奴隷を買うぞ・・異世界煩悩記

切粉立方体

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64 助っ人4

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 親子での罵詈雑言の応酬が始まった。
 議員達が全員着席し、議長らしき人物が議長席に座っても収まる気配が無かった。
 だが、議員達にとっては日常茶飯事のようで、ただうんざりした顔付でこちらを見上げているだけだった。
 練武場にいた隊長達は右側の議席に纏まって配置されており、軍もこの議会の構成員に組み込まれている様子だった。
 たぶんここがこの国の意思決定の最高機関で、女王と王女が加わっている様子から察すると、王族の意向であったとしても、この議会の了承が必要なシステムなのだろう。
 マリアスから聞き取った異世界の穴の情報から考えると、この時代の穴は相当大きく、潜って侵入して来た宙を泳ぐ魚もそれに応じて大きい。
 僕一人の力では塞げないのは勿論のこと、入念に組織だった体制を構築しなければ成功は望めないだろう。
 過去に呼び出された勇者達は、剣と鎧を与えられて万歳三唱で送り出されたそうなのだが、僕に言わせれば無謀も良いよいところで、自殺同然だ。
 この場は、この時代の人間の勘違いを正す良い機会だと思った。

 女王を右手、マリアスを左手で口を塞いで抱き抱え、議場の演説台の上に飛び降りる。

「皆聞いて欲しい。このまま異界の穴を放置すれば、いずれこの世界は滅びる。僕の名はオーク、マリアスに未来から召喚された者だ。これから穴を塞ぐ方法を説明する、僕に協力して欲しい」

 一瞬静まり返ったまでは良かったが、僕の意に反して罵詈雑言が降って来た。

「ふざけるな、馬鹿野郎!」
「下郎が何偉そうに、立ち去れ!」
「ふざけるな、貴様のような醜男が信じられるか!」
「無礼者、女王様と姫様を離せ!」
「勇者なら一人で討伐へ向かえ!」
「貴様のような醜男に議場での発言権は無い!」
「無礼じゃぞ、打ち首じゃ!」
「慮外者、誰か摘み出せ!」
「殺せ、あの馬鹿を殺せ!」
「穴を塞ぐなんて法螺を吹くな!」
「無理に決まっておる、何も知らんくせにこのど素人!」
「誰か女王を助けろ」
「女王は放って置け、姫様が先だ」
「なんじゃと貴様」
「貴様こそなんだ」
「痛って、この野郎」
「今日こそはっきりさせてやるぞこの助平野郎。覚悟しろ」
「嘗めるなこの野郎、男の焼餅は醜いぞ」
「貴様!死ね」

 次第に僕への雑言が互いへの雑言に切り替わり、そこいら中で殴り合いが始まった。
 隊長達はこの事態を治める気は無いらしく、にやにやしながらこの様子を静観している。
 ただ金鷲隊長とグレースだけはじっとこちらを見詰めている。

 仕方が無い、この時代での僕の役回りは悪役らしい、大きく息を吸い込み叫ぶ。

「静かにしろ貴様等!!俺の言う事を聞かないと女王とマリアスを絞め殺すぞ」

 全員が驚いた様に動きを停め、議場が静まり返った。
 女王が驚いてガタガタ震え始めたので、なおさら迫真に満ちている。
 その時金鷲隊長が突然立ち上がった。

「私はオーク殿に従います」

 グレースも立ち上がった。

「あたいもオークに従うよ」

 ざわめきが広がり、それまで成行きを見詰めて静観していた議員達が立ち上がり始めた。

「私も従おう」
「私もだ、女王と姫の命が掛かっているからな」
「俺もだ」
「私もだ」
「儂もじゃ、良い機会じゃ」

「オーク殿、議決を取りたい。そこから降りて下さらんか」

 背後からの声に振り向くと、すぐ後ろの足元に議長が座っていた。

「あっ、申し訳ありません」

 急いで演台から飛び降りた。

「オーク殿、穴を塞ぐ目途はお有りなのか」
「規模を確認しないと確かな事はいえませんが、穴を塞いだ経験はありますので必要な段取りは理解しています」
「ほう、何ヶ所程かの」
「まだ二か所程度なので、偉そうな事は言えませんが」
「うむ、娘や孫の為に祖神様にお祈りして来た甲斐があったようじゃ」

