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Ⅰ 第一学年
53 邪類討伐初級認定資格試験の手伝い3
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「この試験は、相手を鬼と見なして祓って頂く皆さんの技量を審査する試験です。ですから勝敗の判定はしますが勝ち負けは重要ではありません。くれぐれも勝敗に固執し無理はしない様お願いします」
役目柄、受験者を集めて事務局から頼まれている伝達事項として説明はしているが、試合が始まれば全員むきになって戦い始めるのは解っている。
鬼や物怪と戦う陰陽師を目指す、好戦的な人達が集まったので当然と言えば当然だ。
三次試験、対人試合形式の試験が始まった。
僕の事務所のメンバーの最初の試合、舞の相手は巨漢だった、たぶんおっさん連中が仕組んだのだろう。
小柄な舞と向き合うと小学生とプロレスラーだ、でも大丈夫、道場で進之介先輩と二人で皆の、この試験に向けた練習は繰り返して来た。
それに舞は意外と対人に強い。
試合開始。
”シャン、シャン、シャン、シャン”
舞が両手に持った鈴を打ち鳴らす。
その音のリズムに踊らされる様に、相手がフラフラと前に歩み出る。
神経を研ぎ澄ませた瞬間を狙って鈴の音のリズムを相手の心の中に忍び込ませて縛る、放心状態で試合に臨む選手は少ないのでなかなか有効な技だ。
床の上に結界用の呪符を並べて誘き寄せる、相手が罠に嵌ったら頭上に札を投げ上げ結界完成、相手選手は良い所無しで試合が終了した。
素面の時は気が弱くて争いが苦手の迷子も、酔ってると強い。
笑いながらピコピコハンマーで相手を殴り倒し、白目を剥いて倒れている相手に追撃しようとして、慌てて審判に止められていた。
紅葉も争い事には向いてないのだが、木の床の上という、木術のホームグラウンドの様な場所では圧倒的に強かった。
木の繊維に魂を流し入れ、床から蔦を生やして相手選手の足に絡める。
後は動けない相手選手を尻目にマイペースでトコトコと周囲を歩き回って結界の札を置いて回る。
最後に祓札を持たせた蔦を相手選手の頭上に伸ばして結界完成、圧勝だった。
水江さんは水術で呼び出した霧に相手を囲んで幻惑し、氷柱てタコ殴りにして楽勝。
風華さんも試合開始と同時に、相手選手にエアーハンマーの往復ビンタを何発もお見舞いし、ドクターストップが入ってこれも楽勝だった。
弥生は手が空いている神様を数体呼び出し、相手を袋叩きにして貰っていた。
明美と香はそれぞれ得意とする術が有る筈なのに、滅鬼術の道場の練習で覚えた仏壇返しが気に入ったらしく、相手の選手を脳天から床に叩き付けていた。
相手の選手も驚いたと思う、巫女姿の女の子がいきなり掴みかかって来るのだから。
進之介先輩は、相手も他流の滅鬼術の実力者で、レベルの高い技の応酬を繰り返し、時間切れで引き分けになった。
試合後、肩で息をしながら爽やかな笑い顔で互いの健闘を称え合い、握手を交わす姿に観客から感動の拍手を浴びていた。
ハルの相手は可哀そうだった、処理速度が違うので、始めの合図と同時に結界に閉じ込められて祓いの一撃を喰らって気絶していた。
結局全員が勝利を重ねて行き、全員無事三次試験を通過した。
今日は受験者数も少ないので、運営に余裕がある。
なので、みんなと一緒に弁当を食べることにした。
「へー、それが役員用の弁当なんだ、何か粗末よね」
「これでも千円の弁当なんだから、協会も頑張ってると思うよ」
「それじゃ私達のも雷君にあげる、私達はみんなと一緒にこっちのお重食べるから」
灯さんと雷子に弁当を渡されてしまった、美味しいのだが、同じ弁当を三つ食うのは少々荷が重い。
「雷人、一つ食べてやろうか」
「ありがとうございます、先輩」
「良かったね雷君。さすが進之介さん、優しいよね」
「ええ、人格者ですよね。さっきの試合もスポーツマンらしさ全開で拍手貰っていたし、撲、惚れ直しました」
