奴隷を買うぞ・・異世界煩悩記

切粉立方体

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75 カザノリア6

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元アマゾフ北部国境第二十四小隊第八拠点守備隊第七分隊軽武装兵 フェス

 翌朝、美味い朝飯を腹一杯食わせて貰った後、訓練が始まった。
 なんか前線で空きっ腹を抱えて勤務していた時より、待遇が良い気がする。
 
 地下へ向かうお湯が流れ落ちている長い階段を降り、大きな泉が湧き出ている部屋から水路を通って崖下の河原へ向かった。
 そこで水泳の訓練を始める部隊長から告げられた。
 南部の漁村出身の連中は喜んでいたが、山育ちの私は生憎泳ぎが苦手だ。
 アーマーを脱いで無帯、褌姿になる。
 要するに、奴隷商で売り物になっていた時と同じ格好だ。

 直ぐ川に入るのかと思ったのだが、私より少し年下の子達が回って来て、全員の手の甲に刻印を描き始めた。

「それでは訓練を始める。今手の甲に描いた刻印は本来悪霊を祓う時に使う刻印だが、身体に描くと魔力を目に見える形に変えてくれる。ゲリト、メルト、ノリト。ゲリト、メルト、ノリト。ゲリト、メルト、ノリト」

 良く通る声で、オークという私達の買主であるこの地方の領主が説明を始めた。
 オークは領主の癖に、自ら私達に教える心算らしく褌姿だ。
 厚い胸板に太い首、全身が引き締まった筋肉の塊だ。
 最初鬼と呼んでいたが、やっぱり顔だけじゃなくて身体も鬼だ。
 オーガと殴り合っても良い勝負なんじゃないかと思う。
 オークが呪文を唱えると、拳が青い炎に覆われた。

「それじゃ真似してみてくれ」

 私も呪文を唱えてみる。

「ゲリト、メルト、ノリト。ゲリト、メルト、ノリト。ゲリト、メルト、ノリト」

 刻印の上に青い炎が立ち昇った。
 触っても熱く無い。
 周囲の姐さん達に比べて少し大きいのでちょっと嬉しい。

 次の訓練は炎を腕に纏わせる訓練で、炎をコントロールするのに苦労した。
 これは私だけでは無かったようで、分隊長も含めてうんうん唸りながら練習している。
 例外は部隊長で、貴族なので魔力のコントロールには慣れているのだろうか、炎を自在に操っている。

 どうにか全員が腕に炎を纏える様になったら、ここでやっと水泳の訓練が始まった。
 冷たい水の中での訓練を覚悟していたのだが、階段を流落ちて来るお湯が淵に貯まっている場所があり、結構暖かった。
 でも普通の泳ぎの訓練じゃなかった。
 腕の炎を使って水流を起こし、その力でオークが淵に投げ入れた石を、底に落ちる前に掴んで持ち帰るとんでもない訓練だった。

「出来なかった奴は、今日の夜の相手をしてもらうぞ」

 もう全員必死だった。
 物凄い勢いで炎のコントロール力が上達した。
 私も泳いでいる魚が素手で掴める程上達した。

「出来る様になったな。それじゃ次は分隊毎に訓練を行う。部隊長と第一分隊は集まってくれ。他の分隊は休憩していて良いぞ」

 手近な大岩の上に攀じ登り、平らな場所で大の字になった。
 岩は陽に良く暖められており気持ちが良い。
 同期の第六分隊のケイトと第八分隊のマリーも攀じ登って来た。

「あたい達の順番はまだまだ先だから寝てようか」
「賛成」
「ケイト、あんたの隊の順番が来たら起してね」
「うん、私が起きられたらね」

 目を閉じ暖かい陽を全身に受ける。
 胸帯も褌も投げ捨てたいくらいだ。
 微かな風が懐かしい森の匂いを運んで来た。
 母ちゃんと婆ちゃんの顔が目に浮かんだ。

 その時風に乗って微かにオークの声が聞こえて来た。

「それではこれから水中で息をする訓練を始める」

 思わず飛び起きてしまった。
 ケイトもマリーも同様だったようだ。
 炎で泳ぐ訓練も常識外の珍妙な訓練だったが、もっと変な事を言い始めた。
 声は聞こえないが、部隊長殿とオークが何かを言い争っている。

 突然オークが部隊長殿を淵に放り込み、そして自らも淵に飛び込んだ。
 岩の上からだと水中の様子が良く解る。
 必死に水面へ浮上しようとする部隊長殿の頭をオークが押えている。
 部隊長殿は必死に抵抗していたが、突然口から大きな泡を三回吐いて弛緩した。
 
