時の宝珠

切粉立方体

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36 種明かし

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 王宮魔女のミーヤは王の退出を見送った後直ぐに少年を捜した。
 一刻も早く結界の話を聞きたかったが、振り返ると少年の姿は煙の様に消えていた。
 一瞬転移の魔法も疑ったが式典の係員に聞いてみると少女と二人で部屋から出て行ったと説明される。
 向かった場所は不明であった。
 王宮薬師のカイラも少女を捜していたようなので教えてやる。

 二人は30台前半で同歳である。
 王宮でも仲が良くお互いの実力は認めている。
 二人はタナス国の要職の人間として物凄く若く、互いにエリートと思っている。
 カイラは国外でも有名な薬師の孫、ミーヤは署名な刻印魔法の大家の孫として幼い頃から将来を嘱望され順調に上り詰めて来た。
 ただ二人だけの時に出る愚痴は時の厄災で中央大陸に留学出来なかったことである。
 二人とも知識に対する渇望感を引け目と一緒に強く感じている。
 カルベの民の噂は疑っていたが今日魅せられて手練に認識が変わっている。

 カムを捜しているのはミーヤだけでは無い。
 各国の軍関係者はもっと切実にカムの姿を捜していた。
 領事官達と違い軍は独自の情報網を持っている。
 当然キーロの配下には各国の情報員が送り込まれている。
 キーロも敵国の情報員であれば排除するが同盟国の情報員は泳がせてあるので、牡蠣事件の経緯も各国の軍には伝わっている。
 得たい最優先の情報は魔法国の結界の破り方と電撃魔法の主であり、今日はカムと面識を持つことが重要な使命となっている。
 混乱を防ぐため、祝宴前に紳士協定が結ばれ、利害関係が衝突しない情報は共有することも確認されている。

 このため、ミーヤが料理のワゴンの後ろに現れたカムを発見して歩み寄ろうとした時には、カムが頑強な男達に囲まれていた。
 軍人達は、全員が自己紹介し二言三言言葉を交わした時点で情報どおりの手強い子供の成りをした男と認識する。
 代表する形でカムラ国のキヌサが鎌を掛ける。

「今日は見事だったね。感心したよ」

 面白そうなのでカムは乗って見ることにする。

「凄かったでしょ。特にあの電撃が」

 全員がギョッとする。
 カムから簡単に話し出すと考えていなかった。

「気配も無しであの速さでしょ、しかも7発。思考の過程が無しなんですよ。何時も凄いと思ってるんです。常人じゃないですよね」

 皆、他人事の様に話すカムに戸惑っている。

「タナス国にそれほど凄い使い手が居るとは知りませんでした」

 隣国の将校が警戒心を滲ませて話しかける。

「いえ、軍人じゃありませんよ。パン屋の店員ですよ」

 面白そうなので事実を言ってみる。
 信じて貰えないことを確信しながら。カム自身信じられないと思っている。
 乾いた笑い声が徐々に広がったのでカムも合わせて笑っておく。
 目の前の男の足元から修服を着た小柄な女性が立ち上がる。
 根性で近づいて来たミーヤである。

「ねえカム君あの結界どうやって壊したの。教えて」

 必死に手を握って頼み込んで来る。
 カムは隠す心算は無い。
 この場で魔法国の結界を公表した方がタナス国として楽になる。

「ええ、良いですよ。説明しましょう」

 周りの軍人が驚愕する。
 簡単に明かされるとは思っていなかった。

「魔法国の結界は特殊な方法で作られています。皆さんの目に見えた結界は実は結界じゃ無いのです」
「でも完璧な1枚の結界だったわよ」
「そう見える様にしているのです。皆さんの目に見えた結界は光で描かれた結界でしたよね。じゃ、その結界を破る方法は知っていますか」
「光の遮断よね。上空で光を曲げて闇を作るとか、煙幕で光を遮るとか」

 ミーヤが常識的な答えを返し、回りの北大陸の軍人達も頷いている。
 ただ、カムラ国のキヌサや中央大陸の軍人は渋い顔をしている。

「で、キヌサさん。7年前のクルス島の防衛戦はどうなりました」
「我が国の防衛隊が壊滅した。闇の中で突入した我が軍は結界に阻まれ一方的に攻撃された」
「奴らの結界はそれも狙っているのですよ。如何に敵軍を結界の近くに誘き寄せるか、これが奴らの狙い目なのです。今日一旦うちの軍を引かせたのは奴らの思い通りにさせないためです。初戦で敵戦力の力を削いで優位に立つのが奴らの基本戦略なのです」
「それならば何で結界を作っているのだい」

 キヌサが冷静な口調を装ってカムに聞く。
 内心は掴みかかって吐かせたい心境であったが自重した。
 この数年間魔法国の結界に苦しめられている。

「空気ですよ」
「でも空気じゃあれ程強い結界は作れないんじゃない」

 ミーヤが常識的な疑問を口にすると、周りの男達も同様な懸念を顔に浮かべている。
 空中に作る結界は刻印自体と周りとの差異が大きければ大きいほど魔法力も強くなる。
 一般的なのが光の投影で明暗や色の差に魔法力が発生する。
 最強は魔法力で空中に刻印を描く方法であるが強大な魔法力を必要とし世界で使い手は数人しかいない。
 空中の霧の濃淡や煙幕で刻印を作る方法などもある。

「少し煙を吐いてもらえますか」

 煙草を咥えている男にカムが頼むと、男は頷いて紫煙を吐き出す。
 カムはその煙に指当て、空中に小さな刻印を描く。

「これは皆さん良くご存じの煙の刻印です。弱いですが今日の結界と同じです」

 右手の掌で支えた結界を左手で叩いて見せる。
 金属板を叩いたような音がする。

「ではこれから煙を抜きます」

 刻印から煙が抜けて行く。
 カムが刻印の有った場所を左手で叩くと多少鈍い音になったが結界が残っている。
 周りから驚愕の息が漏れる、
 何も無い空間に魔法力が発生している。

「すみません。もう一回煙を下さい」

 カムは煙草の男に右手を差し出す。
 男が右手に向けて煙を吹く、するとカムの掌に再び刻印が現れ、煙が刻印の中を激しく回っている。

「これが魔法国の結界の正体です。空中に刻印を描き刻印の中の空気を激しく回すことで周囲との速度差の勾配を作って魔法力を発生させているんです。ただあれだけ離れた場所に感覚だけで刻印を作るには相当な訓練が必要です。今日の結界は5枚を横に繋げていましたから、横7リーグ、縦10リーグが限界なのではと思っています。今日は刻印を作る人間と中の空気を動かす人間は別でしたから、光の投影も含めて11人の魔道士の合作ですね。内側は柔らかいから魔法も武器も刻印の崩れた外側結界の場所を抜けるので光の刻印と思ってしまうんです」

 カムは結界の裏側から指を通して見せると、刻印が歪んで指が結界を通るが指を抜くと元に戻る。

「空気のチューブを作って中の空気を回している感じです。だから刻印に長めの傷を作って破裂させると瞬時に萎んで結界が壊れるです」
「でもどうやって結界側から刻印に傷を付けたんだい」
「あの杖は賢者の杖なんですよ」

 皆納得した様に頷く。
 また、あの場に賢者の杖を用意しているタナス国の周到さに感心する。
 ゴミとして捨てられかけた賢者の杖をたまたまサラが持って来たとは皆思わない。

「カムさん、今の空気の結界。教えて下さい」

 ミーヤが大きな胸を押し付けんばかりにカムに迫る。
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