23 / 83
23 討伐興行1
しおりを挟む
僕は二日程爆睡していたそうで、目を覚ました時には、心配そうな四つの顔が覗き込んでいた。
神殿からは魔霊討伐に応じた報酬が届いており、それとは別に、デンデ伯爵から礼状を添えた手厚い報酬が枕元に置かれていた。
城の修繕があるので、急いで帰ったらしい。
僕は、報酬へのお礼と地下牢にある冒険者のアーマーの供養を手紙に認め、伯爵に送った。
ーーーーー
再び日常の生活に戻り、ファーレに馬車馬のようにこき使われている。
ただ受ける業務は少し変化した。
神殿が魔法を使う霊の討伐も受け始めたのだ。
従来はリスクも高く費用も嵩む仕事なので、神殿での受け手がいないため、全て冒険者ギルドにスルーパスして来た。
だが、ギルドでも受け手が少ない状況は一緒で、順番待ちが既に五年分も溜まっており、依頼者から苦情が常に殺到していた。
生き死に関わる情況なので依頼しているのに、五年も待たされたら怒るのも当然だ。
神殿からの意図的な苦情処理の押し付けだとの不満が冒険者ギルドの職員の間に鬱積しており、爆発寸前だった時に、どこからか僕が魔霊を倒したという噂が入ったらしいのだ。
冒険者ギルドの長と幹部が神殿に押し掛け、神官長の御婆ちゃんを応接室に二日程缶詰にして脅かしたらしい。
トイレ替りにと、ギルド長から差し出された壺を見て、御婆ちゃんは心が折れたとの噂だ。
そして本人への打診がないまま、僕が魔法を使う霊の討伐を引き受けることになったそうなのだ。
ピーは喜んでいる、霊に力があるので僕を怖がらず、囮が居なくても寄ってくるのだ。
魔法を使うと言っても、あの魔霊の魔法に比べたら屁でも無く、痛くも痒くもない。
女の霊であれば、たとえ守備範囲外であったとしても、従来通りエクスカリバーで優しく昇天させてやり、男の霊はもう面倒臭いので、手の甲と足の甲に刻印札を貼って、殴り倒してから蹴り上げてお終いにした。
たぶん神官服よりも道着の方が似合っていると思う。
宿は相変らず十日に一回移動している。
もう大丈夫という気もするのだが、この間の魔霊の様に、僕が不在の間に四人が狙われる事が怖いのだ。
用心に越したことは無い。
今度の宿は、都の中心街から駅馬車で三十分ほど掛かる住宅街の中にあり、商人などが利用するリーズナブルな宿だった。
食事も良く、部屋も風呂も広い良い宿なのだが、ファーレが捜してくる宿は徐々に料金が安くなって行く様で、ちょっと気になる。
その宿に移って三日目だった、夕刻宿に戻ったらなんか宿全体がざわめいている。
「親父さん、何か有ったの」
「あっ、神官さん。隣の街区に避難勧告が出たらしんですよ」
「何が出たの」
「狂信者の連中が集団自殺して邪霊になったらしいんでさ」
「じゃっ、ここも逃げ出した方が良いの」
「あっ、それは全然大丈夫。討伐会場の手配は終わっているらしいですから、この地区には来ません。うちのお客さん達は出店の権利の確保とチケットの確保で騒いでいるんでさ」
「へー、チケットって直ぐ手に入るの」
「難しいでしょうね、今回は人気の若手ユニットが担当するって噂ですから。縁故販売でお終いでしょうね」
テオとミューアとファーレが拾い集めてきた情報によると、会場は西三街区の円形闘技場、十万人収容の闘技場で、邪霊発生地区からはやや遠いが、収容人員を優先して避難勧告地域を広げたらしい。
担当するのは、天使組という名の二十二歳から十六歳の女性十人組のユニットで、”歌って踊って祓える”とのキャッチフレーズで人気を博しているそうだ。
チケットは、コネが無い限り、入手不可能という事だった。
