お兄ちゃん、馬鹿な事言わないでよ -妹付き異世界漫遊記ー

切粉立方体

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8 ”逃げるぞ、逃げるぞ、逃げるぞ、逃げるぞ”

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夜の見張りは初心、初級冒険者が交代で担当した。
木に登って、枝の上から森の闇をじっと見つめるのだ。
目が慣れると夜の森は多彩だった、ミノスの目は真之介では見えない夜の景色を映し出してくれた。

下生えの中の秋の虫、ねずみや蛙、蜥蜴とかげや蛇などの小動物が自己の生存をかけて動き回り、小鳥の群が夜空を覆うように移動し、コウモリが自在に夜空を飛び回っている。

狐がねずみを追いかけている、あっ、逃げられた様だ。
尻尾を垂らして下生えの中に帰って行く。
遠くに見える巨木の幹では、木蜂が樹液を求めて群がっている。

振り返ると闇の中に野営の天幕が見える。
殆どが灯を落として真っ暗だが、微かな灯りを残して励んでいるカップルも多い様だ。
天幕の中で微かな影が揺れている、影が仰け反ってから灯りが消えた。

なんか目の毒だ、カスミさんの裸身が目の前に浮かび上がる。
目に、脳に、映像が焼き付いてしまった様だ。
不味い、勃起してしまった。

ん、遠くの鳥達が異変を発している。
警戒する鋭く細い鳴き声が行き交っている。
鳴き声はこちらに向かって広がって来る。
何かが近づいて来る様だ、呼笛を口にくわえる。
俺の頭上の梢の鳥も、不安そうに小さな囀りを立て始めた。

見えた、森の奥に白い影が揺れている。
呼笛を大きく三回吹いた、森の中を風切りの様な笛の音が走って行く。
人の背の倍程の白い人型獣が、十匹程こちらに向かって歩いている。

野犬などの脅威の少ない獣の場合は笛一回。
大きな群や、ゴブリンなどの場合は笛二回、そしてそれより巨大な相手には笛三回で緊急事態を知らせる。
人には聞こえて獣や人獣には聞こえない音だそうだ。

ロウリスさんが木に登って来た、巨体の割にはもの凄く身軽い。

「あそこです」

俺の指さす先に目を凝らす。
そして直ぐに振り向いてささやいた。

「逃げるぞ」

そのささやきは静かな水面に落ちた波紋の様に伝言され広がって行く。
”逃げるぞ、逃げるぞ、逃げるぞ、逃げるぞ”
俺達は天幕を畳んで森の中から大急ぎで逃げ出した。

俺の見た人型獣はオーガだった。
単独でもBランク以上の討伐対象の危険な人型獣だ。
毛皮が堅い上に治癒能力が高く、しかも治癒魔法を使う個体まで存在する。

群の討伐ならば軍隊が必要だ。
俺達C、Dランク中心の冒険者じゃ死にに行く様な物だ。

夢中になって荷車を押して走った。
皆無言で必死だ、ほとんど裸のカップルもいる。
荷物を捨てないのは、オーガに人の存在を知らせないためだ。
街道にたどり着いた時に、地平が薄っすらと白くなり始めていた。

急いで街道沿いに危険を知らせる赤いはたを立てて行く。
狼煙のろしを上げた方が早いのだが、オーガ相手では招き寄せる危険性があるので厳禁だ。
隣町には数人が走り急を知らせる、俺達は急いで町に向かった。

「お前、名前はなんだ」

ロウリスさんに聞かれた。

「ミノスです」
「お前の発見が早かったんで命拾いした、礼を言うぞ。後十ゼ(十分)遅かったら死人が大勢出ていたよ」

ミノスの目の良さに感謝だ。

「ロウリス、こいつ何かの役にたったのか」

カスミさんだ。

「ああ、こいつがオーガの発見者だ。奴らが気付く前に逃げられたのが大きかった。奴らの好物知ってるか、俺は昔渓谷の対岸から食事風景見た事がある。手足をへし折られて動けない人間の頭を器用に割って脳味噌食うんだぜ、生きたまま。食われる順番待ちの奴らがヒイヒイ大騒ぎで泣いてた」
「それは何かゾクゾクする夢のような光景だな。想像しただけでも身体の芯が痺れて来る」
「・・・・」
「・・・・」

カスミさんに頭を掴まれ、胸に抱き寄せられた。
頭を撫でられながら囁かれた。

「なあミノス、お前の脳味噌食わせてくれ」

ひー、声が本気だった、絶対に本気で涎を垂らしそうな夢見る顔をしている。
俺は慌てて逃げ出した。

東門に着いてギルド前で解散、連絡が来るまでは自宅待機となった。
皆両手に肉の入った袋をぶら下げている、うん、昨日は大漁だった。
野犬やらゴブリンやら、ゴブリンやら・・・・、当分これを食うのか。

途中魔道具屋に寄って魔石を引き取って貰った。
家で使うのは魔蜂などから取る小さな魔石で、こんな大きな魔石を持って帰っても持て余してしまう、うん、これは産業用だ。
銀貨八十枚で買い取って貰え、思っていたよりも良い収入になった。
魔石も含めすべての物資が不足し、物価が上がっていると説明されて嬉しさも半分だった。
でもミーナを喜ばせる事は出来そうだ。

「ただいまー」

”ゴン”

何故かいきなり殴られた。

「お兄ちゃん、風呂へ行って。今直ぐ」

服の臭いを嗅ぎ、股間の臭いを嗅ぐ、別に臭くは無いようなのだが、はて。

「女の人の臭いがするのよ、プンプンと。説明は後で良いから早く風呂に行って」

納得した、俺は気が付かなかったがカスミさんの匂いが残っていたのだろう。
うん、カスミさんの声少し興奮してたし。

湯船に身体を投げ出す、星空の下も良いが、この洞窟の様な雰囲気も落ち着く。
目を閉じると相変わらずカスミさんの裸体が目に浮かぶ。

勃起した息子を落ち着かせてから洗い場に出る。

「ミノスさん」

ん、アリアちゃんだ。
ミーナより少し発育状況が宜しい。
どうどう、息子を落ち着かせる。

「森で魔物が出たって本当ですか」

別に口止めされて無いし、構わないだろう。

「うん、ゴブリンとオーガが出た」
「え!オーガですか。詳しく教えて下さい」

うん、町に残された人々は情報に飢えているようだ。
異常事態が発生したことは感じているが、情報が無いので不安なのだろう。
遭遇の状況を詳しく説明してあげる、ロウリスさんから聞いたオーガの話も。

「うわー、怖い」
「普通山奥に住んでるんでしょ」
「えー、隣町に行けないの」
「軍隊の出動頼まないのかな」
「オーガって魔獣なんでしょ」
「人の脳味噌なんて」

周りが大騒ぎしている・・・・?、気が付いたら周りは若い女の子で一杯だった。
お花畑状態だった、うわー、極楽だ。
そのまま湯船にゾロゾロと移動して風呂を満喫する、うん、生きてて良かった。

あー、良い湯だった。

「ただいまー」

”ゴギャ”

うー痛い、再び殴られた。

「お兄ちゃん、別の臭いが着いてる。洗い直し」

このままじゃエンドレスのループに入りそうなのでミーナも風呂に連れて行く。
風呂に入りながら状況を説明する。

就寝、二度も風呂に行ったんですっかり遅くなった。

”ゴソゴソ、ゴソゴソ、ゴソゴソ”

ミーナがやたらと身体を押し付けて来る。

「ミーナ、どうした」
「ん、匂い着けよ」
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