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その心の声は。第二章
追跡
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日が変わって翌日。仕事が休日の神谷は人混みを求め、例のスマホを片手に街中へと飛び出した。昨夜調べておいたいくつかの機能の実証実験を行うためだった。神谷は自宅近くの駅の改札前に立ち、おもむろに例のスマホを取り出した。
(さて、まずはマルチ機能を試してみるか。)
マルチ機能とはスマホ本体から半径数十メートルの範囲内(Wi-Fiの範囲位)の不特定多数の全ての人間の思考を読み取り、音声、文字として表すものであった。
(ぐわっ!何だこりゃ、やかましくて聞いてられん。)
マルチ機能をオンにした瞬間、一斉に大勢の人の思考がスマホの音声と画像に流れ込んできた。音声は誰が何を言っているのか分からず、画像は思考の文字(ネットの動画サイトの様に)で溢れかえった。
(この機能を使うにはここじゃあ人が多すぎるな。)
次にマルチ機能とは対照的な機能のパーソナル機能を試してみた。パーソナル機能とはマルチ機能と同じ範囲内で、スマホを所持している者にだけに向けられた思考だけをキャッチして音声、文字として表示するものであった。
(・・・・・静かで平和だ。それもそうだよな。ここで俺だけを見ている者などいないだろう。)
そう思い、スイッチを切ろうとした瞬間、
『奴は何をしているのだろうか。』
(何?だ、誰だ?)
神谷は一瞬、焦りを隠せなかった。が、しかしすぐに平静さを取り戻し、そっと視線を周囲に巡らした。
(ここでは人が多くて特定が難しいな。場所を変えるか。)
神谷は駅の電車には乗らず駅のはずれのひと気の少ない路地へと歩みを向けた。パーソナル機能はそのままオンの状態にしておき、自分に向けられる思考をいつでもキャッチ出来るようにしておいた。
(奴はついてきているのか?振り向きたいが尾行に気付いたと思われると特定が難しくなるからな。しかし奴は何者だ?可能性として高いのはスカイハックの刺客か何かかもしれんが、断定するのは危険だ。暫くは向こうの出方を伺おう。)
神谷はそう考え、狭い路地を歩いた。途中、交差点でカーブミラーにそっと視線を向けた。ミラーに写る自分の奥に小さく男性らしき人物が追てきているのが確認出来た。
(ふっ。ノコノコと追てきてるな。)
尾行されていることは気に喰わないが、それと同じ位、スリルと高揚感を楽しんでいた。そう思っている所へスマホが謎の男の思考をキャッチした。
『神谷は駅横の路地を繁華街方面へ向かっているな。ここで後続の剣崎さんに一報いれとくか。』
(なるほどな。俺の身元はもう割れているということか。かなりの組織力のようだな。剣崎?一体何者だ?)
昨日の今日で自分の身元が割れている事に神谷は愕然としたが、尾行されていればいずれは知れることなので、すんなりと受け入れられた。そして、神谷はスマホをパーソナル機能から、サーチ機能へ変更し、キャッチした思考主の身元を検索した。
『彼の名前は橋本流星。28歳。公安調査庁 調査第二部 第一課 国内組織犯罪対策課職員。主に国内でのテロ活動の監視、警戒、摘発を担当。今現在の任務は国際的テロハッカー集団【sky hack】の国内での動向を追っている。家族構成は・・・・』
(公安調査庁?ふはは。こいつはいよいよヤバイ事になってきたな。)
神谷は歩きながら小さく苦笑いした。
(さしづめ、今の所俺はスカイハックとの関係者、的な感じなのだろうか。強く否定するつもりはサラサラないが、あんなタチの悪い奴らと同列視されるのは、ちと不愉快だな。それに昨日の伊村との一連のやり取りを見聞きされていたとしたら、俺の動きと目的の特定が先だろうからそう短絡的な考えには到らない、だろう。)
勝手な推測だが、まぁ、そんな所だろうと神谷は考えた。
路地を一本挟んで車でモニタリングしながら少しずつ後を追う剣崎達は橋本からの連絡を受け神谷の動きの先読みをしていた。
「繁華街に抜ければ人混みに紛れて複数での追尾が可能だ。庁舎でも話したが神谷が何故伊村の名前と素性をし知っていたのか。そして伊村は何故神谷に近付いたのか。その辺りがまだ不明だからな。」
