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3 弟子入り
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カイ
その後の数日は小さな野犬の群には何度か遭遇したが、撲も協力して撃退した。
犬達は、護衛の人達の剣の間合いに慣れているようで、婆ちゃんから借りた金剛杖で殴ると面白い様に当たった。
倒した犬は、倒した人の財産になるようで、護衛の人達は毛皮を剥いで自分の荷にしまっていた。
僕が倒した犬も僕の物として渡されたが遠慮した。
護衛達はナイフで器用に犬を捌いていくのだが、僕はその作業すら気持ち悪くて直視できなかった。
肉は日持ちしないので、少量を塩浸け肉として保存し、残りは共用物としてその日の食材にする。
僕は無念無想でワンコの肉と思わない様にして、その肉を飲み込んだ。
ーーーーー
王宮学問所魔薬研究室薬師師範 テスラ
挑発的な女装を見てもしやと思ったのですが、犬の解体作業を怖がっていましたので、たぶんこの子は女性として育てられたのでしょう。
山の民の風習として、生まれて来た女の子が少なかった年は、将来部族内で起こるであろう伴侶を巡る争い事を防ぐために、何人かの男の子を女の子として育てる習慣があると聞いております。
たぶんカイはそんな子供なのでしょう、大事な事です、アリサとシオンにも教えておきましょう。
しかしこの子は拾い物だったかもしれません。
武器替りに魔術杖を貸したら、魔品として使いこなしているのです。
山の民には魔術の知識はありません、だから無意識、たぶん持って生まれた才能なのでしょう。
杖に魔力を宿らせて、硬く、軽い棒として使いこなしていました。
仕込めば魔道具を使った魔薬の調剤を覚え、数少ない魔薬師になれるかも知れません。
アリサとシオンもそれなりの才に恵まれているのですが、私の目からは彼女達の限界が見え始めています。
たぶん魔薬師の領分までは、可哀そうですが、手が届かないでしょう。
教わることで初めて魔品の使い方を覚える者と無意識で使いこなしている者の間には、物凄い才の差が存在するのです。
我が国には男同士の婚姻を認める習慣はありません、一生独身のまま手元に置いて仕込めるでしょう。
最近身体の衰えが顕著になって来ました。
この子になら、私の言葉の本当の意味が伝わるかも知れません。
ーーーーー
王宮薬師見習い シオン
無事裾野の町テグスに辿り着くことが出来ました。
レグノリアから侵攻があった際には前線基地へと変わる町なので、町は高い泥を塗った頑丈な木の塀に囲まれており、四隅にも監視塔が設けられています。
「テスラ様とアリサ様とシオン様、それの護衛の方が四人ですね。通って下さい」
山へ入る前にこの町を通った時には何のチェックも無かったのに、今日は一人一人検閲を行っています。
並んでいた時に、列の前方で山の民風の男達が乱暴に護衛所へ引立てられていました。
「やけに厳重な警戒だけど何か有ったのかい」
先生も不審に思った様です。
「罪名は判らないのですが、山裾の町全体に凶悪犯の手配書が出回っているんです。準備が整いしだい、王宮が中心となって大規模な山狩りを始めるそうです」
「レグノリアの間者かね。規模が普通じゃないね」
「詳しい情報は遮断されているので判り兼ねます」
「ふーん、凶悪犯なんて町に入れないでおくれよ」
「了解であります」
「先生、またレグノリアの侵攻が有るんでしょうか」
「さあね、ケルセンとの戦いが忙しくてそんな余力は無いって話だったけどね。仕掛けるとしたら此方からなんだろうけど、今の王にはそんな甲斐性は無いって噂だよ」
「先生、不敬罪で捕まりますよ」
「ははははは、褒めてるんだよ。戦いは起きない方が良いからね」
私も戦いは嫌いです、父さんと兄さんが戦場に向かわなければなりませんから。
今日の宿が見えて来ました、荷物を置いたらお風呂へ行きましょう。
もう髪の毛がごわごわです。
ーーーーー
カイ
町の建物は四、五階立てのログハウスが主体なのだが、壁に泥が塗られており、屋根にも瓦が葺いてある。
防火水槽らしき水桶が所々に設置してあったので、この町は火事が多いのだろうか。
