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Ⅰ 第一学年
7 鬼門寮
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学院の敷地の北東の外れ、まさに鬼門の方角に鬼門寮は在った。
木造三階建てで、焼板の壁に木の窓枠、築百年じゃないかと思われる古めかしい建物だった。
重そうな屋根瓦の乗った屋根は、寺の屋根の様な反りがある。
瓦葺の玄関の庇は太い柱で支えられており、そのしたの曇りガラスが嵌められた柳格子の引き戸の開けると、黒御影石を練り込んだ三和土があり、そこに白石の沓脱石が置いて有る。
格子状になった天井や長押には、彩色を施してある様々な動物の透かし彫りで飾られている。
上がり框の向こうには幅一間程の廊下が奥へと伸び、左右に木目が綺麗に浮かんだ白木の居住者の部屋の扉が並んでいる。
左手に三十人分の重厚な黒光りしている下駄箱、右手には手摺に朱雀と青竜が彫り込んである二階に昇る階段がある。
「鈴木と雷夢の部屋は風呂が無かったな、風呂場はこの廊下の突き当たりだ。男は九時から十時までの間だから時間に気を付けてくれ。間違うと呪術の得意な連中が多いから呪われるぞ。古い建物だから月一回全員で手入れをして綺麗にしているが所々根太が抜けるから気を付けてくれ。部屋の水道やトイレが壊れた時も含めて、修繕の連絡先は大学の管財課だ。教務部に話持ってくと目三角にして怒られるからな。乱動が301、雷夢が302、鈴木が303号室だ。鍵は無いから各人で結界を張ってくれ。私の部屋は101だ、バイトがあるから普段戻るのは九時過ぎなんで、用事が有る時はその時間に来てくれ。それとな、此処は鬼門なんで時々鬼が入り込んでくる、適当に討伐してくれ。討伐したらそこのノートに書いといてもらえれば教務部から礼金が貰える」
鬼が出る!なんかとんでもない事をさらりと言われた気がする、鬼が出たらさっさと逃げよう。
三階まで登ったら息が切れてしまった、特に両手を塞いでいる段ボール箱が重かった。
鶯張じゃ無いけれど、階段の板がいちいち鳴るので怖かった。
引き戸の扉を開けて部屋に入る、乱動さんは一生懸命押したり引いたりしていたので、引き戸であることを教えてあげた。
黒光りする板張りの廊下も、装飾が施された天井も、白木の扉もそれなりに古い日本家屋趣が有ったのだが、扉の中は、小さなトイレと小さな流しが付いた何の変哲も無い貧しい四畳半の和室だった。
天井から裸電球がぶら下っており、その下に小さなちゃぶ台が置いてある、家財はそれだけだ。
幅一間の押入れを開けると中に物凄く薄い布団が一組、ぽつねんと置いてあった。
折角テレビゲームを持って来たのに肝心のテレビが無い、なんかまた家に帰りたくなった。
しばらくスマホで時間を潰したが、鬼が怖いので暗くなる前に食堂へ夕飯を食いに行くことにした。
「鈴木君、飯一緒に食いに行くかい」
隣室の鈴木君に声を掛ける。
「あ、雷人くん、ありがとう。僕の事は舞って呼んでね」
自己紹介では確か鈴木舞人と言っていた。
「舞人じゃ駄目か」
「その呼び名って、武骨で可愛く無いから好きじゃないんだ。だから舞で良いよ。靴下探すから中に入ってまってて」
舞君の部屋に入る、あれ?撲の部屋よりだいぶ広し部屋の作りが違う、十畳くらい有りそうなワンルームだ、きっとこれも深く考えちゃいけない事なのかもしれない。
なんか部屋がピンク色ぽいし、熊や兎や猫の可愛いぬいぐるみが飾ってある、ん、ベットの上に置いてあるのはネグリジェじゃないか、プライバシーの侵害になるから見なかったことにしよう。
「月一万円の部屋だから心配したけど、この広さなら丁度良いよね」
うん、ベットも有るし机も有る、エアコンも有るし冷蔵庫やパソコンや小さなダイニングテーブルまである。
もちろん三十二型の液晶テレビもある。
「おじさんが神主やっててさ、神道互助会から注文すると配達して貰えるんだよ」
お気に入りのフリルの付いたピンクの靴下が見つかったので部屋を出る。
部屋の扉を背中で閉めながら、舞君が嬉しそうに言った。
「雷人君が僕の部屋へ最初に入った男の子だね」
乱動さんも誘う、中に入ったら4LDKだった、勿論風呂も有るし、家電も揃っている。
広いダイニングテーブルやソファーまである。
「乱動さん、ここの家賃幾らなの」
「五万円、これでも頑張って安くしたんだよ。御祖父ちゃんが五十万の部屋にするって煩くてさ。お掃除するのが大変だから止めてって言ったの」
偶発術は儲かるらしい、僕は良く考えないで一月二千円の部屋にチェックを入れてしまったのだ。
一番近い大学の食堂へ行き、乱動さんはなんか難しい名前のコース料理、舞君はA定食で僕はB定食だ。
満腹になっての帰り道、夕日に僕らの部屋の窓ガラスが輝いていた。
うん、間口一間半の狭い部屋が三つ並んでいる様にしか見えない。
その夜僕は、夢野先生の宣言どおり、怖い夢を見た。
木造三階建てで、焼板の壁に木の窓枠、築百年じゃないかと思われる古めかしい建物だった。
重そうな屋根瓦の乗った屋根は、寺の屋根の様な反りがある。
瓦葺の玄関の庇は太い柱で支えられており、そのしたの曇りガラスが嵌められた柳格子の引き戸の開けると、黒御影石を練り込んだ三和土があり、そこに白石の沓脱石が置いて有る。
格子状になった天井や長押には、彩色を施してある様々な動物の透かし彫りで飾られている。
上がり框の向こうには幅一間程の廊下が奥へと伸び、左右に木目が綺麗に浮かんだ白木の居住者の部屋の扉が並んでいる。
左手に三十人分の重厚な黒光りしている下駄箱、右手には手摺に朱雀と青竜が彫り込んである二階に昇る階段がある。
「鈴木と雷夢の部屋は風呂が無かったな、風呂場はこの廊下の突き当たりだ。男は九時から十時までの間だから時間に気を付けてくれ。間違うと呪術の得意な連中が多いから呪われるぞ。古い建物だから月一回全員で手入れをして綺麗にしているが所々根太が抜けるから気を付けてくれ。部屋の水道やトイレが壊れた時も含めて、修繕の連絡先は大学の管財課だ。教務部に話持ってくと目三角にして怒られるからな。乱動が301、雷夢が302、鈴木が303号室だ。鍵は無いから各人で結界を張ってくれ。私の部屋は101だ、バイトがあるから普段戻るのは九時過ぎなんで、用事が有る時はその時間に来てくれ。それとな、此処は鬼門なんで時々鬼が入り込んでくる、適当に討伐してくれ。討伐したらそこのノートに書いといてもらえれば教務部から礼金が貰える」
鬼が出る!なんかとんでもない事をさらりと言われた気がする、鬼が出たらさっさと逃げよう。
三階まで登ったら息が切れてしまった、特に両手を塞いでいる段ボール箱が重かった。
鶯張じゃ無いけれど、階段の板がいちいち鳴るので怖かった。
引き戸の扉を開けて部屋に入る、乱動さんは一生懸命押したり引いたりしていたので、引き戸であることを教えてあげた。
黒光りする板張りの廊下も、装飾が施された天井も、白木の扉もそれなりに古い日本家屋趣が有ったのだが、扉の中は、小さなトイレと小さな流しが付いた何の変哲も無い貧しい四畳半の和室だった。
天井から裸電球がぶら下っており、その下に小さなちゃぶ台が置いてある、家財はそれだけだ。
幅一間の押入れを開けると中に物凄く薄い布団が一組、ぽつねんと置いてあった。
折角テレビゲームを持って来たのに肝心のテレビが無い、なんかまた家に帰りたくなった。
しばらくスマホで時間を潰したが、鬼が怖いので暗くなる前に食堂へ夕飯を食いに行くことにした。
「鈴木君、飯一緒に食いに行くかい」
隣室の鈴木君に声を掛ける。
「あ、雷人くん、ありがとう。僕の事は舞って呼んでね」
自己紹介では確か鈴木舞人と言っていた。
「舞人じゃ駄目か」
「その呼び名って、武骨で可愛く無いから好きじゃないんだ。だから舞で良いよ。靴下探すから中に入ってまってて」
舞君の部屋に入る、あれ?撲の部屋よりだいぶ広し部屋の作りが違う、十畳くらい有りそうなワンルームだ、きっとこれも深く考えちゃいけない事なのかもしれない。
なんか部屋がピンク色ぽいし、熊や兎や猫の可愛いぬいぐるみが飾ってある、ん、ベットの上に置いてあるのはネグリジェじゃないか、プライバシーの侵害になるから見なかったことにしよう。
「月一万円の部屋だから心配したけど、この広さなら丁度良いよね」
うん、ベットも有るし机も有る、エアコンも有るし冷蔵庫やパソコンや小さなダイニングテーブルまである。
もちろん三十二型の液晶テレビもある。
「おじさんが神主やっててさ、神道互助会から注文すると配達して貰えるんだよ」
お気に入りのフリルの付いたピンクの靴下が見つかったので部屋を出る。
部屋の扉を背中で閉めながら、舞君が嬉しそうに言った。
「雷人君が僕の部屋へ最初に入った男の子だね」
乱動さんも誘う、中に入ったら4LDKだった、勿論風呂も有るし、家電も揃っている。
広いダイニングテーブルやソファーまである。
「乱動さん、ここの家賃幾らなの」
「五万円、これでも頑張って安くしたんだよ。御祖父ちゃんが五十万の部屋にするって煩くてさ。お掃除するのが大変だから止めてって言ったの」
偶発術は儲かるらしい、僕は良く考えないで一月二千円の部屋にチェックを入れてしまったのだ。
一番近い大学の食堂へ行き、乱動さんはなんか難しい名前のコース料理、舞君はA定食で僕はB定食だ。
満腹になっての帰り道、夕日に僕らの部屋の窓ガラスが輝いていた。
うん、間口一間半の狭い部屋が三つ並んでいる様にしか見えない。
その夜僕は、夢野先生の宣言どおり、怖い夢を見た。
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