負け犬REVOLUTION 【S】

葦空 翼

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第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編

第15話08 全裸祭

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「でも、ビッグケットさんの目が気になると言うなら
 衝立を立てましょう。
 これでいいですね?」

「「はい…………」」

 押し切られた。
 ジルベールが軽くビッグケットに説明して、
 その間にエリックが
 部屋の隅にあった衝立をずるずると引きずって
 設置して……いざ。

「……最悪最後繋がれば発動しますよね」

「それな。
 何せ実物で試す事が出来ないからな~。
 あ、理論的に発動するかどうかは
 さっき別の物使って試したから
 安心して欲しいんだけど。
 再現性がなー、不安なんだよなぁ……」

 おずおずと男二人が服を脱いだところで、
 中身サイモン肉体ジルベールをジュリアナが。
 中身ジルベール肉体サイモンをエリックが担当し、
 それぞれの裸に
 謎のインクで直接何か描き込んでいく。

 魔法使い二人は事前に決めた設計図とやらと、
 目の前の人体を交互に眺めながら
 すこぶる真剣だ。

 しかしただ黙って裸で立たされている二人は
 非常に気まずかった。
 気にならないと言ったら嘘になるが、
 互いの名誉のために互いを見るわけにもいかないし……
 なんだこの時間。

「サイモンさん、
 股関隠さないでいただけます?
 万が一のために、
 重要な部分は下着に隠れる範囲に入れておきたいんです。

 貴方は最初客として闘技場に入ります。
 よってさすがに
 素っ裸にされることはないと思いますが……
 最悪パンツ一丁くらいにはなるかもしれません。

 なので、怪しまれないよう
 術式をここに集約させたいんです」

 おまけに拷問みたいなことを命じてくる。
 中身サイモンは震える声で
 ジュリアナに返答した。

「ごめんなさい……
 すごく真剣な話をしてるのはわかるんですけど……
 結果的に女性に
 こんなにまじまじここを見られるなんて……
 ホント、ホントに耐えられません……っ」

「サイモンさん大丈夫か?
 この儀式、実は魔法使いあるあるなんだぞ。
 ついでに魔法使いは女のコも多いから、
 こういう事故もマジで多い……
 だから、うん、勃っても誰も笑わない。
 大丈夫」

「嬉しくないよそのフォロォオオオオオ!」

 開き直れたらどんなに楽か。
 エリックの慰めが逆に辛い。
 仕方ないので、中身サイモンは
 とにかくこれ以上目から辱めを受けないよう
 両目をきつく閉じた。
 さわさわぺたぺた、
 体を触る気配はあるがこれで少しは……

(いやっ気にならないとか無理だけどな!!
 でも最悪勃った自分のを見なくて済むからいい、かな、
 いや解る、自分の具合いくらいわかる意味ない、
 でも見られてるのを見るくらいなら
 目を閉じるーーー!!!)

 彼の必死の抵抗も虚しく、
 目を閉じたら閉じたで結局、
 外部からの刺激を遮断して
 鋭敏になった股関節の上を
 筆が這い回るのを感じるわけで、
 「そういうプレイ」のようでゾクゾクしたが。

「……ていうかジルベールは大丈夫?
 生きてる?俺は死んでる。
 応答しろ」

 黙ってると気が狂いそうなので、
 気晴らしに隣に話しかけた。
 すると本当に蚊の鳴くような声が
 隣から聞こえてくる。

「……女性に見られてるのもかなりヤバいと思うけど、
 男の人にじーーっと見られてるのも
 なかなかキツイよ……。
 うん、仕事だから真剣にやってるだけなんだろうけど……
 うう、むり、死にたい、やだ……」

「悪いな、この身体はサイモンさんだから
 マジで念入りに書き込まないと。

 身体に色々描くだけで
 高威力攻撃魔法のエネルギーを弾き飛ばす
 障壁発動してくれるんだから
 すごいことなんだけど~、
 まぁやられる側のメンタルはキッツいよな……」

