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Ⅱ 王都にて
25 蟲甲冑
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翔・・・主人公、高1十五歳
彩音・・主人公の妹、中1十三歳
メル(メルトス)・・・翔達の荷車の同乗者だった小学生に見える少年、細工職人
ファラ(ファラデーナ)・・・メルの連れ合い、こちらも小学生に見える少女、細工職人
マッフル・・・王都冒険者ギルドの幹部
キャル(キャロライン)・・・スノートの王族に近い貴族の娘、金髪の妖精の様な超絶美少女
アミ(アルミナス)・・・スノートの王族に近い貴族の娘、銀髪でキャルと同じく妖精の様な超絶美少女。
ーーーーー
(カケル)
互いの背中と身体を洗って、風呂らしい行動の範囲で慎み、お楽しみは夜に取って置いて、折角の休日なので有意義に過ごすことにした。
彩音と相談して王都の観光名所、王都の名物店を巡ってみることにした。
半年以上経って今更感は有るのだが、二人のすれ違い生活のお陰でまだ実現していない。
メルとファラを誘いに行ったら、珍しく二人とも家に居た。
俺達同様に王都に来て以来、始めて真面な休みが取れたようなのだ。
この夫婦も俺達と似たような物で、都に着いたその日に張り切って王都観光に出かけようとしたのだが、細工職人ギルドの親方や兄弟子に捕まって、以来俺達同様に馬車馬の如く働かされていたらしい。
互いに連絡が取れる状況じゃ無かったので、四人で顔を合わせるのは数ヶ月振りだった。
「カケル、太ったんじゃないか」
「メル、縮んだんじゃないか」
「アヤ、背が伸びたわね」
「ファラ、痩せたし顔色悪いわよ」
二人は何か窶れていた。
「ああ、二人して一日十五鐘は働かされてたからな、そりゃ痩せるよ。毎日水晶玉覗いて蟻紐に魔法陣刻まされるんだからさ」
「何ヶ月か前に東下マナ原で蟻が一杯取れたでしょ、あれからが地獄だったの。蟻が国の倉庫からぞろぞろ運ばれて来てね、切りが無かったの。何か迷惑よねー」
百万を超える蟻が市場に供給されたのだ、俺は当然価格が暴落すると思っていたのだが、国から大量に買いが入り価格が維持されたのだ。
不思議に思っていたが、利用目的が有ったらしい。
四人で最初に王城を見に行った、勿論中へは入れないので、堀の外から眺めるだけだ。
それでも林立する尖塔や、色違いの石材で区別された王族達の優雅な居城は、遠目でも楽しめた。
城域の正門に黒光りする甲冑の巨像がニ体、門を守るように両側に設置されていた。
勿論掘りに架かる橋の向こう側なので近づけないが、橋の手前でその巨像を見守って多くの人が何かを待っている。
「メル、みんな何を待ってるんだ」
「カケルは見るのが初めてかい、きっと驚くと思うよ」
「アヤは」
「私も初めてだよ、何が始まるの」
「交代式だよ、ほら始まった」
ファラの指差す先を見ると、門扉が静かに開き始めた。
その隙間からスケイルメールを着た二列の女性兵士が隊列を組んで現れ、左右に展開して整列する。
背後に向き直り、門に向かって敬礼する。
門が更に開かれ、中からニ体の巨像が現れた、彫像だと思ってたのでびっくりだ。
門脇のニ体と敬礼を交わして場所を交代する。
女性兵士達が巨像を先導するように隊列を組んで入って行き、最後に巨像も門を潜って
門扉が閉じられ、見守っていた人々がぞろぞろと引き上げる。
兵士の中にキャルとアミが混じっていた様な気がする。
「あれは蟲甲冑って言って、中に人が入って動かしててるんだ」
うん、あれだ、アニメで良く見るあれだ。
「あれのおかげで、僕らがずっと忙しかったんだけどね」
四人で王城近くの有名甘味屋に入る。
クレープ生地を皿状にした中に、角状に切った果物とゼリーを盛って、さらにその上に茶豆の餡とクリームを格子状に四層被せ、その上に蜜をたっぷり流した名物の甘味を頼む。
三人の品は直径三十センチくらいの皿に乗せて持って来たが、何故か俺の前に置かれたの直径十五センチくらいの可愛い品だった。
「お兄ちゃんは今食事制限してるの、豚になるから」
気を取り直して先ほどの話題を続ける。
「メル達はあれと何か関わってるのか」
「うん」
メルが腰帯から巾着を外す、そして巾着の口を閉じている長さ二十センチくらいの紐を引き抜く。
