負け犬REVOLUTION 【S】

葦空 翼

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第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編

第03話04 ステーキディナー

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 しばらく待った。
 その間サービスで酒が届けられ、
 ディーナがひらひらと笑顔で手を振り、
 昼間涙ながらに見逃してくれた男店員とも再会した。

「よう兄ちゃん、もう飯食いに来たんだって?」
「はい、あの貝実はすごかったんですよ。
 古物商に持ってったら金貨25枚になりました。
 ケットシーの通貨なんですって」

「えー、マジか!!
 そいつぁあの猫に悪いことしたなぁ!」

「知らなきゃしょーがないでしょう。
 俺もびっくりしましたよ」
「そうか、それでとりあえず飯食いに」
「はい、明日もっと稼ぐんで待ってて下さい」
「ええー、なんだそりゃあ!?」
「実は…」

 そこまで意気揚々と話したところで、横に誰かが立った。

『サイモン』
『オ、ビッグケットオカエリー…』

 声をかけられ視線を向けると、そこには。

『これ、本当は寝間着なんだけど…変じゃないか』

 こざっぱりと綺麗に血汚れを落とし、
 白く丈の長いワンピースを着たビッグケットが立っていた。
 Aラインという奴だろうか、
 元の服と比べると遥かに体のラインが隠されている。

 何せ前は手も脚も胸もウエストも丸わかりだった。
 なのに、なのに、なんだ。

(やば、服一つですごく女の子ー!って感じになるな…)

 素直に少しときめいた。
 自分のよく知る「異性」の枠に彼女がはまったからだろうか。
 颯爽とテーブルの奥に移動し、椅子に腰を下ろす姿を見て、

 「そうか自分は異性と二人で食事をするんだ」

 という気恥ずかしさに襲われた。

『…やっぱ寝間着に見えるか?』
『アッ!?
 ゴメン、違ウ、カワイイナッテ思ッテ…アッ』
『えっ?』

 早く答えを返さなくては、と
 慣れない言語の単語を頭の中で探していたら、
 ついどストレートな物言いをしてしまった。
 ビッグケットが次の瞬間、にまりと笑う。

『サイモン、顔が赤いぞ。酒でも飲んだか』
『アー飲ンダ!マジデ!
 サッキサービスデモラッタカラ!』
『そうかそうか、ふふ』

 焦るサイモンを眺めながら、
 ビッグケットはそれ以外追求してこなかった。
 サイモンは慌ててこんこんと咳払いをしつつ、
 立ち去っていなかった男店員に
 「注文します」
 の意を込めて手を上げた。

 すぐさま先程から決めてあったメニューを注文したが、
 正直、自分が何をどう言っているのか
 正確に把握出来ないほど気持ちが乱れていた。

(くそ、くそ、こんな猫に遊ばれるなんてっ…!)

 正直ビッグケットは何歳なのかわからない。
 無意識に異性に年を聞いてはいけないと思っていたので、
 これまで尋ねなかったけど…いくつなんだろう?

 意外と年上?
 こっちの事を子供だと思っている?
 いや、外見年齢そのままに少し下くらいか?
 俺は年下に遊ばれているのか?

(くやしい…!!!!)

 そこでふいに顔を上げると、
 ビッグケットは満面の笑みでステーキを頬張っていた。
 よく見れば、脇に皿が積み上がっている。
 え、もうこんなに食べたの?

『コラビッグケット、食ベスギルナヨ。
 マタ払エナクナルゾ』
『えーー、まだ食べたいのに…
 仕方ないなぁ、これが最後だ』

 そう言って、大口を開けてフォークで肉を放り込む。
 むっしゃむっしゃ。
 豪快に咀嚼する音が聞こえてきそうな食いっぷりだ。

(俺は…こんな奴に何を…!!)

 少しでもときめいてしまった自分が恨めしい。
 あと、そんなことやってたらステーキの味がよくわからなかった。
 馬鹿な。近いうちに絶対リベンジする…!

 わなわな震えているこの姿にも、黒い猫は気づくわけもなく。









「良カッタラウチニ泊マッテ行ク?
 お代ハ別ニイイワヨ」
「いえ、泊まらせてもらえるならありがたいですけど!
 お金はちゃんと払います!」
「アラソォ?」

 結局、ステーキはビッグケット5枚、
 サイモン1枚完食した。
 金貨4枚払った。
 これで金貨4枚。
 つまり10枚分って…?
 あれで「もっと食べたい」とはどうなってるのか。

 それはともかく、おかみはまだ優しくし足りないのか、
 今度は泊まっていけと言う。
 どうもグリルパルツァー亭はレストラン兼宿屋らしい。
 一階は店主たちの家かと思っていたが、宿屋部分のようだ。

『ビッグケット、奥サンガ宿屋ニ泊マッテイケッテ。
 俺ノ家ニ帰ッテモ汚イシ、オ前ガ寝ル場所スグ用意出来ナイ。
 ダカラ泊マッテイコウ』
『わかった』

「すみません、お世話になります」
「イエイエ。ツインヲ用意スルワネ。ユックリ休ンデ」
「はい、ありがとうございます」

 おかみがランプ片手に店を案内してくれる。
 グリルパルツァー亭(レストラン部分)の奥まで行くと
 階段があり、
 グリルパルツァー亭(宿屋部分)に繋がっているらしい。
 ギシギシと木の踏み板を軋ませながら階段を降りる。

「ゴメンナサイネ、古イ造リデ」
「いえいえ!全然綺麗ですうん、俺の部屋より」
「アラウフフ!」

 一階に辿り着く。
 そしてほどなく今夜の寝床たる部屋に。

 おかみが乾いた音を立てて扉を開き、脇の台にランプを置く。
 部屋の中はこざっぱりとして、いい意味で簡素な造りだ。
 ベッド2つ、間に小さな机一つ、脇に鏡のついたドレッサー。

 チャリンと音がする。
 おかみが鍵束から鍵を一つ外して置いた音だ。

「ランプハココニ置イテイクワ。
 デ、コレガコノ部屋ノ鍵ネ。ソレカラ…」

 おかみはきょろと部屋を見回したが、

「モウアトハ寝ルダケヨネ。
 細カイ説明ハヤメトクワ。猫チャン眠タソウ」
「えっ?」

 言われてサイモンが振り返ると、
 ビッグケットは虚ろな目をしてふらふらとベッドに吸い寄せられ、
 バタンと倒れ込んだ。
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