店も多く、窓にはガラスが嵌め込まれている。
荷車は馬が曳いているが、それなりの文明はある様だ。
町人の服は、男性が厚手のシャツとズボン、女性は薄手の生地のブラウスやワンピース、スカートの丈は長く、肌を露出させない服が主流らしい。
男性の服はモノトーンで地味だが、女性の服には花や葉の模様が染め抜かれておりカラフルだ。
異世界らしい点は、防具や武器を持った人達が結構歩いているところだ。
護衛達は男も女も黒や茶のレザーアーマーが多く、山刀や剣を腰に差している。
魔法使い姿や神官服の人はいなかった。
兵士も大勢いた、ピカピカ光る銅の胸当てとヘルメットの様な銅の甲を被っている。
武器は槍が主力の様で、穂先に布袋を被せて歩いている。
町の中央には駐屯所の様な場所があり、入口に高さが五メートル程の大きな甲冑が六隊並んでいた。
口を開けて眺めていたら、美人のお姉さんが乗り込んで動かし始めた。
胸の扉を開けて乗り込む姿は定番通りだ。
立ち上がって動き始めると物凄い迫力だ、うん、大型のシャベルカーが二本脚で立ち上がった雰囲気か。
左右をキョロキョロして遅れがちになっていた僕は、アリサさんに頭を一発殴られてから、手を曳いてずんずんと歩かされた。
行き場所は決まっていた様で、一行は表通りに面した大きなログハウスに入って行った。
表の看板には寝台とジョッキと猪の丸焼きの絵、入り口正面には帳場があって、その奥に厨房らしき調理場がある。
右脇にテーブルと椅子がずらりと並んでおり、左には上登る広い階段、うん酒場兼宿だと思う。
右奥には掲示板があり、見上げているアーマー姿の人がいるので、職安も兼ねているのだろう。
シオンさんが帳場で従業員の人と何かを話している。
話が纏まったらしく、巾着から銀貨を出して支払っている。
銀貨三枚、七人で銀貨三枚?どんな計算さのか気になって仕方がない。
支払いが終わると、シオンさんも従業員さんもステップを踏んでからピョンと跳ね、頭上で互いの左手の平を打ち合せている。
何だか、言葉以外にも覚えなきゃならない事があるらしい。
取った部屋二つ、男女別に分けるのかと思ったのだが、僕は婆ちゃんとアリサさんとシオンさんの室に混ぜて貰えた。
護衛の男達と同室されたら、お尻の危機だと思っていたので安心した。
アリサさんもシオンさんも僕の目を気にしないで着替えてくれる。
胸はアリサさんの勝ちだった。
二人に外へ連れ出された、植物の採取瓶や模写の絵具や画帳持っていたので、町の外へ植物採取に行くのかと思ったが、連れて行かれた先は服の仕立て屋だった。
宿へ来る途中、服屋を捜したが無かった。
この世界では、既製服を売る店は無いらしく、すべて採寸から始めて作るらしい。
これでやっと男の服が着れる、護衛達の勘違いも終わるだろう。
ーーーーー
王宮薬師見習い アリサ
公衆浴場へ行くついでに、カイを仕立て屋へ連れて行きました。
カイは綺麗好きの様で、毎日寝る前に服を川で洗ってから干して寝るのですが、毛布に包まって裸で寝るカイの回りを護衛達がうろうろして、落ち着かせるのに苦労しました。
日中、足と腹を晒して、目の前をうろうろされているのだから仕方が無いと思います。
寧ろ、良く我慢してくれたと思います。
「フリルの付いた可愛い服と寝着と、初年薬師見習いの服をお願いね。見習い服は少しお洒落にしてあげてね」
「弟子にするって、先生はこの子の何処を見込んだのかしらね」
服が仕上がるまで、シオンと少し話をしました。
「都じゃ男同士の結婚が無理だから、手に職を付けさせてあげるんじゃないの。一応私達の命の恩人だし」
シオンも私と同じ結論に至ったようです、私の見る限り、カイに魔力の才はありません。
「そーか、先生義理堅いもんね。私達の妹弟子か、大丈夫かな、先生厳しいし」
「うん、可哀そうだけど、これって才能だからねー。駄目だったらその手の趣味持った貴族も多いって噂だから紹介してあげるんじゃない。先生の精力剤って評判良いから知り合いも多いんじゃないかな」
「○×△□、$○△××」
カイが通りを歩く男性を指差して何か言ってます、早く言葉を覚えさせた方が良いでしょう。
山の民の言語には男女の差異が無いと先生が言っていました。