剣崎はワゴン車の後部座席でモニターを見ながらイライラを押さえつけるように煙草を吹かし、運転席で運転する住吉にそう言った。
「剣崎さん、神谷は何処へ向かっているのでしょうか、この方面にスカイハックとの繋がりのある情報は無かった様な気がしますが。」
「住吉、神谷はもうこちらの尾行に気付いているやも知れん。何故なら駅の改札前まで行っておきながら、駅を離れひと気の少ない路地へと入った。こちらの尾行者を特定させるかのようにな。そして繁華街の人混みに紛れて我等を巻くつもりだろうよ。」
「なるほど。長年の勘ってやつですか。」
「そうだ。ところで伊村に付いている班からの連絡じゃあ伊村に動きはないらしい。それとゴーグル社の落合の方にに張り付いている別班からの連絡もそろそろあっていいのだがな。」
「そうですね。」
その様な話をしてたからか、落合の班から連絡が入った。連絡ではこうだ。先程、盗聴中の落合のスマホに公衆電話から伊村らしき人物の着信で『警察に勘付かれた。例のミッションも受け取りに失敗。日本での活動はこれにて終了。我々も一時解散、日本より撤退する。お前も逃げろ。そして、我々の事を口外した場合お前の命の保証はないものと思え』と。これにより、すぐに伊村の班に連絡、伊村の所在を確認したが、昨日までのスマホを部屋に残して伊村は消えていたらしい。その落合もすぐに身柄を確保しようとしたが、その後スマホを残して姿を消したと。
「クソっ!何たる失態だ!ここ数年の努力が水の泡だ!」
剣崎はワゴン車のドアを蹴り上げると低い叫び声を上げその怒りと悔しさを露わにした。
「剣崎さん。どうしますか?」
「どうするもこうするも、また一からのやり直しだ。どれもこれも神谷のヤローのお陰だな。神谷だけは逃さず、この代償をしっかり払ってもらおうか。」
苦々しい顔をしながらそう話す剣崎の声のトーンは暗い。そんな深刻で日本の安全の危機を自分が引き起こした事など知る由もない神谷は狭い路地を抜け、繁華街へと到達していた。今、そんな危機を自分がもたらした事を神谷自身が知れば、さすがに冷静を保つことは出来なかったかもしれないだろう。剣崎は神谷の身柄確保のカードもあったが、そのカードはあえて切らなかった。公安調査庁の任務は被疑者の検挙にあらず、いかに多くの情報を集め、この国の安全の為に水面下で網を巡らし、敵中枢部の情報や、大局を有利に掌握することにある。
「ここは摘発せず、例の如く泳がせよう。」
剣崎の顔に苦渋が滲む。その想いを察した住吉はバックミラー越しに「はい」と頷いた。
繁華街を歩く神谷は追尾してる橋本をどう料理しようかと考えていた。
(まずは橋本とやらの顔を拝んでおくか。)
ショーウインドウを鏡にして身なりや、髪型などを整えるフリをして後方でスマホを見ながらこちらの様子を伺う橋本を神谷はそっと観察した。橋本はスーツのジャケットに白いシャツ。下はジーンズにスニーカーと、目立たず、当たり障りのない何とも地味な姿で存在を風景に馴染ませていた。背丈は175センチ位で眼鏡をかけ、インテリなオタクのような雰囲気であった。
(なるほどな。諜報活動らしい身なりだな。地味で目立たない。)
神谷はショーウインドウ越しに辺りを見渡した。
(剣崎は何処だ?最低でも二人以上からマークされているはずだ。)
そうであれば尾行を巻くのは不可能と判断した神谷は尾行者をすべて特定して、今後の行動に役立てようと考えた。そして、スマホの機能をサーチ機能からパーソナル機能へと切り替え、自分に向けられる思考を広域にキャッチ出来るよう『網』を張った。
(さぁ、何匹釣れるかな。)
不敵な笑みを浮かべ、神谷はまた繁華街を歩き出した。すると一人の人間の自分に向けられた思考がワイヤレスイヤホンに飛び込んで来た。
『あのヤロー、余計な事してくれやがって。絶対尻尾掴んで今回の失敗をチャラにしねーとな。』
(ふっ。かかった。どちら様かな。)
神谷は早速、スマホをパーソナル機能からサーチ機能へと切り替え、思考主を検索した。
『彼の名前は剣崎竜二。51歳。公安調査庁 調査第二部 第一課 国内組織犯罪対策課課長。主に国内でのテロ活動の監視、警戒、摘発を担当。今現在の任務は国際的テロハッカー集団【sky hack】の国内での動向を追っている。家族構成は・・・・』
(剣崎は橋本の上司か。それと、さっき『今回の失敗』と、言ってたな。何の失敗だ?)
