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Ⅱ 第二学年
10 京都にて2
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翌朝、朝の祈祷を済ませてから、レトロ感溢れる叡山電鉄鞍馬線の電車に乗って鞍馬へと向かう。
始発駅の出町柳駅は、先生の家から歩いて十分程だ。
「はい、雷人君、ハルちゃんお握り。御茶はまだ熱いから気を付けてね」
「ありがとうございます」
人気の少ない電車の中で、心見先生夫妻と外の景色を眺めながら朝御飯を頂く、車窓の外が町から山へと変わって行く。
タイムスリップしたような鞍馬駅で降りる、駅前の何も無い駐車場に大きな天狗の面が置いてあり”ようこそ天狗の町鞍馬へ”と書いてあった。
早朝なのでまだどの店も閉まっていたが、先生は一軒の土産物屋の裏手に回り、呼び鈴を押した。
「はーい」
中から若い女の子の声が返事をする、ばたばたと走る音が聞こえ、勢い良く戸が開かれた。
「先生おこしやす」
中学生くらいの外人の女の子と小学生低学年くらいの外人の男の子が着物を着て立っていた。
プラチナブロンドに青い瞳、可愛い天使のような子供達だ。
僕とハルの姿を見て身体を強張らせている。
「大丈夫じゃ、儂の知り合いじゃ。お父ちゃんとお母ちゃん呼んで来てくれんか。おっと、それより先にこれじゃ」
先生が背負っていたリックから漫画雑誌を六冊取り出して二人に渡した。
「おおきに先生」
大事そうにその漫画を抱え、二人は奥へと走って行った。
「里の子供は、あの子達以外は後四人しか居らん。この戸があの子達にとっての外界との境でな、この先には出して貰えん。親に頼まれて儂が月に数回勉強を教えとるんじゃが外の世界に憧れておってのー。客が置いて行った漫画本を一度親が持ち帰ってから夢中だそうじゃ」
パタパタと足音がして若い外人の夫婦が急ぎ足で歩いて来た。
「いらっしゃいませ、先生。今日はお連れ様がいらっしゃるそうで」
普通のカーゴパンツにポロシャツとエプロン、エプロンに小さく天狗屋とローマ字でプリントしてある。
「ほれ、現役の陰陽師に会わせて欲しいって言ってただろ、若いがこの子達が現役の陰陽師じゃ」
「初めまして、雷夢雷人です」
「雷夢ハルです」
確かにハルの名字も”来夢”で役所にも学院にも届け出ているが、何か勘違いされそうだ。
「ご夫婦ですか」
「はい!」
「いえ、まだ高校生です。すいません」
「ごめんなさい、でも人で無くても高校に入れるの?」
さすがに天狗族だけあって、ハルが人間で無いのを直ぐに見破った。
「うちの学院はその辺が適当なんで大丈夫なんですよ」
何か考え込んでいる、でも念のため一言いっておこう。
「あのー、僕も高校生なんですよ」
「えっ、えー!」
ハルが人間じゃないと見破った人達だけに、そんなに驚かれると凄く傷つく。
中に招き入れられた。
男性は飛羽鞍人、女性は飛羽有紗と名乗った、うん、クロートさんとアリサさんなら何となく納得できる。
「靴は持って来て下さいね」
若夫婦の後に続いて勾配のきつい階段を登り、二階の和室に通される。
若夫婦が次の間の襖を開くと、そこは別世界に繋がっていた。
木々に囲まれた古い農村だった、振り向くと小さな社の扉が外界との出入り口になっている様だった。
人の気配が無く、廃屋も多い。
「八百年程前の最盛期には、この里の人口も二千人を越えていたそうなのですが、人間界の流行病が村に入って数を大きく減らしたそうです。それ以来、病を恐れて村に結界が張られ、八百年程我々天狗族はここに閉じ籠りました。でも二十年ほど前でしょうか、心見先生の元に嫁がれていた白狐さんから人間界の話を聞いて、禁を破って病気の子を医者に連れて行ったのは。可笑しいでしょうけど、私達も人と同じ病気に罹るんですよ。盲腸でした、我々は死病と思っていたのに、人間の医者が簡単に治してしまったんでショックを受けましたよ。人間界の医療技術の進歩を知らなかったばっかりに死ななくて良い幼い命を幾つも失って来たんですから。若い天狗達が暴動寸前まで行って、やっと認めさせたのが先ほどの店なんです。やっと経営も軌道に乗って心見先生のお世話になっていた税金や水道代が払える様になって、いざという時の為の医療費も貯まり始めたんです」
