神楽坂学院高等部祓通科

切粉立方体

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Ⅰ 第一学年

57 学院祭4

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「なので魂については今まで経験的に扱っていた部分が多かったのですが、この方法の開発により情報世界の中で具体的な存在としての認識が可能になりました。会話が可能ですし、式神を使用すれば存在の再現も可能です。これに依って、我々の死に対するアプローチも大きな見直しが必要になるのではと考えております。ご清聴ありがとうございました」

”パチパチパチ”

三日目の説明会が終わる、僕の話を直接聞きたい内部の人が意外に多くて、講堂の後や通路に立ち見の人がびっしりと並んでいる。

「はい、質問よろしいでしょうか」

その立ち見の人の間から勢い良く手が上がる、

「はいどうぞ」
「陰陽倫理学研究室の沢井と申します。魂も人格を持ったまま存在可能ということであれば、人類は不老不死の神に近い力を手に入れたと解釈して宜しいんでしょうか」

若い二十代前半の男性が勇んで質問して来た、うん、此奴は揚げ足を取ろうと思っているのだろう、なんとなくそんな気がした。

「魂や霊も自然界の法則に従っており、徐々に拡散してエントルピーとして安定する方向に向かって行くと言われています。意識の保持が困難になった時点を人格の消滅と解釈すれば、我々は死からは免れらない存在であるとと考えた方が正確だと思います」
「それでも神の力に匹敵する圧倒的な寿命を人類が手に入れたという認識では無いでしょうか」
「相対時間論の問題だと思います。情報世界の中に我々が意識を置いた場合、最大で百倍もの体感的な時間が得られる事は雷羅恭平教授が一昨年発表した”情報世界に於ける時間感覚”の論文でご存知だと思います。人生の二割を情報世界で過ごした場合、我々は既に千年を超える寿命を手に入れています。この情報世界での千年が魂に及ぼす影響についてはまだ実証されておりません。また、魂が輪廻を繰り返して寿命を迎えるのならば、単に我々が知らないだけで、もっと長い時間軸の上を我々は歩んでいるのかも知れません。表層的な現象を判断する場合においても、我々は圧倒的に知識が不足していると言うのが現時点での自分の判断になります。ことわりを形作っているベクトルが存在するのであれば、我々はそのベクトルに従って流れている存在にしか過ぎません」

何とか質問を煙に巻いてごまかし、僕が当番の説明会を終了した。
アポの入っていた専門誌の取材を受けてから、大学部の大きな校舎から高等部のこじんまりとした校舎に戻り自分の教室へ向かう。
すると今日も姫と美子がクラスメートを引き連れて、教室の前で群れていた。

「お兄ちゃん遊んで」

完璧にこの数日でクラスの連中からロリコン認定されてしまったが、邪見にするも可哀そうなので浜辺の世界に連れていってあげる。
こちらが言い訳をするとドツボに嵌りそうなので成り行きに任せてある。
水着姿の小学生達が海に向かって走って行く。

「マスター、休憩の要請です」
「犬井と落か」
「肯定です」

あいつら小学生が浜辺に来ると必ず休憩を要請してくる、うん、あいつ等もロリコンだろう。

「うん分かった、僕が交代に入る。ハルも余力はあるか」
「現在六十九パーセント負荷率なのでお手伝いできます」
「じゃっ、頼む」

絶壁のテラスに移動して執事服に着替える。

「いらっしゃませ、お二人で宜しいでしょか」
「後二人直ぐに来るから四人でお願い」
「畏まりました、ではこちらの席にどうぞ」

葡萄の蔓をデザインした腰高のブロンズ製の手摺を張り巡らした絶壁の中腹に張り出した岩のテラス。淵に十卓程テーブルを並べて風景を楽しみながらお茶を味わって貰っている。
眼下には葡萄畑とヨーロッパのレンガ作り街並みが広がり、道を走る車が玩具の様に小さく見える。

「ダージリンと苺ショートとモンブランとチーズケーキ下さい」
「モカとクリーム餡蜜とトコロテンと白玉と御汁粉下さい」

他の場所でも同様なのだが、原価ゼロの店なので料理を用意をしても良かったのだが、三十分で追い出す都合とハルの負荷を減らすために甘味中心の店にした。
事前にハルを連れ歩いて実物を食べさせてある。

「マスター、三番テーブルが時間です」
「うん、解った」

三十分と言う時間は短い、時間終了を告げに行くと食ってかかる人もいる。
丁重に謝って、来年は装置を増やし対応するからと説得する。

落と犬井が戻って来たら探検服に着替えて密林の喫茶店に移動、蔦の絡まった仏教遺跡の中にテーブルを並べ、透明な空間で外と区切っている。
絡まった蔦の間から大蛇や虎が姿を現し、所々のテーブルで悲鳴が上がっている。

コサック服に着替えて雪原のログハウスへも移動したが、ここはあまり人気が無かった。
むしろ、水族館の様な荒磯のガラス部屋の方が人気があり賑わっていた。

夜の八時になり無事事故も無く学院祭の企画が終わった。

「みんなご苦労、一時は如何なる事かと心配したが、皆の協力と学級委員の機転で無事終了した」
「先生、これからカラオケ屋で打ち上げしますがご一緒に如何ですか、明日は土曜だし」
「うむ、たまには付き合うか、高校生なんだから酒は飲むなよ」

神楽坂にはカラオケ屋が多い、明美と香で空いてる店を手配した。
でも始まってみると先生がマイクを離さない、女性達から先生を潰せとの指令が僕に出された。
仕方が無いから舞と梢を脇に侍らして僕が正面回る。

「先生、アニソン上手いですね、さあどうぞ一杯」
「ん?雷夢これ酒だろ、酒は駄目と言っただろ」
「でも先生は高校生じゃありませんし、でも見た目はまだまだ制服着れば高校生で通りますよ。どうぞ一杯」
「なに馬鹿なことを」
「本当ですよ先生、こんなに肌綺麗だし、ねー梢」
「うん、おっさんみたいな雷君よりも若く見えますよ。雷君なんか雷羅先生の研究室じゃドクター取った助手さんと思われてるんですよ。さあ一杯」
「そうか、嘘と解っていてもなんか嬉しいな。ん、口当たりの柔らかい酒だな」
「ええ、お得意さんの社長さんが旅行土産でくれた地酒です。さあどうぞ」

うん、お得意さんが沖縄での商談の土産に買って来てくれた泡盛の古酒だ、口当たりは柔らかいが度数は四十度もある強烈なお酒だ、そうとも知らないで先生はぐいぐい煽っている。
舞と梢も言葉巧みに飲ませている、うん、こいつら接客業の才能がある。

「お得意さんも雷君が高校生って思ってないでしょうね、社長だから。たぶん三十半ばと思ってますよ。先生よりも年上ですよ、雷君はお兄ちゃんって呼ばれるのが好きだから呼んでやって下さい」

確かに今日、お兄ちゃんと呼ばれていた、ただし小学生から。

「お兄ちゃん、うふふふふ」

いかん、先生は酒に強かった、潰れる前に理性だけがローリングストーンした。

「お兄ちゃんは口移しでお酒飲むのが好きですよ」

”グビッ、グビッ、ブチュー”

うっぷ、そんな俺を見ながら逃げ出そうとしている男子が大勢いる。
明美と香にブロックサインを送る。

”絶対に逃がすな”

うん、不幸は均等に分かち合いたい、それに美人の先生に失礼だ、それじゃ御返杯。

”ブチュー”
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