負け犬REVOLUTION 【S】

葦空 翼

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第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編

第05話09 “南部エルフ”

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 次に向かったのは中央セントラル南部。
 比較的人間ノーマンが多く行き交う、
 人間ノーマン向けの店が立ち並ぶエリアだ。

 ざっとでいい、服買って髪整えて…
 あっ、まず時計買わなくちゃ。
 今何時だ?
 足早にそれっぽい店に入り、懐中時計を手に取る。
 13時半。集合時間まであと一時間半くらいか…
 やる、やれる。急げ!

 まずは時計の会計を済ませ、次々ターゲットを探していく。

 時計、アクセサリー屋の隣に鞄屋。
 よし、ただ革袋を手に掴んでいるのも不安だ。
 肩掛け鞄を買おう。
 …ゲット。金貨の入った革袋をそこに突っ込む。

 次服。今まで行ったことない高級路線の店に入ってしまえ。
 でもそんな派手派手なのは要らないから…
 おっ、紺地の今の服と気持ち似た服があるぞ。
 生地がグレードアップして裾に刺繍がつく。
 うん、こんなもんでいいや。
 じゃあここでシャツとズボンも買ってしまおう。
 …ゲット。

 その場で全身着替え、チップを渡して
 店員にこれまでの服を処分してくれるよう頼む。
 店員は快く引き受けてくれた。
 やったぜ、金の力は偉大だ。

 次ブーツ。靴屋までは少し距離があるけどダッシュ!
 ボロボロブーツともおさらばだ、ヒャッハー!
 の気持ちで走り出す。
 やがてめぼしい店を見つけたので入る。

 靴屋の奥では偏屈そうな爺さん店主が皮をなめしていたが、
 足早に商品を吟味する。
 サイズを見て…よし、これ。
 黒に濃茶の返しがついてる奴。
 濃茶の縁は内側まで一続きのバイカラーだ。
 オッシャレ~。
 それの代金を払い、その場で履いて店を出る。

 よし!全身新品ピカピカ!ちょーーーーー気持ちいい!!!!!
 サイモンは満面の笑顔で通りを歩いた。
 いや、小走りで進んだ。

 残るは髪だ。
 今までテキトーにナイフで切り落としてきた。
 このザンバラの髪をなんとかしてもらう!!

「すみません!今すぐ切ってもらうことって可能ですか?」

 外から軽く覗き込み、他に客がいないと確認した散髪屋。
 そこには色黒の男が一人、店員として立っていた。

「はい、大丈夫ですよ」

 美容に関わる職業だからだろうか、男はやけに整った容姿に見えた。
 だが不思議なことに、彼は黒いフード付きの服を着ており、
 頭からすっぽりそのフードを被っていた。
 室内で?なんだろう…。
 あっ。

「もしかしてアンタ、“南部エルフ”か?」

 店員は小さく肩を強張らせ、そしてサイモンを見た。
 褐色の肌に濃い青の瞳。
 他の種族にはあまりない組み合わせのカラーリングだったので、
 もしやと思ったのだが。

 すると、

「…よくご存知ですね、南部エルフという種族名を」

 男がフードを脱いだ。
 隠されていたのは頭、いや耳か。
 褐色の肌に連なる長く尖った耳。
 彼は人間ノーマンではない、エルフだ。
 淡い銀の髪が肩に落ちる。

人間ノーマンのお客様は特に、
 私の耳と髪、肌の色を見るとダークエルフだと呼んで怯えられます。
 私は肌が黒いだけのエルフなのですが…
 色黒のエルフという存在は本当に知られてなくて」

「あー、世間的には色黒のエルフってーと
 犯罪者予備軍とか危険思想とか乱暴者とか、
そういう意味でダークエルフって呼ぶんだよな。

 けど確かダークエルフって、
 なんらかの理由で国外追放食らったエルフ個人を指すんだよな?
 ガチモンの犯罪者とか、魔法が下手とか。
 見た目で決まるんじゃないんだよな」

 サイモンが軽く目線を上に向ける。
 昔得た知識を思い出す仕草。
 すると、南部エルフの男が目を丸くした。

「そうです、本当によくご存知で。
 ダークエルフは肩書き。
 一方私達南部エルフは、森から出て砂漠地帯で暮らしたエルフの子孫です。
 犯罪を犯したわけでもやましいことがあって追放されたわけでもない」

「可哀想だよなぁ、風評被害甚だしい。
 ごめんな、人間ノーマンが無知で失礼で」

「いえ…貴方のような理解ある人間ノーマンがいると
 知れただけでとても希望が持てます。
 ありがとうございます」

 南部エルフの男が薄く笑う。
 それを見たサイモンは、美丈夫然とした雰囲気に一瞬見惚れてしまった。
 いいなぁエルフ、みぃんな美形なんだもんな。

 そもそもエルフといえば、
 大概は金髪緑眼だの銀髪碧眼だので色白なのが相場なのだが…
 それは森の奥に引きこもって出てこないから日に焼けないだけだ。
 エルフだって日差しの下に出て、長く過ごせば日に焼ける。

 よって、食料不足か部族間対立か。
 何らかの理由で森を出て、
 さらに砂漠まで辿り着いたエルフの一群は後々こんがり焼けて、
 子供を成すだけで色黒の個体が産まれるようになった。
 これが森に暮らすエルフと分けて呼ばれる、
 南部エルフという種族だ。

「しかし、人間ノーマンでいらっしゃるのにどこでその知識を?
 私が知る限り、
 ダークエルフと南部エルフの違いをきちんと言い当てられる人間ノーマン
 会ったことがないのですが…」
 するとサイモン、とてもとても嫌そうな表情で店員のエルフを見た。
 エルフの男がびくりと肩を震わせる。

「いやな…昔…本物のダークエルフの女と付き合ったことがあって…
 色白で超美人だったんだけど…エライ目にあって…
 うん、これ以上は思い出したくないごめん」
「なんとそれは!失礼しました」

 店員のエルフが慌てて頭を下げる。
 その後顔を上げ、そういえば。と口を開いた。
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