神谷は気になり、『剣崎の今回の失敗とは?』と、検索してみた。
『昨日から本日にかけて、長年追い続け泳がせていたスカイハック エージェント 伊村忠と、その仲間の落合健作に警察の動きを勘付かれ、取り逃がしてしまった事である。その原因は同じく彼等が追う、神谷大輔にある。』
(なんだよ!俺のせいかよ!公安といい、このスマホといい、自分の失敗を人のせいにしやがって。)
もともとは神谷が余計な事をしたからなのだが、自分の事は棚に上げて被害者ヅラで神谷も自分の失敗を人のせいにしているというややこしい構図である。
(まぁいい。さて、この後、どうしてやろうか。剣崎達に強引に接触してオトモダチにでもなるか、存在に気付かないフリをして、逆に泳がせて様子をみるか。)
どちらにしても相手の心を読める神谷の方が有利に展開出来るのは言うまでもない。
(そうだな。)
神谷は剣崎達を泳がせて様子を見る事にした。
(奴等の動向はこのスマホのお陰で筒抜けだからよ。)
神になったかのような優越感が神谷を支配していた。もはや心を読むのに罪悪感は全くなくなっていた。
(なんだか疲れた。その他の機能も試したかったが、今日はこれくらいにしとくか。)
この国の諜報機関の人間にマークされている現実が神谷はまだ実感出来てないのだが、その事の大きさに、身震いしていた。恐怖ではなく、高揚感で。そして、剣崎の事など気にも留めず自宅へと足を運んだ。
「剣崎さん。神谷は私達に気付いたのでしょうか?」
そう訊ねる橋本をチラリと見ると、神谷の背中を見詰めながら剣崎は応えた。
「どうかな。ただ、今日の不自然な動きを考慮してみると、気付いたと判断しておいた方がいいだろうな。橋本、永野と住吉で追跡チームを作り、明日以降も神谷を監視しするよう支持をだしてくれ。俺と橋本は明日、落合健作の勤めていたゴーグル東京支社へいって探りを入れてみるとしよう。」
「分かりました。」
ひとつ頷き、橋本は眼光鋭く神谷の背中を追った。
(さて、まずはマルチ機能を試してみるか。)
マルチ機能とはスマホ本体から半径数十メートルの範囲内(Wi-Fiの範囲位)の不特定多数の全ての人間の思考を読み取り、音声、文字として表すものであった。
(ぐわっ!何だこりゃ、やかましくて聞いてられん。)
マルチ機能をオンにした瞬間、一斉に大勢の人の思考がスマホの音声と画像に流れ込んできた。音声は誰が何を言っているのか分からず、画像は思考の文字(ネットの動画サイトの様に)で溢れかえった。
(この機能を使うにはここじゃあ人が多すぎるな。)
次にマルチ機能とは対照的な機能のパーソナル機能を試してみた。パーソナル機能とはマルチ機能と同じ範囲内で、スマホを所持している者にだけに向けられた思考だけをキャッチして音声、文字として表示するものであった。
(・・・・・静かで平和だ。それもそうだよな。ここで俺だけを見ている者などいないだろう。)
そう思い、スイッチを切ろうとした瞬間、
『奴は何をしているのだろうか。』
(何?だ、誰だ?)
神谷は一瞬、焦りを隠せなかった。が、しかしすぐに平静さを取り戻し、そっと視線を周囲に巡らした。
(ここでは人が多くて特定が難しいな。場所を変えるか。)
神谷は駅の電車には乗らず駅のはずれのひと気の少ない路地へと歩みを向けた。パーソナル機能はそのままオンの状態にしておき、自分に向けられる思考をいつでもキャッチ出来るようにしておいた。
(奴はついてきているのか?振り向きたいが尾行に気付いたと思われると特定が難しくなるからな。しかし奴は何者だ?可能性として高いのはスカイハックの刺客か何かかもしれんが、断定するのは危険だ。暫くは向こうの出方を伺おう。)
神谷はそう考え、狭い路地を歩いた。途中、交差点でカーブミラーにそっと視線を向けた。ミラーに写る自分の奥に小さく男性らしき人物が追てきているのが確認出来た。
(ふっ。ノコノコと追てきてるな。)
尾行されていることは気に喰わないが、それと同じ位、スリルと高揚感を楽しんでいた。そう思っている所へスマホが謎の男の思考をキャッチした。
『神谷は駅横の路地を繁華街方面へ向かっているな。ここで後続の剣崎さんに一報いれとくか。』
(なるほどな。俺の身元はもう割れているということか。かなりの組織力のようだな。剣崎?一体何者だ?)
