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55 大迷宮4
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ーーーーー
ハンゾー
ユリエの抜けた影響は大きく、セトに到着したのは三日後の夜だった。
急いで砂船の訓練をさせたいところなのだが、全員疲労困憊で、少なくとも一日は休ませなければならない。
二日の遅れ、これが船代に及ぼす影響を考えると、胃が締め付けられる。
「ユリエ、すまん遅くなった。砂船の教師捜しに行くぞ」
「ハンゾーお疲れ。砂船確保しといたよ」
「えっ」
「三十人乗りの高速船四隻、菱形で船団組んだ方が安全なんだってさ」
「金は足りるのか」
「金貨一枚で良いって」
「えっ!ずいぶん安いな。四隻で金貨四枚か」
「ううん、四隻で金貨一枚」
「おいおいおい、何でそんなに安いんだよ」
「うーん、強いて言えば、タケが身体で支払ってる所為かな」
ーーーーー
「左前方砂下に岩礁有り、面舵」
「了解」
「右前方に砂虫の群、水撃放射」
「了解」
岩礁地帯で操船の練習をしていたら、砂の下が見えるらしいことが、船頭達の間で噂になってしまった。
砂船組合から砂先案内人を頼まれ、船を借りる都合上、断れなくなってしまった。
案内を頼まれる船の大きさが段々大きくなり、今日は五百人乗りの、昼間運行船の砂先案内人を頼まれている。
昼間は砂虫と呼ばれる全長十メートルくらいの大みみずが活発に活動しており、水魔法の魔法陣が得意な魔法師達が、水撃を放射して砂虫を追い払う。
最初は半信半疑だった魔法師達も、逃げ惑う砂虫を何度も目撃して、次第に素直に従ってくれるようになった。
普通は襲われてから対処するそうなのだが、砂虫が船をひっくり返そうとするので、揺れる船の中で必死に雨を降らせるような大雑把な方法らしかった。
だから最初は魔法の無駄使いと言って嫌がっていた、襲われた時に魔力不足になると死活問題になるからだ。
でも、僕が砂虫が見えると何となく解り始めてから、安心して従ってくれている。
勿論明美も付いて来ている。
しかもちゃっかり吟遊詩人で小銭を稼いでいる。
僕だって、吟遊詩人の血が騒ぐし歌いたい。
「左前方に砂虫の群、水撃放射」
「了解」
うん、勿論そんな暇は無い。
ーーーーー
大砂漠沿縁航路船船主 サムト
噂話を聞いて半信半疑で雇ってみたが、船長の話を聞く限り、本物だったらしい。
何よりも、一度も砂虫に襲われなかったと言うのが一番凄い。
直接船体を確認してみたのだが、痛みが全然無かった。
最低一週間は必要だったドックでの点検修理も半日程度で済む。
費用面から考えれば、金貨数百枚の違いが出る。
短期しか雇えない事が、つくづく惜しい。
ーーーーー
セトに戻る航路船の予定が急遽変更になり、逆方向の砂先案内人を頼まれてしまった。
知らない町でも、魔素の目で見れば方向が解るので問題ないのだが、セトの町へ帰して貰えるのか少々心配になってくる。
指定された船へ向かうと、二千人乗りの超大型船だった。
「兄ちゃん、ホール広いしお客さん一杯だよ。歌い甲斐があるなー」
くそー、僕だってシャウトしたい。
「右前方砂下に岩礁有り、取舵」
「了解」
ーーーーー
ハンゾー
タケが予定期日になっても帰って来ない。
砂船組合から、数日待って欲しいとの連絡があった。
ここの宿代は勿論、飯も酒も無料で良いという。
タケは何をやらされているのだろうか。
暇なので、サスケとアヤメが教師役となって砂船の動かし方を習っている。
ユリエは、直ぐ殴るので教師役から除外したのだが、根に持って、酒を呑む度俺に絡んで殴り掛って来る。
おーいタケ、早く帰って来てくれ。
ーーーーー
集合日から遅れること五日、やっと二千人乗りの船に乗ってセトの町に帰って来た。
もう全員出発後と覚悟していたのだが、嬉しい事に全員が待っていて、出迎えてくれた。
特にハンゾーさんは物凄く嬉しそうだった。