勿論女言葉を教えてあげますが、どの階層の言葉を教えたら良いのか少々悩みます。
メイド言葉あたりが無難かもしれません。
「ええ、良い男ね。都にはもっと良い男が多いから大丈夫よ」
しかし今日、先生が突然この子を弟子にすると言い出した時には驚きました。
先生への弟子入りを希望する薬師志望者が大勢順番待ちをしているからです。
薄情で、けちで人使いの荒い先生ですが、千年に一度と言われている魔薬師と呼ばれる存在なのです。
前の先生のお弟子さん、私達の前任者なのですが、二人揃ってが独り立ちされた時には千人以上の応募者が有ったと聞いています。
お二人とも異例の若さで王宮学問所の師範に抜擢され、それぞれ独立した研究室を持たれています。
それでも先生との絆を大切にされて、しょっちゅう私達の研究室に顔を出されます。
先生は二人しか弟子は取らないと思われて来たのに、突然一人増えるのですから騒ぎになると思います。
順番待ちされている方達には申し訳ないと思いますが、弟子入りに当って、実は私達もそれなりに悩んだのです。
私達の魔力は中級機甲士並み、頑張れば上級機甲士にも手が届くかも知れない実力なのです。
でも悩んだ末に出した結論は、傷付ける方よりも癒す方へ回った方が世の役に立てるだろうということだったのです。
それくらい先生への弟子入りは大変な物なのです、それをこの子は。
この子は運が良いのかもしれません、運が良いのも薬師の重要な才能の一つだと思います。
努力の末に辿り着く発見よりも、一瞬の偶然で見出した発見の方が数段優れ、多くの隠れていた道筋を示してくれることは、常に良く有ることなのです。
努力家と呼ばれる私には、それは身に浸みて判っています。
服を受け取り縫い目を確認します、大丈夫、作業は丁寧で確実なようです。
さあ、公衆浴場へ出発、ふふふふふ、念願の男の子の観察が存分にできます。
シオンと示し合わせて、ちゃんと模写道具も、サンプリング用のガラス採取瓶も持って来ています。
カイ
その後の数日は小さな野犬の群には何度か遭遇したが、撲も協力して撃退した。
犬達は、護衛の人達の剣の間合いに慣れているようで、婆ちゃんから借りた金剛杖で殴ると面白い様に当たった。
倒した犬は、倒した人の財産になるようで、護衛の人達は毛皮を剥いで自分の荷にしまっていた。
僕が倒した犬も僕の物として渡されたが遠慮した。
護衛達はナイフで器用に犬を捌いていくのだが、僕はその作業すら気持ち悪くて直視できなかった。
肉は日持ちしないので、少量を塩浸け肉として保存し、残りは共用物としてその日の食材にする。
僕は無念無想でワンコの肉と思わない様にして、その肉を飲み込んだ。
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王宮学問所魔薬研究室薬師師範 テスラ
挑発的な女装を見てもしやと思ったのですが、犬の解体作業を怖がっていましたので、たぶんこの子は女性として育てられたのでしょう。
山の民の風習として、生まれて来た女の子が少なかった年は、将来部族内で起こるであろう伴侶を巡る争い事を防ぐために、何人かの男の子を女の子として育てる習慣があると聞いております。
たぶんカイはそんな子供なのでしょう、大事な事です、アリサとシオンにも教えておきましょう。
しかしこの子は拾い物だったかもしれません。
武器替りに魔術杖を貸したら、魔品として使いこなしているのです。
山の民には魔術の知識はありません、だから無意識、たぶん持って生まれた才能なのでしょう。
杖に魔力を宿らせて、硬く、軽い棒として使いこなしていました。
仕込めば魔道具を使った魔薬の調剤を覚え、数少ない魔薬師になれるかも知れません。
アリサとシオンもそれなりの才に恵まれているのですが、私の目からは彼女達の限界が見え始めています。
たぶん魔薬師の領分までは、可哀そうですが、手が届かないでしょう。
教わることで初めて魔品の使い方を覚える者と無意識で使いこなしている者の間には、物凄い才の差が存在するのです。
我が国には男同士の婚姻を認める習慣はありません、一生独身のまま手元に置いて仕込めるでしょう。
最近身体の衰えが顕著になって来ました。