昨日の今日で自分の身元が割れている事に神谷は愕然としたが、尾行されていればいずれは知れることなので、すんなりと受け入れられた。そして、神谷はスマホをパーソナル機能から、サーチ機能へ変更し、キャッチした思考主の身元を検索した。
『彼の名前は橋本流星。28歳。公安調査庁 調査第二部 第一課 国内組織犯罪対策課職員。主に国内でのテロ活動の監視、警戒、摘発を担当。今現在の任務は国際的テロハッカー集団【sky hack】の国内での動向を追っている。家族構成は・・・・』
(公安調査庁?ふはは。こいつはいよいよヤバイ事になってきたな。)
神谷は歩きながら小さく苦笑いした。
(さしづめ、今の所俺はスカイハックとの関係者、的な感じなのだろうか。強く否定するつもりはサラサラないが、あんなタチの悪い奴らと同列視されるのは、ちと不愉快だな。それに昨日の伊村との一連のやり取りを見聞きされていたとしたら、俺の動きと目的の特定が先だろうからそう短絡的な考えには到らない、だろう。)
勝手な推測だが、まぁ、そんな所だろうと神谷は考えた。
路地を一本挟んで車でモニタリングしながら少しずつ後を追う剣崎達は橋本からの連絡を受け神谷の動きの先読みをしていた。
「繁華街に抜ければ人混みに紛れて複数での追尾が可能だ。庁舎でも話したが神谷が何故伊村の名前と素性をし知っていたのか。そして伊村は何故神谷に近付いたのか。その辺りがまだ不明だからな。」
剣崎はワゴン車の後部座席でモニターを見ながらイライラを押さえつけるように煙草を吹かし、運転席で運転する住吉にそう言った。
「剣崎さん、神谷は何処へ向かっているのでしょうか、この方面にスカイハックとの繋がりのある情報は無かった様な気がしますが。」
「住吉、神谷はもうこちらの尾行に気付いているやも知れん。何故なら駅の改札前まで行っておきながら、駅を離れひと気の少ない路地へと入った。こちらの尾行者を特定させるかのようにな。そして繁華街の人混みに紛れて我等を巻くつもりだろうよ。」
「なるほど。長年の勘ってやつですか。」
「そうだ。ところで伊村に付いている班からの連絡じゃあ伊村に動きはないらしい。それとゴーグル社の落合の方にに張り付いている別班からの連絡もそろそろあっていいのだがな。」
「そうですね。」
その様な話をしてたからか、落合の班から連絡が入った。連絡ではこうだ。先程、盗聴中の落合のスマホに公衆電話から伊村らしき人物の着信で『警察に勘付かれた。例のミッションも受け取りに失敗。日本での活動はこれにて終了。我々も一時解散、日本より撤退する。お前も逃げろ。そして、我々の事を口外した場合お前の命の保証はないものと思え』と。これにより、すぐに伊村の班に連絡、伊村の所在を確認したが、昨日までのスマホを部屋に残して伊村は消えていたらしい。その落合もすぐに身柄を確保しようとしたが、その後スマホを残して姿を消したと。
「クソっ!何たる失態だ!ここ数年の努力が水の泡だ!」
剣崎はワゴン車のドアを蹴り上げると低い叫び声を上げその怒りと悔しさを露わにした。
「剣崎さん。どうしますか?」
「どうするもこうするも、また一からのやり直しだ。どれもこれも神谷のヤローのお陰だな。神谷だけは逃さず、この代償をしっかり払ってもらおうか。」
苦々しい顔をしながらそう話す剣崎の声のトーンは暗い。そんな深刻で日本の安全の危機を自分が引き起こした事など知る由もない神谷は狭い路地を抜け、繁華街へと到達していた。今、そんな危機を自分がもたらした事を神谷自身が知れば、さすがに冷静を保つことは出来なかったかもしれないだろう。剣崎は神谷の身柄確保のカードもあったが、そのカードはあえて切らなかった。公安調査庁の任務は被疑者の検挙にあらず、いかに多くの情報を集め、この国の安全の為に水面下で網を巡らし、敵中枢部の情報や、大局を有利に掌握することにある。
「ここは摘発せず、例の如く泳がせよう。」
