奴隷を買うぞ・・異世界煩悩記

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18 悪霊討伐

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神殿は急いで都中の左官屋を呼び集め、パンツを履かせてから衣を修復した。
修復前に現地確認に来た大神官の御婆ちゃんが、口から泡を吹いて卒倒したのでこの段取りとなったそうだ。

石像に悪霊が憑依するの珍しいケースでは無いそうなのだが、女神様の大事な部分が晒されるかどうかの瀬戸際だったので、神殿から報酬はたっぷり貰えた。

しばらく遊んで暮らせる額だったので、少しのんびりしようと提案したら、ファーレに怒られてしまった。

「駄目、お金は稼げる時に稼いでおくの。仕事が無くて困っている人も多いんだから、贅沢言わないの」
「やだ、休みたい。命掛けだったんだぞ。少しは労ってくれよ」
「だーめ、あのねオーク。お金ってね、穴の開いた水袋と一緒で、使い始めるとあっと言う間に空っぽになるの。
また慌てて働き始めても、袋に穴が開いてるから、どんなに頑張ってもう一生お金が貯まる事はないのよ。それでその後、ちょっとつまづいたらどうなると思う」
「どうなるんだよ」
「蓄えが無いと、これよ、これ」

ファーレが自分の首輪を指で弾く、妙な説得力が有って反論出来なかった。
そして僕は馬車馬の如く働かされている。

古都シルべニアには悪霊討伐の仕事が腐る程あった。
数世紀前の古い町並みや建物が多く残っているので、そんな建物が悪霊やら怨霊が引き寄せるのだ。

仕事が有れば、その仕事に従事している人間も多い。
その形態は、大体三つの勢力に別れていた。

一つは冒険者ギルドの冒険者達で、当然人数も一番多い。
ただゾンビや実体の無い相手なので、特殊な道具の準備が必要なうえに死亡率も高く、あまり美味しい仕事では無いらしい。
それでも有名になって悪霊討伐の見世物興行を起こせる実力まで登れれば、魔獣討伐よりも安全に巨額の財を稼げるので、担い手に不足すことはないらしい。
僕達の世界に置き換えれば、プロを目指すアマチュア集団の様な存在だ。
ただ、アマチュアのままで終わると命を落とすという、非常にシビアな世界だ。

もう一つは僕の様に神殿に属して、神官の業務として悪霊祓いを行う者。
僕は例外なのだが、皆、幼いころから神官見習いとして厳しい修行を積んで、実力はそこそこ有る。
まあ、セミプロの様な物だ、ギルドに比べて討伐報酬は少ないが、神官としての手当は毎月きちんと神殿から支払われる。
討伐に必要な道具も神殿を通して安価に入手でき、小貴族や商人からの様々な接待や贈物も時々有って、生活には不自由しない。
当然ながら危ない橋を渡ろうとする者は少なく、石像の討伐などのリスクの高い仕事に手を挙げる者はいない。

そしてもう一つはプロ。
数は一握りなのだが、娯楽の少ないこの世界ではスター扱いだ。
実力は勿論なのだが、容姿も重要な要素らしく、美男美女が揃っている。
巨大石像への憑依とか、複数の悪霊が融合して生じた巨大あやかしの出現とかの住民避難勧告レベルの大事件が起こると、専門のコーディネーターが仕切ってセッティングするそうなのだ。
銀貨十枚もするチケットが飛ぶように売れ、会場には商品を描いた看板が乱立するそうだ。

従事者数で比較すれば、ギルドのアマチュアが九十五パーセント、神官が四.八パーセント、そして残りのコンマ二パーセントがプロだ。

ギルドのアマチュアは完全な消耗品で、仕事を請け負った連中が返り討ちにあって地縛霊化してしまう。
きりが無いのだと、主任神官さんが嘆いていた。

神殿は信者からの寄付で潤っているので、悪霊討伐で儲けを出す気は無い。
だからギルドに比べて料金設定も安い。
当然討伐依頼は神殿に殺到するのだが、神殿はリスクの高い物は断わり、露骨にならない程度に比較的安易な物を優先して受ける。
これも、ギルドの冒険者の死亡率が高い一因になっているらしい。

もちろん最初からギルドに回る依頼もある、たとえば、悪霊の住み付いた家を高く転売したいとか、遊び人の息子からの財産の入った金庫を明け渡さない親の霊を祓って欲しいとか、浮気性の奥さんからの、死んでから浮気を知って怒っている旦那の霊を祓って欲しいとかの、神様の前であまり胸を張って頼めない物がそうらしい。