メルがその紐に力を込める、うん、ムラを流すと紐がむくりと起きあがった。
「この紐はね、蟻紐って言って蟻の殻の裏側の比較的柔らかい部分を削いで作った紐なんだよ。ほらここ」
メルに渡された紐の表面を見ると、物凄く細かい魔法陣がびっしりと刻まれていた。
「これは僕が刻んだ物なんだけど、この魔法陣に力を込めるとこの紐は堅くなって伸びるようになるんだ」
うん、あそこと一緒か、良く解る。
「僕の力じゃこの程度なんだけど、マナが使える人なら倍近く伸ばせるんだ」
うん、なんか解って来た。
「だからこの紐を一杯寄り集めて、蟲甲冑を動かす力として使ってるんだ」
なるほど、筋肉の替わりか。
「そんな便利な物が有るんだったら、なんで蟲退治に使わないんだよ」
「無茶言うなよ、甲冑が蟲の早い動きに追いて行ける訳無いだろ。それにあれ一体で蟻一万匹の殻使ってるんだぜ、幾らすると思ってるんだよ。勿体なくて蟲退治なんかに使える訳ないだろ」
蟻一匹は金貨一枚、約十万円だから材料費だけで十億円だ。
うん、確かに勿体ない。
「じゃっ、なんで王国はそんな役に立たない物持ってるんだよ」
「外国への牽制に決まってるだろ、あれ一体で大隊十個分って言われてるんだから。最もあれを動かせる奴なんて殆どいないって噂だけどね」
「スノートの人達がいたでしょ、あの人達は人質じゃなくて蟲甲冑の騎士候補として呼ばれたらしいわよ。あの人達はマナが使えるんだって」
「ああそれ僕も親方から聞いたよ、国としてもマナの強い貴族と結婚させてマナの強い血筋を造り出したいらしいよ」
「雑種が生まれなくて良かったね、お兄ちゃん」
あっ、彩音が何かを思い出したらしい、何か怒っている。
急いで誤魔化そう。
「ほらこれ、彩もやって見ろ。面白そうだぞ」
テーブルの上の蟻紐を渡す。
俺を睨みつけながら、怒りを込めるように力を込める。
”ブン”
物凄い勢いで堅くなって倍近く伸びた。
メルと全然勢いが違う、これが以前マッフルさんが言っていたムラとマナの違いなのだろうか。
「アヤ、凄ーい。あなた甲冑騎士になれるんじゃない」
「本当ですよアヤさん、これなら甲冑動かせますよ」
「あはははは、えっへん」
良かった、機嫌が直った様だ。
彩音・・主人公の妹、中1十三歳
メル(メルトス)・・・翔達の荷車の同乗者だった小学生に見える少年、細工職人
ファラ(ファラデーナ)・・・メルの連れ合い、こちらも小学生に見える少女、細工職人
マッフル・・・王都冒険者ギルドの幹部
キャル(キャロライン)・・・スノートの王族に近い貴族の娘、金髪の妖精の様な超絶美少女
アミ(アルミナス)・・・スノートの王族に近い貴族の娘、銀髪でキャルと同じく妖精の様な超絶美少女。
ーーーーー
(カケル)
互いの背中と身体を洗って、風呂らしい行動の範囲で慎み、お楽しみは夜に取って置いて、折角の休日なので有意義に過ごすことにした。
彩音と相談して王都の観光名所、王都の名物店を巡ってみることにした。
半年以上経って今更感は有るのだが、二人のすれ違い生活のお陰でまだ実現していない。
メルとファラを誘いに行ったら、珍しく二人とも家に居た。
俺達同様に王都に来て以来、始めて真面な休みが取れたようなのだ。
この夫婦も俺達と似たような物で、都に着いたその日に張り切って王都観光に出かけようとしたのだが、細工職人ギルドの親方や兄弟子に捕まって、以来俺達同様に馬車馬の如く働かされていたらしい。
互いに連絡が取れる状況じゃ無かったので、四人で顔を合わせるのは数ヶ月振りだった。
「カケル、太ったんじゃないか」
「メル、縮んだんじゃないか」
「アヤ、背が伸びたわね」
「ファラ、痩せたし顔色悪いわよ」
二人は何か窶れていた。
「ああ、二人して一日十五鐘は働かされてたからな、そりゃ痩せるよ。毎日水晶玉覗いて蟻紐に魔法陣刻まされるんだからさ」
「何ヶ月か前に東下マナ原で蟻が一杯取れたでしょ、あれからが地獄だったの。蟻が国の倉庫からぞろぞろ運ばれて来てね、切りが無かったの。何か迷惑よねー」
百万を超える蟻が市場に供給されたのだ、俺は当然価格が暴落すると思っていたのだが、国から大量に買いが入り価格が維持されたのだ。
不思議に思っていたが、利用目的が有ったらしい。
四人で最初に王城を見に行った、勿論中へは入れないので、堀の外から眺めるだけだ。
