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4 職業講習所
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翌朝、僕等はそれぞれ指定された講習所へ向うことにした。
宿を出る時、彩良が物凄く心配そうな顔をしてたので一回ハグしてあげた。
「ニャー」
狩人の講習所は町外れに作られていた。
入り組んだ裏通りを裏門の方向へ向かって、縫うようにくねくねと歩いて行く。
槌音が喧しい職人街を抜け、その裏手に延々と広がる麦畑の間を抜けると、一時間程で町の外塀を跨ぐ様に立てられている狩人の講習所に辿り着いた。
ログハウスを町の外塀に向かって階段状に積み重ねた様な構造で、塀を越えた外側は、逆に下りの階段状にログハウスが延びている。
入口脇の受付所の係員に認識票とステータス表を示し、銀貨七枚を支払うと、一番高い場所の屋根に立てられている赤い旗を指差して何事か言われた。
赤い旗の立っている場所へ行けということなのだろう。
周囲の獣人達を見回すと、皆一斉にその旗の方向へ向かって走って行く。
出遅れると損をしそうなので、僕もその旗の方向へと走った。
先頭を走っていた連中が戻って来て、何故か右往左往している。
僕も端まで走ってみて、その理由が解った。
建物の中にも外にも上に上がる階段が無いのだ。
仕方がないので、窓枠を伝って屋根に攀じ登った。
次の階、また次の階にも結局階段は無く、十階分全て、窓枠を伝って攀じ登った。
十階まで登って赤い旗の立っている屋根を見上げたら、教官達が屋根の上で待っていた。
最初に辿り着いた生徒五十人を引き連れて、四人の教官が屋根を飛び移って町の外側へ移動する。
降りた場所は町の外側に広がる草原で、教官達はその草原の中を走り始めた。
僕達も必死で教官を後ろを追い駆ける。
僕以外の生徒は、革のアーマーや剣、弓と矢などの本格的な装備を整えている。
僕はスウェット姿で、手作りのみすぼらしい弓と木刀と枝の入った竹刀袋を背負っている恰好だ。
なんか玄人の訓練に勘違いしたど素人が紛れ込んでしまった気分だ。
教官達は、最初はゆっくりと、そして徐々にスピードを上げて行く。
病み上がりの僕には、だんだんとしんどくなって来る。
何とか根性で脱落しない様に付いて行くが、背の高い草に隠れて岩や穴が潜んでおり、油断をすると大怪我をしそうだった。
しかも草に化けた鰐も潜んでいる。
教官達の走った跡を見極め、鰐に足を食われない様に必死でトレースする。
森の手前まで来ると、教官達は一旦立ち止まった。
半分くらいが付いてこれていない。
付いてこれた者も、全員が膝に手を当ててヒイヒイ言っている。
脱落者の回収に行くのだろうか、教官二人が戻って行った。
森の中に入ると、教官はサッと木に登り、枝を伝って移動を始めた。
この数十日、僕は木の上で生活していた。
なので枝を飛び移っての移動は何の造作もなく、草原で足を食われる心配をしなくて良い分、気が楽だった。
「キャン、キャン、キャン」
「ギャンギャン」
「グワッ」
犬の獣人達は木の上が不得手のようで、次々に木から転げ落ちて悲鳴を上げている。
猫の獣人達は優雅な跳躍で教官の背後をピタっと付いている。
二時間ほど森の中を移動し、森端に辿り着く。
半分以上が脱落しており、十人しか残っていない。
教官一人が脱落者の回収に向かった。
目前に町の外塀が迫っており、右手の奥に講習所が見える。
木から塀の上に飛び移り、幅三十センチ程の塀の上を走らされた。
さすがにここで脱落するような者はいなかった。
講習所に着くと一休みさせて貰えた。
窓から外を覗くと、最初に振い落された連中が、窓枠を攀じ登る練習を一生懸命やっていた。
僕達が草原や森に居た間、ずっとこの訓練していたのならば、もう手足に力が入らない状態だと思う。
あっ、庇に攀じ登れないで落ちた奴がいる、屋根にぶつかってさらに転げ落ち、地面に叩き付けられている。
うわー、結構痛そうだ。
次に教官が僕等を連れて行った場所は、室内に作られている射的場だった。
二十メートル程の先に的が並んでおり、弓の力量を確認するらしい。
僕以外は高そうな弓を構え、ちゃんとした矢を番えている。
僕は手作りの弓に矢羽も何も付いていないただの枝だ。
周囲の連中が本格的な狩人の様に見えて来た。
知らない間に僕の弓の腕前は上がっていたらしく、良い勝負をしている。
僕は五本の枝を放って全て中心近くに当たった。
他の連中はむきになって対抗していたが、よく考えたら、僕も彩良と二人の夕飯が掛っていたので必死だった。
蜥蜴の数が減り始めてからは、一射一射が真剣勝負だった。