「そうそう、セクハラかまして反則負けする様な人とは大違いだよねー」
「えっ!、そんな恥ずかしい人が居たの」
「うん、ここに」
明美と香が僕を指差している。
ーーーーー
四次試験は形式的で肝試し的な少々強い鬼との対戦試験。
無理と思ったら逃げ出せるし、危ないと思ったら審判が助けに入る。
でも、僕の時の様な例も有るし、おっさん連中が何か仕掛けて来る気がしたので警戒していた。
だが、一番最後の迷子の番で上手く仕掛けられてしまった。
現れた鬼が事前に確認していた奴と異なっていたのだ。
こいつは初級合格者が相手をするような奴じゃない、しかも主審も副審もおっさん連中で固められている。
止めようとしたのだが、酩酊状態の迷子がフラフラと鬼を入れた結界の中に入って行ってしまった。
迷子が鬼に襲われる姿が脳裏を横切ったのだが、なんか様子が違う、鬼が逆に怯えて逃げ回っている。
逃げ回る鬼で結界がミシミシと軋み、結界を支えるおっさん連中が真っ青になる。
コーナーに追い詰められた鬼の足元に黒いモヤモヤした空間が現れ、その中に必死で叫び声を上げる鬼が徐々に沈んで行く。
完全にその空間へ飲み込まれた後も、その空間から鬼の叫び声が聞こえて来て徐々に遠ざかって行く。
そして最後に悲しげで大きな断末魔の叫びが聞こえて来て沈黙した。
会場が静まり返り、小動物の虐待に立ち会ったような、良心が痛む様な気不味い空気が会場を支配した。
ーーーーー
「さー、気を取り直して祝杯あげるぞ」
「おー!」
無事全員合格、初級免許証を受け取った。
「店はどこにする?」
「大家さんが料理作ってくれるって」
「えっ、迷惑じゃないのか」
「ワイン二十本で請け負ってくれた、料金はいらないって」
「ワインって」
「お得意さんから合格したらメールくれって言われてたからさっき送ったんだ」
「私も」
「私も」
「私も」
「私も」
「私も」
「僕も」
「マスター私も」
「私も」
「すまん俺もだ」
「それで事務所にお祝いのお酒が一杯届いてるんだって」
ーーーーー
”ルルルルルルル”
「はい」
「おい」
”ぷち”
何故毎回、花園の携帯が俺の頭脇に置いてあるのだろうか。
役目柄、受験者を集めて事務局から頼まれている伝達事項として説明はしているが、試合が始まれば全員むきになって戦い始めるのは解っている。
鬼や物怪と戦う陰陽師を目指す、好戦的な人達が集まったので当然と言えば当然だ。
三次試験、対人試合形式の試験が始まった。
僕の事務所のメンバーの最初の試合、舞の相手は巨漢だった、たぶんおっさん連中が仕組んだのだろう。
小柄な舞と向き合うと小学生とプロレスラーだ、でも大丈夫、道場で進之介先輩と二人で皆の、この試験に向けた練習は繰り返して来た。
それに舞は意外と対人に強い。
試合開始。
”シャン、シャン、シャン、シャン”
舞が両手に持った鈴を打ち鳴らす。
その音のリズムに踊らされる様に、相手がフラフラと前に歩み出る。
神経を研ぎ澄ませた瞬間を狙って鈴の音のリズムを相手の心の中に忍び込ませて縛る、放心状態で試合に臨む選手は少ないのでなかなか有効な技だ。
床の上に結界用の呪符を並べて誘き寄せる、相手が罠に嵌ったら頭上に札を投げ上げ結界完成、相手選手は良い所無しで試合が終了した。
素面の時は気が弱くて争いが苦手の迷子も、酔ってると強い。
笑いながらピコピコハンマーで相手を殴り倒し、白目を剥いて倒れている相手に追撃しようとして、慌てて審判に止められていた。
紅葉も争い事には向いてないのだが、木の床の上という、木術のホームグラウンドの様な場所では圧倒的に強かった。
木の繊維に魂を流し入れ、床から蔦を生やして相手選手の足に絡める。
後は動けない相手選手を尻目にマイペースでトコトコと周囲を歩き回って結界の札を置いて回る。
最後に祓札を持たせた蔦を相手選手の頭上に伸ばして結界完成、圧勝だった。
水江さんは水術で呼び出した霧に相手を囲んで幻惑し、氷柱てタコ殴りにして楽勝。
