負け犬REVOLUTION 【S】

葦空 翼

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第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編

第15話07 最終確認

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『よしよし、確かにサイモンって感じだな!
 これなら私の試合が始まるまでの間くらい、
 普通に気づかれないだろう!』

『うう……そうだといいけど……
 はぁーー不安だな~、
 生贄さんにちゃんとアイテム渡せるかなぁ~……』

 階段を登り始めた途端、
 ジルベールは演技のスイッチを切ってしまった。
 また情けない表情で弱音を吐いている。

 ……とはいえ、その内容がわかるのは
 サイモンとビッグケットだけだ。 
 魔法使い二人は全くわかっていないので、
 鼻息も荒くこれからの説明をしてくれた。

「サイモンさん、
 二人で色々話し合ったんですが、
 対魔法防御レベルは惜しまず
 私達が出せる最大のものにすることにしました!

 その上で、
 敵の魔法を弾いたら
 視覚効果エフェクトが入るように調整するので、
 これを撤退の合図だと思ってください!
 一回魔法弾いちゃうと、
 私達の実力だと
 もう丸腰状態になるんですすみません、
 でも一撃死よりマシだと思うので!」

「全然大丈夫、
 一撃死よりよっぽどマシだし
 撤退出来るなんて夢みたいだよ」

 適当に開いてる部屋に入る。
 がらんとした空間に椅子と机、
 空の棚がいくつか置いてある。
 これを準備に使えということだ。

 もう演技は要らない。
 中身サイモンがジュリアナの言葉に返事を返した。
 それを聞いたエリックがさらに説明を続ける。

「んで、そのエフェクトが見えたら
 大きく手を上げてくれ。
 オレたちだってサイモンさんの事を見るようにしてるけど、
 念の為わかりやすいようにな。

 で、サイモンさんが手を上げたら
 オレが転移魔法を発動する。

 そしたらサイモンさん、黒猫ちゃん、エルフさん、
 オレが目付けした生贄1、
 エルフさんがアイテム持たせた生贄2、
 そしてジュリアナとオレ。
 全員すぽんと闘技場の外に出る。

 でも、出るだけだ。
 オレの魔法が効くのは。
 だからその先は各々逃げることになるんだけど、
 大丈夫か?」

「ああ、とりあえず
 生贄さんたちは弱い女の人だと思う。
 ビッグケットと手分けして抱えるよ。
 ジルベールは自分で自分のことをどうにかしろ」

「ええーーっ、そうなの……!?
 でも一瞬で外に出るならかなり有利だよね、
 頑張る……!」

「あとそれビッグケットに通訳しといて」
「はーい」

 とりあえず目下急いで
 作戦内容を詰めなくてはならない。
 ビッグケットへの説明は
 中身ジルベールに一任して、
 中身サイモンはとにかく
 魔法使いたちの言葉に耳を傾けた。

「で、最初のリクエストの寸前入れ代わりですけど。
 ジルベールさん、髪長いですよね。
 なのでこれをくるくるっと上に結って、
 そこにかんざしを挿してもらいます。

 その簪はさっき用意しました。
 先端に猛毒を塗って、
 少なくとも人一人なら即死レベルに仕上げたので、
 いざという時ブスッと刺して使ってください。

 これを引っ張って髪を解いたら、
 私達が魔法を発動して
 お二人の肉体を元に戻します」

「はい、ちょっと待って」
「はいなんでしょう」

「なんでその髪飾りそんなに物騒なの?
 もうちょっとさ、
 痺れて相手の動きを止められるとかじゃ駄目なの?」

 よくわからんけどさ。
 そう付け加えつつ中身サイモンが尋ねると、
 ジュリアナは目をまん丸にした。
 出会って以降初めて、
 魔法少女がぱっちり目を開いた姿を見せたので、
 中身サイモンも思わずびっくりしてしまった。

「え、だ、駄目なの……?そんなに……?」

「サイモンさん。甘いですね。
 相手は人間とは限りません、
 最悪オーガ御本人と貴方が対峙するかもしれませんよ。
 そうなったら足止めすら出来るか危ういです。
 何せオーガですから、何が効くもんだか」

