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第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編
第12話01 見知らぬ顔
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『はーーーー、やっぱ飯にはシードルだな~
美味ー!』
シャングリラ東部、南側の出店エリア。
少し前にも訪れたサンドイッチの店にて、
コボルトのおっちゃんからまたサンドイッチを買った。
丁度朝食時。
辺りはたくさんの亜人獣人で賑わっていた。
ベンチに腰掛け、並んで食べる。
今日は肉が食べたいと言うビッグケットのリクエストに応え、
贅沢にローストビーフのサンドイッチにした。
これだけで銅貨3枚。
以前ならサイモンの数日分の食事代だったものが、
今や一回分として消費される。
改めて認識すると、恐ろしいほどのグレードアップだ。
『ソリャ良カッタナ。
……オイ、サンドイッチノ中身落チルゾ』
『あーホントだ。危ない危ない』
勢いよく食べ進めるビッグケットの口の端から
肉が落ちそうになっていたので、
指摘してやる。
黒猫は慌ててそれを押さえ、
改めてひょいと口に放り込んだ。
『肉は貴重だ。
誰かが死んでくれたんだ、大事に食べなきゃな』
もしゃり、もしゃり。
噛みしめるように咀嚼するビッグケットを見て、
サイモンの背筋が少しだけ寒くなる。
(誰か、ってすごい言い回しだな……)
人間から見た肉は家畜の物。
人間とは別の存在という位置づけだが、
仮にも獣人である彼女からすると、
「家畜」ではなく一続きの「同じ生き物」なのか。
言われてみれば彼女は猫だが、
例えばミノタウロスは?牛肉を食べるんだろうか。
オークは豚肉を食べるのか。
ガルーダは鶏肉を食べるのか。
考えたこともなかったな。
実際、人間が猿の肉を食べるかったら
決して食用にはしないけど……
家畜と人間を分ける人間の方が
不自然なのかもしれない。
いい気づきを得たな。
(さて、あとはデザート……)
ポテトサラダのサンドイッチを齧りながら考える。
ビッグケットと二人、それぞれの味を買って半分交換した。
これで肉とポテトサラダを食べたいという彼女の願いを叶えた。
残りはデザートだけど、うーん……
あっ。
『ビッグケット、食後ニキャロットケーキ食ベルカ?』
『え、キャロット?にんじんだっけ?』
『アア。丁度ソコデ売ッテルカラ』
ふと視線を上げると、
すぐそこでノームの少女が小さな台車を引いて売っている。
見ない顔だ。
最近ここで売り始めたんだろうか。
サイモンがサンドイッチを咀嚼しながらなんとなしに見守っていると、
道行く人に声をかけて売ろうとするが上手く行っていない。
そうか、この国の人間にとってキャロットケーキは馴染み深い物だが、
よそから来た亜人獣人には見慣れない食べ物なのか。
声をかけては無視され、落胆する少女を見ていられず、
思わず立ち上がって声をかける。
「よう、商売上手くいってないのかい」
「アッ!アノ、ケーキ!
銅貨1マイデス!イカガデスカ!」
ふむ、本当にここに来たばかりのようだ。
共通語の発音も微妙だし、
語彙がないせいかアピール不足だ。
これでは必死に話しかけても聞き流されてしまうだろう。
[アンタノームか?最近ここに来たのか?]
[えっ、はい!
えと、ノーム語お上手ですね?!]
[ああ、ノームはわりと人間の国に来るからな。
これくらいなら余裕だ]
共通語で込み入った会話をするのは難しそうなので、
ノーム語で少女に話しかける。
ノームと言えば元管理人のアメーリアを思い出すが、
恐らくこの子はもっとずっと年若い。
小さく丸い目をくりくりと瞬かせ、
ふわふわのショートヘアを風に遊ばせている。
ハーフリングの人形めいた造形とはまた違い、
ぽっちゃりしているのが愛らしい。
しかし、ここで売り子をしているということは、
子供ではないんだろう。
言語の壁程度で商売が上手くいかないとは、
随分可哀想なことだ。
[これ、キャロットケーキか?2つ買わせてくれ]
[はい、そうです!ありがとうございます……!
やっと一つ目が売れました!]