全員が船の動かし方を覚えたというので、力量を確認した。
「先頭の船は俺と明美、殿の船はハンゾーさんとケンタさん、右船がユリエさんとサスケさん」
「ほーれ見ろハンゾー、見る目の有る奴が見れば、ちゃんと解るんだよ、馬鹿野郎」
「うるせーぞ、ユリエ」
ハンゾーさんとユリエさんで、何か揉めているらしい。
「左船がアヤメさんとモミジさん。この組み合わせで操船して下さい。念のため、明日の朝から半日は、町の近くで砂虫との戦闘訓練をします。水魔法の魔法陣が得意な人は、申し出て下さい。それを参考に乗船の組み合わせを考えます」
ーーーーー
モミジ
模擬訓練と思っていたら、砂虫の群の中へ突っ込んで行くというガチンコの戦闘でした。
基本は水に濡れて柔らかくなった砂虫を切断する戦法なのですが、A級やB級の人はサッと砂虫に飛び移って、スパッと切って戻って来るのですが、C級やD級は戻れないで砂の中に落ちてしまいます。
私も後半歩で船に戻れず落ちてしまったのですが、ふわっと抱き抱えられる感じで船に戻されました。
これは、ユリエ姐が言っていた、マストのてっぺんに座っているタケちゃんの傀儡術なのかもしれません。
「タケ、これで全員の力量は把握しただろ。今度はお前の力量を見せてくれ」
「いいですよ。明美、船の操作頼む」
「ほーい」
「すいません、みなさん武器貸して下さい」
アキちゃんとタケさんを乗せた船が砂漠の中を進んで行きます。
突然止まったと思ったら、船の周囲に雨が降り始めました。
砂の中から引っこ抜かれた様に無数の砂虫が現れ、甲板に置かれた武器が突然宙に浮き、その砂虫の群に襲い掛かり、一瞬で砂虫の群が切り刻まれました。
「うわー、あいつ百本くらい傀儡糸使ってるんじゃねーか。えげつねーな」
「やっぱり、あいつは化け物だな」
ハンゾー
ユリエの抜けた影響は大きく、セトに到着したのは三日後の夜だった。
急いで砂船の訓練をさせたいところなのだが、全員疲労困憊で、少なくとも一日は休ませなければならない。
二日の遅れ、これが船代に及ぼす影響を考えると、胃が締め付けられる。
「ユリエ、すまん遅くなった。砂船の教師捜しに行くぞ」
「ハンゾーお疲れ。砂船確保しといたよ」
「えっ」
「三十人乗りの高速船四隻、菱形で船団組んだ方が安全なんだってさ」
「金は足りるのか」
「金貨一枚で良いって」
「えっ!ずいぶん安いな。四隻で金貨四枚か」
「ううん、四隻で金貨一枚」
「おいおいおい、何でそんなに安いんだよ」
「うーん、強いて言えば、タケが身体で支払ってる所為かな」
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「左前方砂下に岩礁有り、面舵」
「了解」
「右前方に砂虫の群、水撃放射」
「了解」
岩礁地帯で操船の練習をしていたら、砂の下が見えるらしいことが、船頭達の間で噂になってしまった。
砂船組合から砂先案内人を頼まれ、船を借りる都合上、断れなくなってしまった。
案内を頼まれる船の大きさが段々大きくなり、今日は五百人乗りの、昼間運行船の砂先案内人を頼まれている。
昼間は砂虫と呼ばれる全長十メートルくらいの大みみずが活発に活動しており、水魔法の魔法陣が得意な魔法師達が、水撃を放射して砂虫を追い払う。
最初は半信半疑だった魔法師達も、逃げ惑う砂虫を何度も目撃して、次第に素直に従ってくれるようになった。
普通は襲われてから対処するそうなのだが、砂虫が船をひっくり返そうとするので、揺れる船の中で必死に雨を降らせるような大雑把な方法らしかった。
だから最初は魔法の無駄使いと言って嫌がっていた、襲われた時に魔力不足になると死活問題になるからだ。
でも、僕が砂虫が見えると何となく解り始めてから、安心して従ってくれている。
勿論明美も付いて来ている。
しかもちゃっかり吟遊詩人で小銭を稼いでいる。
僕だって、吟遊詩人の血が騒ぐし歌いたい。
「左前方に砂虫の群、水撃放射」
「了解」
うん、勿論そんな暇は無い。