それでも林立する尖塔や、色違いの石材で区別された王族達の優雅な居城は、遠目でも楽しめた。
城域の正門に黒光りする甲冑の巨像がニ体、門を守るように両側に設置されていた。
勿論掘りに架かる橋の向こう側なので近づけないが、橋の手前でその巨像を見守って多くの人が何かを待っている。
「メル、みんな何を待ってるんだ」
「カケルは見るのが初めてかい、きっと驚くと思うよ」
「アヤは」
「私も初めてだよ、何が始まるの」
「交代式だよ、ほら始まった」
ファラの指差す先を見ると、門扉が静かに開き始めた。
その隙間からスケイルメールを着た二列の女性兵士が隊列を組んで現れ、左右に展開して整列する。
背後に向き直り、門に向かって敬礼する。
門が更に開かれ、中からニ体の巨像が現れた、彫像だと思ってたのでびっくりだ。
門脇のニ体と敬礼を交わして場所を交代する。
女性兵士達が巨像を先導するように隊列を組んで入って行き、最後に巨像も門を潜って
門扉が閉じられ、見守っていた人々がぞろぞろと引き上げる。
兵士の中にキャルとアミが混じっていた様な気がする。
「あれは蟲甲冑って言って、中に人が入って動かしててるんだ」
うん、あれだ、アニメで良く見るあれだ。
「あれのおかげで、僕らがずっと忙しかったんだけどね」
四人で王城近くの有名甘味屋に入る。
クレープ生地を皿状にした中に、角状に切った果物とゼリーを盛って、さらにその上に茶豆の餡とクリームを格子状に四層被せ、その上に蜜をたっぷり流した名物の甘味を頼む。
三人の品は直径三十センチくらいの皿に乗せて持って来たが、何故か俺の前に置かれたの直径十五センチくらいの可愛い品だった。
「お兄ちゃんは今食事制限してるの、豚になるから」
気を取り直して先ほどの話題を続ける。
「メル達はあれと何か関わってるのか」
「うん」
メルが腰帯から巾着を外す、そして巾着の口を閉じている長さ二十センチくらいの紐を引き抜く。
メルがその紐に力を込める、うん、ムラを流すと紐がむくりと起きあがった。
「この紐はね、蟻紐って言って蟻の殻の裏側の比較的柔らかい部分を削いで作った紐なんだよ。ほらここ」
メルに渡された紐の表面を見ると、物凄く細かい魔法陣がびっしりと刻まれていた。
「これは僕が刻んだ物なんだけど、この魔法陣に力を込めるとこの紐は堅くなって伸びるようになるんだ」
うん、あそこと一緒か、良く解る。
「僕の力じゃこの程度なんだけど、マナが使える人なら倍近く伸ばせるんだ」
うん、なんか解って来た。
「だからこの紐を一杯寄り集めて、蟲甲冑を動かす力として使ってるんだ」
なるほど、筋肉の替わりか。
「そんな便利な物が有るんだったら、なんで蟲退治に使わないんだよ」
「無茶言うなよ、甲冑が蟲の早い動きに追いて行ける訳無いだろ。それにあれ一体で蟻一万匹の殻使ってるんだぜ、幾らすると思ってるんだよ。勿体なくて蟲退治なんかに使える訳ないだろ」
蟻一匹は金貨一枚、約十万円だから材料費だけで十億円だ。
うん、確かに勿体ない。
「じゃっ、なんで王国はそんな役に立たない物持ってるんだよ」
「外国への牽制に決まってるだろ、あれ一体で大隊十個分って言われてるんだから。最もあれを動かせる奴なんて殆どいないって噂だけどね」
「スノートの人達がいたでしょ、あの人達は人質じゃなくて蟲甲冑の騎士候補として呼ばれたらしいわよ。あの人達はマナが使えるんだって」
「ああそれ僕も親方から聞いたよ、国としてもマナの強い貴族と結婚させてマナの強い血筋を造り出したいらしいよ」
「雑種が生まれなくて良かったね、お兄ちゃん」
あっ、彩音が何かを思い出したらしい、何か怒っている。
急いで誤魔化そう。
「ほらこれ、彩もやって見ろ。面白そうだぞ」
テーブルの上の蟻紐を渡す。
俺を睨みつけながら、怒りを込めるように力を込める。
”ブン”
物凄い勢いで堅くなって倍近く伸びた。
メルと全然勢いが違う、これが以前マッフルさんが言っていたムラとマナの違いなのだろうか。
「アヤ、凄ーい。あなた甲冑騎士になれるんじゃない」
「本当ですよアヤさん、これなら甲冑動かせますよ」
「あはははは、えっへん」
良かった、機嫌が直った様だ。
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