奴隷を買うぞ・・異世界煩悩記

切粉立方体

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24 討伐興行2

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「ローラちゃん!」
「メアリーちゃん!」
「ラムちゃん!」

太い男の声の声援が観客席から飛ぶと、ローラちゃんなのだろう、二十歳前後の女性が観客席に向かって手を振っている。
このへんの様子は、日本のアイドルのコンサートと一緒だ。

暫くすると闘技場の大門が開かれ、門の向こうに邪霊の姿が見えて来た。
身の丈十五メートルくらいの、赤紫色に輝く骸骨姿の邪霊で、手に宝杖を持ち、神官の袈裟と衣を纏っている。

ステージの上の天使組が詠唱と祈祷のパターンを変えた。
魔法陣の中輪の刻印に白い光が宿り、中空に白い魔法陣が出現した。
コスチュームはともかく、一糸乱れぬ祈祷と力強い詠唱、最上位にいる除霊のプロらしい素晴らしい力量だ。

祈祷が次のパターンに移った、踊りの様な動きから力強く床を打ち鳴らす舞踏に変わった。
詠唱も変わった、歌だった物が、シャーマンらしい鋭く高い雄叫びに変わった。
外輪の刻印に青い光が点り始め、魔法陣全体に地を揺らすような力が宿って来た。
コスチュームも、密林から現れた花を纏った精霊の様に見え始めるから不思議だ。
本物の、力有る正式な除霊がこれから見られると思うとわくわくして来た。

だが、大門から奇妙な意匠の神官服を纏った一団が乱入して様子が一変した。
その一団は箒を肩に担いでおり、闘技場に描かれた魔法陣を箒で消し始めたのだ。
魔法陣が力を失い、光が失われて行く。
ステージの上で行われていた、詠唱も祈祷も止まる。

「オーク、大変だよ」

ふっ、ふっ、ふっ、ふっ。子供は騙せても大人の僕は騙されない。
観客席の客に声援を求め、観客が声援すると、新しい魔法陣が下から現れ天使組は危機を脱する、そんな良くある子供騙しなシナリオなのだろう。
ステージの上の天使組の慌て様は迫真の演技だったが、他の観客も良く解っているようで、誰も騒がないで成行きを見詰めている。

「変な神官の人達が、女の人の服脱がしてるよ」

ステージの上が修羅場になっていた、悲鳴を上げる天使組の人達を神官達が抑え付けて服を剥いている。
子供も見ているのに、こちらの世界のアイドルはこんなサービスも必要なのだろうか、うん、大変だ。
助けに行く?いや、僕も神官だし応援に行く?心情的には応援に回りたい。

邪霊が裸に剥かれてうずくまっているローラちゃんを摘み上げ、口の中へ放り込んだ。

”モグ、モグ、モグ、モグ、モグ、モグ、ペッ”

ステージの上に吐き出されたローラちゃんは、干乾びたミイラに変わっていた。

”キャー”

観客席から悲鳴が上がり、逃げ惑う観客で観客席はパニック状態になった。
これは演出じゃない。

「ゲリト、メルト、ノリト。ゲリト、メルト、ノリト。ゲリト、メルト、ノリト」

邪霊がメアリーちゃんを摘み上げて口に入れようとしていたので、手の甲と足の甲に刻印札を貼って、邪霊に殴り掛かった。

”ズン”

袈裟と衣と宝杖は実物だ、邪霊が音をたてて倒れた。
観客席から見たら不思議に思っただろう、邪霊の十分の一程の大きさしかない人形のような人間が、大きな邪霊を殴り倒したのだ。
でも見た目は大きく恐ろしげだが、この邪霊は中身が薄く、軽い木偶にしか過ぎない。
倒れた邪霊の袈裟を掴み上げ、二十回ほど後頭部を蹴り上げる。

”ウギャー、ウギャー”

叫び声を上げるが、人としての知性はあまり残っていないようだ。
魂が二体ほど抜けて行った。
衣の上に乗って抑え付け、袈裟の中身を五十回ほど殴りつける。

”ギャッ、ギャッ、ギャッ、ギャッ、ギャッ”

魂が三体ほど抜けて行った。
衣から邪霊を引っ張り出して、何度も大地に叩き付ける。

”ギー、ギー、ギー”

魂が二体ほど抜けて行った。
手頃な大きさになったので、四分の一ほどに折り畳んで殴る蹴るを続けて行く。

”ギャー、ギャー、ギャー、ギャー、ギャー、ギャー”

そして邪霊は消滅した、やれやれ。

何故か観客席は静まりかえっている。
ステージの上の様子を見ようと思って一歩近づいたら、ステージの上の女性達に”ザッ”と一斉に退かれてしまった。
何か弁明したくなったのだが、何を弁明したら良いのかが良く解らないので、諦めて自分の席に戻った。
待っていた四人の視線も何故か冷たい。

「オーク、やり過ぎだよ。僕も邪霊の悲鳴が耳に残って離れないんだから」
「そーよねー、何か途中からオークが悪役に見えて来たわ」
「見た目も悪役だし、見た目怖いしねー」
「注目されてるから、逃げましょうよ、撲怖いです」

会場中の視線を一切に僕の背中へ集まっている、ギクシャクと緊張に身体を強張らせながら、僕達は観客席裏の通路へと逃げ出した。
係員の人が裏口へ案内してくれた。

可笑しい、絶対に可笑しい、僕はみんなを救ったヒーローの筈だ。
その日は何となく宿に籠って過ごした。

翌朝、神殿に問い合わせが殺到した。
一晩良く考えたら、自分達が救われた事に思いが至ったらしのだ。
一日遅れで、僕はヒーローになった。

ーーーーー
「男爵様、ミトラス商会から情報が御座いました。奴らはシルベニアに居るようです」
「悟られぬ様、居場所だけ把握しとけと伝えておけ」
「はっ、畏まりました」

「シルバ公爵領じゃ手が出せませんね」
「うむ、ロザンナに襲わせるか」
「げっ、男爵様、鵺を公爵領に持ち込んだら死刑ですよ」
「解らなければ大丈夫だ。直ぐに準備をしろ」
「・・・・」
「餌にされたいか」
「はい、至急準備をいたします」
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