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大砂漠沿縁航路船船主 サムト
噂話を聞いて半信半疑で雇ってみたが、船長の話を聞く限り、本物だったらしい。
何よりも、一度も砂虫に襲われなかったと言うのが一番凄い。
直接船体を確認してみたのだが、痛みが全然無かった。
最低一週間は必要だったドックでの点検修理も半日程度で済む。
費用面から考えれば、金貨数百枚の違いが出る。
短期しか雇えない事が、つくづく惜しい。
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セトに戻る航路船の予定が急遽変更になり、逆方向の砂先案内人を頼まれてしまった。
知らない町でも、魔素の目で見れば方向が解るので問題ないのだが、セトの町へ帰して貰えるのか少々心配になってくる。
指定された船へ向かうと、二千人乗りの超大型船だった。
「兄ちゃん、ホール広いしお客さん一杯だよ。歌い甲斐があるなー」
くそー、僕だってシャウトしたい。
「右前方砂下に岩礁有り、取舵」
「了解」
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ハンゾー
タケが予定期日になっても帰って来ない。
砂船組合から、数日待って欲しいとの連絡があった。
ここの宿代は勿論、飯も酒も無料で良いという。
タケは何をやらされているのだろうか。
暇なので、サスケとアヤメが教師役となって砂船の動かし方を習っている。
ユリエは、直ぐ殴るので教師役から除外したのだが、根に持って、酒を呑む度俺に絡んで殴り掛って来る。
おーいタケ、早く帰って来てくれ。
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集合日から遅れること五日、やっと二千人乗りの船に乗ってセトの町に帰って来た。
もう全員出発後と覚悟していたのだが、嬉しい事に全員が待っていて、出迎えてくれた。
特にハンゾーさんは物凄く嬉しそうだった。
全員が船の動かし方を覚えたというので、力量を確認した。
「先頭の船は俺と明美、殿の船はハンゾーさんとケンタさん、右船がユリエさんとサスケさん」
「ほーれ見ろハンゾー、見る目の有る奴が見れば、ちゃんと解るんだよ、馬鹿野郎」
「うるせーぞ、ユリエ」
ハンゾーさんとユリエさんで、何か揉めているらしい。
「左船がアヤメさんとモミジさん。この組み合わせで操船して下さい。念のため、明日の朝から半日は、町の近くで砂虫との戦闘訓練をします。水魔法の魔法陣が得意な人は、申し出て下さい。それを参考に乗船の組み合わせを考えます」
ーーーーー
モミジ
模擬訓練と思っていたら、砂虫の群の中へ突っ込んで行くというガチンコの戦闘でした。
基本は水に濡れて柔らかくなった砂虫を切断する戦法なのですが、A級やB級の人はサッと砂虫に飛び移って、スパッと切って戻って来るのですが、C級やD級は戻れないで砂の中に落ちてしまいます。
私も後半歩で船に戻れず落ちてしまったのですが、ふわっと抱き抱えられる感じで船に戻されました。
これは、ユリエ姐が言っていた、マストのてっぺんに座っているタケちゃんの傀儡術なのかもしれません。
「タケ、これで全員の力量は把握しただろ。今度はお前の力量を見せてくれ」
「いいですよ。明美、船の操作頼む」
「ほーい」
「すいません、みなさん武器貸して下さい」
アキちゃんとタケさんを乗せた船が砂漠の中を進んで行きます。
突然止まったと思ったら、船の周囲に雨が降り始めました。
砂の中から引っこ抜かれた様に無数の砂虫が現れ、甲板に置かれた武器が突然宙に浮き、その砂虫の群に襲い掛かり、一瞬で砂虫の群が切り刻まれました。
「うわー、あいつ百本くらい傀儡糸使ってるんじゃねーか。えげつねーな」
「やっぱり、あいつは化け物だな」
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