討伐に使う道具が自己負担なのは、神殿もギルドも共通だ。

悪霊を閉じ込める木偶や、刻印を描く呪紙じゅしは汎用品なので安いのだが、悪霊を招き寄せる手法は討伐者の流儀毎様々で、こちらの道具や材料の負担の方が大きい様だった。
結界を張って生贄を模した人形を捧げる方法、生きた家畜を生贄にする方法、三日三晩狂った様に踊る祈祷、豪華な食事を並べて誘き寄せる方法、金貨を積んでおく方法、女性がストリップを演じて誘き寄せる方法など色々なレパートリーが有った。

この辺の手法の説明をファーレから聞いたのだが、僕にはどれが良いのか良く解らなかった。
なので三人にストリップを一先ずお願いしたのだが、心に傷が残りそうな罵詈雑言を浴びてしまった。

だが、困っていた僕を、ピーの思わぬ才能が救ってくれた。

ピーは霊を物凄く怖がり、霊の出る場所に連れて行くと、生まれたての小鹿の様に足をプルプルと震わせている。
この姿が霊にとって堪らないらしく、霊が次々に寄って来るのだ。

ピーを縛って、悪霊の出没する場所に転がして置く。
背中には木偶を括り付けて、服には刻印札を張り付けておく。
声が聞こえないくらい離れた場所に移動し、気配を殺して隠れる。
そして、テオがピーの声を送ってくれるので、ピーの泣き声に神経を集中する。

一人で放置するのは可哀そうなのだが、小物の浮遊霊ならば僕が一緒でも寄って来るのだが、討伐対象に成るような悪霊は警戒して寄って来ないのだ。

じっと待つ、するとシクシク泣いていたピーの声が突然悲鳴に変わる。
ここが我慢のしどころで、ピーが悲鳴を上げてからゆっくりと十数える。

「ゲリト、メルト、ノリト。ゲリト、メルト、ノリト。ゲリト、メルト、ノリト」

そして呪文を唱えて、ピーの服に貼り付けた刻印札を燃え上がらせる。
勿論無温の炎だからピーは大丈夫だ。
悪霊は炎に焙られ、木偶の中へ逃げ込む筈だ。
この呪文を唱えるタイミングが大事だ。
早すぎると悪霊に逃げられてしまうし、遅すぎるとピーが大きく齧られてしまう。
釣りと一緒で、喰いついたタイミングを計る必要があるのだ。

悲鳴が止み、ピーの”エーンエーン”という泣き声が聞こえて来た。
残念、この泣き声じゃ釣れたのは小物だったようだ、本命じゃない。
ミューアとファーレが刻印札をピーへ貼り付けに走って行く。

「うー、うー、うー」
「男なんだから、このくらいで痛くない、痛くない」

テオが声を送ってくれる。
少し噛まれた様で、ミューアが治療している様だ。

「呪紙が勿体無いから、気合入れて早く本命の悪霊を呼び寄せなよ。根性だよ、根性」
「はい、ヒック」

ファーレが理不尽な事をピーに言っている。
二人がピーから離れると、再び”シクシク”と泣く声が聞こえ始めた。

「イヤー!・・・」

何度か空振りが続いたが、今度はピーの悲鳴が途中で途切れた。

「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、ゲリト、メルト、ノリト。ゲリト、メルト、ノリト。ゲリト、メルト、ノリト」

ピーを転がしてある場所に駆け付けると、ピーは失神していた。
木偶の頭を棍棒で叩くと、口から黒い魂の尻尾がはみ出て来た。
うん、成功だ、本命の悪霊が釣れたようだ。

呪文札を並べ、その上に木偶を立てる。

「ゲリト、メルト、ノリト。ゲリト、メルト、ノリト。ゲリト、メルト、ノリト」

炎に焙られ、悪霊の尻尾が徐々に白くなってゆく。
十分に悪霊が白く小さく縮んだのを確認した後、木偶の尻を叩いて悪霊を追い出す。
よたよたと天に昇って行った。

神殿から渡された指示書に茶色の完了印が浮かび上がった、依頼終了だ。
木偶の中に残った消えかかった小物霊を叩き出してから、木偶を右肩、虚ろな目をしたピーを左肩に担ぎ上げ、神殿へ完了報告に向かう。

その日一日虚ろな目をしているピーだが、夜にたっぷりと”アンアンヒーヒー”言わせてやると、次の朝には復活している。
意外にピーはタフだ。
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