この子になら、私の言葉の本当の意味が伝わるかも知れません。
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王宮薬師見習い シオン
無事裾野の町テグスに辿り着くことが出来ました。
レグノリアから侵攻があった際には前線基地へと変わる町なので、町は高い泥を塗った頑丈な木の塀に囲まれており、四隅にも監視塔が設けられています。
「テスラ様とアリサ様とシオン様、それの護衛の方が四人ですね。通って下さい」
山へ入る前にこの町を通った時には何のチェックも無かったのに、今日は一人一人検閲を行っています。
並んでいた時に、列の前方で山の民風の男達が乱暴に護衛所へ引立てられていました。
「やけに厳重な警戒だけど何か有ったのかい」
先生も不審に思った様です。
「罪名は判らないのですが、山裾の町全体に凶悪犯の手配書が出回っているんです。準備が整いしだい、王宮が中心となって大規模な山狩りを始めるそうです」
「レグノリアの間者かね。規模が普通じゃないね」
「詳しい情報は遮断されているので判り兼ねます」
「ふーん、凶悪犯なんて町に入れないでおくれよ」
「了解であります」
「先生、またレグノリアの侵攻が有るんでしょうか」
「さあね、ケルセンとの戦いが忙しくてそんな余力は無いって話だったけどね。仕掛けるとしたら此方からなんだろうけど、今の王にはそんな甲斐性は無いって噂だよ」
「先生、不敬罪で捕まりますよ」
「ははははは、褒めてるんだよ。戦いは起きない方が良いからね」
私も戦いは嫌いです、父さんと兄さんが戦場に向かわなければなりませんから。
今日の宿が見えて来ました、荷物を置いたらお風呂へ行きましょう。
もう髪の毛がごわごわです。
ーーーーー
カイ
町の建物は四、五階立てのログハウスが主体なのだが、壁に泥が塗られており、屋根にも瓦が葺いてある。
防火水槽らしき水桶が所々に設置してあったので、この町は火事が多いのだろうか。
店も多く、窓にはガラスが嵌め込まれている。
荷車は馬が曳いているが、それなりの文明はある様だ。
町人の服は、男性が厚手のシャツとズボン、女性は薄手の生地のブラウスやワンピース、スカートの丈は長く、肌を露出させない服が主流らしい。
男性の服はモノトーンで地味だが、女性の服には花や葉の模様が染め抜かれておりカラフルだ。
異世界らしい点は、防具や武器を持った人達が結構歩いているところだ。
護衛達は男も女も黒や茶のレザーアーマーが多く、山刀や剣を腰に差している。
魔法使い姿や神官服の人はいなかった。
兵士も大勢いた、ピカピカ光る銅の胸当てとヘルメットの様な銅の甲を被っている。
武器は槍が主力の様で、穂先に布袋を被せて歩いている。
町の中央には駐屯所の様な場所があり、入口に高さが五メートル程の大きな甲冑が六隊並んでいた。
口を開けて眺めていたら、美人のお姉さんが乗り込んで動かし始めた。
胸の扉を開けて乗り込む姿は定番通りだ。
立ち上がって動き始めると物凄い迫力だ、うん、大型のシャベルカーが二本脚で立ち上がった雰囲気か。
左右をキョロキョロして遅れがちになっていた僕は、アリサさんに頭を一発殴られてから、手を曳いてずんずんと歩かされた。
行き場所は決まっていた様で、一行は表通りに面した大きなログハウスに入って行った。
表の看板には寝台とジョッキと猪の丸焼きの絵、入り口正面には帳場があって、その奥に厨房らしき調理場がある。
右脇にテーブルと椅子がずらりと並んでおり、左には上登る広い階段、うん酒場兼宿だと思う。
右奥には掲示板があり、見上げているアーマー姿の人がいるので、職安も兼ねているのだろう。
シオンさんが帳場で従業員の人と何かを話している。
話が纏まったらしく、巾着から銀貨を出して支払っている。
銀貨三枚、七人で銀貨三枚?どんな計算さのか気になって仕方がない。
支払いが終わると、シオンさんも従業員さんもステップを踏んでからピョンと跳ね、頭上で互いの左手の平を打ち合せている。
何だか、言葉以外にも覚えなきゃならない事があるらしい。
取った部屋二つ、男女別に分けるのかと思ったのだが、僕は婆ちゃんとアリサさんとシオンさんの室に混ぜて貰えた。