「天狗が病気で死ぬって変でしょ、でもね、天狗族や私達狐族も長命な分病気に弱いし繁殖力も弱いのよ。自然の理の内側に住んでいるからでしょうね。里を閉じた時には千人居たんだけど今は二百人を切っちゃってるのよ」
「いえ、白狐さん今百二十三人ですよ。後二十年で確実に百人を切ります」
「ええ、私達の子供達は血が濃くなりすぎて身体が弱くなっていますからね、次の世代の子供達はちゃんと育つかどうか不安なんです、あっ、見えて来ました。あそこの家を皆で手入れして集会所替りに使っているんですよ」
里の外れに有る良く手入れされた大きな茅葺屋根の家が見えて来た。
玄関に草履が一杯並んでいた、中に入ると野良着や粗末な着物を着た西欧人風の人達が二十人程待っていた。
「今日は雷夢君の意見を聞かせて貰おうと百歳以下の若手に集まって貰ったんだ」
クロードさんは何気なく言っているが、うん、天狗族じゃ百歳まで若手なんだ。
「雷夢君、天狗族は二十歳までは人族と成長速度は一緒なんじゃが、二十歳を過ぎてからの老化がゆっくりなんじゃ、百歳って言っても人の感覚じゃと三十前後位かの」
待っていた人達と対面する形で座らされ、そしてその僕の前に坐り直したクロートさんが真剣な思い詰めた顔で話し始めた。
「雷夢君、僕等里を出て人間界に住もうと思っているんだ。でも見てのとおり僕等の里は文明が止まっているから皆野良仕事と精々交代でやってる店の手伝い位しか知らないいんだ。これじゃ僕等は子供を養って行けないと思っている。だから僕等の天狗としての能力が陰陽師として通用するかどうか現役の君に見て欲しいんだ」
うわー、二十人分の真剣な眼差しが僕の事を見つめている、重たい、とっても重たい、ここはひとつ。
「ジョークを言うのは最低の判断だと思います。雷人さん」
何故解ったんだろうか、ハルに脇腹を抓られてしまった、仕方が無い。
「それでは、皆さんの能力を見せて下さい」
始発駅の出町柳駅は、先生の家から歩いて十分程だ。
「はい、雷人君、ハルちゃんお握り。御茶はまだ熱いから気を付けてね」
「ありがとうございます」
人気の少ない電車の中で、心見先生夫妻と外の景色を眺めながら朝御飯を頂く、車窓の外が町から山へと変わって行く。
タイムスリップしたような鞍馬駅で降りる、駅前の何も無い駐車場に大きな天狗の面が置いてあり”ようこそ天狗の町鞍馬へ”と書いてあった。
早朝なのでまだどの店も閉まっていたが、先生は一軒の土産物屋の裏手に回り、呼び鈴を押した。
「はーい」
中から若い女の子の声が返事をする、ばたばたと走る音が聞こえ、勢い良く戸が開かれた。
「先生おこしやす」
中学生くらいの外人の女の子と小学生低学年くらいの外人の男の子が着物を着て立っていた。
プラチナブロンドに青い瞳、可愛い天使のような子供達だ。
僕とハルの姿を見て身体を強張らせている。
「大丈夫じゃ、儂の知り合いじゃ。お父ちゃんとお母ちゃん呼んで来てくれんか。おっと、それより先にこれじゃ」
先生が背負っていたリックから漫画雑誌を六冊取り出して二人に渡した。
「おおきに先生」
大事そうにその漫画を抱え、二人は奥へと走って行った。
「里の子供は、あの子達以外は後四人しか居らん。この戸があの子達にとっての外界との境でな、この先には出して貰えん。親に頼まれて儂が月に数回勉強を教えとるんじゃが外の世界に憧れておってのー。客が置いて行った漫画本を一度親が持ち帰ってから夢中だそうじゃ」
パタパタと足音がして若い外人の夫婦が急ぎ足で歩いて来た。
「いらっしゃいませ、先生。今日はお連れ様がいらっしゃるそうで」
普通のカーゴパンツにポロシャツとエプロン、エプロンに小さく天狗屋とローマ字でプリントしてある。
「ほれ、現役の陰陽師に会わせて欲しいって言ってただろ、若いがこの子達が現役の陰陽師じゃ」