だがチケットは意外な所から無料で手に入った。
翌朝、神官長の訪問客の対応に同席したら、客が帰った後に神官長がくれたのだ。
「これ貰ったの、私は興味ないけど、あなたとあなたの見習いさんで行ってみない。祓い方が派手で面白いらしいわよ」
ちなみに神官長は、冒険者ギルドに缶詰めにされて以来、一番僕が顔が怖いという理由で、来客があると僕に同席
を頼んで来る。
商品を売り込みに来た怪しげな商人の中には、僕の顔を見た途端、頭を下げながら逃げ帰る連中もいるから失礼だ。
都合の良い事に、開催日とその前日に入っていた仕事は、すべて男の霊の討伐だったので、大急ぎで殴り倒して一日で終わらせた。
当日会場へ行くと、正にお祭りだった。
出店が立ち並び、人が大勢歩いている。
美味そうな食い物を持てるだけ買い集めて会場へ向かう。
会場でチケットを見せると、丁重に挨拶されてから、特等席に案内された。
大きなテーブルとソファーが置いてあり、飲み物まで用意されていた。
周囲はたぶん貴族や豪商だと思う。
円形の闘技場には魔法砂で魔法陣が描かれており、たぶん徹夜だったのだろう、目の下に隅を作った人達が最後の点検を行っていた。
魔法陣による討伐はあまり現実的でないと聞いてはいたが、この魔法陣を見て納得した。
この魔法陣を作るのに、昨夜はたぶん千人以上の人手を要していた筈だ。
確認が終わり、天使組の十人がステージの上に現れた。
僕達の世界で言えば、魔法少女のコスチュームと言えば最も近いのだろう。
パンツが丸見えの恰好で、霊寄せの詠唱と祈祷を始めた。
年齢が一番下の子は良いのだが、一番上の人は少々痛そうだった。
魔法陣の内輪が紫色に輝き、空に向かって光の柱が伸びて行った。
この紫色の光が、邪霊を招き寄せるらしい。
神殿からは魔霊討伐に応じた報酬が届いており、それとは別に、デンデ伯爵から礼状を添えた手厚い報酬が枕元に置かれていた。
城の修繕があるので、急いで帰ったらしい。
僕は、報酬へのお礼と地下牢にある冒険者のアーマーの供養を手紙に認め、伯爵に送った。
ーーーーー
再び日常の生活に戻り、ファーレに馬車馬のようにこき使われている。
ただ受ける業務は少し変化した。
神殿が魔法を使う霊の討伐も受け始めたのだ。
従来はリスクも高く費用も嵩む仕事なので、神殿での受け手がいないため、全て冒険者ギルドにスルーパスして来た。
だが、ギルドでも受け手が少ない状況は一緒で、順番待ちが既に五年分も溜まっており、依頼者から苦情が常に殺到していた。
生き死に関わる情況なので依頼しているのに、五年も待たされたら怒るのも当然だ。
神殿からの意図的な苦情処理の押し付けだとの不満が冒険者ギルドの職員の間に鬱積しており、爆発寸前だった時に、どこからか僕が魔霊を倒したという噂が入ったらしいのだ。
冒険者ギルドの長と幹部が神殿に押し掛け、神官長の御婆ちゃんを応接室に二日程缶詰にして脅かしたらしい。
トイレ替りにと、ギルド長から差し出された壺を見て、御婆ちゃんは心が折れたとの噂だ。
そして本人への打診がないまま、僕が魔法を使う霊の討伐を引き受けることになったそうなのだ。
ピーは喜んでいる、霊に力があるので僕を怖がらず、囮が居なくても寄ってくるのだ。
魔法を使うと言っても、あの魔霊の魔法に比べたら屁でも無く、痛くも痒くもない。
女の霊であれば、たとえ守備範囲外であったとしても、従来通りエクスカリバーで優しく昇天させてやり、男の霊はもう面倒臭いので、手の甲と足の甲に刻印札を貼って、殴り倒してから蹴り上げてお終いにした。
たぶん神官服よりも道着の方が似合っていると思う。
宿は相変らず十日に一回移動している。