なんと、奇しくも初めての客になってしまった。
いくらなんでも売れなさすぎだろ。
ちょっと心配になって、精算の済んだ一切れを口に入れる。
……いや?普通に美味いぞ……。
充分売れる味だ。
[ケーキ美味いな。売れないなんてもったいない]
[はい……。
あの、人間の国では
キャロットケーキが人気と聞いて練習したんですけど、
なんで売れないんでしょう……]
肩を落とし、小さくなるノームの少女。
あまりに素直。
というか、商売下手かよ。
需要って言葉を知らないんだろうな。
サイモンは思わず吹き出しそうになり、
いやいや笑うな。と必死に耐えた。
[あのな、ここは人間の国だけど、
この街に住んでるのはほとんどがそれ以外だから。
見てわかるだろ、みんなよそから来てるんだ。
だから大体の人がキャロットケーキを知らないか、
あまり馴染みがないんだよ]
この国の人間にとってキャロットケーキといえば、
ここ100年ほどで生まれ、
すっかりお馴染みの存在となった庶民派のお菓子だ。
砂糖の貴重な今、たっぷり入れたにんじんで甘みを楽しむ。
ついでにちょっと贅沢するならチーズクリームを乗せる。
見ればノームの少女が売っているこれも
クリームが乗せられており、売り物らしい華やか路線だ。
人間がこれを見たら
「おっ、キャロットケーキじゃん美味しそう。」
となるところだが、他の人種じゃそうはいかない。
売れないのも当たり前だ。
[えっ!?そ、そうなんですか?!
だからみんな興味を示さなかったのかー!]
[だからまずはこれがキャロットケーキだって知ってもらって、
食べてもらうことから始めなきゃな]
[そんな……それじゃあまり売れなさそうですね…]
そう、まず売れる売れないじゃなく、
知ってもらうことから始めなくてはならない。
あからさまにがっくり肩を落とすノームの少女を見て、
サイモンはピンと閃いた。
よし、乗りかかった船だ。
ここまできたら最後まで面倒見てやろうじゃないか。
[よし、じゃあ俺がちょちょっとアピールの後押ししてやるよ。
悪いけどちょっと待ってて]
[え???]
そこで一旦台車から離れる。
サイモンがビッグケットのところに戻ると、
黒猫は丁度買い込んだ食料全てを胃に納めたところだった。
『遅い。シードルも全部飲んじゃったじゃないか、
何話してたんだ』
『悪イ。
アノのーむノ売リ子、最近ココデ商売始メタンダッテ。
コノけーきスゴク美味イノニ、
共通語ガ下手デ上手クあぴーる出来テナクテ。
チョット助ケテヤロウト思ッテナ』
『ええーー??……ホントにお人好しだなお前……』
『マァマァ。コレ食ベナガラシバラク待ッテテクレ』
サイモンはビッグケットに買ったキャロットケーキを手渡し、
急いで駆け出した。
何、簡単なことだ。
少しの道具があればあっという間に効率よく宣伝出来るようになる。
使うべきは頭だ。
美味ー!』
シャングリラ東部、南側の出店エリア。
少し前にも訪れたサンドイッチの店にて、
コボルトのおっちゃんからまたサンドイッチを買った。
丁度朝食時。
辺りはたくさんの亜人獣人で賑わっていた。
ベンチに腰掛け、並んで食べる。
今日は肉が食べたいと言うビッグケットのリクエストに応え、
贅沢にローストビーフのサンドイッチにした。
これだけで銅貨3枚。
以前ならサイモンの数日分の食事代だったものが、
今や一回分として消費される。
改めて認識すると、恐ろしいほどのグレードアップだ。
『ソリャ良カッタナ。
……オイ、サンドイッチノ中身落チルゾ』
『あーホントだ。危ない危ない』
勢いよく食べ進めるビッグケットの口の端から
肉が落ちそうになっていたので、
指摘してやる。
黒猫は慌ててそれを押さえ、
改めてひょいと口に放り込んだ。
『肉は貴重だ。
誰かが死んでくれたんだ、大事に食べなきゃな』
もしゃり、もしゃり。
噛みしめるように咀嚼するビッグケットを見て、
サイモンの背筋が少しだけ寒くなる。
(誰か、ってすごい言い回しだな……)
人間から見た肉は家畜の物。
人間とは別の存在という位置づけだが、
仮にも獣人である彼女からすると、
「家畜」ではなく一続きの「同じ生き物」なのか。
言われてみれば彼女は猫だが、
例えばミノタウロスは?牛肉を食べるんだろうか。
オークは豚肉を食べるのか。
ガルーダは鶏肉を食べるのか。
考えたこともなかったな。
実際、人間が猿の肉を食べるかったら
決して食用にはしないけど……
家畜と人間を分ける人間の方が
不自然なのかもしれない。
いい気づきを得たな。
(さて、あとはデザート……)
ポテトサラダのサンドイッチを齧りながら考える。
ビッグケットと二人、それぞれの味を買って半分交換した。
これで肉とポテトサラダを食べたいという彼女の願いを叶えた。
残りはデザートだけど、うーん……
あっ。
『ビッグケット、食後ニキャロットケーキ食ベルカ?』
『え、キャロット?にんじんだっけ?』
『アア。丁度ソコデ売ッテルカラ』
ふと視線を上げると、
すぐそこでノームの少女が小さな台車を引いて売っている。
見ない顔だ。
最近ここで売り始めたんだろうか。
サイモンがサンドイッチを咀嚼しながらなんとなしに見守っていると、
道行く人に声をかけて売ろうとするが上手く行っていない。
そうか、この国の人間にとってキャロットケーキは馴染み深い物だが、
よそから来た亜人獣人には見慣れない食べ物なのか。
声をかけては無視され、落胆する少女を見ていられず、
思わず立ち上がって声をかける。
「よう、商売上手くいってないのかい」
「アッ!アノ、ケーキ!
