奴隷を買うぞ・・異世界煩悩記

切粉立方体

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8 逃亡

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鼠に襲われることなく、下水が町の外に流れ落ちる場所に辿り着いた。
外は既に夕暮れで、雪を被った峰が赤く染まっていた。
野獣や鳥の侵入防止策として、鉄格子が設けられていたようだが、すでに朽ち果てており、用をなしていない。
落ち口から下を覗き込むと、地面まで十メートルくらいの高さがあった。
三人をひとりずつ順番に縄で縛って降ろして行く。
確かにこいつらを縛ろうと思って買った縄なのだが、娯楽用であって、実用じゃなかったはずだ。
口惜しいので、少し予行演習も兼ねてみた。

町から流れ落ちた下水は、町を囲む森の中に川となって流れ込んでいる。
このまま川に沿って町を離れた方が安全なのだが、三人の恰好は、上半身が薄い生地の浴衣の様な服と細い胸帯が一枚、下半身に至っては、紐のような褌一丁でサンダルすら履いていない。
僕にも貸し与える様な服は無く、これから冬に向かう季節に長旅が出来る状況ではない。

多少の危険性はあったが、門外に並んでいる商店に一旦寄って、装備を整えてから町を離れることにした。
たぶん町の守備兵達の巡回路なのだろう、町を囲む塀沿いの踏み跡を辿って、一番近い西門に向かう。
途中何度か野鼠や野犬に遭遇したが、身体の小さい、群れから逸れた迷い雄だったので、僕でも簡単に倒せた。

三人共家で家事を手伝っていたらしく、鼠や犬を捌く作業は手馴れていた。
完全に美味しいお肉と認識しているのだろう、十二歳の美少女達が、涎を垂らしそうになって骨から肉を剥している姿は、やはり異世界だった。
肉は毛皮と一緒に敷布に包んで僕が背負う。
日本に居た時は知らなかったのだが、狩り立ての肉は、新鮮であっても硬くて美味く無い。
数日熟成して、肉が柔らかくなってから食べるのだ。

西門に着いた時には、完全に陽が暮れており、塀に貼り付く様に建っている店には灯が点っていた。
闇の中に浮かび上がる灯は、流行病の影響だろう、店の担い手を失って、完全な歯抜け状態だった。

「兵隊が来るよ」

用心の為、僕達は光石を消して歩いていたのだが、視界に入った前方の光石の持ち主を、テオがいち早く察した。
急いで灯の消えた商店の軒下に身を潜めると、その光石は四軒前の店の明かりの中に消えて行った。

「酒場みたいだよ」

酒場の中での兵士の会話を盗み聴こうと、隣の店まで移動したら、建付けの悪い傾いた戸は、簡単に外れた。

「オークだったのか、なんでモンスターが街中に居たんだよ。ねえちゃん、生四つ頼むよ」
「はーい」

テオが僕の耳の中へ、音を送ってくれている。

「似てただけだろ、でも剣鬼様も台無しだよな、棍棒喰らってぶっ倒されたんだろ。鼠と犬の燻製肉二人前と普通の焼き肉二人前」
「はーい、マスター、チュウとワンの煙と普通が二」
「あいよ」

僕達も荷を開け、昼間作って貰った弁当を開く。
ミューアとファーレが店奥のキッチンでお湯を温める。

「乾杯、プハー、旨い。まだ見つかってないんだろ」
「ああ、門は見張ってるから、まだ町中に居るんだろうな」
「自分の手で首を切り落とすって、男爵様カンカンなんだろ」
「治療の時相当悲鳴を上げて、治療師切殺したらしいぜ」
「狂犬だな」
「ああ、でも男爵様だからな。捕まったらオークは一寸刻み確定だろうけど、一緒に居た子供の奴隷、あれも嬲り殺されるだろうな」
「ピーピの村の話って知ってるか」
「なんだよ」
「巡視の昼飯の時、転んでスープを男爵にぶちまけた女の子がいたらしくてよ」
「それで」
「親と一緒に村の広場で裸に剥かれて串刺し。尻から槍突っ込んで口まで通すらしいんだけど、晒されても、三日位はうめきながら生きてるらしいぞ」
「・・・・・ひでーなそれは」
「でもよ、男爵様はそれがすっかりお気に入りで、子供は串刺しにされるらしいぞ」

テオが二人にも聞かせているらしく、三人の動きが固まっている。

「生四つお代わり」
「はーい」
「明日、町中で見つからなかったら、街道にも検問張るって隊長が言ってたぞ。それと手配書も送るってさ」
「へー、プライドの高い男爵様が、良く自分の恥を晒す気になったな」
「これはここだけの話だけどさ、そのオークがケントニクス遺跡の結界解除呪文を書いた紙を持ってるらしいぞ」
「へー、そんなお宝が関わった話だったのか、ふーん、動員数が多いんで気になってたが、それなら納得だ。そのオークも領内中に手配されたら逃げ場は無いな」
「奴隷の女の子も、この肉みたいに串刺しか」

三人が涙目になって僕に縋り付いて来た。
僕も一寸刻みにされたくない。

忍び込んだ店は、古着屋だった様で、色々な衣装が並んでいた。
三人の首輪を白く塗り、神官見習いの服を着せる。
神官見習いは、神への隷属を示すため白い首輪を纏うので、カモフラージュに丁度良かった。
僕は神官服を着る、数日前まで毎日着ていたので、妙にしっくりする。
それに棍棒を背負っていても、違和感が無い。

三人にサンダルを履かせて杖を持たせれば、巡礼へ向かう神官団が出来上がる。
店を出て、門前に停まっている最終駅馬車に乗り込む。
ここからは、手配書との競争だ。

馬車に乗り込む時に門内へ入るので心配したが、門番も含めて、皆墓地にいた僕を見知っているようで、丁重に挨拶を返されながら、無事馬車に乗り込む事ができた。
墓地での祈祷はボランティア活動だったが、神様が僕の行いに報いてくれたのだろう。
馬車が闇の中を出発した、三人は僕にしがみ付いてすやすや眠っている。
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