護衛の男達と同室されたら、お尻の危機だと思っていたので安心した。
アリサさんもシオンさんも僕の目を気にしないで着替えてくれる。
胸はアリサさんの勝ちだった。
二人に外へ連れ出された、植物の採取瓶や模写の絵具や画帳持っていたので、町の外へ植物採取に行くのかと思ったが、連れて行かれた先は服の仕立て屋だった。
宿へ来る途中、服屋を捜したが無かった。
この世界では、既製服を売る店は無いらしく、すべて採寸から始めて作るらしい。
これでやっと男の服が着れる、護衛達の勘違いも終わるだろう。
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王宮薬師見習い アリサ
公衆浴場へ行くついでに、カイを仕立て屋へ連れて行きました。
カイは綺麗好きの様で、毎日寝る前に服を川で洗ってから干して寝るのですが、毛布に包まって裸で寝るカイの回りを護衛達がうろうろして、落ち着かせるのに苦労しました。
日中、足と腹を晒して、目の前をうろうろされているのだから仕方が無いと思います。
寧ろ、良く我慢してくれたと思います。
「フリルの付いた可愛い服と寝着と、初年薬師見習いの服をお願いね。見習い服は少しお洒落にしてあげてね」
「弟子にするって、先生はこの子の何処を見込んだのかしらね」
服が仕上がるまで、シオンと少し話をしました。
「都じゃ男同士の結婚が無理だから、手に職を付けさせてあげるんじゃないの。一応私達の命の恩人だし」
シオンも私と同じ結論に至ったようです、私の見る限り、カイに魔力の才はありません。
「そーか、先生義理堅いもんね。私達の妹弟子か、大丈夫かな、先生厳しいし」
「うん、可哀そうだけど、これって才能だからねー。駄目だったらその手の趣味持った貴族も多いって噂だから紹介してあげるんじゃない。先生の精力剤って評判良いから知り合いも多いんじゃないかな」
「○×△□、$○△××」
カイが通りを歩く男性を指差して何か言ってます、早く言葉を覚えさせた方が良いでしょう。
山の民の言語には男女の差異が無いと先生が言っていました。
勿論女言葉を教えてあげますが、どの階層の言葉を教えたら良いのか少々悩みます。
メイド言葉あたりが無難かもしれません。
「ええ、良い男ね。都にはもっと良い男が多いから大丈夫よ」
しかし今日、先生が突然この子を弟子にすると言い出した時には驚きました。
先生への弟子入りを希望する薬師志望者が大勢順番待ちをしているからです。
薄情で、けちで人使いの荒い先生ですが、千年に一度と言われている魔薬師と呼ばれる存在なのです。
前の先生のお弟子さん、私達の前任者なのですが、二人揃ってが独り立ちされた時には千人以上の応募者が有ったと聞いています。
お二人とも異例の若さで王宮学問所の師範に抜擢され、それぞれ独立した研究室を持たれています。
それでも先生との絆を大切にされて、しょっちゅう私達の研究室に顔を出されます。
先生は二人しか弟子は取らないと思われて来たのに、突然一人増えるのですから騒ぎになると思います。
順番待ちされている方達には申し訳ないと思いますが、弟子入りに当って、実は私達もそれなりに悩んだのです。
私達の魔力は中級機甲士並み、頑張れば上級機甲士にも手が届くかも知れない実力なのです。
でも悩んだ末に出した結論は、傷付ける方よりも癒す方へ回った方が世の役に立てるだろうということだったのです。
それくらい先生への弟子入りは大変な物なのです、それをこの子は。
この子は運が良いのかもしれません、運が良いのも薬師の重要な才能の一つだと思います。
努力の末に辿り着く発見よりも、一瞬の偶然で見出した発見の方が数段優れ、多くの隠れていた道筋を示してくれることは、常に良く有ることなのです。
努力家と呼ばれる私には、それは身に浸みて判っています。
服を受け取り縫い目を確認します、大丈夫、作業は丁寧で確実なようです。
さあ、公衆浴場へ出発、ふふふふふ、念願の男の子の観察が存分にできます。
シオンと示し合わせて、ちゃんと模写道具も、サンプリング用のガラス採取瓶も持って来ています。
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