銅貨1マイデス!イカガデスカ!」
ふむ、本当にここに来たばかりのようだ。
共通語の発音も微妙だし、
語彙がないせいかアピール不足だ。
これでは必死に話しかけても聞き流されてしまうだろう。
[アンタノームか?最近ここに来たのか?]
[えっ、はい!
えと、ノーム語お上手ですね?!]
[ああ、ノームはわりと人間の国に来るからな。
これくらいなら余裕だ]
共通語で込み入った会話をするのは難しそうなので、
ノーム語で少女に話しかける。
ノームと言えば元管理人のアメーリアを思い出すが、
恐らくこの子はもっとずっと年若い。
小さく丸い目をくりくりと瞬かせ、
ふわふわのショートヘアを風に遊ばせている。
ハーフリングの人形めいた造形とはまた違い、
ぽっちゃりしているのが愛らしい。
しかし、ここで売り子をしているということは、
子供ではないんだろう。
言語の壁程度で商売が上手くいかないとは、
随分可哀想なことだ。
[これ、キャロットケーキか?2つ買わせてくれ]
[はい、そうです!ありがとうございます……!
やっと一つ目が売れました!]
なんと、奇しくも初めての客になってしまった。
いくらなんでも売れなさすぎだろ。
ちょっと心配になって、精算の済んだ一切れを口に入れる。
……いや?普通に美味いぞ……。
充分売れる味だ。
[ケーキ美味いな。売れないなんてもったいない]
[はい……。
あの、人間の国では
キャロットケーキが人気と聞いて練習したんですけど、
なんで売れないんでしょう……]
肩を落とし、小さくなるノームの少女。
あまりに素直。
というか、商売下手かよ。
需要って言葉を知らないんだろうな。
サイモンは思わず吹き出しそうになり、
いやいや笑うな。と必死に耐えた。
[あのな、ここは人間の国だけど、
この街に住んでるのはほとんどがそれ以外だから。
見てわかるだろ、みんなよそから来てるんだ。
だから大体の人がキャロットケーキを知らないか、
あまり馴染みがないんだよ]
この国の人間にとってキャロットケーキといえば、
ここ100年ほどで生まれ、
すっかりお馴染みの存在となった庶民派のお菓子だ。
砂糖の貴重な今、たっぷり入れたにんじんで甘みを楽しむ。
ついでにちょっと贅沢するならチーズクリームを乗せる。
見ればノームの少女が売っているこれも
クリームが乗せられており、売り物らしい華やか路線だ。
人間がこれを見たら
「おっ、キャロットケーキじゃん美味しそう。」
となるところだが、他の人種じゃそうはいかない。
売れないのも当たり前だ。
[えっ!?そ、そうなんですか?!
だからみんな興味を示さなかったのかー!]
[だからまずはこれがキャロットケーキだって知ってもらって、
食べてもらうことから始めなきゃな]
[そんな……それじゃあまり売れなさそうですね…]
そう、まず売れる売れないじゃなく、
知ってもらうことから始めなくてはならない。
あからさまにがっくり肩を落とすノームの少女を見て、
サイモンはピンと閃いた。
よし、乗りかかった船だ。
ここまできたら最後まで面倒見てやろうじゃないか。
[よし、じゃあ俺がちょちょっとアピールの後押ししてやるよ。
悪いけどちょっと待ってて]
[え???]
そこで一旦台車から離れる。
サイモンがビッグケットのところに戻ると、
黒猫は丁度買い込んだ食料全てを胃に納めたところだった。
『遅い。シードルも全部飲んじゃったじゃないか、
何話してたんだ』
『悪イ。
アノのーむノ売リ子、最近ココデ商売始メタンダッテ。
コノけーきスゴク美味イノニ、
共通語ガ下手デ上手クあぴーる出来テナクテ。
チョット助ケテヤロウト思ッテナ』
『ええーー??……ホントにお人好しだなお前……』
『マァマァ。コレ食ベナガラシバラク待ッテテクレ』
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