上位五人が別室に案内され、認識票に弓の印を三つ刻んで貰えた。
なにか狩人としてのスキルがレベルアップしたらしく、頭の中でファンファーレが鳴った。
病み上がりの怠さが消え、体が軽くなったような気がした。
ーーーーー
トルトノス狩人養成講習所教官ケルベス
「ケルベス、あの人族が最後まで残ったのか。珍しいな」
「ああ、走破訓練で脱落すると思ってたんだが、最後まで残ったよ。弓なんか銀クラスの冒険者並みだ」
「あの玩具でか」
「見た目は玩具でも威力は十分だったよ、的を支えた杭に結構深く突き刺さってた。実戦で使い込んでるんじゃないかな。ほれっ、弓の経験値が結構貯まっている」
「ほう、弓にも力が宿ったか。珍しいな、両手剣の経験値も貯まってるな。えっ、あの年齢でレベル2なのか」
「言葉も通じないから、たぶん転移者なんだろうな。無垢状態だから俺達の責任も重大だな。知力と魔力が高いから魔法弓師系が面白いかな」
ーーーーー
彩良
健司は鼠一匹捕まえられないドン臭い雄だから心配だ。
言葉も解らないし、無事講習所へ辿り着けたんだろうか。
どこかの街角で迷子になって、しくしく泣いてないだろうか。
宿の女将さんに聞いたら、結構人気のある職業なんで、訓練が厳しいと言っていた。
健司は根性が無いから、たぶん勤まらないだろう。
はー、私が二人の生活を支えなければならない。
治癒魔法師養成講習所は、町の中心にあった。
母神神殿の付属施設として作られている。
「きゃー、可愛い子猫ちゃん」
「ねえ、抱いて良い」
「駄目ニャ」
講習所の受付は人族の雌だった。
私は一人前の猫なのに、失礼な連中だ。
生徒も人族の雌で、私を抱き上げようとするので鬱陶しい。
生徒は私も含めて十人、受付が終わると、礼拝堂の様な場所に案内され紙を配られた。
「それでは皆さんの治癒魔法師としての適正を試験します。配られた紙を良く読んで回答して下さい。成績の悪い者は資格無しと見なして出直してもらいます」
げー不味い。
「すいません、異世界転移者なんで字が読めないニャ」
「あっ彩良ちゃんね。貴方は可愛いから合格よ。こっちにいらっしゃい」
「先生、それって狡いです」
「はい、あなたは十点減点ね。なにか言いたいことある」
「・・・、申し訳ありませんでした」
「素直で良いわ」
教官の膝の上へ移動して、媚を売っておくことにした。
私には、健司を養う義務がある。
宿を出る時、彩良が物凄く心配そうな顔をしてたので一回ハグしてあげた。
「ニャー」
狩人の講習所は町外れに作られていた。
入り組んだ裏通りを裏門の方向へ向かって、縫うようにくねくねと歩いて行く。
槌音が喧しい職人街を抜け、その裏手に延々と広がる麦畑の間を抜けると、一時間程で町の外塀を跨ぐ様に立てられている狩人の講習所に辿り着いた。
ログハウスを町の外塀に向かって階段状に積み重ねた様な構造で、塀を越えた外側は、逆に下りの階段状にログハウスが延びている。
入口脇の受付所の係員に認識票とステータス表を示し、銀貨七枚を支払うと、一番高い場所の屋根に立てられている赤い旗を指差して何事か言われた。
赤い旗の立っている場所へ行けということなのだろう。
周囲の獣人達を見回すと、皆一斉にその旗の方向へ向かって走って行く。
出遅れると損をしそうなので、僕もその旗の方向へと走った。
先頭を走っていた連中が戻って来て、何故か右往左往している。
僕も端まで走ってみて、その理由が解った。
建物の中にも外にも上に上がる階段が無いのだ。
仕方がないので、窓枠を伝って屋根に攀じ登った。
次の階、また次の階にも結局階段は無く、十階分全て、窓枠を伝って攀じ登った。
十階まで登って赤い旗の立っている屋根を見上げたら、教官達が屋根の上で待っていた。
最初に辿り着いた生徒五十人を引き連れて、四人の教官が屋根を飛び移って町の外側へ移動する。
降りた場所は町の外側に広がる草原で、教官達はその草原の中を走り始めた。
僕達も必死で教官を後ろを追い駆ける。
僕以外の生徒は、革のアーマーや剣、弓と矢などの本格的な装備を整えている。
僕はスウェット姿で、手作りのみすぼらしい弓と木刀と枝の入った竹刀袋を背負っている恰好だ。
なんか玄人の訓練に勘違いしたど素人が紛れ込んでしまった気分だ。
教官達は、最初はゆっくりと、そして徐々にスピードを上げて行く。
病み上がりの僕には、だんだんとしんどくなって来る。
何とか根性で脱落しない様に付いて行くが、背の高い草に隠れて岩や穴が潜んでおり、油断をすると大怪我をしそうだった。
しかも草に化けた鰐も潜んでいる。
教官達の走った跡を見極め、鰐に足を食われない様に必死でトレースする。