 「部隊長殿が殺されるぞ」

 三人一斉に岩から飛び降りようとしたら、水中で部隊長殿を抱き寄せてディープキスをしているオークの姿が目に入った。
 部隊長殿が再び動き始めので安堵したのだが、再び水中で頭を押えられてもがいている。
 拷問の一種とのフレーズが頭を過ったが、部隊長殿のオークへ抵抗する気配が薄れているので様子を見る。
 部隊長殿が再び弛緩し、オークに抱き寄せられて再びディープキスをされている。
 同じ事を三回程繰り返してから、オークが部隊長殿を抱いたまま水中から上がって来た。
 あの怖い部隊長殿が、オークに頭を撫でられ顔を赤らめている。

 部隊長殿を下に降ろしたオークは、第一分隊を淵に投げ入れ始めた。
 そして物凄い早さで水中を動き回り、全員の頭を押えつけて水面に浮上させないようにしている。

 岸では分隊長殿達が部隊長殿を介抱している。
 部隊長殿が何かを話しており、分隊長殿達が頷いて聞いて居る。
 水中ではオークが器用に隊員達の頭を押えながら、溺れた者にディープキスをしている。

 分隊毎の集合の号令が聞こえて来た。
 急いで大岩から飛び降りる。

「結論から先に言うと水中で息は出来る。炎の膜で顔を覆い、水中の空気だけを通すように調節するのがこつだそうだ。苦しい思いとオークにキスされたくない者は、今から練習しろ」

 若い番号の分隊の連中は溺れてオークにディープキスされていたが、私達は河原で水面に顔を浸けて必死に何度も練習したので間に合った。
 オークが残念そうな顔をしていたので、たぶん此奴は趣味でこんな方法の訓練をしているのだろう。

 昼飯は調理人達やメイドが河原まで運んで来てくれた。
 河原に火を起し、炙って食う肉串は絶品だった。

 午後からは、泉の中を潜った。
 分隊長の持つ光り石を見詰めながら黙々と潜って行ったら、突然広い洞窟の天井へと出た。

 洞窟の底に降り立つと、オークが炎で水を押し退け、二百人が入る空間を作り上げた。
 顔を覆う炎ですら私は苦労しているのに、此奴はやっぱり化け物だ。

「水中じゃ声が通り難いんで、水の無い空間を作った。ここは古代遺跡だ。ここが君達の職場になる。まず最初にここの全容を調べて貰い地図を作製してもらう。それと並行して、これは余裕があったらで構わないが、まだ使える魔道具を拾い集めて来てほしい。危険な魚は見当たらないが、たぶんここが水没する時に逃げ遅れた人達だと思うが、スケルトンは多いから気をつけて欲しい」

 えっ!

「オーク殿、今スケルトンが多いと言われたか」

 当然の事なので、部隊長殿が質問した。

「ああ、たぶんここには一千万人くらい人が住んでいたと思う。だから百万から十万のスケルトンが徘徊していると思っている」
「なら、ここは物凄く危険な場所じゃないか。我々が探索するのは無理だ」
「数は多いがたかがスケルトンだろ。大して危険な場所じゃないだろ」
「何を言っている、スケルトンは不死身だ。一体でも強敵に決まっているだろう」
「えっ?・・・・・。うーん、それじゃこれから祓い方を教えるから大丈夫だ」
「えっ!我らには神官はいないし、祓いの神具も無いぞ」
「大丈夫だ、ちょっと待ってろ」

 オークが空間の外にズボッと出ていった。
 そしてと直ぐに戻って来たのだが、なんとあの恐ろしいスケルトンを両手に一体づつ無造作にぶら下げている。
 全員が思わず後退ってしまった。

「いいか、スケルトンは頭蓋骨か全身を炎で覆えば動けなくなる。次にその状態で脳天を叩くとパカッと口を開くから、背骨が口から飛び出るような感じで尻を蹴り上げる」

 オークが一体を踏み付けて動けない様にしてから、説明に沿って一体の頭を炎で覆い、脳天をごつんと殴る。
 すると説明通り骸骨がパカンと口を開け、オークがガツンと尻を無造作に蹴り上げると、口から白い光が飛び出して来て、洞窟の天井に向かって昇って行った。
 骸骨が崩れて白い粉に変り、その中に魔石が一つ混じっている。
 何度叩き壊しても直ぐに復元してしまって苦しめられた魔物が、信じられないくらい簡単に消滅した。

「聖なる祈りを込めた神具と祈祷が必須と聞いていたが、神官共に騙されていたのか」
「まあこれは僕独特のやり方だからな。でも誰でも出来るから早速練習しよう。抑え役と祓い役を決めて、二人一組で行動した方がやり易いぞ」

 その後オークが次々にスケルトンを拉致して来て、夕刻までスケルトンを祓う練習を行った。
 五百個の魔石を入手したが、すべてオークに渡すことになった。

 第七、第八分隊だけ残され、部隊は館へ戻って行った。
 オークの後に付いて行くと、地平の雲がオレンジ色に染まった入江に出た。
 漁村出身の連中は大喜びをしている。

「さあ、今日の夕飯のおかずを採って帰るぞ」
 
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