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1、プロローグ

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「ぱ! ……こほん!! お、お父様!! やめて下さいませ!!!」

 私は叫んだ。
 パパと言いかけて、慌ててお父様と叫ぶ。
 自分の父親の事を、お父様なんていう日が自分に来るなんて思いもしなかった。
 私の叫び声に”お父様”が満面の笑みで私に振り返る。

 ダルスン・ドルルエ公爵
 それが今の私の父親である。
 ちょっと小太りなブロンドで巻き毛の父は、目の前の少年と私を見比べて嬉しそうに笑っている。

「シャルロッテ恥ずかしがることは無い、殿下も喜んでおられるではないか。何しろお前はこの国きっての器量良しだからな。」

 父親の前に立つ銀色の髪の美少年は、面白くもなさそうに無言で私の顔を見つめていた。
 冷たいと言ってもいいほどのクールな瞳が私を射抜いている。
 アドニス・エルファン、この国の王子だ。

「…………」

 王子の無言のプレッシャーに私は泣きそうになる。

(この顔のどこが喜んでいるように見えるのよ……馬鹿なの!?)

 私は顔が真っ赤になった。
 親バカにも程がある。

 私は部屋の大きな鏡に映った自分の姿を見る。
 目の前に立つのは、いかにも貴族のお嬢様といった衣装と髪型の少女だ。
 ブロンドの狸のような父親には似ずに、すらりとした細身の体とお姫様といった雰囲気のブロンドの巻き髪。
 そこについた赤い大きなリボンが情熱的で美しい。

 確かに美人なのだけれど、ちょっと生意気で意地悪そうな顔立ちだ。
 もしかしたらそれは私の先入観もあるのかもしれない。
 お願いだから、そうだと言って……



 そもそも、一体どうしてこんな事になってしまったのだろう。
 今でもまだ、これが現実だとは信じられない。

 私は牧原ひとみ(まきはらひとみ)
 つい昨日までは、都内の女子高に通う平凡な学生に過ぎなかった。
 そして今、鏡に映る少女シャルロッテ・ドルルエ公爵令嬢と言えば最近、爆発的に流行っているゲーム

『銀色の髪の王子と7人の貴公子 ~でも貴方だけに恋して~』

 の登場人物の1人である。
 かくいう私も、スマホで授業中や登校の途中によくこのゲームをやっていた。
 簡単に言うと主人公のティア・オリアスと言う少女の物語

 とある村に生まれた貧しい少女が、健気に頑張って王宮に侍女として仕えるようになる。
 そして王子様やたくさんの貴公子にめぐり合う。
 典型的な乙女ゲーなんだけど、リアルなグラフィックや展開が大人気の秘密だった。

 身分の低い彼女を待ち受ける困難やイジメ、それでも彼女は強く生きていく。
 そして最後は多くの貴公子たちに愛され助けられて、みんなに祝福されて王子結ばれる(王子ルートだけどね)
 賢い彼女と彼女を愛する王子はいつまでも幸せに暮らし、国民も皆彼女を聖妃ティアと称えた。
 そこでゲームが終わる。

 どこにもシャルロッテ・ドルルエ公爵令嬢なんて出てこないじゃないかと言えばそうではない。
 本当に嫌になるぐらい主人公のティアをいじめまくる敵役……
 そう、いわゆる悪役令嬢がシャルロッテだ。

 あれは昨日の朝の話。
 私は登校の途中にそのゲームをやっていた。
 私も他の子と同じように、すっかりこのゲームに嵌っていた。
 ううん、嵌っていたどころか星の数あると噂されているこのゲームの全てのルートをほぼ制覇して、攻略チャートは現在99パーセント。

 今日は新しいルートでエンディングを向かえ、幸せそうな王子と自分の分身であるティアの笑顔のグラフィック見て、えぐっえぐっとしゃくり上げながら泣いていた。
 本当に過酷なイジメに耐えて頑張ったティアに心から拍手を送る。

(やった!! とうとう100パーセント!!)

 攻略チャートの数字が100パーセントになるのを見て私は胸を張った。
 これで全てのルートを制覇して、ターゲット達のお宝グラフィックもゲットした。
 もしかしたら、このゲームで100パーセント攻略を達成したのは私が始めてかもしれないと思ったりもして、ニマニマしてしまう。
 エンディング画面がゲームのスタート画面に切り替わり、私はそこに今まで無かったボタンを見つけた。

『シャルロッテルート』

 下に注釈が書いてある。

『※貴方はこのゲームを初めて完全クリアしたプレイヤーです。特別にシャルロッテルートをプレイする事ができます。どうされますか?』

(え?)

 シャルロッテ・ドルルエ公爵令嬢
 ティアに嫉妬をして意地悪をする嫌な少女、乙女ゲーにつきものの悪役令嬢だ。

(ちょっと悪趣味、なんでシャルロッテなんてやらないといけないのよ。)

 でもここまで来たら、やらないではいられないのが乙女ゲームに嵌った人間の辛いところでもある。
 わたしはため息をついて、シャルロッテと書かれたボタンをタップする。
 でも何も起こらないし新しいゲーム画面も表示されない。

(何これ……)

 その時、私の周りで悲鳴が聞こえた。
 自分達の通学路に車が突っ込んで来るのが見える。
 みんなは必死に車から逃げていたが、私はスマホの画面に集中してた為にその場に立ち尽くしてしまった。
 運転手が居眠りをしているのが見える。

(うそ……私死ぬの?)

 まるでスローモーションのように車が私に衝突した瞬間、手に持っていたスマホの画面が砕け散る。
 私にはその粉々に砕けた画面の奥から白い光が輝くのが見えた。

 その白い光はまるで大きな手のように私の体を掴むと、一気に壊れた画面のその奥に私を引きずり込んだ。
 恐怖に身がすくんで目を閉じる。

「いやぁあああああああ!!!!!」


 …………

 ……………………


 気が付くと私は見も知らぬ場所に立っていた。
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