もう大丈夫という気もするのだが、この間の魔霊の様に、僕が不在の間に四人が狙われる事が怖いのだ。
用心に越したことは無い。
今度の宿は、都の中心街から駅馬車で三十分ほど掛かる住宅街の中にあり、商人などが利用するリーズナブルな宿だった。
食事も良く、部屋も風呂も広い良い宿なのだが、ファーレが捜してくる宿は徐々に料金が安くなって行く様で、ちょっと気になる。
その宿に移って三日目だった、夕刻宿に戻ったらなんか宿全体がざわめいている。
「親父さん、何か有ったの」
「あっ、神官さん。隣の街区に避難勧告が出たらしんですよ」
「何が出たの」
「狂信者の連中が集団自殺して邪霊になったらしいんでさ」
「じゃっ、ここも逃げ出した方が良いの」
「あっ、それは全然大丈夫。討伐会場の手配は終わっているらしいですから、この地区には来ません。うちのお客さん達は出店の権利の確保とチケットの確保で騒いでいるんでさ」
「へー、チケットって直ぐ手に入るの」
「難しいでしょうね、今回は人気の若手ユニットが担当するって噂ですから。縁故販売でお終いでしょうね」
テオとミューアとファーレが拾い集めてきた情報によると、会場は西三街区の円形闘技場、十万人収容の闘技場で、邪霊発生地区からはやや遠いが、収容人員を優先して避難勧告地域を広げたらしい。
担当するのは、天使組という名の二十二歳から十六歳の女性十人組のユニットで、”歌って踊って祓える”とのキャッチフレーズで人気を博しているそうだ。
チケットは、コネが無い限り、入手不可能という事だった。
だがチケットは意外な所から無料で手に入った。
翌朝、神官長の訪問客の対応に同席したら、客が帰った後に神官長がくれたのだ。
「これ貰ったの、私は興味ないけど、あなたとあなたの見習いさんで行ってみない。祓い方が派手で面白いらしいわよ」
ちなみに神官長は、冒険者ギルドに缶詰めにされて以来、一番僕が顔が怖いという理由で、来客があると僕に同席
を頼んで来る。
商品を売り込みに来た怪しげな商人の中には、僕の顔を見た途端、頭を下げながら逃げ帰る連中もいるから失礼だ。
都合の良い事に、開催日とその前日に入っていた仕事は、すべて男の霊の討伐だったので、大急ぎで殴り倒して一日で終わらせた。
当日会場へ行くと、正にお祭りだった。
出店が立ち並び、人が大勢歩いている。
美味そうな食い物を持てるだけ買い集めて会場へ向かう。
会場でチケットを見せると、丁重に挨拶されてから、特等席に案内された。
大きなテーブルとソファーが置いてあり、飲み物まで用意されていた。
周囲はたぶん貴族や豪商だと思う。
円形の闘技場には魔法砂で魔法陣が描かれており、たぶん徹夜だったのだろう、目の下に隅を作った人達が最後の点検を行っていた。
魔法陣による討伐はあまり現実的でないと聞いてはいたが、この魔法陣を見て納得した。
この魔法陣を作るのに、昨夜はたぶん千人以上の人手を要していた筈だ。
確認が終わり、天使組の十人がステージの上に現れた。
僕達の世界で言えば、魔法少女のコスチュームと言えば最も近いのだろう。
パンツが丸見えの恰好で、霊寄せの詠唱と祈祷を始めた。
年齢が一番下の子は良いのだが、一番上の人は少々痛そうだった。
魔法陣の内輪が紫色に輝き、空に向かって光の柱が伸びて行った。
この紫色の光が、邪霊を招き寄せるらしい。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
459
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる