負け犬REVOLUTION 【S】

葦空 翼

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第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編

第07話07 闖入者

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 何も知らないらしい人間ノーマンの男とリザードマンがせせら笑っているが、
 検査官は唇を引き結んで無視している。
 下手なことを言って、
 これ以上ビッグケットからの反感を買いたくないようだ。

 正確にはビッグケットは共通語がわからない。
 何を言ってもダイレクトに届くことはないが…
 隣には通訳のサイモンがいる。
 虚勢だろうが、暴言吐いたら残さず全部伝えてやる。
 こちらの意地が悪い笑顔はあちらから見えているだろうか。

『…ビッグケット、検査ダッテ』

 周りが一瞬黙ったタイミングを見計らい、
 傍らの猫に検査官の言葉を告げる。
 するとビッグケットは、

『ああ、今日は私の言葉通訳してくれよな』
『オッケ~、何デモ言ッテクレ』

 赤く彩った目を細く細く孤にして悪魔のような笑みを浮かべた。
 目は笑ってるのに瞳が笑っていない。
 冷たい表情だ。

「おいオッサン、今日はこいつが暴言吐くの
 全部聞いてくれって言ってるぞ」

 立ち上がり、二人で連れ立って検査室に向かう。
 すると検査官はあからさまに怯えた顔をした。

「いやぁ、勘弁して下さいよ旦那…。
 こちとら仕事なんでさ…
 すぐ終わらせますから許して下さいよ…」

 ぼそぼそゴニョゴニョと述べられる弁解の言葉。
 真っ青な顔をした検査官の額には、
 びっしりと脂汗が浮かんでいる。
 わぁー、めちゃくちゃビビってんな…。
 これ以上虐めても仕方ないか、さっさと終わらせよ。

『ビッグケット、コイツ超怖ガッテル。
 スグ終ワラセルッテ。許シテヤレヨ』 

 お人好しのサイモンはこういうのに弱い。
 ため息をつきつつ、隣のビッグケットに話しかける。
 すると、

『あ?あれだけのことされて、タダで帰すと思ってンのか?
 最低指一本くらいはもらわないとワリに合わないな』

 両目を大きく見開いたビッグケットが握った右拳を左手で掴み、
 バキバキ鳴らしていた。
 待て待て、それ悪役の顔と台詞。
 綺麗なドレス着た美人の女の子がやる仕草じゃないぞ。

『待テ、待テ、アレモコレモコノ人ノ仕事ダカラ。
 アル程度ハ仕方ナイダロ、我慢シテクレ』

『はぁ?私のマンコに指突っ込むだけなら誰だって出来るだろ、
 こいつは殺す。
 殺すなって言われてないし』

『待ッテ!待ッテ!!ヤメテココデ暴レナイデ、
 殿堂入リ目指スナラ耐エテ!!』

『こいつ殺して帰れるならそれはそれであり!』
『ヤメテ!ダメーー!!!』

 今にも掴みかかり、検査官を殴り殺しかねない
 ビッグケットを何とか捕まえる。
 彼女が本気なら細いサイモンなどあっという間に引き剥がせるので、
 多少は彼への気遣い(=検査官への優しさ)が
 あるのかもしれないが…

 かと言って引き下がる殊勝さなどない。
 全力で抱きしめ後ろに押そうとするサイモンを押し返し、
 ずりずり前進する。
 隅っこでは検査官が腰を抜かしてへたりこんでいる。

「ちょっと、誰でもいいから誰か来てくれー!!!!」

 このままじゃ拉致があかない。
 この際誰でもいい、このあと死んでしまう奴らでもいいから
 助太刀してくれ!
 サイモンが慌てて共通語で叫ぶと、


 ギャオン!ギャン!ギャン!!ヴアアアアア!!!!!!


「!?」

 遠くから犬の悲鳴のようなけたたましい声が聞こえた。
 それは反響しつつ強く弱くうねり、こちらへ近づいてくる。

「なっ、なんだ…!?」
『新しい奴が来たのか?』

 咄嗟のことに双方動きを止める。そこで気づく。

((ってことは…!!))

 サイモンが両腕を離すのと、ビッグケットが駆け出すのは
 ほぼ同時だった。

 慌てて検査室から控え室にあたる部分に戻る。
 するとほどなく、新しい出場者と登録者が姿を表した。

(……ッ、なんてこった!)

 新たに来たのはごつくガラの悪そうな人間ノーマンの男。
 そして、そして…


 裸のまま首輪と口輪をかけられた犬人コボルトの女性。


「ヴァアアアアア!!!!ギャオン!!ギャオン!!!!」

 その女性は首輪を外そうともがき、
 しかし獣毛に覆われているとはいえ
 素っ裸が衆目に晒されるのも耐えられず、
 両手をバタバタさせている。

 パッと見る限り、胴体が人間型、手足の端が獣型とでも言うべきか。
 長く肉付の良い脚、ぐっとくびれたウエスト。
 豊かな乳房が揺れるのを他の出場者達が面白そうに見つめている。
 普通の男なら垂涎ものの扇情的な身体だが、
 サイモンはそれを見つめることなく視線を反らした。

 ふざけんな!

 サイモンが眉を釣り上げた瞬間。
 隣のビッグケットはすぐさま飛び出した。

『あんた!これを使え!』

 今日も羽織っていた黒いストール。
 まさかこんなにドンピシャで役立つ事が起こるとは予想外だ。
 ふわりとかけられた布に、女性の動きが止まる。
 バッとこちらを見た顔はまさに犬だ。
 長い口、並んだ牙に涎が光っている。
 ここまで散々叫んできたんだろう。

「おいおい、なんだこりゃ。うち以外にも女が来てたんだな。
 こいつぁゴージャスだ。しかもこんなに着飾ってよぉ」

 そこで口を開いたのは、
 犬人コボルト女性の首輪から繋がる鎖を掴むゴロツキ男。
 何も知らないそいつが、ビッグケットの身体を
 上から下までじろじろ見ている。
 ビッグケットの怒りの矛先は一気にそいつに向いた。

『おいお前、その人を殺すつもりで連れてきたのか。
 丁度いい、今めちゃくちゃイライラしてるから
 お前から真っ二つにしてやるよ』
『待テ、ビッグケット』

 静かな声。
 鬼の形相のビッグケットとは対象的に、
 サイモンが真顔で相棒を止める。
 当然ビッグケットは納得しない。
 勢いよくゴロツキ男を指さした。

『あァ!?こんな外道いくら死んでも構わないだろう!!』
『イイカラ待テ』
『なんで!!』

『ココデオ前ガ出場停止ニナッタラ、
 コノ人ヲ助ケラレナクナルゾ』

『…!』
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