切った。
「それでは、神谷が所持していると思われる読心スマホはどうする?任意でひっぱって、回収するか?」
(先日の公園での伊村とのやり取り、そして駅前での尾行の件を振り返る限り、神谷は読心スマホの機能に気付き、使用していると思われる。と、なれば尾行中の我々の動きを全部読まれていた可能性が高い。クソ!神谷のヤロー、なかなかの役者だな。)
「いいえ、回収の必要はないです。神谷にはエサになってもらいます。スカイハックのネットワーク、ハッキングスキルからして、いずれGL-05の所在が神谷にある事がバレるでしょう。そうなればスカイハックはゴーグルや我々公的機関が読心スマホを所持しているよりも狙いやすいと判断、手に入れようとしてくる事でしょう。」
「しかし、それではリスクが高すぎる。もし、仮にスカイハックの手に読心スマホが堕ちたらならば、世界に混乱が生じる。危険だ。」
確かに剣崎の言う通りであった。スカイハックが読心スマホを駆使して各国要人の心を読み、国家機密を次々と入手すれば、国際社会の秩序が乱れ、最悪、各地で戦争が起こるとも限らない。
「そうです。ですからそうなる前に今回の機会を利用してスカイハックの中枢を割り出し、完全に壊滅させます。スカイハックもそれは警戒、覚悟した上で読心スマホを狙ってくるでしょう。それだけこのディバイスには世界を変える魅力、威力がある事をスカイハックも知っているからです。これはスカイハックと世界各国との水面下でのやるかやられるかの戦争です。」
ジョージはそう言うと、雫に耳打ちして一つの見慣れないスマホを持って来させ、剣崎の前に差し出した。
「佐藤さん、これは?」
「形式名称GL-01。読心スマホの試作初号機です。システムはスマホによるアナウンス式の旧式タイプですが、思念増幅型の機能は最新型のGL-05と遜色はありません。これを剣崎さんにお貸しします。そして、私も剣崎さんと行動を共にしてスキルと技術面でサポートいたします。共に悪名高いスカイハックをやっつけてやりましょう!」
「おぉ!それは嬉しく頼もしいですが、容姿の綺麗な女性から『やっつけてやりましょう』なんて言われたら、なんか、こう、くすぐったい感じですな!」
そう言う剣崎にその場にいた皆、ドッと笑った。
「ちなみに、余談なのですがお貸しするこのGL-01私と私の夫とを結んだ縁結びの縁起良いディバイスです。きっとまた私達に幸運をもたらしてくれることでしょう。」
そう言うと雫はニコっと笑った。剣崎もつられて頬を染めて笑い返したが雫が既婚者であることに、少し残念な気持ちにもなっていた。
「それではこれより、我々CIAと日本の警視庁、並びにゴーグルの協力による対スカイハックの共同戦線樹立の仮協定を結びましょう。そして各々で入手した情報等を共有し、スカイハック壊滅へ向けての目的を遂行、達成しましょう。」
ジョージはそう言い、その場にいる5名と各々固い握手を交わした。これが後の世で語り継がれる事になる『ハート協定』である。
帰りの車中、剣崎は雫にレクチャーされた読心スマホを手に取り、未来を描いた映画のような世界が現実世界になりつつある事に少し怯えていた。
「人の心を丸裸にするこのスマホはいずれ社会に歪みを生じさせる事だろう。相手をとことん疑い忌み嫌うか、心底信頼するか、人の心の純粋な部分、汚れた部分、どちらも見えて、心の二極化が生まれるかもな。」
独り言の様につぶやく剣崎に、
「確かにそうですね。運用にも問題がありそうです。今現在この技術に関しての法整備がなされていません。もし、私達が使うとなれば、現行のコンプライアンスは大事になってくるでしょうね。特に人権に関わる問題になりそうです。安易に心が読めるとはいえ、果たして第三者が相手の心を読んでもいいものなのか。」
心配性の橋本らしい考えであったが、その意見には剣崎も同感であった。
「ただ、相手はテロリストだ。今目の前にある危機を前にしたら、コンプライアンスもへったくれもなくなるだろうな。緊急避難措置ってやつだ。どちらにしてもこのスマホの使い手のモラルは問われるだろうな。」
そう言う剣崎に橋本も頷いた。
「これは世に出しては決していけないものかもな。」
そう呟き、剣崎は癖である顎ひげをワシャワシャして帰路に着いた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる