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Ⅰ 第一学年
19 一角鬼
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ーーーーー
雷君が鬼に殺されそうになって、胸が張裂けそうな気持だった。
舞君と階段を駆け下りた時も、雷君が死ぬかも知れないと思って、息が出来ないくらい胸が痛くなった。
こんなに他の人を心配するなんて初めての経験だ、必死で結界を叩き続け、結界が解けて雷君が微笑んだ時は、嬉しくて嬉しくて、駆け出して泣きながら抱き付いてしまった。
漫画みたいに男の子に抱き付くなんて初めての経験だったのに、ひたすら嬉しくて全然恥ずかしく無かった。
気を失って治療されている雷君を見ていた時も、雷君が生きていることが嬉しくて涙が止まらなかった。
人が少なくなったロビーで並んでお弁当を食べていたら、まだずっと雷君と一緒に居られると思い、幸福感が込み上げて来て涙が零れそうになった。
このまま、この時がずっと続くと良いのに、と思った。
ーーーーー
連休明けのホームールーム、また夢野先生に呼ばれた。
「雷夢、陰陽師協会から邪類討伐中級認定資格試験のお知らせが来た。試験は来月だ、申し込んでおけ」
「えっ、三日前に初級を貰ったばかりですよ」
「お前最終試験で鵺を倒しただろ」
「ええ、まあ、たまたまです」
「試験だったが、あれは特別に討伐実績としてカウントされたらしいぞ、だから楽勝で必要な実績を越えたそうだ」
「でも僕はまだ未熟ですから」
「駄目だ」
「へっ?」
「これは学院の実績になるんで強制だ、学院の面子が掛かってるから石に齧りついても受かれよ」
それまでに怪我が悪化しないか不安だ、安静だった筈なのだが、火柱先輩には歩けるなら大丈夫と言われて鬼討伐に駆り出されるし、道場に顔を出したら、師匠に怪我は稽古しながら治す物だと言われて稽古をやらされている。
でも、中級に昇格すると、人を雇って討伐を業とする邪類討伐業の許可が付与されて、邪類討伐の事務所を開設できる、小さな事務所でも年間一億円は稼ぐと言われており、貧乏生活を送っている僕にとっては、確かに魅力的な話だ。
その日の午前の化学の授業を受けている時、僕は突然、まだ高校一年生に過ぎないことを思い出した、何時から歯車が狂い始めたのだろう、腕組みしてしばらく考え込んでしまった。
午後の講義が終わった後、おじさんに初級認定を報告しに行った、そして開口一番で言われた。
「そりゃちょうど良かった。今度の土曜日俺を手伝え」
おじさんの職業は大学の教授なのだが、広域情報システムの祓いの専門家なので、侵入した鬼の討伐や対処方法についての相談も多い、だから違法状態にならない様に初級の認定は持っている。
だが事務所の開設が出来ないので、頼まれた場合には、知り合いを集めて対処している。
今回は手が空いている知り合いが居なかったそうなのだ。
情報の世界での作業だ、怪我人の僕でも大丈夫だろう。
「何すればいいの」
「一角鬼の捕獲だ」
「一角鬼?」
「そう、水生の鬼だ、データ処理会社のシステムに住み着いたそうだ。データを食われて困った会社から頼まれた。先輩の伝手なんで断れないんだよ」
「討伐じゃなくて良いの」
「会社のマスコットキャラクターに憑依されたんで、万が一情報が洩れて、会社がマスコットキャラを殺したなんて評判が立つと不味いんで殺さないで欲しいそうだ」
土曜日、おじさんと一緒にデータ処理会社に出向いた、小さなオフィスかと思ったが新宿にビルを保有する有名な大会社だった。
「雷羅無理言って悪かったな、ん?学生連れか、うちはセキュリティーが厳しいから入れないと思うぞ」
「先輩、此奴は初級の免許持ちですから大丈夫です」
「えっ、すまなかったな。じゃっ、後に付いて来てくれ」
幾重ものチェックを通って、地下の大きなサーバーが何台も並んだ部屋に通される。
おじさんはスーツ姿なのだが、僕はジャージだ、警備員のお姉さんに不審な目で見られてしまった。
「この一台に閉じ込めて外部と隔離している、だが此奴が無いとピーク時が綱渡りになるんだ。なるべく急いでくれ」
おじさんと二人で情報の世界に入る、本体の能力が高いのだろう、海に近い湖に情報が広がっている。
「あーあ、思ってたよりも広いな。この湖の中の何処かに一角が潜んでいる筈だ、二人で手分けして探そう。見付けたら呼あって、二人で追い込もう。大きさは俺達くらい、こんな風に見える筈だ」
おじさんの掌の上に浮かんだのは、アニメ風の額に一本角を生やした人魚の可愛い女の子だった、胸を小さな貝殻で隠している、なんか急に気合が入って来た。
僕は左岸から、おじさんが右岸からローラーする、僕が先に発見した。
「おじさん、見付けたよ」
「了解、直ぐに行くから抑えといてくれ」
捕まえようとする。
「いやー、止めてエッチ」
胸を押さえて叫ばれてしまった、思わず手が縮む。
「惑わされるな、雷人」
おじさんが人魚の頬を平手で張る。
「キャッ」
容赦が無い、両腕を逆手に取って素早く背中で縛り上げる、胸の上下に縄を二重に回し絞る、うん、エッチな漫画で良く見る姿が完成だ。
何か人魚が可哀そうに思えて来たら、行き成り手の平を噛付かれた。
「油断するな雷人」
「はい」
部屋に戻ってテレビの電源を入れようとしたら、噛付かれた手の平から電撃が走り、テレビに画像が映し出された。
コンセントを抜いても画像が消えない。
画像の隅に”消して欲しくば、私を助けろ”と書いてある、くそー、あの性悪人魚。
「雷人、夕飯食べに行こー、えっ、何これ。雷人こんな趣味があったの」
「どうしたの、あー、駄目だよ雷君、これ犯罪だよ」
テレビにはランドセルを背負った裸の小学生の女の子が映し出されている、うん、児童P法違反だ。
この映像を消すのに一週間掛かった。
そして十日後、某社のマスコットキャラクターの緊縛バージョンがネットに出たとの噂が広がった、あの人魚なかなかしぶといらしい。
雷君が鬼に殺されそうになって、胸が張裂けそうな気持だった。
舞君と階段を駆け下りた時も、雷君が死ぬかも知れないと思って、息が出来ないくらい胸が痛くなった。
こんなに他の人を心配するなんて初めての経験だ、必死で結界を叩き続け、結界が解けて雷君が微笑んだ時は、嬉しくて嬉しくて、駆け出して泣きながら抱き付いてしまった。
漫画みたいに男の子に抱き付くなんて初めての経験だったのに、ひたすら嬉しくて全然恥ずかしく無かった。
気を失って治療されている雷君を見ていた時も、雷君が生きていることが嬉しくて涙が止まらなかった。
人が少なくなったロビーで並んでお弁当を食べていたら、まだずっと雷君と一緒に居られると思い、幸福感が込み上げて来て涙が零れそうになった。
このまま、この時がずっと続くと良いのに、と思った。
ーーーーー
連休明けのホームールーム、また夢野先生に呼ばれた。
「雷夢、陰陽師協会から邪類討伐中級認定資格試験のお知らせが来た。試験は来月だ、申し込んでおけ」
「えっ、三日前に初級を貰ったばかりですよ」
「お前最終試験で鵺を倒しただろ」
「ええ、まあ、たまたまです」
「試験だったが、あれは特別に討伐実績としてカウントされたらしいぞ、だから楽勝で必要な実績を越えたそうだ」
「でも僕はまだ未熟ですから」
「駄目だ」
「へっ?」
「これは学院の実績になるんで強制だ、学院の面子が掛かってるから石に齧りついても受かれよ」
それまでに怪我が悪化しないか不安だ、安静だった筈なのだが、火柱先輩には歩けるなら大丈夫と言われて鬼討伐に駆り出されるし、道場に顔を出したら、師匠に怪我は稽古しながら治す物だと言われて稽古をやらされている。
でも、中級に昇格すると、人を雇って討伐を業とする邪類討伐業の許可が付与されて、邪類討伐の事務所を開設できる、小さな事務所でも年間一億円は稼ぐと言われており、貧乏生活を送っている僕にとっては、確かに魅力的な話だ。