剣崎の顔に苦渋が滲む。その想いを察した住吉はバックミラー越しに「はい」と頷いた。
繁華街を歩く神谷は追尾してる橋本をどう料理しようかと考えていた。
(まずは橋本とやらの顔を拝んでおくか。)
ショーウインドウを鏡にして身なりや、髪型などを整えるフリをして後方でスマホを見ながらこちらの様子を伺う橋本を神谷はそっと観察した。橋本はスーツのジャケットに白いシャツ。下はジーンズにスニーカーと、目立たず、当たり障りのない何とも地味な姿で存在を風景に馴染ませていた。背丈は175センチ位で眼鏡をかけ、インテリなオタクのような雰囲気であった。
(なるほどな。諜報活動らしい身なりだな。地味で目立たない。)
神谷はショーウインドウ越しに辺りを見渡した。
(剣崎は何処だ?最低でも二人以上からマークされているはずだ。)
そうであれば尾行を巻くのは不可能と判断した神谷は尾行者をすべて特定して、今後の行動に役立てようと考えた。そして、スマホの機能をサーチ機能からパーソナル機能へと切り替え、自分に向けられる思考を広域にキャッチ出来るよう『網』を張った。
(さぁ、何匹釣れるかな。)
不敵な笑みを浮かべ、神谷はまた繁華街を歩き出した。すると一人の人間の自分に向けられた思考がワイヤレスイヤホンに飛び込んで来た。
『あのヤロー、余計な事してくれやがって。絶対尻尾掴んで今回の失敗をチャラにしねーとな。』
(ふっ。かかった。どちら様かな。)
神谷は早速、スマホをパーソナル機能からサーチ機能へと切り替え、思考主を検索した。
『彼の名前は剣崎竜二。51歳。公安調査庁 調査第二部 第一課 国内組織犯罪対策課課長。主に国内でのテロ活動の監視、警戒、摘発を担当。今現在の任務は国際的テロハッカー集団【sky hack】の国内での動向を追っている。家族構成は・・・・』
(剣崎は橋本の上司か。それと、さっき『今回の失敗』と、言ってたな。何の失敗だ?)
神谷は気になり、『剣崎の今回の失敗とは?』と、検索してみた。
『昨日から本日にかけて、長年追い続け泳がせていたスカイハック エージェント 伊村忠と、その仲間の落合健作に警察の動きを勘付かれ、取り逃がしてしまった事である。その原因は同じく彼等が追う、神谷大輔にある。』
(なんだよ!俺のせいかよ!公安といい、このスマホといい、自分の失敗を人のせいにしやがって。)
もともとは神谷が余計な事をしたからなのだが、自分の事は棚に上げて被害者ヅラで神谷も自分の失敗を人のせいにしているというややこしい構図である。
(まぁいい。さて、この後、どうしてやろうか。剣崎達に強引に接触してオトモダチにでもなるか、存在に気付かないフリをして、逆に泳がせて様子をみるか。)
どちらにしても相手の心を読める神谷の方が有利に展開出来るのは言うまでもない。
(そうだな。)
神谷は剣崎達を泳がせて様子を見る事にした。
(奴等の動向はこのスマホのお陰で筒抜けだからよ。)
神になったかのような優越感が神谷を支配していた。もはや心を読むのに罪悪感は全くなくなっていた。
(なんだか疲れた。その他の機能も試したかったが、今日はこれくらいにしとくか。)
この国の諜報機関の人間にマークされている現実が神谷はまだ実感出来てないのだが、その事の大きさに、身震いしていた。恐怖ではなく、高揚感で。そして、剣崎の事など気にも留めず自宅へと足を運んだ。
「剣崎さん。神谷は私達に気付いたのでしょうか?」
そう訊ねる橋本をチラリと見ると、神谷の背中を見詰めながら剣崎は応えた。
「どうかな。ただ、今日の不自然な動きを考慮してみると、気付いたと判断しておいた方がいいだろうな。橋本、永野と住吉で追跡チームを作り、明日以降も神谷を監視しするよう支持をだしてくれ。俺と橋本は明日、落合健作の勤めていたゴーグル東京支社へいって探りを入れてみるとしよう。」
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