風華さんも試合開始と同時に、相手選手にエアーハンマーの往復ビンタを何発もお見舞いし、ドクターストップが入ってこれも楽勝だった。
弥生は手が空いている神様を数体呼び出し、相手を袋叩きにして貰っていた。
明美と香はそれぞれ得意とする術が有る筈なのに、滅鬼術の道場の練習で覚えた仏壇返しが気に入ったらしく、相手の選手を脳天から床に叩き付けていた。
相手の選手も驚いたと思う、巫女姿の女の子がいきなり掴みかかって来るのだから。
進之介先輩は、相手も他流の滅鬼術の実力者で、レベルの高い技の応酬を繰り返し、時間切れで引き分けになった。
試合後、肩で息をしながら爽やかな笑い顔で互いの健闘を称え合い、握手を交わす姿に観客から感動の拍手を浴びていた。
ハルの相手は可哀そうだった、処理速度が違うので、始めの合図と同時に結界に閉じ込められて祓いの一撃を喰らって気絶していた。
結局全員が勝利を重ねて行き、全員無事三次試験を通過した。
今日は受験者数も少ないので、運営に余裕がある。
なので、みんなと一緒に弁当を食べることにした。
「へー、それが役員用の弁当なんだ、何か粗末よね」
「これでも千円の弁当なんだから、協会も頑張ってると思うよ」
「それじゃ私達のも雷君にあげる、私達はみんなと一緒にこっちのお重食べるから」
灯さんと雷子に弁当を渡されてしまった、美味しいのだが、同じ弁当を三つ食うのは少々荷が重い。
「雷人、一つ食べてやろうか」
「ありがとうございます、先輩」
「良かったね雷君。さすが進之介さん、優しいよね」
「ええ、人格者ですよね。さっきの試合もスポーツマンらしさ全開で拍手貰っていたし、撲、惚れ直しました」
「そうそう、セクハラかまして反則負けする様な人とは大違いだよねー」
「えっ!、そんな恥ずかしい人が居たの」
「うん、ここに」
明美と香が僕を指差している。
ーーーーー
四次試験は形式的で肝試し的な少々強い鬼との対戦試験。
無理と思ったら逃げ出せるし、危ないと思ったら審判が助けに入る。
でも、僕の時の様な例も有るし、おっさん連中が何か仕掛けて来る気がしたので警戒していた。
だが、一番最後の迷子の番で上手く仕掛けられてしまった。
現れた鬼が事前に確認していた奴と異なっていたのだ。
こいつは初級合格者が相手をするような奴じゃない、しかも主審も副審もおっさん連中で固められている。
止めようとしたのだが、酩酊状態の迷子がフラフラと鬼を入れた結界の中に入って行ってしまった。
迷子が鬼に襲われる姿が脳裏を横切ったのだが、なんか様子が違う、鬼が逆に怯えて逃げ回っている。
逃げ回る鬼で結界がミシミシと軋み、結界を支えるおっさん連中が真っ青になる。
コーナーに追い詰められた鬼の足元に黒いモヤモヤした空間が現れ、その中に必死で叫び声を上げる鬼が徐々に沈んで行く。
完全にその空間へ飲み込まれた後も、その空間から鬼の叫び声が聞こえて来て徐々に遠ざかって行く。
そして最後に悲しげで大きな断末魔の叫びが聞こえて来て沈黙した。
会場が静まり返り、小動物の虐待に立ち会ったような、良心が痛む様な気不味い空気が会場を支配した。
ーーーーー
「さー、気を取り直して祝杯あげるぞ」
「おー!」
無事全員合格、初級免許証を受け取った。
「店はどこにする?」
「大家さんが料理作ってくれるって」
「えっ、迷惑じゃないのか」
「ワイン二十本で請け負ってくれた、料金はいらないって」
「ワインって」
「お得意さんから合格したらメールくれって言われてたからさっき送ったんだ」
「私も」
「私も」
「私も」
「私も」
「私も」
「僕も」
「マスター私も」
「私も」
「すまん俺もだ」
「それで事務所にお祝いのお酒が一杯届いてるんだって」
ーーーーー
”ルルルルルルル”
「はい」
「おい」
”ぷち”
何故毎回、花園の携帯が俺の頭脇に置いてあるのだろうか。
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