「つらいです……」

 隣は隣で地獄らしい。
 見ることこそ叶わなかったが、
 エリックと中身ジルベールの間にも
 色々あるようだ。

「……あとで描く人を交代します。
 股間周りが終わったらズボン履いていいです、
 胸部への書き込みに移ります。

 サイモンさんの肉体は魂交換、
 脱出転送の目印タグ付けと高度魔法防御。
 ジルベールさんの肉体は同じく魂交換、
 脱出転送の目印タグ付けと多少の魔法防御。
 これだけ描ければ終わりです。
 頑張りましょう」

「ふぁい…………うん?」

 そこでふと気づいた。
 脱出転送にも何かの描き込みが必要なら、
 ビッグケットはどうなるんだ?
 すでにあちらに素っ裸を披露している。
 今夜突然、裸に何か増えていたら
 警戒されるんじゃないだろうか。

 最悪仕込みありとみなされ、
 強制退場ギロチン刑だ。

「あれ?
 じゃあビッグケットはどこに魔法描くんだ?
 ビッグケットはもう運営の前で
 すっぽんぽんになってるぞ」

「それ、色々考えたんですけど」

 ジュリアナは既に身体検査を通して
 全身見られているだろうと予測した上で。

「幸い彼女には大きな猫耳があります。
 あの中まで調べる人はいないでしょう、
 どうせ口と下の穴が関の山ですよね?
 なので、耳の中のスペースに描きます。
 なるべく目立たないように」

「ふーーーん、それなら良かった」

 確かに、
 どんなに魔法の鏡に大写しにされたとしても、
 耳の中までチェックする奴は稀だろう。
 ……判定係がどこかにいる?
 だとしても、遠目に何かで見ている状態なら
 判別はかなり難しいはず。
 ……多分、大丈夫。

(とりあえずこの拷問終わってくれ……!)

 ぺたぺたさわさわ、ぺたぺたさわさわ。
 ひたすら何かで何かを描かれることしばし。

「…………っ、出来た……!!!」
「こっちも!」

 二人が開放されたのは同時だった。
 中身サイモンが急いで下着を身に着けていると、

「あっ、ジルベールさんは
 まだ股間の分終わってないですよ。
 私が描き込むので」

 ……なんと、中身ジルベールは
 これから股間部分に着手するようだった。
 可哀想すぎる。

 同情しつつちらりと隣を見れば、
 中身ジルベール肉体サイモンの身体は上半身
 ……心臓を中心に、
 左胸からヘソに向かって
 びっしり何かが描き込まれている。
 ぱっと見は炎の絵のようだ。

(うわっ……)

 うねるように大きく、そして小さく。
 確かに芸術的と呼べる図柄。
 これはどうも、呪文で絵を作っているようだが……
 すごいデザイン力だ。
 思わずエリックの方を見てしまう。

「あれ、アンタが見た目考えて描いたのか。
 すごいな」

「あーこれ?どうもどうも。
 好きな人は魔法陣の見た目とか
 メチャクチャ凝るんだけどさ。
 オレは専門じゃないからちょっと緊張したよ。
 あれならオシャレ入れ墨です!で済むかな」

「ああ、少なくとも
 俺が検査係だったらそう思うね。
 かっこいい」

「わーーっ、素直に嬉しい!」

 中身サイモンが忌憚なく褒め言葉を口にすると、
 エリックは嬉しそうに破顔した。
 こういうところは素直で15歳らしい。

 これまで立派に仕事をこなしている分、
 顔立ちよりずっと大人びた印象だったが、
 今はなんとなく
 彼も少年なんだなぁとしみじみしてしまった。

 そのエリックが、中身サイモンの肩をぽんと叩く。

「んじゃ、サイモンさんは
 ちょちょっと残り終わらせような。
 アンタも魔法防御の図柄書き込まなきゃ」

「えっあれを!?」

「あれのちっちゃいのだから大丈夫」

「あっそう……」

 てことは30分かからず終わるんだな。
 サイモンがそう計算し、
 そして実際10分ほど経ったところで
 中身サイモンの分が終わった。
 服を着てしばし待つ。

 やがて中身ジルベールも開放され、
 地獄の裸祭りは終わりを告げた。
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