「初めまして、雷夢雷人です」
「雷夢ハルです」
確かにハルの名字も”来夢”で役所にも学院にも届け出ているが、何か勘違いされそうだ。
「ご夫婦ですか」
「はい!」
「いえ、まだ高校生です。すいません」
「ごめんなさい、でも人で無くても高校に入れるの?」
さすがに天狗族だけあって、ハルが人間で無いのを直ぐに見破った。
「うちの学院はその辺が適当なんで大丈夫なんですよ」
何か考え込んでいる、でも念のため一言いっておこう。
「あのー、僕も高校生なんですよ」
「えっ、えー!」
ハルが人間じゃないと見破った人達だけに、そんなに驚かれると凄く傷つく。
中に招き入れられた。
男性は飛羽鞍人、女性は飛羽有紗と名乗った、うん、クロートさんとアリサさんなら何となく納得できる。
「靴は持って来て下さいね」
若夫婦の後に続いて勾配のきつい階段を登り、二階の和室に通される。
若夫婦が次の間の襖を開くと、そこは別世界に繋がっていた。
木々に囲まれた古い農村だった、振り向くと小さな社の扉が外界との出入り口になっている様だった。
人の気配が無く、廃屋も多い。
「八百年程前の最盛期には、この里の人口も二千人を越えていたそうなのですが、人間界の流行病が村に入って数を大きく減らしたそうです。それ以来、病を恐れて村に結界が張られ、八百年程我々天狗族はここに閉じ籠りました。でも二十年ほど前でしょうか、心見先生の元に嫁がれていた白狐さんから人間界の話を聞いて、禁を破って病気の子を医者に連れて行ったのは。可笑しいでしょうけど、私達も人と同じ病気に罹るんですよ。盲腸でした、我々は死病と思っていたのに、人間の医者が簡単に治してしまったんでショックを受けましたよ。人間界の医療技術の進歩を知らなかったばっかりに死ななくて良い幼い命を幾つも失って来たんですから。若い天狗達が暴動寸前まで行って、やっと認めさせたのが先ほどの店なんです。やっと経営も軌道に乗って心見先生のお世話になっていた税金や水道代が払える様になって、いざという時の為の医療費も貯まり始めたんです」
「天狗が病気で死ぬって変でしょ、でもね、天狗族や私達狐族も長命な分病気に弱いし繁殖力も弱いのよ。自然の理の内側に住んでいるからでしょうね。里を閉じた時には千人居たんだけど今は二百人を切っちゃってるのよ」
「いえ、白狐さん今百二十三人ですよ。後二十年で確実に百人を切ります」
「ええ、私達の子供達は血が濃くなりすぎて身体が弱くなっていますからね、次の世代の子供達はちゃんと育つかどうか不安なんです、あっ、見えて来ました。あそこの家を皆で手入れして集会所替りに使っているんですよ」
里の外れに有る良く手入れされた大きな茅葺屋根の家が見えて来た。
玄関に草履が一杯並んでいた、中に入ると野良着や粗末な着物を着た西欧人風の人達が二十人程待っていた。
「今日は雷夢君の意見を聞かせて貰おうと百歳以下の若手に集まって貰ったんだ」
クロードさんは何気なく言っているが、うん、天狗族じゃ百歳まで若手なんだ。
「雷夢君、天狗族は二十歳までは人族と成長速度は一緒なんじゃが、二十歳を過ぎてからの老化がゆっくりなんじゃ、百歳って言っても人の感覚じゃと三十前後位かの」
待っていた人達と対面する形で座らされ、そしてその僕の前に坐り直したクロートさんが真剣な思い詰めた顔で話し始めた。
「雷夢君、僕等里を出て人間界に住もうと思っているんだ。でも見てのとおり僕等の里は文明が止まっているから皆野良仕事と精々交代でやってる店の手伝い位しか知らないいんだ。これじゃ僕等は子供を養って行けないと思っている。だから僕等の天狗としての能力が陰陽師として通用するかどうか現役の君に見て欲しいんだ」
うわー、二十人分の真剣な眼差しが僕の事を見つめている、重たい、とっても重たい、ここはひとつ。
「ジョークを言うのは最低の判断だと思います。雷人さん」
何故解ったんだろうか、ハルに脇腹を抓られてしまった、仕方が無い。
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