猫と一緒に

切粉立方体

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3 ギルド

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 彩良が僕の目の前を嬉しそうに歩いている。
 さっきまで僕のザックに入っていたのは、たぶん、裸で歩き回るのが恥ずかしかったのだろう。
 小さな革サンダルも服に付いていたらしく、小さな足に小さなサンダルを履いている。

 次に彩良が向かったのは、表通りに面した大きな建物だった。
 二抱えは有りそうな丸太を組んだ重厚なログハウスで、入り口の階段を獣人達が大勢の人が出入りしていた。
 武器を持って、装備に身を固めた姿はなんか恐ろしげだ。
 中に入ると目の前に広いフロアが広がっており、手前半分が吹き抜けの高い天井で、奥の二階が手前のフロアを見下ろす食堂になっているようだった。
 まだ日が高いのに、酒を飲んで遠吠えしている獣人が結構いる。
 入り口前のフロアには掲示板が一杯ならんでおり、右奥には銀行のようなカウンターが並んでいる。
 報酬で揉めているのか、狼男が窓口の羊男に食って掛っている。

 そう、ここはたぶん冒険者ギルドだろう。
 彩良が入り口に立っていた柴犬の警備員に何事かを聞いて、僕を一番空いている右端の窓口へ引っ張って行った。
 窓口には、ハムスターの獣人の女の子が座っており、暇そうにしていた。

「ニャニャニャニャ」
「チュウチュウチュウ」
「ニャニャニャン」
「チュウチュウ」

 何を話しているのか、僕には全然解らない。
 彩良が首から認識票を外してカウンターの上に乗せる。

「ニャニャ」

 彩良が僕の認識票を叩いた、僕も認識票を外してカウンターに乗せる。
 彩良が小銭入れから銀貨二枚を取り出してカウンターに乗せる。
 ハムスターの女の子が僕達の認識票を脇の箱に差し入れる。

”ウイーン、ガリガリガリ”

 中で認識票を削っている音がしている。
 音が止んで、ハムスターの女の子が認識票を取り出して僕らに手渡す。
 うわー、裏面に僕の顔が浮彫にされている、うん、これは凄い。

 次に向かったのが、僕と同じ様にわにを背中にぶら下げている獣人達の列で、前にはカピパラみたいなオッサンが立っていた。
 長い事待たされて、やっと僕らの順番が回って来た。
 窓口には日本猿の女の子が座っていた。

「キキキキ」
「ニャニャニャ」
「キキキー」
「ニャニャニャニャン」

 日本猿の女の子は、僕の顔をチラっと見てから銀貨三枚を出してくれた。
 何か点数が貰える様で、認識票を出して刻印して貰った。
 窓口を立ち去り際、日本猿の女の子にウインクをされてしまった。

 次の窓口へ移動する、なんか健康診断みたいだ。
 なんと次の窓口には猫耳の人型のおねーさんが座っており、白衣を着ている。
 銀貨二枚を渡すと、カウンターの中へ通され、カーテンに囲まれた場所に案内される。

「○×△□%%」
「ニュニャニャ」

 彩良が服を捲り上げ、聴診器を当てて触診して貰っている。
 身長を測った後、体重計の様な物の上に乗ると、部屋の隅に積んであった機械から印字音がして紙が吐き出された。
 僕も同じ様に触診して貰い、身長を測ってから体重計に乗る。
 僕も隅の機械から吐き出された紙を貰ったのだが、引っ掻き傷の様な記号が並んでいるだけで、何なのか全然解らない。

「ニャン、ニャニャ」
「○□△××」

 彩良に何かを説明されて、白衣のおねーさんが頷きながら、机の引き出しから紙を取り出した。
 色々な獣人が描かれた絵を一枚、住宅地図の様な絵を一枚貰った。
 彩良の絵には、神官姿の人間の絵を丸で囲んであり、僕の絵には弓矢を構えた猫人の絵が丸で囲んである。
 彩良の地図と僕の地図には、それぞれ違う場所に丸が付けられている。

 ここは多分冒険者ギルドで間違いは無いだろう。
 だとすると、さっきの引っ掻き傷の紙は僕のステータス表、そしてそこに書いてあった僕の職業がたぶん狩人。
 地図の丸は講習所の場所なのだろうか。
 そこで勉強してスキルを取得してからじゃないと、たぶん仕事は貰えないのだろう。

ーーーーー
トルトノス冒険者ギルド ステータス鑑識官 フェリス

「フェリス、ガーラスが大物仕留めたんで奢ってくれるんだって。一緒に飲みに行きましょうよ」
「うん、これ整理したら直ぐに行けるから、ちょっと待ってて」
「これって、さっきの変態前の猫のお嬢ちゃんのステータス。やっぱり異世界から転移して来たの」
「ええ、最近多いのよねー、異世界転移。でもね、あの二人の職業ちょっと変わってるの」
「どこが?」
「人族の男の子が狩人で、猫のお嬢ちゃんが治癒魔法師なの」
「えっ!逆じゃないの」
「そう思うでしょ、でもそうなの。ほら、あの男の子、こんなに知力と魔力が高いのに狩人なの、半分私に分けて欲しいわよ」
「猫のお嬢ちゃんもこんなに敏捷性が高いのに勿体無いわ。敏捷性って治癒能力と関係無いものねー」
「でしょ、宝の持ち腐れよねー。はい、報告書完成。ただ酒飲むぞー」

ーーーーー
 貰った地図に、ベットの印が付いた建物が何カ所かあった。
 たぶん宿屋だろうと当りを付け、今夜のねぐらを捜してみる。
 魚料理が看板にドーンと描いてある宿があったので、そこへ泊まることにした。

「ニャー」

 宿の主人は川獺かわうその獣人だったので、彩良も僕も魚料理には期待している。
 一泊二食付で一人銀貨一枚。
 明日からの七日連続のスキル講習が一日銀貨一枚なので、手持ちの資金にはまだまだ余裕がある。

 鍵を受け取って部屋に入ると、彩良は服を脱ぎ捨てた。

「ミャー」

 伸びをして寛いでいる。
 ジャレ付いて来たので、少し遊んでやった。

 夕飯は御馳走だった。
 焼き魚、煮魚、刺身、野菜の煮物もすべて涙が出る程美味しかった。
 良く考えたら、この一月、僕等は蜥蜴しか食って無かった。

 部屋の洗面所や風呂の使い方が解らなかったので、彩良に聞いて貰う。
 部屋の備品はすべて魔道具の様で、僕等には使えなかった。
 柄杓と瓶を借りて水を入れて貰い、風呂にもお湯を満たして貰った。

「ニャニャニャニャニャン」

 彩良は猫のくせにお風呂が大好きだ。
 僕が風呂に入っていると、必ず飛び込んで来る。

「彩良、気持ち良いな。一月振りの風呂だもんな」
「ミャー」

 彩良を良く拭いてやってから、僕はベットで横になる。
 今日は火の心配をしなくてもよい、なんか凄く嬉しい。
 
 彩良が僕の腕の中で熟睡している。
 彩良と一緒にいると、なんとかこの世界でも生きて行けそうな気がする。
 窓の外には、大きな水色の月が浮いていた。
 
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