その日の午前の化学の授業を受けている時、僕は突然、まだ高校一年生に過ぎないことを思い出した、何時から歯車が狂い始めたのだろう、腕組みしてしばらく考え込んでしまった。
午後の講義が終わった後、おじさんに初級認定を報告しに行った、そして開口一番で言われた。
「そりゃちょうど良かった。今度の土曜日俺を手伝え」
おじさんの職業は大学の教授なのだが、広域情報システムの祓いの専門家なので、侵入した鬼の討伐や対処方法についての相談も多い、だから違法状態にならない様に初級の認定は持っている。
だが事務所の開設が出来ないので、頼まれた場合には、知り合いを集めて対処している。
今回は手が空いている知り合いが居なかったそうなのだ。
情報の世界での作業だ、怪我人の僕でも大丈夫だろう。
「何すればいいの」
「一角鬼の捕獲だ」
「一角鬼?」
「そう、水生の鬼だ、データ処理会社のシステムに住み着いたそうだ。データを食われて困った会社から頼まれた。先輩の伝手なんで断れないんだよ」
「討伐じゃなくて良いの」
「会社のマスコットキャラクターに憑依されたんで、万が一情報が洩れて、会社がマスコットキャラを殺したなんて評判が立つと不味いんで殺さないで欲しいそうだ」
土曜日、おじさんと一緒にデータ処理会社に出向いた、小さなオフィスかと思ったが新宿にビルを保有する有名な大会社だった。
「雷羅無理言って悪かったな、ん?学生連れか、うちはセキュリティーが厳しいから入れないと思うぞ」
「先輩、此奴は初級の免許持ちですから大丈夫です」
「えっ、すまなかったな。じゃっ、後に付いて来てくれ」
幾重ものチェックを通って、地下の大きなサーバーが何台も並んだ部屋に通される。
おじさんはスーツ姿なのだが、僕はジャージだ、警備員のお姉さんに不審な目で見られてしまった。
「この一台に閉じ込めて外部と隔離している、だが此奴が無いとピーク時が綱渡りになるんだ。なるべく急いでくれ」
おじさんと二人で情報の世界に入る、本体の能力が高いのだろう、海に近い湖に情報が広がっている。
「あーあ、思ってたよりも広いな。この湖の中の何処かに一角が潜んでいる筈だ、二人で手分けして探そう。見付けたら呼あって、二人で追い込もう。大きさは俺達くらい、こんな風に見える筈だ」
おじさんの掌の上に浮かんだのは、アニメ風の額に一本角を生やした人魚の可愛い女の子だった、胸を小さな貝殻で隠している、なんか急に気合が入って来た。
僕は左岸から、おじさんが右岸からローラーする、僕が先に発見した。
「おじさん、見付けたよ」
「了解、直ぐに行くから抑えといてくれ」
捕まえようとする。
「いやー、止めてエッチ」
胸を押さえて叫ばれてしまった、思わず手が縮む。
「惑わされるな、雷人」
おじさんが人魚の頬を平手で張る。
「キャッ」
容赦が無い、両腕を逆手に取って素早く背中で縛り上げる、胸の上下に縄を二重に回し絞る、うん、エッチな漫画で良く見る姿が完成だ。
何か人魚が可哀そうに思えて来たら、行き成り手の平を噛付かれた。
「油断するな雷人」
「はい」
部屋に戻ってテレビの電源を入れようとしたら、噛付かれた手の平から電撃が走り、テレビに画像が映し出された。
コンセントを抜いても画像が消えない。
画像の隅に”消して欲しくば、私を助けろ”と書いてある、くそー、あの性悪人魚。
「雷人、夕飯食べに行こー、えっ、何これ。雷人こんな趣味があったの」
「どうしたの、あー、駄目だよ雷君、これ犯罪だよ」
テレビにはランドセルを背負った裸の小学生の女の子が映し出されている、うん、児童P法違反だ。
この映像を消すのに一週間掛かった。
そして十日後、某社のマスコットキャラクターの緊縛バージョンがネットに出たとの噂が広がった、あの人魚なかなかしぶといらしい。
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