森の手前まで来ると、教官達は一旦立ち止まった。
半分くらいが付いてこれていない。
付いてこれた者も、全員が膝に手を当ててヒイヒイ言っている。
脱落者の回収に行くのだろうか、教官二人が戻って行った。
森の中に入ると、教官はサッと木に登り、枝を伝って移動を始めた。
この数十日、僕は木の上で生活していた。
なので枝を飛び移っての移動は何の造作もなく、草原で足を食われる心配をしなくて良い分、気が楽だった。
「キャン、キャン、キャン」
「ギャンギャン」
「グワッ」
犬の獣人達は木の上が不得手のようで、次々に木から転げ落ちて悲鳴を上げている。
猫の獣人達は優雅な跳躍で教官の背後をピタっと付いている。
二時間ほど森の中を移動し、森端に辿り着く。
半分以上が脱落しており、十人しか残っていない。
教官一人が脱落者の回収に向かった。
目前に町の外塀が迫っており、右手の奥に講習所が見える。
木から塀の上に飛び移り、幅三十センチ程の塀の上を走らされた。
さすがにここで脱落するような者はいなかった。
講習所に着くと一休みさせて貰えた。
窓から外を覗くと、最初に振い落された連中が、窓枠を攀じ登る練習を一生懸命やっていた。
僕達が草原や森に居た間、ずっとこの訓練していたのならば、もう手足に力が入らない状態だと思う。
あっ、庇に攀じ登れないで落ちた奴がいる、屋根にぶつかってさらに転げ落ち、地面に叩き付けられている。
うわー、結構痛そうだ。
次に教官が僕等を連れて行った場所は、室内に作られている射的場だった。
二十メートル程の先に的が並んでおり、弓の力量を確認するらしい。
僕以外は高そうな弓を構え、ちゃんとした矢を番えている。
僕は手作りの弓に矢羽も何も付いていないただの枝だ。
周囲の連中が本格的な狩人の様に見えて来た。
知らない間に僕の弓の腕前は上がっていたらしく、良い勝負をしている。
僕は五本の枝を放って全て中心近くに当たった。
他の連中はむきになって対抗していたが、よく考えたら、僕も彩良と二人の夕飯が掛っていたので必死だった。
蜥蜴の数が減り始めてからは、一射一射が真剣勝負だった。
上位五人が別室に案内され、認識票に弓の印を三つ刻んで貰えた。
なにか狩人としてのスキルがレベルアップしたらしく、頭の中でファンファーレが鳴った。
病み上がりの怠さが消え、体が軽くなったような気がした。
ーーーーー
トルトノス狩人養成講習所教官ケルベス
「ケルベス、あの人族が最後まで残ったのか。珍しいな」
「ああ、走破訓練で脱落すると思ってたんだが、最後まで残ったよ。弓なんか銀クラスの冒険者並みだ」
「あの玩具でか」
「見た目は玩具でも威力は十分だったよ、的を支えた杭に結構深く突き刺さってた。実戦で使い込んでるんじゃないかな。ほれっ、弓の経験値が結構貯まっている」
「ほう、弓にも力が宿ったか。珍しいな、両手剣の経験値も貯まってるな。えっ、あの年齢でレベル2なのか」
「言葉も通じないから、たぶん転移者なんだろうな。無垢状態だから俺達の責任も重大だな。知力と魔力が高いから魔法弓師系が面白いかな」
ーーーーー
彩良
健司は鼠一匹捕まえられないドン臭い雄だから心配だ。
言葉も解らないし、無事講習所へ辿り着けたんだろうか。
どこかの街角で迷子になって、しくしく泣いてないだろうか。
宿の女将さんに聞いたら、結構人気のある職業なんで、訓練が厳しいと言っていた。
健司は根性が無いから、たぶん勤まらないだろう。
はー、私が二人の生活を支えなければならない。
治癒魔法師養成講習所は、町の中心にあった。
母神神殿の付属施設として作られている。
「きゃー、可愛い子猫ちゃん」
「ねえ、抱いて良い」
「駄目ニャ」
講習所の受付は人族の雌だった。
私は一人前の猫なのに、失礼な連中だ。
生徒も人族の雌で、私を抱き上げようとするので鬱陶しい。
生徒は私も含めて十人、受付が終わると、礼拝堂の様な場所に案内され紙を配られた。
「それでは皆さんの治癒魔法師としての適正を試験します。配られた紙を良く読んで回答して下さい。成績の悪い者は資格無しと見なして出直してもらいます」
げー不味い。
「すいません、異世界転移者なんで字が読めないニャ」
「あっ彩良ちゃんね。貴方は可愛いから合格よ。こっちにいらっしゃい」
「先生、それって狡いです」
「はい、あなたは十点減点ね。なにか言いたいことある」
「・・・、申し訳ありませんでした」
「素直で良いわ」
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私には、健司を養う義務がある。
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