 議長が立ち上がって演台の前に立って木鎚で演台に乗せてある板を叩いた。

”カン、カン”

 乾いて高い音が議場に響き渡る。

「静粛に。オーク殿は穴を塞いだ経験をお持ちのようじゃ。儂は娘や孫に再び青い空を見せたい。それではオーク殿から申し入れのあった異界の穴を塞ぐ案と一切の作戦指揮権限をオーク殿に委任する件について、賛成の方は起立願いたい」

 議会の大多数の議員が起立した、彼等も薄々このままでは破滅に向かっていることが理解できていたようだ。

「賛成多数でこの件については承認を認める、なお、女王と王女の同意については、今現在両名共にオーク殿に拉致されおるから、同意判断はオーク殿に一任されていると見なす」
「異議なし」
「それでは本件の成立を認める」

 思わぬ成行きで穴を塞ぐ目途が立った。

”ガブ”

「痛て」

 マリアスに指を咬まれた。

「オーク、私とお母様をトイレへ連れて行って頂戴。お母様は我慢し切れなくなって震えているわよ」

ーーーーー
チュルセンティア王国 赤獅子隊長 グレース

 品性が下劣で不細工な男だが実力は認めざるを得ない。
 対峙して判ったことは、我ながら情けない事なのだが、実力に雲泥の差が有ると言う事だけだった。
 金鷲隊長は、勇者と言うよりドラゴンなどの怪物の類と言っていた。

 その怪物が地上を見たいと言い出した、しかも軍の隊長を全員連れて。
 危険が伴うので我々は普段地上への出口には近寄らない。
 長い階段を登り、五重に施された結界を潜る度に全員の顔が徐々に強張って行く。
 最後の結界には無数の霊が集っており、外の様子が見えない程だった。
 そんな結界の外にオークが無造作に出て行った。

 全員が霊に覆われて苦しむオークの姿を想像したのだが、結果は全く逆でオークが外に出た途端、霊達が一斉に逃げ散ってしまった。
 初めてはっきり見る地上世界、そこには赤茶色の荒涼とした世界が広がっており、谷の大洞窟の外を泳ぎ回っている魚の数十倍はありそうな魚が泳ぎ回っていた。
 そんな魚達をオークは簡単に片手で殴り倒している。
 暫くすると、白狼隊長が結界の外に招き寄せられ魚の相手をやらされた。
 ボロボロになって青虎隊長と交代、弱った魚を青虎隊長が辛うじて倒すと、新鮮な奴を宛がわれて直ぐに黒蛇隊長と交代、黒蛇隊長は根性と執念で魚を倒すとその場で気絶してしまった。
 そして今度は自分の番が回って来た。
 そして魚と対峙してみて、今朝の対峙でオークが仕掛けて来た攻撃は、魚の動きをシュミーレーションしたものであることを初めて理解した。
 オークの攻撃に比べれば魚の動きは遅く、十分に対処することが出来た。
 二匹倒したところで、メルアセと交代。
 メルアセが二匹倒した後は、金鷲隊長の結界強度の確認が行われた。
 もうこの時点で全員がオークの意図を理解した。
 全員の実力を確認するためにこの場に連れてきたのだ。
 
 町に戻ると会議が開かれ、具体的な作戦の進め方の説明があった。
 菱型の陣形を組んで資材を運び、異世界の穴へ行く途中に六ヶ所の結界を張った補給所を作り、そこを拠点にして門を守護する化物を倒す道具と人を運び、人海戦術で化物を倒すという案だった。
 そして今一番不足している人材は、菱型の陣形を組んで地上を進む要員で、各部隊の隊長と副長の訓練を明日から始めると宣言された。
 会議の間俯いていた隊長連中は、会議が終わると一斉に練武場へと走っていった。
 
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