欠陥品なんです、あなた達は・・・ネズミ捕りから始める異世界生活。

切粉立方体

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50 冒険者

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「タケの魔法は本当に不思議だよな、魔法陣無しでも魔力返せてんだろ」
「ねえ、アキちゃん。サスケと交換しようよ」
「駄目、兄ちゃんは僕の」

 この大陸の魔法は覚えられたものの、タツハラを出て以来収入が無い僕等の懐は、少々寂しくなっていた。
 サスケさんとモミジさんに、この町の働き口を相談したら驚かれてしまった。

「出稼ぎに来たんじゃないのか」
「呆れたわ、ここへ来るまで命懸けなんだから、普通ちゃんと調べてから来るでしょ」
「俺達、北大陸で召喚された異世界人なんで、北大陸へ戻ろうと思って」
「はい、はい、はい。そんな中二病的な妄想はいいから。そんな”東大陸民でござい”って看板下げて歩いているような異世界人なんて居る訳無いでしょ」
「そもそも俺達がお前らに声掛けたのも、中堅冒険者として、新入りの迷宮探索をサポートするためなんだぜ」

 この港町の名前はセラーゼ、僕がこの町を見て最初に感じた印象は間違いではなかった。
 ちょっと違っていたのは、遺跡などではなく、一万年前からずっと住民が住み続けている現役の町だったのだ。
 中央大陸では一般的なことだそうで、聖都と同じ様にその町々には必ず複数の迷宮がありそうなのだ。
 その迷宮での探索で一攫千金を狙う冒険者達が、他大陸から渡って来る。
 そんな図式だそうなのだ、・・・知らなかった。

 迷宮から貴重な遺物や宝物が得られなくても、中央大陸では常に魔石が不足して高値で取引されているので、魔獣から得られる魔石だけでも、東大陸の十倍以上の稼ぎになるそうなのだ。
 だから、中央大陸へ命懸けで渡って来て、普通の仕事を捜す大馬鹿者はいないということなのだ。

「魔法は使えたとしても、魔石をガバガバ食われるから商売にならんぞ。魔石使わない魔法は無しだぞ、常に監視されてんだから。武器と防具は持ってるか」
「いいえ、今まで必要無かったんで」
「得意な武器はあるか」
「ええ、一応」
「魔獣と戦ったことは」
「ええ、一応」
「それじゃ今日中に武器と防具を買え揃えて来い。明日一緒に潜ってやるから」
「ありがとうございます」

 古道具屋と古着屋を回って、取敢えず何時もの装備を買え揃えた。

「お前等、その恰好は何なんだ!」

 翌朝、待ち合わせの場所へ行ったら、サスケさんもモミジさんも僕達を見て唖然としていた。
 僕は何時も通りの吟遊詩人姿で、背中に背負子とリュトル、右手に槍を持っている。
 明美は道着姿で背中にリュトルを背負っている。
 僕がリュトルを買ったら、自分も欲しいと駄々をこねたので買ってやったのだ。
 明美の荷物は全部僕が背負っている。

 サスケさんとモミジさんは、鎖帷子を羽織った忍者姿だ。

「槍持った吟遊詩人は初めて見たが、リュトル背負った武闘家も始めてだぞ。いつもその恰好なのか」
「ええ、何時もこの恰好です」
「僕はドレスの方が多かったんだけど、動きにくいからこれにした」
「・・・・・・ああ、確かにドレスじゃ動きにくいな。駄目だと思ったら直ぐに引き返すからな」

 なんかサスケさんが少し切れている。

「四人しか居ないけど、一応陣形の話をしておく。基本は、剣やこん棒や拳なんかの近距離攻撃の連中が前衛、槍や投げナイフや俺達みたいな影からの奇襲が得意なのが中衛、弓や魔法や治癒担当が後衛だ。タケは何処を担当してた」
「前衛です。俺が大丈夫と判断したら、後ろの連中に攻撃させてました」
「おいおいおい、槍持った吟遊詩人が前衛なんて、どんなパーティーなんだ。前衛は何人だ」
「俺一人です」
「・・・・・・・、もういい。アキちゃんは何処だった」
「後衛の後ろでーす」
「得意技が遠距離魔法だったのか」
「ううん、回し蹴り」
「・・・・・、もういい。タケ前衛な、アキちゃんはタケの後ろで両脇を俺とモミジが固める」
「アキちゃん、逸れた時用に荷物は持った方が良いわよ」
「大丈夫、絶対に兄ちゃんと逸れないから」
「でも万が一」
「大丈夫、兄ちゃんは絶対僕を抱えて逃げてくれるから」
「へー、羨ましいわね。ねえ聞いて、アキちゃん。この間ね、サスケは私を置き去りにして一人でさっさと逃げちゃったの。酷いでしょ」
「うわー、だから謝っただろ、何回も。それに二年も前の話だろ」
「私にとっては、一生この間の話なのよ、サスケ。ねえ、アキちゃん。タケちゃんと交換しようよ」
「駄目、兄ちゃんは僕のもの」

 迷宮入口には魔石買取業者の店がずらーと並んでいた。
 店先に、”現金買取 一蝙蝠 五十三カパ”と書いてある。
 カパとは銅貨の単位だ。

「昨日より三カパ上がったな。蝙蝠の魔石が一番小さいんで魔石全体の買取の目安になってるんだ。魔犬の魔石なら四十倍の二十シルバ、結構いい商売だろ」

 迷宮の入口の事務所前で、石畳の上で正座して怒鳴られている人達がいる。
 怒鳴っている人達は十人程で、皆神官服を着ている。

「魔法感知監よ。魔法の女神教会の神官なの。普通の魔法を間違って使うと、四鐘くらいあれをずっとやられるの。一回経験すると一発で懲りるわよ」

 口答えした女性が、棒で袋叩きにされている。

「あの人達ってね、北大陸の貴族や王族を滅びを呼ぶ魔物って言って忌み嫌っているの、駆除すべきだって。北大陸の王族や貴族って、魔法世界の魔力を物凄い勢いでこの世界に汲み上げてばら撒いているんですって」

 怒られているパーティーが、他人の様には思えなくなった。
 もし僕等が、北大陸の本物の勇者と勇女と知られたら、あの目付きの変な狂信者達に殺されるだろう。

「さあ、入るか」

 
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