「うっ……」

「それに、いざとなったら
 本気で殺せるって大事なんですよ。

 脅しに使うも良し。
 いざ何か揉めて
 止む無く相手勢力と交戦する時だって、
 最初の一人を瞬殺すれば
 残りへの抑止力になりますし。

 とにかく武力は持って損なしです。
 そうだ、誰かに毒を使ったところで
 刺突武器としての性能が残ります。
 上手く使えば毒がなくても戦えますよ」

「……俺、戦ったこととかないんだけど……」

「そこは頑張りましょう。
 せっかく尖ってるんですし、
 目潰しとか金的ダイレクトアタックとかすると
 とっても有効です」

「うう……怖いよ……
 このハーフエルフ可愛い顔で
 エグいこと言ってくるよ……」

 淡々とされる説明に、
 ついに中身サイモンが頭を抱えてうずくまった。
 奇しくもそれは見た目と言動が一致して見えて、
 周りは失笑してしまったけれど。

「……ま、とりあえず
 そうならないことを
 オレたちも祈ってるから。
 で、こっちとアンタらの連携に関しては以上だな。
 あとは単純に準備……

 あ、猫ちゃんの方からも
 SOS出せるようにしとく?」

「そうだな、
 最悪時間稼ぎが思うように出来なさそうな時は
 命大事に。
 一発離脱でかまわない」

 エリックと中身サイモンが
 ふっとビッグケットを見ると、
 黒猫は驚いたように両耳をピンと立てた。
 横で中身ジルベールが
 さっきまでの言葉を通訳している。

 全部訳し終わると、
 こちらの話の流れが理解できたようだ。
 ビッグケットもうんうんと大きく頷いた。

『そうだな、
 私も正直オーガ相手じゃ
 上手く立ち回れるかわからない。
 最悪助けてもらえると
 メチャクチャありがたい』

「……ん、じゃあ猫ちゃんは
 もう限界!これ以上やったらマジで死ぬ!
 って時は、大きく両腕でバツを作ってくれ。
 試合の様子は大きな鏡とやらで見れるんだろ。
 必ず気づいてやれる。
 そうなったら全員で離脱だ」

『おっけー』

 中身ジルベール越しに会話する二人。
 ……さて、確認事項はこれで全部かな。
 改めて準備に入ろう。
 ここで示し合わせたように魔法使い二人が
 買い物袋を引きずってくる。
 そしてジュリアナが告げた言葉は。

「じゃ、サイモンさんとジルベールさんは
 二人共全裸になって下さい」

「なんで?!」
「誰得!!!??」

 思わず名指しされた二人同時に叫んだ。
 しかしジュリアナはしれっとした顔のままだ。

「いえ、正確には上半身、下半身で分けても
 いいんですけど。
 めんどくさいでしょ、一気に行きましょう。
 大体私だって62歳です……
 いくら見た目若い男性相手だからって、
 一々なんとも思いませんよ」

「いや、俺ピチピチの18歳なんで!
 ここで突然裸になるのはその、
 貴女の前って意味でもビッグケットがいるって意味でも
 恥ずかしいです!!」

「僕は300歳超えてますけど無理です、
 家族以外の婦人の前で
 服を脱いだことないので!!!」

 あまりにも平然とした様子のジュリアナに対し、
 二人の口から異口同音に
 拒否の言葉が飛び出した。

 中身サイモンが内心
 (へぇ……こいつ童貞なのか……)
 と思ったのはなんとか黙っていたが。

 とにかく突然裸になれだなんて。
 ジュリアナはむう……と唇を曲げた。

「あのですね、
 こっちは馴れない連携魔法、
 しかも口頭発動じゃなく
 紋章術で組み上げるために、
 脳みそフル回転させてるんです。

 設計図は先に描いてきましたが、
 実際の人間相手に
 上手く完成させられるかどうか……。

 それにサイモンさんは登録者オーナーですが、
 今日が闘技場最終戦であることを考えると、
 最悪オーナーも身体チェックが入ります。

 お話を聞く限り、
 ひと目で人体に魔法を描き込んでるとわかる人材は
 いなさそうですが、
 怪しいだなんだと他人を呼ばれないために、
 これはオシャレの入れ墨です。
 で通さなきゃいけないので、
 カッコよく描きあげなくてはならない。

 正直人の裸がどうのとか気にしてる余裕ないです、
 私は。
 エリックさんに至っては同性だから
 尚更でしょうしね」

「「はい……すみません……」」
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